死神ワールドに転移したが全力で米花町を脱出する   作:伝説の類人猿

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なんだこのめんどくさい主人公……。
次回で米花脱出です。
ちなみに主人公がどれだけループしたのかはご想像にお任せします(考えてないとも言う)。


第9話

「まぁとりあえずこんなものしかないですけどどうぞ」

 

最初こそ大慌てしたが今は取り敢えず一旦気持ちを落ち着かせた。

でなきゃいつまで経っても話が始められないだろうしね。

 

「それで、紅葉さんがあの時の人だということは理解したんですけど一体なんの用でこちらに?」

 

わざわざ京都からこっちまで来るのは大変だったはずだ。飛行機にせよ新幹線にせよそれなりに時間はかかるしもちろんお金だって結構飛ぶ。

いやまぁ見た目金持ちそうだし全然大丈夫なんだろうけど。

 

……そういやここ最近飛行機乗ってねえなぁ。まぁ乗ったら乗ったで高確率でなんか起きるだろうから絶対に乗りたくはないが。

 

「端的に言うとあの時のお礼がしたかったんです。ウチ個人としては勿論そうですし、大岡家としてもお礼をしないことはあり得ません」

 

「いやいやむしろあれはこっちが巻き込んだと言うか何というか……。こう言っちゃなんですけどそんな無理してもらわなくても気にしませんので……」

 

むしろご褒美(胸的な意味で)だった説の方が濃厚だしぶっちゃけこう言うことでお礼を受けるのは気が乗らない。

結局ああいう事件が起きたのはコナンが(当時は工藤だったが)旅行へ行ったというのが大きいだろうし、そう考えるとどうもマッチポンプみたいに思えて仕方がないのだ。

 

コナンという主人公を引き立たせるために起きた事件、まぁあいつ自身はカケラも悪くないしそうあれかしとしたこの世界自体に罪があると言えばそうなのだが。

ともかく事件を解決したコナンがお礼を言われるならともかく何かが起きると知っておきながら特に何もしなかった同行者の自分まで感謝の声を貰うのは気が引けてしまうのだ。

 

ともあれやっぱり立派な家である以上それ特有のしがらみとかもあってせざるをえないんだろうな……。

 

「まぁ内容はともかくとしてそういうのは俺じゃなくて工藤のやつに言ってやってください。……ああ、そういやあの馬鹿今遠いところへ事件を解決しに行ってたんだっけ。俺に言付けしてくれたらアイツに伝えますけどどうしますか?」

 

「そんならそれも頼んます。あの人の推理が無かったらこの事件は解決しませんでしたから。けどウチは他でもない、一郎君にお礼をしたいんです」

 

真面目な顔でそうジッと見られても困るというか困惑するというか、ていうか美人に見つめられると恥ずかしいのでやめて欲しいです。切実に。

 

……いやまぁ7割冗談だよ。紅葉さんも真剣そうだし。

しかしお礼って…お礼かぁ……。

 

「そんな困らんどいてください。これやとどっちが感謝してるか分からんくなります」

 

あまりに悩む俺に対して見かねたのか苦笑しつつ紅葉さんは続けてこう言った。

 

「ウチかてそれなりのものは用意できるんです。……例えば、居候先とか」

 

「っっっ⁉︎」

 

「ウチの話、聞きたくありませんか?」

 

*****

 

命の恩人と言っても差し支えないであろう大谷一郎のことについては軽く調べただけでも相当な情報が手に入ったことは紅葉にとって記憶に新しかった。

 

尤もそうした情報の大半は本人の奇行と言っても差し支えないものではあったが。

かっこよく助けてくれた恩人の正体がまさか人目も憚らずガチ泣きできるヤベーやつだったと聞いてしまったらさすがにどんな聖人であってもフォローは厳しいだろう。

 

しかし同時になぜそんな奇行が目立つのかについては一つ気になったところはあった。

例えその疑問自体がある種の現実逃避であったとしても、それなりに考える意味はあったのだ。

 

(たしかにお世辞にもカッコいいとは言えへん人や。変な行動も目立つ……。けどその行動理由はしっかりとあったことは間違いない)

 

彼が奇行に走った時必ず口にしていたのは殺人事件に遭うということ。

しかもそれが1年365日、24時間どこでもそこでもで遭うと言うのだ。

それも日本において屈指の治安の良さを誇る米花町で、である。

 

勿論そのことを聞けば一郎は「これで治安がいいのか……」と絶望の淵に立たされあんまりだぁぁぁっと叫びながら目からハイライトが消え失せすべての願いを歪な形で叶える魔法の聖杯を探しに行くに違いない。

 

それはさておくとしても、実際に一郎の足取り調査を行わせた紅葉の元には『確かに行く先々で事件に巻き込まれている』という調査報告書が上げられていた。

 

これを単なる不幸で片付けてよいべきか否か。

 

ましてその多くは殺人事件。時として自身も狙われた爆弾事件や航空機のハイジャックにまで遭遇している。

運命というものを恋占い程度には信じていた紅葉にとってまさか、とは思うが本当に本人が巻き込まれ体質なのかこの目で判断したかったので。

 

よしんばあまりにも連続で事件に巻き込まれて彼がそう思い込んでしまっていたのだとしてもメンタルケアという形でお礼をしようと考えていた。

 

尤も狂人だったらどうするのか、という声もここに来るまではあったが杞憂というものだろう。

さっきだって顔を赤くしながらビックリしていたのだし間違いないはずだ。

 

彼の性格はどこまでも普通のそれである。

 

「ウチもべつにそこまで探るつもりやなかったんですけどね。一郎君の家を探していると一緒にいろいろな情報が入ってきたんです」

 

(えっじゃあこの間警視庁で泣き喚いたことも耳に入れてるわけ⁉︎)

 

最悪の事態を想定して顔を青くする一郎(もっとも始めからそんなことしなければいいとは思うが)だが今はまだ感情ブレイクする時ではないと自制し紅葉の話を聞き続けた。

 

「あちこちで言われてたんはひとつだけ。“殺人事件に遭いたくない”でした。……正直ウチも話半分では聞いていたんですけど、この家に来たときに確信したところはあります」

 

紅葉の目線の先にあるのはブルーシートで覆われた屋根の一部。この間ヘリが墜落した時にできた穴である。

 

「せやけどそれは全部ウチの予想でしかありません。あなた本人がどう考えてるか、そこまでは分からないんです」

 

だから、と一呼置いて紅葉は言葉を続けた。

 

「もし何か悩みがあるんでしたら、聞いてもよろしいですか?程度にもよりますけど何か力になれることもあるかもしれませんし」

 

本人の評判や普段の行動。そうしたものは特に紅葉の何かを変えることはなかった。ただ純粋に、自身の恩人が困っているならその悩みを聞いてあげたいというものであった。

 

しかし目の前の男はそんじょそこらの人間じゃない。

アニメや漫画なら「実は……」と素直に己の境遇を話し出すかもしれないがそうするべきか否か悩んでいた。

 

この世界に転移してから数年たってようやくやってきた米花脱出に繋がるかもしれない希望。

確かに自身が他の何よりも待ち望んでいたものだったがいざ対面すると途端に躊躇してしまうのだ。

 

それに、と一郎は考える。

 

これまで考えたありとあらゆる方法は失敗に終わっている。

それも強制的なやり直しという形かコンタクトの失敗という形でだ。

 

有り体に言えば、度重なる失敗という結果に一郎はすっかり自信というものを喪失してしまっていたのだ。

もうどうにもならない諦めよう。少しでも前向きに生きれるように頑張ろうというのが今の心情だったのだ。

 

果たして次の計画は上手くいくのか。

一郎の胸の内にはその言葉ばかりが渦巻き、そしてそれについて成功すると言えるような気概は持っていなかった。

 

「……正直申し出は本当にありがたいです。今も涙が出そうではあります。……けど、どうしたらいいか。心の整理がおっつかないんです」

 

側から見たら事件終盤で犯人が自供するようなシーンにも見えるこの状況、そう言っても過言ではないくらいに一郎の顔は憔悴しきっていた。

 

しかし意外にもその憔悴は米花脱出の失敗によるものでは無かった。

ほとんど赤の他人をこのイカレた問題に巻き込んでしまっていいのかと。それこそが今まさに一郎を苦しめていた問題である。

 

他でもない自分自身が一番よく知っているのだ。

進まない時間、繰り返される1年。そしてそれを自分以外誰も認知していないということ。

 

それがどれだけ辛いことなのかは一郎はこの世界の住人の中で一番知っていた。

 

おまけにただループするわけじゃない。

殺人事件という余計なおまけまでついてくる悪徳商品だ。

 

それにだ、究極的に言えばこの問題はそもそも問題にすらなっていないのだ。

少なくとも一郎が来るまではそれで何もかもうまく行くはずだった世界である。

 

他でもない自分がトリッパーという特殊な立場ゆえに(自分だけ)問題に見えているだけのこと。

自分が他とは異なる出自だから、この世界における普通じゃないから、だから自分以外の誰もが気にしていないことに苦痛を感じる。

 

もしここで目の前の人に助けを求め、すべてを話したらどうなるだろうか?

自分は救われるかもしれない。

そうでなくとも少しは心が軽くなるはずだ。仲間を得たことによって。

 

だがそれは己自身の主観に過ぎない。

結局のところ自分の感じる苦痛を幾分か肩代わりさせるだけなのだ。

 

この場合紅葉に時間のループを知覚させ、永遠とも思える繰り返しの中に身を投じさせかねないのだ。

 

そして残念なことにそれによって起こる苦痛に対する責任を負えるほど一郎は強くなかった。

 

「長々と考えて行き着いた結論がこれかよ。……やっぱ俺ってクズだな」

 

自嘲した笑みを浮かべ続ける。

 

「……正直に言うとですね、俺……紅葉さんを巻き込むことに対する責任を取れないんです。だから言えない。責任を感じたくないから、だからーー「だから帰ってくれって言いなさるんですか?」……」

 

ほんま、ここまで不器用やとは思いませんでした……とため息をつきながら紅葉は言った。

 

「苦しい時は苦しいって言えばええんです。なんもかんも溜め込んでたらお腹壊します」

 

ここに最初に訪れた時から何か抱えてそうだなと当たりをつけていた紅葉だが改めて確信した。

 

今自分の目の前にいるのは迷子の犬である。

それも飼い犬なんかじゃなく野生の犬だ。

 

いつのまにか見慣れた山から街中に迷い込んでしまって困惑している、という具合だろうか。

おまけに厄介にも自分のような存在がバレて捕まったらどうなるかまで知っているようなものである。

 

さて、そういう状態の犬にはどうするのが効果的だったか。

少しばかり考えた紅葉はさっそく行動に移すことにした。

 

「ま、言おうにも言える相手がいなかったっていうところやったんでしょう。せやから……」

 

「えっ?ちょっと紅葉さん何を……」

 

おもむろに席を立った紅葉はそのまま向かいの一郎の元に向かって行って、優しく抱きしめた。

 

「っ⁈」

 

あまりに突然というか予想だにしない行動により一郎の頭は完全にパニクってしまった。

慌てて振り解こうとするが、下品な話だが、その度に大きな胸が当たってなれぬ異性の存在を感じ体が硬直してしまう。

 

……一瞬なんでこんなに無駄にリアルに伝えたんだろうと我に返るが、とにかく今は一度離れて欲しかった。

 

「ちょちょちょっと紅葉さん!そのっ!あのっ!」

 

続けて気は確かかと声をかけようとした時抱きついてきた紅葉から優しげな声色で宥められた。

 

「説明しろとは言いません。訳も聞きません。けどあんまりにも見てられないほど苦しそうな顔してたんです」

 

苦しい時は苦しんでいることを吐け、とはよく言うが実際に吐けるほど簡単な悩みじゃないことがほとんどである。

 

それは紅葉自身にもあったことで小さい頃は色々と悩みがちだった。

そうしてどうにもいかなくなった時には必ずする対処法があったのだ。

 

「苦しかったら眠ることです。少しでもええ。眠ってる間は心も体も苦しいことから解放されますから……」

 

そう言いながら一郎に頭を優しく撫でる紅葉。

小さな頃は時たま母にこうしてもらうことがあった。

 

まさかそれを十数年越しに、しかも同い年の男の子にするとは思っていなかったが。

 

「果報は寝て待て、急がば回れ。まずは心を落ち着けてください」

 

すでに一郎の抵抗もなく部屋にはほんの少しの嗚咽する声が響くばかりだった。

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