みかづき荘に女オリ主ぶちこんで原作改変【完結】   作:難民180301

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後日談2/エピローグ

「それで? 何か申し開きはあるかしら?」

「まーじか」

「ひっぱたきますよ?」

「ごめんなさい」

「うえええん良かったよぉおお!」

「先輩、先輩……!」

 

 一ヶ月後。当たり前のように自室で生き返ったハナは、正座してみかづきチームの面々に包囲されていた。怒り心頭なのはやちよ、みふゆ、かなえの三人。もう離さないとばかり号泣してハナにすがりついているのは、鶴乃、メル、ももこの三人だ。

 

「また生き返ってくれたから結果オーライ、じゃすまないのよ。あなた、本当に死ぬつもりだったわね?」

「はい……」

「バカッ!」

「はいバカですみませんっ!」

 

 前回もそうだったが、ハナ当人は本気で死ぬつもりだった。一つしかないソウルジェムに穢れがたまり、魔女化する前に砕け散るだろうと。

 

 ただ、ハナが一つ忘れていたのは生存フラグの性質だ。フラグの力が充満した煙によって生死の境を取り払い、言霊で生の運命を確定させるのが生存フラグなのだが、煙の内部──つまりフラグの効果範囲内にハナもいたのだ。

 

 生存フラグの無条件成立・回収によりハナのソウルジェムは穢れ、砕け散るはずだった。しかし同時に行使したフラグの力で生存の運命を引き寄せたため、ハナは生と死の運命両方が確定したのだ。

 

 結果、穢れきったソウルジェムと無傷の体が残され、死んだという思い込みにより一ヶ月の昏睡状態に。いつまでたっても輪廻しない魂は「あれ? ワンチャン生きてない?」と自覚し、目覚めたのがついさっきのことだ。

 

「謝って済む問題じゃない! どれだけ心配をかければ気が済むの!」

「残される方の身にもなってください……この一ヶ月どんな気持ちだったか分かりますか……!?」

「……私たちはみんな、死んでいるようだった」

 

 三人が本気で怒るのも無理はない。前回の復活があったからこそどうにか希望を捨てずにいられたものの、生死の曖昧なハナの体は無機物のように硬く、かといって遺体とも思えない不気味な状態だった。いつか目覚めるかもしれないと励ましあいながら、穢れたソウルジェムに定期的にグリーフシードを使う日々。『大丈夫大丈夫、だってハナちゃんだよ! きっと「まーじか」って言いながらひょっこり目を覚ますに決まってるよ。そうに決まってる! だって、だってハナちゃん……うわあああん!』と、鶴乃が空元気の最中にガチ泣きしだしたときには全員のソウルジェムが相当に穢れた。

 

 重い空気に満たされた一ヶ月は一年にも十年にも等しい感覚で、もし復活したらこれを言おうあれを言おうと鬱憤がたまりにたまっていた。本気で怒り、泣き、安堵するのはごく自然といえよう。

 

「あ……ご、ごめん」

「……泣いたってごまかされないわよ。今度という今度は絶対約束してもらうんだから」

 

 やちよたちが本当に想いを向けてくれていると認識したハナは、また心の防壁が一つ壊れた。クズだから辛い目に遭うのが当然だと納得してきた心が悲鳴をあげ、とめどない涙となって溢れ出る。

 

 前回はこれでごまかされたやちよたちだが、今回ばかりはダメだ。むすっと口をつぐんでハナが落ち着くまで待つ。

 

 およそ一時間後、どうにか全員が理性を取り戻す。

 

「無理をしない、必要な時でもまず相談する。一人で突っ走らない。はい復唱!」

「たぶん無理です、はい」

「……はあ、ここで嘘の約束をしないのが、あなただものね」

 

 怒り顔から一転、困ったように笑うやちよ。みふゆとかなえは頭を抱えていた。良くも悪くもハナは死んでもハナのままだ。

 

 どうしてくれようかと再び表情を険しくすると、「はいはーい!」と鶴乃が元気に挙手する。

 

「ソウルジェムの没収がいいと思いまーす!」

「えっ」

 

 ハナの目が点になった。

 

「いいですね。変身したら電流が流れる首輪とかもどうでしょう?」

「みふゆさぁん!? それ畜生の扱いなんですが!?」

「問題は誰がソウルジェムを管理するかなんだけど──」

「待って話を進めないで、聞いて!?」

「聞かないわ。それだけのことをあなたはしたの。実感湧いた?」

 

 ハナの意見そっちのけで変身制限のアイデアを出し合うみかづきチーム。確かに変身しなければ捨て身のフラグ操作はできないけども。慌てるハナにやちよは意地悪な笑みを浮かべた。

 

「あなたがあなたのことをどう思おうと勝手。なら私たちも勝手よね」

「そりゃそうですが……」

 

 正論に閉口してしまうハナ。そのスキに議論は活発化し、着々とハナ包囲網が形成されていく。穏やかなみかづき荘の日常が帰ってきたのだった──

 

「な、何!?」

 

 その時一階の方から轟音が響く。金属や木材を力づくでひしゃげさせるような破壊音が続いたかと思うと、一人分の足音が部屋へ向かってくる。

 

 明らかな非常事態だ。ハナを除く全員が変身して侵入者を警戒していると。

 

「ハナちゃん、助けに来たよ!」

「へ?」

 

 現れたのは二葉さなだった。大盾を構えるその姿からは強い魔力がにじみ出ていて、魔法少女になったことが分かる。しかしそれ以外が意味不明だった。

 

「君は──」

「かなえ、知り合い?」

「知り合いというか……」

「いや、私の友達だけど。さなちゃん? イチから説明してもらっていい?」

 

 さながみかづき荘の入り口やら何やらを力づくで破壊し、カチコミをかけてきた。改めて考えても意味が分からない。

 

 さな自身もよく分かっていないようで、言葉を選ぶようにぽつりぽつりと、説明を始めるのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 およそ三週間前のこと。

 

「藤本ハナさんの住所? いやぁ個人情報だしな。ていうか君藤本さんの何? 姉妹には見えないけど」

「あ、あのその……す、すみませんっ!」

「ちょっと!?」

 

 ハナの在籍する小学校から、逃げるように駆け出す人影が一つ。くせ毛のツインテールを揺らし、つぶらな瞳を涙目にしている。二葉さなだ。

 

「ハナちゃん、どこに行っちゃったの……?」

 

 さなにとって、ハナは唯一心を許せるクラスメイトだった。

 

『はい皆さん二人組を作ってー』

 

 始まりはさなの大嫌いな呪いの言葉。たとえクラスの人数が偶数でもあぶれ、先生と組むことになる。そしてかわいそうな目を向けられることになる。

 

 そう諦観していたさなは、期せずしてそのクラスメイトと目が合ったのだ。

 

『あ、同志……』

 

 藤本ハナとの出会いだった。目と目が合った瞬間謎のシンパシーを感じ、流れるようによく話す関係になったのだ。ハナいわく、同志という関係に。

 

『アニメが好きなの?』

『そうそう、特に自己犠牲のあるやつが大好きなんだ。仲間をかばって死ぬとか、犠牲になってみんなを救うとか憧れるよね!』

『うん、かっこいいと思う……でもハナちゃんに仲間っているの?』

『……なんでそんなひどいこと言うの?』

『ご、ごめんなさいっ!』

 

 ハナは号泣した。真正のぼっちだった。同じ境遇であることを悟ったさなもつられて泣いた。教室で繰り広げられる奇行にクラスメイトたちはドン引きし、さらに孤立が深まったのは言うまでもない。

 

『私もアニメ見るよ。こねこのゴロゴロっていうんだけど……』

『あーあれ。超平和だよね。キャラクターみんな優しくて、思いやりに溢れてて──』

『そう、そうなの! 特に私444話のホラー回に見せかけた人情回が大好きで──』

 

 共通の話題から少しずつ仲を深め、ぼっちコンビハナサナの異名がついた。

 

『大丈夫……?』

『呼吸するだけで痛い……肋骨くんがいくつかイッてるかも……』

『ええ!? 大変だよ、き、救急車……』

『ストップ、お金かかったらまた怒られるから……』

 

 登校の時点で満身創痍なハナに肩を貸し、保健室まで付きそうこともあったし、

 

『連れ子で家族ごっこかぁ。やっぱ家族ってクソだよね』

『……うん』

 

 家族全員に無視されて居場所のないさなの境遇を話し、共感しあうこともあった。さなにとってハナは間違いなく友達で、大切な子だった。

 

『ハナちゃん、ハナちゃん! 死んだって聞いて私ずっと心配で……あれ? 少し縮んだ、かな?』

『縮んだねー』

 

 どうかして一回死んで幼女化し、小学校に通うことになったと聞かされたときはショックだったけれど、それでも放課後に会えるときは必ず会いに行った。関係は変わらなかった。

 

 だから自分の好きなものを共有したかった。

 

 商店街の路地裏に住み着いた白い子猫。ゴローと名付けたその子にエサを持っていくのがさなの楽しみで、ハナにも見てもらおうと思った。

 

『今日は約束があって』

『そうなんだ……』

 

 誘ったのは断られたけれど、また明日と約束した、指切りだってした。

 

 なのにハナは次の日も、その次の日も学校に来なかった。二週間たっても、来ない。

 

「はあ……家族の人に、ひどいことされてないといいな……」

 

 しびれを切らしたさなはついに職員室へ特攻し、ダメ元で住所を聞くがやはりダメだった。ハナは携帯も持っておらず、連絡もできない。押しつぶされそうな寂しさを胸に、さなは商店街へ向かった。

 

「ねえ聞いた? スラ少女の話」

「聞いた聞いた、スライディングタックルで交通事故を防いだ女の子の話だよね」

「名前も言わずにさっそうと去ったって、かっこいいよね」

「スラ少女と一緒にいた子、大東の制服だったらしいよ。大東の子もいいことするんだね」

 

 ネコの元への道中、よく分からない噂を耳にする。なんでも暴走した車が歩道に突っ込んだものの、通りすがりの女の子がスライディングで歩行者を突き飛ばし死傷者ゼロに押さえたとか。

 

「変なうわさだよねー……」

「にゃーん」

 

 ネコと戯れながらさなはうわさのことを思う。荒唐無稽なうわさなのに、なぜか頭から離れなかった。

 

 家族から与えられたスマホを取り出し、つい『神浜 スライディング』で検索してみる。

 

「これって……!」

 

 ネット上にあったのは、ハナの手がかりだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「ここが……ハナちゃんのお家」

 

 一週間後。さなはハナの元にたどり着いていた。門扉の横のプレートにはみかづき荘の文字が刻まれ、その向こうにきれいな庭とお屋敷が見える。

 

 ネット上には噂のスライディングウーマンを遠くから撮影した画像が出回っていた。粗い画像で後ろ姿だけだったものの、さなが判別するには十分な手がかりだ。

 

 幸運なことにネット上にはうわさの主の正体や身元を探る物好きたちが多数存在していて、すでに住所まで公開されていた。それがみかづき荘である。

 

「つい、来ちゃったけど……どうしよう」

 

 特に用事はない。ただ、元気にしているのか、それだけでも知りたい。覚悟を決めるのに一週間かかり、やっとさなはここにいる。

 

「ねえ」

「ひっ!?」

 

 インターホンに手を伸ばしては下げを繰り返していると、背後から声。振り返ったそこには、目つきの怖い女子高生がさなをにらんでいる。

 

「うちに何か用?」

(こ、この人がハナちゃんの家族……怖い……)

「用がないなら、どいてくれる?」

(でもこの人がハナちゃんにあんなことを……)

 

 さなの脳裏に、生傷だらけのハナの体がよぎる。この人があの傷を作ったのだとしたら。そう考えたさなの口は、勝手に動いていた。

 

「あのっ、ハナちゃんにひどいことしないでください!」

「……はぁ?」

「何も悪いことしてないのに……あんなことするのは、あんまりだと思います……」

「君、ネット見てここに来た?」

「へ? そ、そうですけど……」

「じゃあ、適当なことは言わないで。うちにも事情がある。ハナのためを思って、ああしてる」

「ハナちゃんの、ため……?」

 

 あんなケガをさせることが、あんなに苦しそうにしているのに、すべてハナのため。言葉の意味を理解したさなはカッとなって睨み返すが、

 

「ひっ!?」

 

 女子高生の目つき──雪野かなえの眼光にあてられ、すっかり萎縮してしまう。

 

「あ、ちょっと」

 

 気づけばその場を駆け出していた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「やあ。僕の名前はキュゥべえ。僕と契約して魔法少女になってよ」

「……」

「聞いてるかい?」

 

 聞いていなかった。

 

 あの女子高生の口ぶりからして、ハナはずっとひどい仕打ちを受け続けるだろう。そのことを何も解決できないまま逃げ出してしまった。さなは無力感で動けない。

 

「結局私って、何もできないんだな……友達も助けられない。なんの力もない」

「そんなことはないよ。君には魔法少女の素質がある」

「……あなた、誰?」

「さっき言ったよ。君が望むなら、友達を守る力を与えよう。その代わり、魔法少女になってほしいんだ」

「私にも、ハナちゃんが守れるの……?」

「うん、きっと」

「じゃあ──」

 

 こうして二葉さなは魔法少女の力を得。

 

 翌日、みかづき荘にカチコミをかける。

 

 様々な勘違いとスレ違いが判明した瞬間、さなが土下座の勢いで謝罪したのは言うまでもない。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 神浜市は全国的に見ても魔女と魔法少女の数が多く、質も高い。強大な魔女に対抗するため魔法少女は徒党を組み、コミュニティごとの格付けもされている。その中でもっとも注目を集めている集団が、新西区のみかづき荘だった。

 

 下宿屋をアジトとする彼女たちは個人でも強力だ。神浜市最古参にして西のボス、七海やちよと梓みふゆの二人。鉄パイプによる突破力と眼力がすさまじい雪野かえでに、強制的な占いの成立を可能にする未来操作の安名メル。自称最強の名に恥じない火力を誇る由比鶴乃と全体の士気向上を得意とする十咎ももこ。もっとも新しいメンバーである二葉さなは、なんとこの布陣に直接殴り込みをかけ生き残った上、仲間として認められたという。

 

 そして一等の危険人物なのが藤本ハナ。すさまじい素質の持ち主で、生と死を自在に操る固有魔法を有するという。藤本ハナが「フラグ」の成立を宣言すると、すでに生死の決定権が奪われているらしい。

 

「どんなチートだよできるかそんなこと!」

「私も、カチコミなんて……勘違いしちゃっただけですし……」

 

 こういった風評に本人たちは悲鳴を上げているらしいが、とにかくみかづき荘に近づく魔法少女はいなくなった。近づけば最後ただではすまないともっぱらの噂だ。

 

 ただし例外も存在する。

 

「ふうん。生死を司る固有魔法、アリナ的にベリーインテレステッドなワケ。梓みふゆのパーフェクトボディも、アリナのベストアートに必要だヨネ」

 

 軍服のようなマジカル衣装を身に着け、高層ビルからみかづき荘を俯瞰するとあるアーティスト。彼女は三日月形に口を歪めると、軽いステップで中空に身を投げた。

 

 この日以来、キュゥべえは神浜から姿を消す。さらに市外から大量の魔法少女と魔女が流入し、日常の裏に潜む闘争は激しさを増した。

 

「ここが神浜……ういの手がかりを探そう。みかづき荘の人たちには、見つからないように──」

 

 そして春先、一人の魔法少女が神浜を訪れたことで運命が動き出したのだった──。











続き思いついたら連載にします。
ありがとうございました。

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