みかづき荘に女オリ主ぶちこんで原作改変【完結】   作:難民180301

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みかづきサボタージュ・前編

 新西区、みかづき荘。下宿屋としてそこそこ長い屋敷の佇まいからは、年月を積み重ねただけの風格が感じられるが、なぜか門扉と玄関口だけは新築のように真新しい。

 

 そんな古い下宿の門扉の前に、三人の少女の姿がある。

 

「ねえ、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「わ、私たち盃なんて交わせないよ〜?」

「私だって交わしてないわそんなの! ったく、噂ってのは怖いな」

 

 明らかに尻込みしている二人。それにため息をつく一人。一人の方はみかづき荘の住人である十咎ももこだ。二人の方はももこの後輩で、水波レナ、秋野かえでという。

 

 基本的にはみかづき荘の面々と魔女退治に励むももこだが、面倒見がよく姉御肌なのもあって、たまたまソロで活動中に遭遇した後輩魔法少女と仲良くなることがある。レナとかえでとはそうした経緯で知り合い、家に招くまで親睦を深めたのだが──みかづき荘に下宿していると明かしたとたん、二人の表情は凍りついた。

 

 けげんに思うももこをよそに二人はごにょごにょと話し合い、こう言ったのだ。

 

『ももこ、足を洗いなさい』

『くっ、組長には私たちが話をつけにいくから……』

『誰だよ組長って!?』

 

 みかづき荘の知名度は悪い意味で上昇していた。

 

 原因は戦力の一極集中である。最古参の魔法少女にして西側の代表二人と、彼女たちに次ぐ実力者たちがももこを含めて六人みかづき荘チームに所属する。これだけなら『へーすごいね』ですむ話なのだが、不特定多数のうちの誰かがこう言ってしまった。

 

『グリーフシード独占されちゃわない?』

 

 魔女を倒すことで得られるグリーフシードは魔法少女の生命線だ。魔女化のことを知らなくともソウルジェムに穢れがたまると体調が悪くなるのは広く知られていて、穢れを吸い取るグリーフシードの価値はとても高い。戦力にものを言わせて独占されれば死活問題だ。

 

 かといって面と向かって文句を言いに行ける魔法少女はおらず、漠然とした不安が広がる中、みかづき荘のメンバーが直接その不安に火を注いだ。『仁義ある報復事件』発生である。

 

 みかづきチームは別の区から流れてきた強力な魔女に敗北し、メンバーを一人失った。その報復のため一ヶ月力をたくわえ、隣の市に逃げたその魔女を追いかけ完膚なきまでに叩き潰したという。

 

 神浜産でしかも複数の魔法少女と戦い生き残ったその魔女は極めて強く、隣の市では持て余している状態だった。なので結果的に助かったことは助かったのだが、現地の魔法少女からすればテリトリー侵犯だ。一言文句をつけに行こうとしたところ、

 

『乾いた世界を、あふれる血が潤してくれます。目が覚めたら幸せですよね? 覚めたらの話ですが』

 

 そう言って魔女を血祭りにあげるみふゆの冷笑、みかづき荘メンバーの鬼気迫る表情を見て即回れ右。神浜の魔法少女やばいと仲間内で話題になり、テリトリーを犯してまでオトシマエをつけにいく強引さと無慈悲さが広く知られる。市外発生のこのイメージは新西区にも流入し、晴れてみかづき荘は新西区のアンタッチャブル扱いを受けることになった。

 

 これはいけない、とももこは思った。みかづき荘はとても暖かく心の休まる場所だ。メンバーのみんなだって変わったやつもいるけど気のいい子たちばかり。グリーフシード独占の話も嘘っぱちで、怖がられるいわれはない。

 

『じゃあオトシマエの話も?』

『あれは本当だよ』

『やっぱりそういうとこじゃない!』

『違うってば!』

 

 たしかにあの魔女にリベンジしたのは事実だ。ハナが二度目の復活を遂げた翌日、誰が言うでもなく魔女の魔力パターンを探し出し、居場所を特定するや否や鶴乃とさなの二人を加えた布陣で討伐した。隣の市まで押しかけたのはやりすぎな気がしないでもない。

 

 とはいえ仲間の死に怒るのは当然のことで、変に歪んだ風評が広まるのは受け入れがたい。ましてや大切な後輩たちまで噂を信じ込んでいるのは我慢がならず、ももこは半ば無理やりここまで連れてきた。

 

「ほんとにただの噂だって。みんないい子たちばかりだよ。約束する」

「まあももこがそう言うなら……」

「ふゆぅ……」

 

 ももこの断言にレナとかえではひとまず抵抗を止め、素直に門扉をくぐる。合鍵で玄関を開けると天井の高いしゃれた空間が三人を出迎えた。玄関にはみふゆと、小学生程度の小さな靴がある。

 

「お、ちょうど組長クラスがいるみたいだな」

「いい人、なのよね?」

「ああ。会ってみれば分かるよ。ただいまー」

 

 言いながら廊下を進んでリビングの扉を開ける。

 

「ハナちゃーん、もっと慰めてください……」

「ええい放してください! 私は忙しいんです!」

 

 するとそこには、見た目小学生みたいな子供の足をひっつかみ、こたつで惰眠をむさぼる組長クラス(みふゆ)の姿が。洗濯の途中なのか、中身の詰まった洗濯カゴを抱える幼女。その子の足を、首から下をこたつでぬくぬくとしたみふゆががっしり掴んでいる。一時はやちよの所属する事務所にモデルとしてスカウトされただけあってみふゆも相当な美人なのだが、惰眠の極みといえる行動が台無しにしていた。

 

 幼女こと特攻ガールの藤本ハナは、小さな足を必死でバタバタさせるものの逃げられない。

 

「洗濯なんて後でいいじゃないですか。構ってくれないと、またワタシの魔力が衰えちゃいますよ?」

「勝手に衰えてりゃいいでしょどうせすぐ回復するんだから! 洗濯はさっさとやんなきゃシワになるんですよ!」

「ハナちゃん知らないんですか? シワができればアイロンをかければいいんです」

「そっちこそアイロンNGな衣類知らずぅ?」

「口答えせずに構ってください慰めてください……またお姉ちゃんって呼んでください……戸籍謄本もそう言っていますよ?」

「妹にウザ絡みする姉はお呼びじゃないんで」

「ひどい……この前も初対面の子に不愉快な冗談言われますし、ワタシもうダメかもしれません……ああっ、こんなにソウルジェムが!」

「キラッキラなんですが!」

 

 指輪状のソウルジェムを宝石に変えるみふゆ。その輝きは若々しく力強い魔力できらきら、むしろギラギラしていた。

 

 何食わぬ顔で一瞥すると、ついにしびれを切らしてハナの足を引っ張る。ぬあーっ、と間抜けな悲鳴があがり、ハナはこたつの中で無残な抱きまくらに変えられる。

 

 まずい、とハナは抵抗した。三月下旬とはいえ今日はよく冷える。こんな日にこたつのあったか感プラスみふゆの包容力で攻められれば、家事どころの話ではない。惰眠地獄へ堕ちる前に脱出しなければ。

 

「あったかーい……」

「ふふ、そうでしょう? 日が暮れるまでゆっくりしましょうね──」

 

 あっさりハナが堕ちたところで、みふゆはやっと気がついた。リビングの入り口に呆然と突っ立っている三人の存在に。そのうちの一人はももこで、みかづき荘の住人なので問題ない。しかし残り二人、レナとかえでが問題だった。

 

 指輪と魔力からして二人が魔法少女なのは明らか。そしてみふゆは一応これでもやちよと並ぶ西の代表である。コミュニティの頭としていざという時矢面に立てるように、メンツには気を遣ってきた。見られてはいけないところを、見られてしまった。

 

 硬直したみふゆの心中をよそに、ももこは誤魔化すように笑う。

 

「ほ、ほら、な? 悪い人たちには見えないだろ?」

「たしかにそうだけど……」

「ふゆぅ……これはこれで、見ちゃいけないものを見ちゃった気がするよー」

「はは、ちょっとタイミングが悪かったかな……」

 

 厳格で無慈悲、仁義を重んじる危ない組織。西を中心に広まりつつあるみかづき荘のイメージは、いい意味でも悪い意味でも破壊されたのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 時は三月下旬。やちよがエスカレーター式で大学へ進学し、かなえがフリーのギタリストになり、みふゆが国立医大に落ちて浪人となった頃である。

 

 もちろんもっとも重大な事件といえばみふゆの浪人確定である。西の代表としての立場を維持しつつ魔法少女の活動も欠かさず行っていたので、受験勉強は十分とはいえなかった。それでもみふゆなりの全力を尽くして第一志望合格を目指し、落ちてしまった。ソウルジェムはひどく濁り、みかづき荘の空気が三度死んだ。

 

 転機となったのは不合格通知から一週間後のことである。

 

 ボロボロのメンタルを抱えながら機械的に魔女退治に出かけ、帰ってきたみふゆ。彼女は玄関に到着するなり膝をつき、涙ながらに言った。

 

『みなさん、ごめんなさい。ワタシはもうダメなようです』

『みふゆ? あなた、何を言ってるの?』

『落ち込みすぎるのは、よくないぞ……』

『これを見てください』

 

 みふゆがこれと言って示したのはソウルジェムだった。その日魔女退治に同行したやちよとかなえはハッと息を呑む。フラフラのみふゆは後衛からサポートに徹し、ほとんど魔力を使わなかった。にもかかわらず、ソウルジェムの半分以上が穢れに侵されていたのだ。

 

『あれだけしか動いていないのに、この穢れ方。魔力が衰えてきました。魔法少女としての限界が、ワタシに迫っています……』

 

 加齢による魔力の減退。魔法少女は大人になるにつれ魔力を失っていく。きっと大人になる前に、ソウルジェムが穢れに侵され死んでしまうだろう。

 

 みふゆの言わんとするところを察したやちよとかなえは目を伏せ、唇を噛み、拳を震わせた。自分たちは少女ではいられない。大人になれば魔力を失って死んでしまう。ついにみふゆがその運命に迫られつつあるのだと。

 

『ただのネガティブスパイラルで穢れがブーストしてるだけじゃない?』

『えっ』

 

 しかしそこに待ったをかける人物。ハナである。

 

 玄関先でお通夜みたいな空気を醸し出す三人に、きょとんとした顔でそう言ってのけた。ソウルジェムはストレスで穢れがたまりやすくなることがあり、みふゆはそのケースだろうと。というか加齢で魔力が衰えるってソースどこ? もしそうなら最近やちよさんがどんどん強くなってってるのはなんで? とも続けた。

 

 ハナはネガティブスパイラルのプロだ。物心ついた頃には死にたいだの生まれたくなかっただの強く思ってきたし、ネガティブがさらなるネガティブを呼んで何度も心が壊れかけた。魔法少女になった当初もネガティブ癖がしばらく続いたため、ストレスとソウルジェムの関係については経験則で知っている。

 

 その知識による診断を、みふゆに面と向かっていい切った。

 

『頑張りすぎ。もうちょっと肩の力抜こうよ。──みふゆお姉ちゃん』

『抜きました』

『うわまぶしっ!?』

 

 みふゆのソウルジェムは強く瞬き、穢れが吹っ飛んだ──とまではいかないが、穢れのたまり具合は以前よりも遅くなった。メンツの維持、魔女退治、それらをこなしながらの受験勉強。ストレスだらけのみふゆの心は妹分からのお姉ちゃん呼びによりタガが外れ、結果として──

 

「ハナちゃーん、みかんとってくださーい。ついでに剥いてくれると助かりまーす」

「自分で剥けっ!」

「とか言いながら剥いてやるのかよ!?」

「しまったつい」

 

 こたつでぬくぬくと甘えるみふゆが出来上がったのだった。口だけで反抗してつい甘やかすハナに、ももこたちがツッコミを入れるのが日常になっている。

 

 レナとかえでを認識し固まったみふゆだが、見られたものは仕方ないと開き直っていた。「あなたたちは知りすぎました」と言われるのを恐れていたレナとかえでにしてみれば拍子抜けだ。幸せそうにパクパクとみかんを口へ運ぶみふゆになんとも言えない視線を向けている。

 

「……あれ? でもハナちゃんって藤本さんだよね? みふゆさんは梓さんで──」

「こ、こらかえで!」

「あぅ!? まずいこと聞いちゃったかな?」

 

 見た目も性格も姓さえも違うことに当然の疑問を持つかえで。複雑な事情を察していたレナがかえでを小突くものの、もう言った後だ。

 

「ああ、それね。一回死んだら幼女になったの。で、戸籍とか色々困るからみふゆさんにお世話してもらった感じ」

「「どういう感じ!?」」

 

 ハナから返ってきたのは斜め上の答えだった。

 

 説明するのは面倒だし、広げて楽しい話でもない。ハナは一度掛け時計を見やると、おもむろに席を立つ。タイムセールの時間だった。

 

 みかづき荘共用のエコバッグと財布を手に、レナとかえでに一声断って玄関へ。リビングから慌ててやってきたみふゆが「一人で大丈夫ですか?」と聞くのにサムズアップで答え、一人のお使いに出かけるのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 新西区。西日がオレンジに照らし出す住宅街の間を、パンパンのエコバッグを肩にさげたハナが歩いている。どこからともなく聞こえるカラスの合唱を聞きながら、ふと一人の時間は久しぶりだと気づく。

 

 二度目の復活の日以来、ハナは「一人で無理をしない、命を大事にする」約束を迫られた。この約束ができないならこちらにも考えがあるわ、とやちよ。同意する他のみかづき荘メンバーたち。ははあ、追い出されるなとハナは勘付いた。

 

 ハナはアホだが愚かではない。自分の捨て身救命がいい結果を生まないことは分かっている。たとえばもしハナが復活しなければ、メルは今後ハナの死の罪悪感を背負って生きていくことになるし、後一歩の差で魔女を倒せなかったことを鶴乃が知れば、あの日欠員したことを一生後悔していただろう。誰かを救うことは誰かに命を押し付けることでもある。

 

 が、それが分かっても止められないのがハナだ。ゴミみたいな価値しかない命をコストに尊い誰かを助けることができる。その思いは理性でも感情でも抑えがきかない本能なのだ。

 

『ごめんなさい』

 

 だからハナは頭を下げた。

 

 隣町まで敵討ちに行き、帰ってきたメンバーたち。リビングでのみかづき会議にて約束を迫られたハナは、必死で謝った。

 

『百回同じ状況があれば、百回同じことをするよ。みんなが悲しんでくれるって分かっても、悲しませたくないって思っても、私は止まらない。それが私の生き方だから、約束できない。ごめんなさい』

 

 変えたくても変えられない。変わりたくても変われない。生き方とはそういうものだ。

 

 分かった、胃痛と頭痛の種になるから出ていけ。そう言われるのを覚悟して頭を下げ続けたハナだったが、返ってきたのは温かいぬくもりだ。

 

『ずるいわよ。そんなこと言われたら怒れないじゃない』

 

 できない約束はしなくていい。変われないならそのままでもいい。けれどこれだけは忘れないで。

 

『あなたを望む人がここにいる』

 

 この言葉を実感させるためか、それとも単に心配だったからか。ハナのそばには常に誰かが付いていた。

 

『病み上がりにはこれ! 万々歳自慢のスタミナラーメンセット!』

『重いわっ!』

 

 友情のデリバリーサービスでニラとニンニクのニオイを部屋に充満させる鶴乃、

 

『ぐぬぬ……! 何度やっても先輩の運命が占えないです!』

『能力の相性とかあるんじゃない?』

 

 どうにかハナを占おうとするメル、

 

『この子がゴローっていうんだよ。かわいいでしょ』

『うん、かわいいんだけど……』

『だけど?』

『死亡フラグが立ってる』

 

 約束を果たしに行った先でフラグに遭遇するさな。みかづき荘に避難させたゴローは回収者の保健所を回避し、以後もみかづき荘で飼っている。

 

『そろそろ、頃合いかもしれない……』

『頃合い? なんの?』

『楽しみにしていろ……』

 

 思わせぶりなことを言うかなえ。その時の微笑は思わず息を呑むほど妖艶だった。

 

「ふふっ」

 

 思わず笑ってしまう。ほんの少し考えるだけで、脳裏をよぎるまぶしい日常。一人で膝を抱えていたときとは比べ物にならない、めまぐるしくも尊い日々。ハナはとても満たされていた。

 

「あいたっ!?」

 

 気を抜きすぎたからか、突如世界が揺らぐ。足をもつらせて転んでしまったようだ。何もないところで転ぶなんて、ドジっ子属性はなかったはずだけど。

 

 と、赤面しながら服をはたいていると禍々しい気配を察知。意識を集中してみれば、近くの路地に魔女の結界があるようだった。魔女の魔力はそこそこ大きく、結界の内部にはすでに二人の魔法少女がいる。

 

 しかしその二人の魔力量を考えるに、戦況は良くないかもしれない。そう考えている間にも、一人の魔法少女の魔力が大きく減った。おそらく大技を使ったのだろうが、魔女の気配はまったく揺らいでいない。外したのか不発に終わったのか。

 

 神浜の魔女退治では早いもの勝ちが基本で、横やりはご法度。とはいえ明らかに苦しい戦況を放っておけるほどハナの聞き分けはよくない。

 

 したがって、

 

「スラァ!」

 

 なんとなくスライディングで、勢いよく結界に突っ込むのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 翌日、中央区。名前の通り新興都市神浜の中心に位置するここには、近未来的なデザインのターミナル駅、大型ショッピングモールなどを中心とした施設が集中している。駅からは絶え間なく人と在来線が出入りし、周辺では春休みを謳歌する学生や年度末の忙しさに追われる大人たちが雑踏を形成していた。

 

 そんな喧騒に包まれる中央区の表から一つ外れた路地に、その店はあった。喫茶『マギア』。格調高くしゃれた雰囲気の店内にはクラシックっぽい音楽が流れ、老人のマスターがカウンターで静かにコップを拭いている。隠れた名店として知られるここは、密談の名所としても密かに有名だった。

 

「メロンクリームソーダクリームマシマシで」

「ラーメン屋じゃないのでございます」

「月夜ちゃん、やっぱり私こういう店苦手……」

「が、頑張るのでございます! 今日さえ乗り切ればきっとどうにかなるでございますよ!」

「そ、そうだね! すべては魔法少女解放のため、それと私たちの命のために! がんばる!」

「ねー!」

 

 シックな内装とは合わないジャージ上下で、なぜかハナはそこにいた。テーブル席の対面に座っているのは双子の天音姉妹──先日魔女退治に助太刀した魔法少女の双子だ。

 

 ハナが結界に侵入した時点で二人は相当な窮地だった。月夜が大技を使った反動で動きが鈍ったところを追撃され、月咲が肩を貸しながらどうにか撤退の糸口を探っている状態。そこへハナが割り込んだ。

 

 双子と魔女の中間に降り立ったハナは、すぐさま優勝旗を地に突き立てる。すると無数の大漁旗が現れ、雨あられと魔女へ殺到した。グリーフシードを魚のようにあしらった奇妙な大漁旗は、一部の旗が魔女に絡みつき動きを封じ、一部の旗竿が弾丸のように魔女へめりこみ殺傷する。圧倒的質量にさらされた魔女は、ほどなく限界を迎えグリーフシードとなった。

 

 やちよたちとチームを組む前は一人で学校帰りの道草感覚で魔女を狩っていたこともあり、魔女退治に苦手意識はない。そこそこ強い程度の魔女ならおやつ感覚だった。

 

『おーい大丈夫? はい、グリーフシード』

 

 と、消耗している月夜のソウルジェムにグリーフシードを使いにいく。穢れは浄化され、魔女も倒した。これにて一件落着となるはずだったが、双子の様子がおかしい。

 

『どどどどうしましょうでございます!? ターゲットに助けられた挙げ句、施しまで与えられたでございます!』

『使えそうな魔女も倒されちゃったし、アリナさんのキューブも一つ無駄にしちゃったよう! もう二回失敗してるのに、こんなことがバレたらウチら──』

『大目玉だよ(でございます)!』

『あのー』

 

 と、あたふたとユニゾンしていたのだ。ハナが控えめに声をかけても反応はなく、二人で顔を突き合わせ『逆に考えるでございます。ターゲットと自然に接触できてラッキーでございます』などと話している。

 

 もしかして何かいらないことをしてしまった? とハナが不安をいだき始めたとき、二人は振り返った。

 

『助かったのでございます! このお礼は後日きちんとした形でいたしますので、連絡先を教えていただけますか?』

『ほんと? やったぁ!』

 

 どこか白々しい笑顔だったものの、ハナには分からない。のんきに連絡先を教えて別れ、呼び出されて今に至る。

 

 メロンクリームソーダが届いた。

 

 クリームが二段積みになっていた。スプーンですくって口に運ぶと、とろける甘みが口いっぱいに広がる。

 

「うまー!」

「マシマシ、あったんでございますね……」

「メロンソーダがおまけみたいになってるね」

 

 二人の苦笑も気にせずメロンクリームソーダを完食すると、席を立つ。

 

 もらえるものはもらった。みかづき荘で待っている人がいるし、やるべき家事もある。変に話を引き伸ばすこともないだろう。

 

「ちょちょちょ、待つでございます!」

「まだ話は終わってないよ!」

「ありがとうの気持ちはもう十分伝わったよ?」

 

 再び着席させられたハナはこてんと首をかしげる。すると、月夜は妖艶な笑みを浮かべ、こう切り出すのだった。

 

「魔法少女の真実と解放について。藤本さんのようなお強い方こそ、お耳に挟んでおくべき話でございます」

 

 話は二段構成で、まずは魔法少女の真実について。魔法少女はソウルジェムが本体であり、魂の結晶である。魔法少女は穢れがたまりきると魔女になってしまう。キュウべえはこの際のエネルギーが目当てであるなど。

 

「と、こういうことなのでございます」

「とてもショックだと思うけど、これはホントの──」

「うん、知ってる」

「えっ、あなたは知ってたんでございますか?」

 

 というか、ハナは忘れていた。たしかに衝撃の事実ではあるけど、よく考えてみるとそこまで大したことじゃないし、考えなくていいや。一度目の復活からしばらくたったとき、そう結論してほとんど気にしなかった。

 

 月夜は一度こほん、と咳払い。

 

「知っているなら話は速いでございます。魔女化といういずれ来る絶望の運命──これから魔法少女を解放するために活動しているのが、我々『マギウスの翼』なのでございます」

「解放? 魔女化しなくてよくなるの?」

「そうだよ。私たちは──」

 

 月咲が引き継ぎ、話の二段回目を語った。マギウスの翼は三人の魔法少女、マギウスが設立した組織であり、魔女化しない世界を作るため奔走している。マギウスの能力によってすでに神浜市内では魔女化しないようになっており、この状況を世界規模にするため活動中。具体的な方法としては、魔女やウワサを育て被害者たちの負の感情エネルギーを回収、エンブリオ・イブなる存在を孵化させ──

 

 そこでハナはスマホを取り出した。連絡先は110。

 

「もしもし警察ですか? マジカルテロリストを二人見つけたのですぐに来てほしいんですが」

「誰がマジカルテロリストでございます!?」

「やばいよ切って切って!」

 

 二人がかりでハナの手からスマホをひったくる。

 

 どうにか通話を切ると、二人は涙目で声を荒らげた。

 

「いきなり通報するなんて悪魔の所業でございます!」

「それにテロじゃないもん! 私たち、魔法少女みんなのために頑張ってるんだから! ねー!」

「え、ええ……?」

 

 ハナの頭では話の七割程しか理解できていない。ただ、無関係の一般人や救うべき魔法少女まで魔女やらウワサやらに襲わせ、感情エネルギーを回収するのはもうテロに思えた。キュウべえは宇宙の延命のため地球人の感情エネルギーを勝手に回収するが、マギウスの翼は目的の部分を魔法少女の救済に置き換えただけ。やってることは同じだ。

 

 私が間違ってるのかな、と困惑しつつ双子にドン引きするハナ。それを見た月夜と月咲はハッと顔を見合わせ、猛然とハナに迫った。

 

「あ、あなたは救われたくないのですか!?」

「あなただけじゃないよ。みかづき荘の人たちのこと考えて。みんな魔女になったらイヤでしょ?」

「イヤだけど、具体的な方法が過激すぎて……たぶんみんな反対するんじゃないかな。魔女化のこと知っても」

「そんな……」

 

 鼻先まで身を乗り出していた双子は絶望的な表情で身を引き、しゅんと肩を落とす。

 

 気の毒な気持ちになりながらも、ハナは伝票を月夜の両手に握らせ、席を立つ。ごちそうさまと言い残して去っていった。

 

 残された双子は、震える手で携帯電話を取り出す。電話帳アプリからグループ名「マギウス」にカーソルを合わせ、上司の番号を呼び出した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

『はあ〜……。二葉さなには拒絶、梓みふゆには門前払い。藤本ハナには情報を全部漏らした上で拒絶。ハハッ、ベリーファニー』

 

『……ラストチャンスなワケ』

 

『梓みふゆだけでも引き入れてヨネ。信じてもらえなかった? 初対面で信じてもらえると思ってたワケ?』

 

『信じてもらえないなら信じさせる。それだけだヨネ』

 

 

 

ーーー

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