みかづき荘に女オリ主ぶちこんで原作改変【完結】   作:難民180301

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みかづきサボタージュ・後編

 ハナが帰ったときにはみかづき荘チーム全員がリビングに集まっていた。

 

「やっちゃん、ここなんだけど……」

「そこはこの公式の応用が必要になるわ。いい? まず──」

「……」

「かなえさん、何かお悩みですか? もしよければボクが力になりましょう! 幸運な未来を占ってさしあげるですよ!」

「いい……」

「そんなこと言わずに!」

 

 やちよとみふゆはシステムキッチンのカウンターに座り、やちよがみふゆの勉強を見ている。一つ席を空けたところにはかなえが肘をついて何かを考え込んでいた。横からメルが占いセールスをかけるが、かなえはそっけない。

 

「ふーん、結構バトルパートもしっかりしてるなぁ」

「そうなんです! 平和な日常描写が多い分バトルの迫力とストーリーがもうたまらなくて──」

「二人共、私の話を聞いてよ! 万々歳が神浜ラーメングランプリで五十位の座に輝いたんだよ! ふんふん!」

「母数が分からないよ! 全体で何位なんだよそれ!?」

「でもすごいです。点数も五十点て言われてるのに、順位まで。五十に縁があるんですね」

「うぐっ……」

 

 ソファで隣同士のももことさなが、こねこのゴローの再放送を見ている。さなの膝の上には作中のネコにそっくりな白い子猫が寝ていた。二人の後ろから鶴乃が声をかけるが、さなの無意識な口撃に怯む。

 

 やちよたち古参組がふと顔を上げ、ハナに気づいた。

 

「あら、おかえりなさい」

 

 帰れば誰かが迎えてくれる。当たり前とされている幸せがそこにはあった。

 

 ハナがただいまと返すと同時に、かなえが席を立つ。「みんなに、聞いてほしいことが、ある」と言った。

 

「来週末、中央区のライブハウスで、ライブをやる……よければ、来てほしい」

 

 一同は色めきたった。かなえの演奏については全員興味があったものの、『みんなに聞かせて、恥ずかしくない。まずはそこから』と先延ばしにされていた。ライブハウスで初披露してもらえると聞いて興奮しないはずがない。

 

「中央区のハコって言ったら、駅前の『MAGICA』よね? すごいじゃない」

「当日はボクに任せてください! お天気占いで快晴を占ってみせます!」

「ハコなら天候は関係なくないですか?」

 

 やちよ、メル、みふゆが言った。

 

「うおー! ハナちゃん力の見せ所だよ!」

「任せてください。当日は『LOVE KANAE』って書いた応援旗を人数分用意しましょう!」

「それやったら、当日追い返すから……」

 

 えー、と口を尖らせる鶴乃とハナ。まあアイドルじゃないしな、と苦笑するももこ。私もいいんですか、と控えめなさなにもちろんだとかなえがうなずく。

 

 最後にやちよがまとめた。

 

「みかづき荘全員で、必ず見に行くわ。約束する」

 

 それがトリガーだったのだろうか。

 

 かなえの死亡フラグやメルの複合フラグと同等の、世界の運命レベルの強靭なフラグ。それが高々と、構築されたのだった──。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「まーじか」

「ええ、大マジよ」

「ハナちゃんはわかりやすいですから」

「もう一人で抱えさせない」

 

 さて、新しく構築されたフラグをどう処理してくれようかと自室でハナが唸っていると、やちよ、みふゆ、かなえの古参三人組がやってきた。ノックに扉を開けるや否や「で、どんなフラグ?」と問い詰められ、ハナは冷や汗を流す。

 

「かなえさんの初ライブに水を差したくないなーと」

「あなたに何かあれば水を差すどころじゃないの。いい加減分かりなさい」

「はい」

 

 早々に観念したハナは今回のフラグを説明する。

 

 フラグが成立するには原則何らかの条件(トリガー)が必要となる。敗北フラグは過剰に自信満々だったり追い詰められて合体するなどのトリガーが、勝利にはBGMなどがトリガーになりうる。今回のトリガーとなったのはみかづき荘の約束だった。

 

 では誰にフラグが立ったのか。約束と口にしたやちよか、ライブの話を切り出したかなえか。

 

「フラグの性質は離別と残留。どちらかの運命が確定する分岐のフラグが──みふゆさんに立っています」

「えっワタシですか?」

 

 みふゆだった。

 

 やちよたちはそろってきょとんとして、首をかしげている。

 

 当然だ。みふゆは来年度からの浪人生活もみかづき荘で送ることを決めていて、一年分の家賃ももう納めている。悩みといえる悩みもなく、離別する理由はまったくない。

 

 しかしフラグの絶対性はよく知っている。何かの間違いではなく、みふゆは今後みかづき荘に残留するか離別するかの分岐を迫られることになる。

 

「不可解な点が多いけれど、とりあえず全員で共有するわよ」

 

 リーダーの指示のもと、みかづきチームは結束した。みふゆのそばには常に誰か一人付き添い、あらゆる危機に備えた。家庭の事情の場合も考慮し、定期的にみふゆが実家に連絡して近況を確認した。

 

 こうしたみふゆ残留作戦が始まって五日後。ついに事態が動いた。

 

 始まりは奇妙な魔女と結界の出現だ。参考書を買いに出かけたみふゆとハナが二人でいるとき、突如二人の近くに魔女が湧いて出たのだ。それも、結界の内部に魔法少女を抱えた状態で。

 

 さらにその魔法少女は、二人が結界に入った時点で満身創痍だった。ソウルジェムは穢れ、肉体はボロボロ。穢れがたまり切るまで秒読みの状態で、事実二人が魔女を倒したときには、穢れ切ってしまった。

 

 そうしてみふゆは知ってしまったのだ。

 

「なんですか。なんなんですか、これ……」

 

 魔女化の真実。魔法少女がいずれ魔女になってしまう。希望ではなく絶望を振りまく、忌まわしい存在に成り果ててしまう。

 

 パニックになったみふゆを抱え撤退すると、みふゆはハナに食って掛かった。

 

「ハナちゃんは知ってたんですか!? 魔法少女が、魔女になってしまうって!」

「え、はい。知ってました。で、でもそのくらい別に……」

「そのくらい!? なんでそんなことが言えるんですか!? だって、ワタシたち、いずれ魔女に──ソウルジェムが穢れきったら死ぬって、思ってたのに、そんな──あの双子の言っていたことが、本当だったなんて──」

「み、みふゆさん落ち着いて……」

「落ち着けるわけないでしょう!」

 

 みふゆの手を取ってなだめようとするハナだったが、乱暴に振り払われ尻もちをついてしまう。みふゆはハッと我に返り、気まずげに目をそらした。

 

「二人ともひどい顔よ? 何があったの?」

「すみません、今は何も……」

「……」

 

 みかづき荘に帰って来ても、二人は何も言えなかった。みふゆは真実のショックで、ハナはみふゆを傷つけたショックで。

 

 ハナは幸せだった。ソウルジェムの都合で魔女になることはないが、たとえ魔女になるとしても、気にならないほど幸せだった。きっとみふゆも同じだろうと思いこんでいた。

 

「……」

 

 ベッドに横たわるハナの目は死んでいて、一言も発さない。離別のフラグが存在を主張するように、強く輝いた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 ついに運命の日が訪れる。

 

 みかづき荘の全員が寝静まった深夜、ハナの部屋の扉が叩かれた。開いた先にいたのはみふゆで、大きなボストンバッグを持っている。

 

「話したいことがあります」

 

 二人は近くの公園に移動した。メルを瀕死にして撤退に追い込んだ魔女が居座っていた場所だ。ハナとみふゆは若干の距離を空けて正対し、お互いにクマのできた目で見つめ合った。

 

「ワタシはマギウスの翼に行きます」

 

 切り出したのはみふゆだった。

 

「魔女化しない世界を作る。そのためには手を汚すこともあります。だからみんなとは一緒にいられません。ハナさんも、勧誘を受けたと聞きました」

「行かない」

「そうですか」

「待って!」

 

 背を向けようとするみふゆを呼び止める。静まり返った深夜の公園に、ハナの細い声が響いた。

 

「これ以上話すことはないと思いますが」

 

 みふゆの瞳に光はなく、声にも生気がこもっていない。ハナは無意識に指輪状のソウルジェムへ魔力をこめた。普通のものより幾分細いそれを使って変身すれば、全魔力と命を代償にフラグの強制成立・回収が使える。今にも回収されかかっている離別フラグをへし折り、残留フラグを回収することも可能だ。

 

(それは違うでしょ)

 

 しかしハナはなびかない。

 

 みふゆは相当深く苦悩したのだろう、目の下のクマだけでなく、肌ツヤが失われ、毛先が荒れ、ソウルジェムも黒く濁っている。魔女化の真実でどれほどのショックを受けたのか、想像に難くない。

 

 みふゆはハナにとって大事な友達だ。みかづき荘にずっといてほしい。だからこそ、本当に憔悴している友人に真正面から向き合わなければならない。魔法で気持ちをねじまげてはならない。この期に及んで命をコストにしたズルをしてしまっては──

 

「女がすたるっ! キエエエ!」

「……えっ? あの、ちょっ、え?」

 

 ハナはぎゅっと握りしめたソウルジェムを、力の限り投げ捨てた。空の彼方へ飛んでいったどどめ色の宝石は、夜の闇と混じりすぐに見えなくなってしまう。

 

「は、ハナちゃん? あ、あれ、ソウルジェムですよね……?」

 

 間違いなくソウルジェムだった。

 

 土壇場に追い込まれたショックで動転したわけではもちろんない。魔法というズルを不可能にすることで自らを背水に追い込み、覚悟を決めた。この場でみふゆを引き留められなければ死んでもいい。不退転の決意がソウルジェム大遠投という形で表れたのだ。

 

「みふゆさんっ!」

「は、はい」

 

 ノリと勢いで明るく振る舞うことはあっても、ハナは雄弁なタイプではない。

 

 だから言葉を飾らずに、正面からぶつかっていく。

 

「私はキュゥべえに、自分の存在を消すよう願った」

 

 みふゆが息を呑む。

 

「結局拒否られたけど、毎日そう願ってた。生まれてこなきゃよかった、今すぐ消えてしまいたい。こんなゴミみたいな自分が嫌いで、すぐにでも消してほしかった。今でもたまにそう思う」

「そ、れは──」

「でもね」

 

 揺らぎない瞳が、みふゆの濡れた瞳を捉える。

 

「最近は消えてしまいたいっていうのと同じくらい、生きたいって思うんだ。だってすごく楽しいから。みかづき荘で過ごすのが楽しくて、みんなに望まれてる……たぶん、望まれてるのが嬉しくて。魔女と戦うとき、怖いって思うことも増えた。生きててよかった、そう思う。こうなったきっかけが、魔法少女だったんだ」

「……」

「魔法少女になったから、楽しくて嬉しい今がある。私はソウルジェムの都合上魔女化しないけど、もし魔女化するとしても同じだよ。私は確かに救われた。後悔なんてあるはずない。だから──」

 

 ぐっと唇を噛んで、

 

「だからみふゆさんも、今を思ってほしい。たとえどんなに絶望的な未来が待っていようと、希望に溢れる今を想ってほしい。魔法少女になったことで得られたもの、変わったこと。その中にきっと、かけがえのない何かがあるはずだから」

「……」

「え、っと、その」

 

 みふゆは無言でうつむいたままだった。

 

 一世一代の長ゼリフに対しまさかの無反応を返され、たじたじとなるハナ。未練たらしく言葉を続けるが、先程のような歯切れのよさはもうなかった。

 

「魔女化のこと、隠してる気はなかったの。毎日あんまり楽しくて幸せだったからつい忘れちゃって……えっと、えっとね、何が言いたいかっていうと」

 

 視界が歪んで見えなくなる。鼻先が熱くなり、声が震えた。

 

「一緒にいようよぉ……!」

 

 絞り出すように、一番強い気持ちを最後に言ってのける。魔法少女の解放や魔女化の情報など一切考慮していない、単純なハナのわがままだった。今のような満たされたみかづき荘を、いつまでも続けていたい。いつまでも一緒にいたい。ハナの行動基準は結局いつでも、幼稚なわがままなのだ。

 

「バカですね」

 

 そして返ってきたのは罵倒。一拍遅れて、温かい抱擁。

 

「最初からそれだけ言えばよかったんです。一言だけで思い出しちゃいましたから」

「思い出し……何を……?」

「こんなに手のかかる妹分を置いていけないってことです」

「……! それじゃあ!」

「ええ──残留フラグ、回収ですね」

 

 ハナはみふゆの体を力の限り抱きしめる。全力なのに痛くもないハグを受けながら、みふゆは慈しみに満ちた笑みを浮かべる。

 

(ワタシもそうなんですよ、ハナちゃん)

 

 みふゆは水名区の古い名家の出だった。幼いころから家のしきたりに縛られ、親の言いなりになってきた。キュゥべえに『自由に生きたい』と願うだけの自由意思と気力さえなく、『せめて夢の中では自由に生きたい』と願った。みふゆにとっての自由は夢の中の幻でしかなかったのだ。

 

 それが今ではどうか。ハナの身分を確保するため実家のコネを使わせてもらった。みかづき荘で過ごすうち自分の意思で医大の受験を決め、浪人確定後はすぐに実家へ頭を下げに行った。来年度もみかづき荘に下宿させてくれるよう頼むために。今まで従順だったみふゆのわがままに両親は狼狽し、みふゆは意見をゴリ押しで通した。もし通らなければ幻覚の固有魔法を使ってでも通すつもりだった。

 

 ハナに生きたい気持ちを与えたように。

 

 みかづき荘で過ごす幸せな今は、かつて焦がれた『自由』をみふゆに与えていたのだ。 

 

 絶望の未来を直視して、希望のあふれる今を想う。ハナの考え方はたしかにみふゆへ伝わっていた。

 

「まったく、ハラハラさせてくれるわね」

「同感……」

「やっちゃん、かなえさん! みなさんも……!?」

 

 暗がりから姿を現したのはみかづき荘メンバー全員だった。やちよとかなえはともかく、鶴乃以下高校生組はみんな目が赤い。

 

「聞いてたんですか?」

「途中からね。魔女化の話は正直面食らったけれど」

「みんなもう、大丈夫」

「うええんハナちゃーん! 私も幸せだよー!」

 

 鶴乃を初めとしてハナに飛びついていく。魔女化の真実を知ったメンバーたちだが、この様子を見るにたしかに大丈夫なようだ。

 

 魔法少女になってから得たもの、変わったこと。全員に共通していたのはみかづき荘での思い出で、同時にかけがえのないものだった。魔女との戦いがたとえマッチポンプ的であったとしても共に死線をくぐり抜け、紡がれた絆は変わらない。

 

 希望にあふれる今を想う──まっすぐなハナの言葉は、純真な彼女たちの心に響き渡っていた。

 

 かくしてみかづき荘チームは八人のまま。みふゆ離別のフラグは破壊され、残留のフラグが回収されたのだった──

 

「ハナちゃん? は、ハナちゃんが息してないよっ!?」

「なんですって!?」

 

 が、さっそくハナが離別しかけていた。ソウルジェムは魂そのものであり、魂の欠けた肉体は活動できない。多少の時間差があったものの、藤本ハナ、生涯三度目の死である。

 

「そうでした! ハナちゃん、自分のソウルジェムを遠投してたんです!」

「この子は一体何考えてるのよ!?」

「わかりませんよ!」

「投げたってどっちに!?」

「たしかあっちに──」

 

 この後ハナの魔力をたどりながら全員で捜索。運悪く脳天にソウルジェム爆撃を受け、タンコブをこさえた魔法少女と悶着があったもののどうにか取り戻した。

 

 そうして無事生き返ったハナは「いい加減にしろ」とお説教されながら、こうつぶやいたという。

 

「まーじか」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 魔法少女の解放を謳う過激派組織、マギウスの翼。解放の中核を担う『マギウス』の翼として神浜市各所で暗躍している。勧誘を受けこれに入った笛の双子こと月夜と月咲は、その実力を買われ翼の幹部就任が決まった。

 

『解放のためがんばるでございますよ!』

『がんばろー!』

 

 そうして張り切った二人が目をつけたのは、新西区のチームみかづき荘だった。知名度も実力も頭一つ抜けているこのチームは、マギウスの翼が利用予定の強力な魔女をことごとく倒すことで目の上のたんこぶ状態だった。うまく勧誘できれば戦力拡大、影響力増大間違いなし。

 

『名付けてみかづきサボタージュ作戦でございます!』

『スパイみたいでかっこいいよね!』

『ねー!』

 

 魔女化の真実を伝えれば誰でも自分たちに協力すると見込み、こうして二人は作戦を開始したのだった。

 

 しかし──

 

『魔法少女が魔女になる? まったく、冗談にしてもタチが悪いですよ』

『じょ、冗談では……』

『申し訳ないですが私も忙しいので。失礼しますね』

 

 一人目、梓みふゆは失敗。路上で突然話しかけて、証拠もなく信じてもらえる内容ではなかった。実際に魔女化するのを見せようにもすでに神浜市内では魔女化しないシステムが稼働している。

 

 とはいえ一度の失敗でめげる二人ではなく、サボタージュには情報が必要だとして情報収集を開始する。

 

『僕に聞きたいこと? わざわざ市外まで珍しいね』

 

 情報ソースはキュゥべえだ。キュゥべえは故意に省いたり誤魔化したりすることはあってもウソはつかないし、魔法少女が必要だからと主張すれば大体どんなことでも教えてくれる。うら若き乙女の体重、体脂肪率、気になるあの子の性癖、コンプレックスでさえ──魔法少女の願いと固有魔法という、極めてデリケートな情報でさえも。

 

『──彼女たちの情報はこのくらいだ。でも手を出さない方がいいよ。君たちがどうにかできる相手じゃない』

『いいえ、どうにかできるでございます!』

『二人目のターゲットは二葉さなだよ!』

 

 二葉さなの願いは『藤本ハナを守る力』だった。経験年数や魔力量からしてさなよりも強力な魔法少女がハナの周囲を守っているのに、さなはこの願いで絶望の未来を確定させてしまった。きっと魔女化の真実を教えれば不安定になり、マギウスの翼に協力するはず。そうでなくともみかづき荘の人間関係がこじれるはず。完璧な目論見に双子そろって「ふふふ」と悪い笑みを抑えられなかった。

 

 だが──

 

『なんだ、そんなことですか』

『えっ?』

 

 二葉さなの目に光はなかった。

 

 魔女化のことを教えても一切の揺らぎなく、前だけを見つめていた。

 

『魔女化はたしかに怖いです。でもハナちゃんが知らないところで傷つけられたり、戦ったりするほうがずっと怖いですよ。だから──』

 

『後悔なんて、あるわけない』

 

『ひっ』

 

 家庭にも学校にも居場所がなかったさなにとって、初めて心が安らぐ場所。それがハナの隣だった。社会問題レベルのぼっちだったさなが、同類のハナに向ける友情は、双子が知るそれよりもはるかに深く重いものだったのだ。

 

 悟ったようなさなの表情にすごすご退散した双子は困りに困った。とりあえずハナをどうにか引き入れれば何人かセットでついてくると皮算用し、その日のノルマである魔女の捕獲業務に精を出したのだが──

 

『し、しまったでございます!』

『月夜ちゃん!』

 

 神浜市の魔女はただでさえ強い。マギウスの翼が活動を開始してからは他の市からも多数の魔女が流入し、淘汰が活発となったことで魔女の質も上がっていた。双子の手に負えないほどに。

 

 マギウスの一人から預かった捕獲用のキューブ──当たればどんな相手でも異空間に封じられる魔法のアイテムも外してしまい、魔力もつきて万事休す。その時、大漁旗が降ってきたのだ。

 

 あっさりと魔女を倒していったのはやはりターゲットの藤本ハナで、気まずさと罪悪感で双子の良心が痛む。しかしこれ以上やらかしてはさすがに怒られるだけじゃ済まないので、心を鬼にして勧誘を行い──失敗。

 

『もしもしアリナさん……実は──』

『──梓みふゆだけでも引き入れてヨネ。信じてもらえなかった? 初対面で信じてもらえると思ってたワケ? 信じてもらえないなら信じさせる。それだけだヨネ』

 

 報告を入れると、特大のため息とともに冷たい声音が返ってきた。結局最優先目標であるみふゆの説得はマギウスのアリナが引き継ぐこととなり、双子の作戦は大失敗に終わったのだ。

 

 アリナ以外のマギウスとしてもみふゆは必要な人材だった。最古参の一角であるみふゆのカリスマ性は高く、勧誘にも統率にも長けた優秀なリーダーになりうる。一方のアリナはみふゆの体を欲していた。うまく自陣営に引き入れ活動の合間にデッサンモデルになってもらう予定だった。自身のアーティスト活動を何よりも優先するアリナなので、勧誘には一切の容赦がなかった。

 

 まず市外から適当な魔法少女を一人結界で拉致し、アリナの飼育する魔女の結界に放り込む。魔女の手綱をにぎりながら時間をかけて死に体まで追い詰め、頃合いになったところでみふゆの近くへ運ぶ。魔女化回避システムはアリナの結界で限定的に無効化しており、うまく魔女化の瞬間をみふゆに見せつけることができた。

 

 後は絶望したみふゆの方からマギウスの翼にコンタクトをとる、はずだった。

 

「ほんと、バッド過ぎなんですケド」

 

 しかし予想通りにはいかず。チームの説得によりみふゆはみかづき荘に残ることになった、と黒羽根から報告を受ける。アリナはギリ、と歯をきしませ、今回の逆MVPである双子を八つ当たり気味に反芻する。魔女の捕獲ノルマを放り出して独断で勧誘に走り、マギウスの計画を漏洩し、アリナのキューブを一つ無駄にした。

 

 うん、デリートだヨネ。

 

 アリナ的にそう判断するものの、拠点内に双子の魔力はない。

 

「あのピーヒョロ姉妹はどこなワケ? あのポンコツシスターズは」

「今回の敗因は情報不足でございますと言って、みかづき荘へ潜入捜査に……」

 

 リーダーの居ないマギウスの翼は、今日もグダグダだった。

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