夜の女王   作:がぶり

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月華の一輪

 

 

こつこつとヒールの音を物騒な夜の街に響かせて歩いているのは1人の少女だった。

 

 

夜の冴え冴えとした月明かりに照らされて

暗い影が地面に伸びている。

 

 

月の光の輪を髪に戴き、

その細い脚には羽が生えているかのような軽さで

歩く姿には重力を感じさせない。

 

顔は黒いベールで見えないがそれでもこの世のものとは思えないほどの美女だとわかる。

 

 

そんな地上の人間が声をかけるのを戸惑う程の少女に

身の程を弁えないゴミが行く手を阻んだ。

 

 

 

「おいおい、お嬢ちゃん!!

待ちな!!ここを通りたきゃする事あんだろ??

その顔に悲惨な怪我したくなけりゃ

オレとイイことしよーぜぇ?」

 

 

ニタニタと下劣な笑みを浮かべながら近づいてきた男に

特別目を止めることも無く少女は白く細い指先を軽く振った。

 

 

ぐじゃっ!

 

 

「がべっ!?」

 

すると少女の黒い影からひとつの大きな黒い手が出て

一瞬のうちに男を叩き潰し、醜い肉片へと変えてしまった。

 

 

 

『……なんて汚らしいの。』

 

 

冷たく通る声はまさに夜を彷彿とさせる。

 

 

そう《夜》にとってそこらの有象無象など

気に止めることのない

地面に落ちている石同然であった。

 

 

(これからハンター試験に行かなくてはならないと言うのに……今年の会場ってどこにあるのかしら……。)

 

 

歩みを止めないまま少女は

自らの顎に指を添えて思案に耽る。

 

 

(そもそもこの私にハンター試験なんてもの似合わないのではなくて?

……そうよ、なぜ私がわざわざこんな所まで歩かなくてはならないの。)

 

 

『……それもこれも全部あの男のせいではなくて!?』

 

 

怒りで気が昂って頬が薄く染まる少女は誰かに怒っていた。

 

この自由な少女を地上に繋いでいるのは一体……?

 

 

 

ピピピッ! ピピピッ! ピッ

 

 

〈よぉ!迷子になっ……〉ピッ

 

 

 

ピピピッ! ピッ

 

 

〈おいおい、切るこたねぇだろ!〉

 

 

 

『あんたのその声が耳に障るの。何よ用事でもあるの。

……ジン。』

 

 

 

そう静寂を裂いたのは1本の電話だった。

 

 

そして少女の電話の相手はジン。

ジン=フリークスだった。

 

 

 

〈いや?お前のことなら心配ねぇだろうとは思ってたが一応な。〉

 

 

『ねぇ、何度も言ってるけれど。

そのお前って……私の事じゃないわよね。』

 

 

じろりっ

 

 

 

電話越しにでさえも聞こえてきそうなじっとりとした声はジンの背中にぞわりとしたものを走らせた。

 

 

 

〈わーかったわかった!!すまんかった!〉

 

 

 

そんなに怒るなってと電話で続く声にそっと息を付いた。

 

 

 

 

(本当に……、何なのこの男。

子供がいるとは聞いているけれどこの男の方が子供なんじゃないのかしら。落ち着きのない男って世の女性にはどう思われていて?)

 

 

 

未だに電話口でわーわーと騒いでいる男に再びため息を付くと

ジンは声を1つ低くして警告した。

 

〈分かっちゃいると思うが今回の試験は俺の弟子を卒業するための俺からの最後の試験だ。お前なら確実に余裕で合格するだろ。……まぁ落ちたら笑ってやるよ!!〉

 

 

ブツッ!

 

 

 

『何なのよッ!あの男は!!!鬱陶しいにも程があるわ!!合格したら真っ先にあの男の首を獲りに行ってやるからね!!!!』

 

 

少女は夜の街で1人、そう叫んだのだった。

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