ゴンとオルは船の端へと腰掛けて話に花を咲かせていた。くじら島のみんなのこと、それから自分を育ててくれたと言うミトさんという女性のこと。
そんな人達の事を口に出す度、この少年の目はキラキラとまるで大粒の宝石のように輝いていた。
『……それじゃあ、
貴方のお母さんはミトさんという方なのね。』
「お母さんって言っていいのかは分からないけど、
オレを育ててくれたのはミトさんなんだ!」
『あら、別に母でいいのではなくて?』
「え??」
『こう言っては何だけれど、
顔も知らない産みの親を母と呼べと言われても……
私なら嫌よ。それにそのミトさんという方は貴方をお祖母様と一緒に育ててくれているのに、母でなくてなんと呼ぶの?』
口元に指先を添えてうふふと笑うとゴンは呆然とした顔をして、すぐにパァっと笑顔になった。
「そう、そうだよね!!
ミトさんがお母さんでも間違ってないもんね!」
そんなことを話しているうちにオルは船の上の空気が若干湿り、強い風がもうすぐそこまできているのを感じた。
……嵐の匂いがする。
そう感じたオルは船長に声をかけようとした。
『船長さ……』
「あ、ねぇ船長さん!!もうすぐ大きい嵐が来るよ!」
オルよりも先に船長に声をかけたのはゴンだった。
鼻をひくつかせて嵐を感じているらしいゴンは船にかかっているロープを伝って物見台まで登っていった。
「鳥たちも言ってる!!
それにオレ、匂いでわかるんだ!!」
「なにィ!?」
信じてと声高に叫ぶゴンに船長はニヤりと笑い、他の船員に怒鳴った。
「テメェら!!!デケェ嵐がきやがる!!
準備しやがれ!!!」
一声で船員が動いた。
波は先程よりも荒くなっている。
風は強くなりオルの髪を不粋にも雑に煽る。
『……いやね、これだから雨風ってきらいよ。』
髪をかき揚げ、ふぅ、と1つ息を着いた。
「お嬢ちゃんも船の中入んな!!
この嵐で吹き飛ばされちまうぞ!!」
船員がオルに言った。
船長は自ら舵を執りに行ったようだった。
『いいえ、大丈夫よ。
それよりもお手伝いしましょうか??』
それ、と指で示す先には情けなく床に這いつくばっているハンター試験を受験しに行くはずだった男がいた。
「ははは!いや、それこそ大丈夫だ!
こんなのは毎年あるからな!」
そう言うと船員は肩に男を担いで船の中の一室に投げ込んできたようだ。
(なんて無様なの。仮にもハンター試験を受けようって男がこんな醜態を晒せるなんて、世も末ね。)
それと比べて、目を走らせるとバタバタと走り回る船員たちの中にゴンが混じっていた。
どうやら船員たちの手伝いをしているようだ。
ロープを引っ張り帆をたたんだり、
そこらに落ちている男を回収して介抱してあげているようだった。
『ねぇゴン、そこまでしなくてもいいのではなくて?
ハンター試験を受けに来ているんだから自分の責任でしょうに。』
するとゴンは首を横に振った。
「そうだけど、でも……
オレは困ってる人がいたら放っておけないよ!」
こんな嵐の中、
この少年だけは陽の光に照らされているかのように眩しかった。