東方黒鉄録   作:五百蔵鼎

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多分ガールズラブのタグを追加します。
相手で迷ってますけどね。

ちなみに、この話で初めてオリジナル拳銃が登場。
需要があればスペックを割烹なりで書きます。


第三話・SNIPING/遠方より矢を射る者/声無き別れ

 「まったく、非道(ひど)いことするよね」

 伊織がすかさずすっ転んだ燈火の元へ駆け寄り、手を貸して彼女を立ち上がらせた。

 黒塚部隊総員は目の前で起きた事に理解が追い付いていなかった。

 ある者はナイトビジョンを外して目を擦り、またある者は幻覚では無いことの確認を、痛覚を持って現実であると認識した。

 つまり、頬を(つね)ったのである。

 端から見れば随分と滑稽な絵面だが、まあ無理の無いことだ。

 5.56㎜強装ライフル弾を二百十発も食らえば大抵の生物は一溜まりもなく、十分な致命傷を与える事が出来る筈だ。

 しかし、彼女は生きていて、そして黒塚部隊を見つめている。

 その瞳に命を宿した、凛々しく美しい目で。

 「銃弾を貰ったのは久しぶりだね。八十……いや、九十年振りだったかな。最近の新型弾薬は痛かったよ」

 燈火はおもむろに、その辺に大量な何かを投げ捨てた。

 じゃら、という金属の擦れる小さな音が鳴る。

 投げ捨てられた物、それは何か。

 それは血がこびりつき、先端の潰れた5.56㎜弾頭だった。

 彼女は肉体を貫通せずに残った百七十三発を、治癒の際に自ら摘出したのだ。

 小石の如く転がる弾丸を一瞥し、燈火は自らの体を見下ろす。

 弾痕と血痕でぼろ布もいいところの着物は、最早風が吹けば吹き飛びそうな有り様だった。

 「この着物、高かったのに」

 全く感情の籠もっていない溜め息を一つ零し、顔を上げる。

 「さて、弾丸に対する回復の仕方も思い出したし、仕切り直そうよ」

 瞬間、さながら電動ノコギリのような音の連なりが轟いた。

 それは銃声で、余りの連射から来る繋がったものだった。

 着弾。縦一直線に穿たれる弾痕は、散開した黒塚部隊の隊員と隊長の間にボーダーを敷いた。

 燈火が向かい合うのは隊長で、伊織が向かい合うのは残存した隊員達。

 銃声が止み、山に反響した音の残滓がやがて潰える。

 銃声を吐き出したのは燈火の纏う着物(ボロ布)、それに辛うじて残った右袖口から覗く一本の長い銃身(・ ・)

 袖口から零れ落ちる空薬莢が音を立てる。

 硝煙と熱による陽炎とが綯い交ぜになった揺らぎを纏うそれは、ドイツ製7.92㎜重機関銃──グロスフスMG42だ。

 彼女は弾切れのそれを袖に仕舞い、伊織に無表情な顔を向けて言った。

 「伊織、その線から向こう側の人達をお願い。僕はこっちと戦いたい」

 「了解しましたわ」

 伊織が返答し、二人が同時に動く。

 地を確かに噛んだ初動は、燈火と伊織の身を高速で撃ち出した。

 終幕は、近い。

 

 

     △▽

 

 

 「お兄さん、お待たせ」

 激突。

 甲高い金属音が鳴り、金属と金属がぶつかって生じる火花が散った。

 燈火の両前腕、鈍い輝きを孕む厳めしい籠手──ボルトのような形状の突起を備えたナックルダスター兼用の籠手、それを隊長は幅広のグルカ・ナイフ二本を瞬間抜刀し受けきる。

 「…………っ!」

 重い、余りにも。

 自らの腕が軋みを上げる微かな音、骨が折れる前に力任せに燈火を弾いた。

 くるりと宙で一回転し低い体勢で着地。獲物を狙う(レオパルド)さながらの姿勢から数瞬、全身の筋肉に力を充填、バネとして加速。

 高下駄の歯が地を抉り飛ばし、装飾の鈴が音色を残す。

 それを聞きながらのチャージは金属の装甲籠手の重みと体重に速度を足し、その上で殴る動作を追加した重撃だった。

 「おお……っ!」

 彼は右脚の強い踏み込みを持って燈火の重チャージに対する防御とし、真正面から勝負を受ける。

 先程の激突とは比べる事すら馬鹿らしい程の、耳を(ろう)する金属音は、破砕音を従えて大気をぶん殴った。

 左手のグルカ・ナイフは硝子のように砕け散り、細かい破片が月光を受けてダイヤモンドダストに似た輝きを放った。

 幻想的な光景は一瞬のみ。

 砕けたグルカ・ナイフを投擲。それも彼女の左頬を浅く裂くだけに終わり、回転しながら彼方へ消える。

 燈火は隊長の胸を蹴って宙に身を踊らせた。

 体勢を崩しこそするものの、即座の判断で右大腿のホルスターからシグザウエルP226を抜き、発砲。

 銃撃音は四つ。音速を超えた九ミリ弾頭はしかし、籠手に弾かれて有効打は成らず。

 両脚を揃えた着地、鈴が鳴る。

 ならばと、彼は隠し持った投擲用ナイフを八本、グルカ・ナイフを上に投げた間で投擲。

 前後の比重が全く同じのナイフは回転することなく文字通り風を斬って空を走る──、

 

 ──八回、耳朶を殴りつける銃声──。

 

 しかし、燈火にナイフが届くことは終ぞなかった。

 八回分の蒼白い煌めきは銃口閃(マズルフラッシュ)で、ナイフは一本残らずへし折れたからだ。

 「!」

 更に二度の銃声、蒼白い銃口閃が再び暗闇を灼いた。

 残ったグルカ・ナイフは根元から割れ、右手の甲を弾丸が突き抜けた。

 「が……っ!」

 痛みと言うよりは熱に等しい感覚が脳髄を苛む。

 彼は自身の右手に視線をやれば、最早使い物にならない程にまで引き裂かれた手がある。

 明らかに大口径の銃による銃創だ。

 「対人用炸裂式セフティ・スラグ弾、だよ。お兄さん」

 視線を燈火へ。

 彼女の籠手に包まれた右手、そこに握られているのは、密集する竹の間から差し込む夜闇を裂く月光を受け、鈍い輝きを放つ全長三十センチを超えるの銀灰色の大型自動拳銃。

 シンプルな中にどこか美しさを纏うスライドストップのかかったそれは、遊底先端近くにまで延長されたダストカバーにアクセサリレールなどのオプションの(たぐい)は一切無く、長い遊底にも最低限の刻印──

 

 Long Slide 11inch barrel

 Automatic Pistol

 11.93㎜/.47 cal

 

 ──以上、それ以外には何も刻印されていなかった。

 硝煙と熱によって赤熱した銃身が陽炎を上げ、硝煙と綯い交ぜとなって風に揺らめく。

 落ちた空薬莢に空の弾装が追加で落ちる。

 「……その拳銃、ただ長いだけという訳ではなさそうですね」

 新しい弾装を拳銃に叩き込んだ燈火は、ロングスライドストップに親指をかけながら返答した。

 「.47LONG AUTO、四十七口径強装弾仕様の自動拳銃だよ」

 金属音を立てて遊底が戻り、薬室に初弾が装填された。

 銃口が彼に向き、トリガーに指がかかる。

 「もう、終わろうよ。この不毛な戦いをさ」

 

 

    △▽

 

 

 ワイヤーブレードの、切れ味を伴った嵐が吹き荒れていた。

 竹を、雑草を、岩をとありとあらゆる物を障害物ともせずに伐って切って斬り捨てる。

 散開した兵の一人がFN SCAR-Lによる銃撃を嵐の中心──伊織に叩き込んだ。

 やはりそれも伊織の体を穿つ事叶わず、煙と化した彼女を素通りするに止まった。

 しかし、その銃撃がまったくの無駄という訳でもなく、一瞬のみだが嵐が止む。

 「ああ、逃げないで下さいまし」

 土台無理な相談である。

 横目で燈火の戦いを確認した伊織は、散開した兵達をなますに刻もうとワイヤーの数を増やした。

 手首にマウントされたワイヤーリールが唸りを上げ、ブレードが追加される。

 現在のワイヤー総数は二十三本。

 

 

    △▽

 

 

 「あらあらあらあ。約千年振りに見たかわいいかわいい燈火ちゃんは、アタシ達が知る以上に格好良くなってるわあ」

 燈火達のいる激戦区から約四百と八十メートル程離れた場所では、二人の男女が居た。

 片や大型の黒いケースを担いだ女。赤い絢爛な振り袖に身を包む長身は妙齢の顔立ちで、にこにこと実に楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 弓を描く目元、右目には高倍率ズーム付き機械式遠眼鏡を装着している。

 「お〜……あの拳銃かっけえな。千年前は弓だったしな……つーかあの女誰だ」

 片や布に巻かれた棒のようなものを二本、腰につけた男。

 ぼっさぼさの茶髪に針金のように細い手足、適当に着た暗緑の甚平とさながら柳のようで、無精髭に覇気のない表情が極めつけだ。

 女の話はあまり聞いていないようで、高倍率の双眼鏡で燈火を見ていた。

 「──楓、そろそろ狙撃体勢についときな」

 「はあ〜い。うっふふふう」

 やや間延びした笑い声をこぼしつつ、楓と呼ばれた女は肩に担ったケースを地に下ろし、蓋を開けて中身を取り出した。

 彼女の左手に握られた物は、黒い折り畳まれた金属製の大型機械弓だ。

 特殊繊維製の弦が交差するように張られたそれは、滑車で弦のテンションを操作できるようになっている。

 展開。鈍い金属音を伴って弓が開き、弦がピンと張り直された。

 漆黒の基部には棒状のスタビライザーが取り付けられている。

 次いでケースから矢を取り出す。

 やはり黒い矢型弾体の径は三十ミリ、とある特殊な金属(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)で作られた杭と見紛う程のそれを、楓は白い手袋に包まれた右手で持ち、機械弓につがえた。

 機械弓に付けられた照準用特殊デジタルスコープと右目の機械式遠眼鏡を同期、レティクルに標的を捉えた。

 一気に弦を引き絞り、テンションが軽くなるまで大きく引いた。

 滑車が弦を自動で巻き取り、ぎしりと弦が軋む。

 「〝滅霊邪刀・アヤカシガリ〟 ──撃て、楓」

 「はいなあ」

 緩い返答と共に、射る。

 放たれた弓は空間を裂き、一瞬だが大気に不可視の大穴を穿った。

 そして──

 

 

    △▽

 

 

 ──胸の中心に強烈な衝撃を感じ、伊織の意識は一瞬飛んだ。

 紙屑のように押し飛ばされた彼女の体は、点在する岩の表面に標本さながらの(てい)で打ち付けられる。

 「か、ふ。──な、ん、ですの……これ」

 彼女は自身の体を見て、愕然とした。

 胸の中心、三十ミリ径の真っ黒な矢が突き立っている。

 じわりと鮮血が滲み出した瞬間に、脳髄を掻き毟る痛覚の激流が思考を削いだ。

 「─────!」

 声も出ない程の激痛の最中、一つの声を聞いた。

 「──伊織──」

 それは、敬愛する主の声で、霞む視界に捉えた、こちらへ駆け寄る愛しい主の姿。

 消え入りそうな意識の中、ただ伊織は嬉しさを覚えた。

 

 

     △▽

 

 「命中確認。うふふ」

 

     △▽

 

 

 「い、おり」

 言葉が途切れる。

 燈火は眼前の光景に理解が追い付いていなかった。

 頭が回らない、肺が酸素を求めて息が荒くなる。

 「ああ、伊織、しっかりして。ねえ」

 .47LONG AUTOを落として、籠手すらも外して伊織に縋りつく。

 血が止まらない。伊織の体温が消えていく。

伊織の瞳に最早光は無く、命の灯火は潰える寸前だった。

 「伊織、伊織、伊織──」

 何度も、何度も彼女の名を呼ぶ。

 「いお──っ」

 十度目の名を呼ぼうとした時、伊織は一つの行動を起こした。

 燈火の両頬に震える手を当て、額にキスを落とす。

 伊織は光の無い目から涙を零し、しかし幸せそうな笑顔で燈火に何かを告げようとするも──

 

 「    」

 

 声は、出なかった。

 




\燈火さんの着物/
・時価二千万円位です。

\服がボロキレってことは……/
・黒塚部隊の皆様は良いものを見たでしょうね。そこそこある胸とか。

\.47LONG AUTO/
・完全に僕の趣味です。実際に47口径なんぞありません、多分。

\燈火さん何歳?/
・さあ? 少なくとも紫よりは年下かも。

あ、そうだった。
割烹にてお知らせがあります故、目を通して頂ければ幸いに。
二番目にある割烹がお知らせ兼用デス。
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