ボッチの俺がいつのまにか最強認定されていた。……え、なんで?   作:赤月ヤモリ

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第二話 不良との邂逅。

 六限目、授業に変わりLHRが設けられた。

 

 担任教師であるところの水科先生が教室に入って来て「これから隣の空き教室で一人一人面談をしていく」と語った。

 

 もしかして誰か問題でも起こしたのかな? とか思っていたら、彼女は続けた。

 

「高校生になって早くも一カ月が経過したので、それぞれの調子を聞きたいだけだ。気楽に来い」

 

 なるへそ。

 

「それまで他の者は自習」

 

 やったぜ。

 俺はライトノベルを机から取り出す。

 結局脱オタなんてできることなく、最近はラノベを買い漁る毎日だ。

 

 今日の作品は異世界無双ハーレム。

 ヒロインが可愛い。

 尽くす系ヒロインというのだろうか。

 主人公を様付けで呼んで、あなたの為なら何でもしますとか言っちゃう感じ。

 フェミニストが見れば発狂もんだけど、俺はドスケベなオタクなのでニヤニヤしちゃうんだ。

 

 因みに作者は『押しかけ妹とラブコメるのはいけないんですか?』の人だ。

 俺は良いと思います。

 

「佐藤、次お前だぞ」

 

 表情筋を鍛えていると来栖君がやってきた。

 

「あぁ、うん。ありがとう」

 

 男子だから女子より話しやすい。

 

 立ち上がる際、阿知賀さんから見られている気がしてそちらに視線を向ける、が彼女は平然とした様子で文庫本に視線を落としていた。

 

 むむ、気のせいか。

 恥ずかしいことしちゃったな。

 

 教室を出て空き教室に赴くと、水科先生が腕を組んで待っていた。

 

 水科香織、二十七歳独身彼氏無し。

 合コンは呼ばれもしない孤独体質。

 剽軽者の麻生君が質問攻めにした結果、以上のことが露呈してしまった悲しき教師。

 それが水科先生だ。

 美人だとは思うのだが、目付きの悪さが折り紙付き。

 

 まぁ、それでも美人なだけましだとは思うんですけどね。

 俺、ブサメンですしおすし。

 

「来たか、問題児」

 

 What?

 

「失礼します」と断ってから彼女の前に座る。「も、問題児、とは?」

「そのままの意味だ。はぁ」

 

 ますます意味が分からないんでござるが。

 水科先生は再度大きなため息を吐くと、一枚の紙を取り出す。

 

「じゃぁ、ちょっと質問するから答えてくれ。高校生になってどんな感じだ?」

「高校生になったなぁ、って感じです」

 

 じろりと睨まれた。なんでや。

 

「……この一か月、何か問題とかあったか?」

「? いえ」

「気になることはあるか?」

「何故俺が問題児なのかぐらいでしょうか」

「……友達はいるか?」

「いえ」

「それだよ」

 

 マジかよ。

 友達いないと問題児なの?

 因みに知人も居ないと思っているので、もしかしたら俺は不良なのかもしれない。

 

「友達……普段、誰かとつるんだりするか?」

「いえ」

「今、楽しいか?」

「まぁ、それなりには」

 

 嘘だけど。

 本当は滅茶苦茶楽しいし、充実している。

 朝から体育女子を見守り、昼休みは広大な海に心を洗われる。

 

 話すたびに緊張して苦笑いされるという悲しき性もあるにはあるが、総じて判断するのなら、今という時間は個人的にとても楽しいと言えるだろう。

 

「まぁ、楽しいならいいか。……部活には入らないのか?」

「部活、ですか」

 

 入る気はない。というのが正直な感想だ。

 

 いや、もちろん入ったほうが俺の目標である脱ボッチの可能性があるのは知っているのだが、それでも俺はバイトをしなければならない。

 

 親は家賃と生活費を送ってくれるが、それでもバイトして自分で賄いたい、というのが俺の素直な思いである。

 親孝行したいじゃんね。

 

 今のところいくつか候補がある段階だが、あと半月以内には始めるつもりなので部活はNG。

 

「今は特に入りたいと思いませんね。時間も取れないですしおs——ん、んん!」

 

 危ない。

 ですしおすしと続けてしまう所だった。

 

「……そうか。まぁ、いい。面談は終わりだ」

「もういいんですか?」

「あぁ、予想よりお前はまともだった」

「はぁ」

 

 異常者だと思われていたのか。

 

「それでも、現在進行形で寂しい人生を送っている身から言わしてもらうなら……一度しかない高校生活だ。後悔しないようにしろよ」

「……はい」

 

 後悔、ねぇ。

 それならすでにしてるんだよなぁ。

 

 空き教室を後にして、一年五組に戻る。

 次の出席番号の男子に声を掛けるついでに、俺はある女子生徒に視線をやった。

 そこには黒髪ショートの美少女。

 一か月前から髪形が変わり、ボブからショートまで伸ばした美少女――曽根川さんと、結局一言も話せなかった。

 これが俺の後悔だ。

 

  †

 

 放課後になり帰る準備を整えているとクラスの一角からワイワイと声が聞こえて来る。

 

 現クラスのトップカーストのグループである。

 リーダーをしているのは話したことのないイケメン。

 あれだけ顔が整ってたらそりゃあ人生イージーモードなんだろうな、と思う。

 

 こんなことを言うと、『いや、それでも努力してるんだから』云々と抜かす馬鹿が居るが、努力してそれが実った時点で人生イージーモードである。

 

 俺くらいのハードコアプレイヤーから言わせてもらえれば、努力は実らない。ただ努力したという経験を得て、無駄な時間を浪費するだけ、である。

 

 話は逸れたがトップグループに所属しているメンバーの中にクールな来栖君も居る。

 みんながワイワイ騒いでる中でスマホ片手に偶に口を出している。

 あれはコミュ力強者だな。

 となりの美少女がどう考えてもメロメロだ。

 

 他にも容姿の整った彼や彼女らで埋め尽くされているのだから、その地位が揺るぐことは無いだろう。

 裏山死ね。

 

「じゃあ、今日はボーリングでも行く?」

「えー、この前行ったじゃん」

「カラオケは?」

「俺、歌うの苦手」

「うち好きー」

「じゃ、カラオケで。誰かカード持ってたっけ?」

 

 そんな話を繰り広げているのを横目に、俺は教室を後にした。

 

 すさまじいな、リア充。

 きっとあの中の数人はすでに恋人が居たりするのだろう。

 

 妬ましいね。略して妬ましね。

 

 下駄箱で下靴を取り出そうとしていると、背後でドサッと音がした。

 なんぞや、と振り返ってみると、ノートと思しきものを床にぶちまけた女子の姿がそこにはあった。

 というか、巨乳センパイだ。

 あの巨乳は見間違えるはずがない。

 さぞオモテになるはずだ。

 男子高校生的には、垂涎ものだからな。

 

 だからこそ妄想してしまう。

 きっと家に帰ると大学生な彼氏がいて、イチャイチャ的な微エロ的なことをしているのだろう、と。失礼にもほどがあるか。

 

「……」

 

 明らかに困っている状況である。が、俺はボッチだ。

 つまり何が言いたいのかというと、この場で声を掛けることが出来ないのだ。

 

 だってボッチだから。コミュ障ともいう。

 

 助けもしないのにいつまでも見つめているわけにはいかず、視線を逸らそうとして——その前に、彼女の勝気な黒目に捕まった。

 

 見つかってしまっては仕方がない。

 社交辞令だろうが、ここは声をかけなければいけないだろう。

 

「だ、大丈夫ですか」

 

 何とか声を振り絞り、引きつるのを我慢してノートを拾うのを手伝う。

 

「あぁ、すまないな」

 

 大仰な態度だな、と思ったけれど何だか雰囲気に合っていて、アドにしかなっていない。

 アニメなんかじゃ生徒会長とかやってそう。

 または風紀委員会とか。

 でもこの学校に風紀委員会なんてものは無いから、やっぱり生徒会長だな。

 

「一年生か?」

「は、はい」

「……」

「……」

 

 やべーよ、会話止まっちまったぜ。

 どうすんのこの空気。

 とりあえずノートは全部拾い終わったので、このまま俺は退散するとしよう。

 

「で、ではこれで。お気を付けください」

「……ふっ、ああ。ありがとう」

 

 何か鼻で笑われた。泣いていいか?

 

「い、いえいえ。滅相もない。では電車なので、自分はこれで」

 

 大急ぎで靴を履き替えると、猛ダッシュで駅に向かう。

 

 つーかなんで電車とか聞かれても無いことを言ってるんだ俺は。

 熱い自分語りはオタクの特権ていうけれど、……嗚呼、俺オタクだったよ。

 うわぁ、って思われたよな。

 キモオタ丸出しの糞ボッチだなって思われたよなぁ。

 

 家に帰ると俺はソファーに飛び込み悶える。

 恥ずかしい。タイムリープしたい。

 真琴に名前を変えてジャンプしたら時間が巻き戻らないだろうか。

 時をかける少年。

 

「……馬鹿らし」

 

 妄想も大概に、俺は晩御飯のことを考え始めた。

 

「つってもなぁ、はぁ。やる気でねぇ」

 

 もういいか、今日は外食にしよう。

 近所のファミレスに向かうため、財布をポケットに入れて玄関を出る。

 

 夜風が涼しい。

 食後は砂浜を散歩でもしようかな。

 駅とは反対に歩くと、小さいながらも砂浜に行きつくのだ。

 ここに越してからまだ一度も行っていないため行きたい欲がマッハ。

 

 これからの予定を組み立てながら街灯の照らす道を歩いていると、駅前で、何というか柄の悪そうな連中がたむろしていた。

 髪の毛は金色だったり茶色だったり。

 ピアスやネックレスをじゃらじゃらと付け、咥え煙草をしている。

 

 別段、それだけの光景なら俺は視界に入れることも無いのだが——。

 

「おにーちゃん高校生?」

 

 そんな言葉と共に、肩を組まれて連行されれば嫌でも視界に入る。

 というか、絡まれてしまった。

 

 加えて、ちらりと横を見ると丸眼鏡のいかにもがり勉と思われる男子中学生も、そこにいた。

 お仲間じゃんね。

 

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