【完結】フリーズランサー無双   作:器物転生

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『テイルズオブエターニア』
株式会社バンダイナムコゲームス
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本編の20〜10年前

 まず初めに、テイルズシリーズを御存知でしょうか?

 もちろん知っているでしょう。そうでしょう? そういう事にしておきましょう。だって、シリーズの説明から始めるのは面倒じゃないですか。一言で纏めると、オープニング曲に合わせたオープニングムービーや、格闘ゲームっぽい戦闘システムが特徴のシリーズです。

 そのテイルズシリーズの3作目が『テイルズオブエターニア』です。でも、3作目なんて言っても分かりませんね。この『エターニア』の前のタイトルはPSで発売された『デスティニー』で、この『エターニア』の次のタイトルはPS2で発売された『デスティニー2』です。えっ、そんなこと言われても分からない? 知りませんよ。そんな超初心者の面倒なんて見ていられません。あとはWikiを見るなり何なりしてください。

 プレイステーション専用ソフト『テイルズオブエターニア』、これを略すとTOEとなります。でもTOEと言われても、すぐに『エターニア』と思い付くことは出来ません。そうでしょう? そういう事にしておきましょう。だって、TOEよりも「エターニア」の方が分かりやすいじゃないですか。

 この「エターニア」は、世界を滅ぼそうとしている神様を止める物語です。どうやって滅ぼすのかと言うと、海面という境界を挟んで向き合っている大地を、ドーンと衝突させる訳です。サンドイッチのようにペチャンコになって、何もかも圧し潰されてしまうでしょう。それには極光術なんて力も関わりますけど、それは今は置いておきます。

 なぜ、そんな事をするのでしょう? それは世界を滅ぼそうとしている神様は、現在ある世界の神様ではないからです。この世界の名前は「エターニア」で、セイファートという神様が作りました。かつてあった世界の名前は「バテンカイトス」で、ネレイドという神様が治めていました。

 世界と言っても、ネレイド神の世界は非物質世界です。物質のない精神のみの世界でした。そこにセイファート神は物質世界を作りました。他人の土地に、勝手に家を建てたような物です。そりゃもうネレイド神は怒りました。怒って物質世界を滅ぼそうとしています。

 しかし、セイファート神に雇われた英雄レグルスによって、ネレイド神は封印されました。そこはレグルスの丘と呼ばれ、近くの村民が管理しています。その村はラシュアン村と言って、エターニアの主人公達が育つ村です。そのラシュアン村へ当然のように私は生まれ、何んや彼んやあって晶霊術士になりました。この晶霊術士とは精霊術士のことで、もっとシンプルに言えば魔法使いのような物です。

 

 ところでテイルズシリーズはタイトル毎に同名の術があります。同名の術でもタイトルによって、術のエフェクトが違ったりします。私の大好きな「フリーズランサー」という術も、「エターニア」の後に発売されたタイトルで別物になっていました。きっと強すぎたので弱めに修正されたのでしょう。

 「エターニア」は横スクロールの戦闘画面です。奥行きがないので攻撃を回避する場合、横にダッシュするか、上にジャンプするしかありません。そんな条件の中、猛威を振るったのが「フリーズランサー」でした。画面の上から下まで、つまり地上から空中まで攻撃範囲に収める氷属性の中級晶霊術です。

 背後に撃てないという制限はあったものの、挟み撃ちにされる状況なんて珍しい物です。背後から不意打ちされた場合も、ボタン一発で隊列の向きを反転させられます。開幕からフリーズランサーを連発するだけで敵は封殺され、空を飛ぶ面倒な敵も撃ち落とされました。

 素晴らしいのは。フリーズランサーの性能だけではありません。氷の矢を乱れ撃つエフェクトは綺麗で、敵に命中した際のカキンカキンという音は心地よい物です。私がフリーズランサーに惚れ込んで、トリガーハッピーになってしまったのも当然の事でしょう。とにかくフリーズランサーばかり使っていました。

 そんな私が「エターニア」に生まれたのです。フリーズランサーを使いたいと思うのは当然の話でしょう。しかし、フリーズランサーなどの術を使うためには、クレーメルケイジという晶霊の容れ物が必要になります。クレーメルケイジの製造技術は失われているため、学者などの特別な地位にいる方々しか手に入れる事はできません。

 本編でクレーメルケイジを持っていたキールくんは、大学へ飛び級して最難関の学部に在籍していました。英雄レグルスの流派を継ぐレグルス道場では、師範の許可なくクレーメルケイジは持ち出せません。クレーメルケイジは基本的に、個人で所有できる物ではないのです。もしも私がクレーメルケイジを盗んだら、死罪確定でしょう。

 盗みませんよ。盗むわけないじゃないですか。私が晶霊術士になれたのは、遺跡からクレーメルケイジを発掘したからです。それはそれは大変でした。クレーメルケイジよりも先に、氷の晶霊が宿ったレアな武器を見つけてしまったくらいです。クレーメルケイジを発掘する前は、一生をトレジャーハンターとして終えるのかと思っていました。

 

Re

 

 この世界に生まれて30年です。30歳になった私は、やっと魔女になれました。しかし、さらなる問題が私の前に立ち塞がります。氷の晶霊と交渉して、クレーメルケイジに移って貰わなければならないのです。そうは言っても晶霊と会話が通じる訳はありません。

 そこで思い出したのは、晶霊と交信を行うためのアイテムです。本編で主人公達は、大樹の上に住む博士から、そのアイテムを貰っていました。さっそく私は大樹の村モルルへ向かいます。これでフリーズランサーを使えると思い込み、恥ずかしながら興奮していました。

 ところが博士はいらっしゃいません。村人に話を聞いてみると「博士を知らない」もしくは「そんな人は引っ越して来ていない」との事です。ははぁ、これは隠居前なのでしょう。まさか博士が「生まれてすらいない」なんて、残念なオチは無いと思います。そんなオチだったら無意味に暴れますよ。そうと知った私はミンツ大学へ向かいました。しかし、農民階級に属する私は大学に入る事すら許されません。受付のお姉さんに弾かれてしまったのです。

 せっかく私が玄関から訪れて、受付で名前まで名乗ってあげたと言うのに、この対応です。収穫があるとすれば、受付の女性からマゼット博士が存在する事を確認できた事でしょう。つまり、フリーズランサーは目の前なのです。私は30年も待ったのですよ? もう我慢できません。フリーズランサーの事しか考えられなくなった私は、窓から訪れてあげる事にしました。夜になると再び大学を訪れ、フック付きロープを使って大学の壁をヨイショヨイショと登ります。

 そうして侵入した私は、マゼット博士の研究室を探します。夜遅くまで残っていた頑張り屋さんを脅し、研究室の場所を尋ねました。親切に案内してくれた頑張り屋さんに、お返しとして首をキュッと締めて、休ませてあげます。そうしてマゼット博士の研究室を荒らし、ピアスらしき物を一つだけ発見しました。そのピアスらしき物を盗んで、私は大学から脱出します。

 正気に戻って考えると、我ながら雑な事をしたものです。ピアスが目的の物じゃなかったら、どうするつもりだったのでしょう。後から知ったのですけれど、姿形を覚えられていた上に、受付で名前まで名乗っていた私は指名手配されていました。そうと知らない私は、とにかく犯行が露見する前に、持ち逃げしようと考えます。ミンツ大学を出ると、そのまま町を出て、山に囲まれて通行の不便な田舎へ向かいました。目的地は生まれ育ったラシュアン村です。

 大変な事をしてしまったのです。捕まったら、きっと死刑になります。でも、奪ったピアスのおかげで、晶霊と交信する事に成功しました。ありがとうございます、マゼット博士。このピアスは大切に使わせていただきます。これで、ついに私も晶霊術士です。今度こそ本当に、フリーズランサーを撃てるようになりました。

 30年来の望みが叶った私は、舞い上がっていました。よく見ると中級晶霊術であるフリーズランサーの氷が小さく、まるで下級晶霊術のアイスニードルのようです。でも、そんな事を気にしてはいけません。やっとフリーズランサーを使えるようになったのです。そんな小さな欠点は、気にする必要もありません。

 

 生まれ育った土地に戻った私は、「村長」に挨拶すると山に篭ります。「猟師」の方に迷惑がかからないように、小さな山の頂上辺りに住み着きました。そして毎日フリーズランサー、フリーズランサー、とにかくフリーズランサーです。ついでに動物を狩って、それを村で買い取ってもらって、その代金で生活します。

 水晶のようなクレーメルケイジに話しかけたり、クレーメルケイジに耳を当ててみたり、クレーメルケイジを撫で回したり、お腹が減ったのでクレーメルケイジを舐めてみたり、クレーメルケイジの匂いを嗅いでみたり、クレーメルケイジを口の中に入れて噛んでみたり、クレーメルケイジを抱いて眠ってみたり、クレーメルケイジに寝起きのキスをしたりしていました。

 人が居ないって怖い事です。人前では絶対にやらないような事を、やってしまったのです。少しずつ常識と非常識の境界が崩れて、一つになっていく感覚を覚えました。私とクレーメルケイジの境界が崩れて、一つになっていく感覚を覚えました。そして気付くと、いつの間にかクレーメルケイジの中から、晶霊さんが居なくなっていました。

 私は慌てます。山に住み着いてから10年間一緒にいた、もはや半身といえる晶霊さんが居なくなっているのです。晶霊さーん、どこですかー? 居なくなっちゃ嫌ですよー。と私は必死に叫びます。もしも氷の晶霊さんが居なくなったら、空に浮かぶ海面を挟んで向こう側のセレスティアへ探しに行かなければなりません。それほど、このインフェリアという大地にいる氷の晶霊さんは珍しいのです。

 

<およびですか?>

 

 ふと幻聴が聞こえました。珍しい事ではありません。最近は良くある事です。人と接触する機会が少ないので、私の無意識が他人を求めているのでしょう。幼児のように舌足らずな声は、子供が欲しいという願望の現れなのかも知れません。飢えていますね。でも、もう私は40歳になったのですから、また子供を作るなんて今さらな話です。

 

<こちらです>

 

 また声が聞こえました。足下を見ると、小人がいます。私の周りをグルグルと走り回っていました。わー、かわいいですね。そう思った私は小人を拾い上げると、指先を使って小人のお腹をグリグリします。すると小人はビクビクと震えて、私の手の平に液体を漏らしました。それを見た私は、ポイッと小人を捨てます。

 

<きらいですか?>

 

 驚いただけですよ。嫌いになる訳ないじゃないですか。ところで小人さん、お尋ねしたい事があります。もしや貴方は、晶霊さんの変わり果てた姿なのでしょうか? できればクレーメルケイジの中に戻って欲しいのです。でも、その大きさだとクレーメルケイジから食み出るでしょう? ダイエットしてください。

 

<おおきくなったらもどれません>

 

 それは困ります。私は貴方が居ないと困るのです。もしや、これは別れの挨拶で、これからバイバイという事なのでしょうか。ここまで育てたのに、大きくなったらポイッという事ですか? それは酷いのではありませんか? 貴方を育てた私としては、私が死ぬまで面倒を見て欲しいものです。

 

<おかえしです>

 

 そう言って小人の晶霊さんは、私の体を登り始めました。つまり小人さんは、一緒に居てくれるという事ですね。ああ、安心しました。バイバイだなんて言われたら、どうしてくれようかと思っていました。長年連れ添った小人さんを痛め付けるのは、私も心苦しいのです。

 私は小人さんを指先で摘み、胸のポケットへ移します。ここに入れておけば、小人さんが私から逃げようとしても分かります。うふふ、逃がしませんよ。逃がす訳ないじゃないですか。貴方は私の物なのです。では、さっそくフリーズランサーを始めましょう。用意はいいですか、小人さん。そう言うと、私の胸ポケットから顔を出した小人さんは頷きました。

 いつものようにクレーメルケイジを握って、ふと思います。私の胸ポケットに小人さんが居るという事は、このクレーメルケイジの中身は空っぽです。こんな物を持っていても仕方ありません。水晶のようなクレーメルケイジを足下に刺した私は、小人さんに晶霊術の発動を願いました。

 

<ふりーずらんさーです>

 

 空中に描かれた魔法陣から、氷の塊が生まれます。その先端は槍のように尖っていました。撃ち出された氷の欠片は、キラキラと光る軌跡を残します。両手で抱えるほど大きな氷が、私の正面にあった木に衝突し、ドシンと揺らします。続けて撃ち出された氷は、雑草の生えた地面を抉ります。さらに無数の氷が飛び交い、心地よいカキンカキンという打撃音を鳴らしました。

 威力と連射性能が上がっているようです。体が大きくなっただけ、では無かったのですね。もしや小人さんは、いわゆる下位晶霊から中位晶霊へグレードアップしたのでしょうか。晶霊は鉱物結晶に宿りやすいから「晶霊」と呼ばれています。クレーメルケイジに入らない小人さんは、どうやって体を休めるのでしょうか? そう思っていると小人さんは、私の胸に潜り込んで来ました。

 どうやら小人さんは私の、体の中に潜ったようです。寄宿晶霊という物でしょうか。そう考えていると空気を暖かく感じ始めました。いいえ、これは逆です。私の体温が下がっています。小人さん、大変です。貴方が私の中に居るせいで体温が下がっています。このまま凍死するなんて困りますよ。

 

<さむいのつよくなります>

 

 いわゆる寒さ耐性ですか。私はフリーズランサーの氷を、一つ出してもらって触ります。すると寒いと感じる事はなく、手が凍る事もありません。これは便利じゃないですか。でも逆に、暑さに弱くなりませんか? なるんですか。そうですか。そうでしょうね。その時はフリーズランサーを使って涼みましょう。

 寒さ耐性のおかげで暑くなってきました。しかし山小屋に厚着はあっても、薄着はありません。少し前に木の枝に引っかかって、真っ二つになりました。私は薄着へ着替えるために、ラシュアン村へ戻る事にします。住み着いていた山から下山していると、ラシュアン村から煙が昇りました。何かと思っていると、ラシュアン村から強い光が放たれます。少し遅れて爆音が、私の耳に届きました。

 ラシュアン村が襲撃を受けているようです。大学からピアスを盗んだ事が露見したり、盗賊に襲われていたりするという可能性もあります。でも、きっとネレイド神の封印が解けたのでしょう。晶霊さんが大きくなったタイミングで、この事件ですか。神様の介入を疑いたくなります。

 このまま山の中に隠れましょうか。そう思ったものの、ラシュアン村が壊滅すると大変です。朝に出発すると夕方に帰り着くレグルス道場まで、物資を仕入れに行かなければ成りません。だからと言ってラシュアン村を見捨てて他の場所に移り住めば、村長は激怒するでしょう。

 しまった。そうでした。その村長さんがネレイド神に憑かれています。このまま何もしなければ、次の村長は私に不満を持つでしょう。「何もかもお前が悪い!」と言って村人達を煽るかも知れません。「ミンツ大学から貴重品を盗んだ大罪人」として偉い人に報告されたら困った事になります。

 仕方ありません。村人達に私の顔を見せに行きましょう。「村の異常を察して、山から慌てて下りて来た」という感じで登場すれば、あとで文句を言われても言い訳できます。まだ子供の主人公達と同行すれば、安全に避難できるでしょう。そうと決まったら、村まで駆け足です。万が一の時は頼りにしていますよ、小人さん。

 

 

<おかませです>

 

とても不安になりました。




▼『雑種犬さん』の感想を受けて、指名手配された理由が甘い事に気付いたので、受付で名前を名乗った事にしました。
 せっかく私が玄関から訪れてあげたと言うのに、この対応です→せっかく私が玄関から訪れて、受付で名前まで名乗ってあげたと言うのに、この対応です。
 後から知ったのですけれど、姿形を覚えられていた私は指名手配されていました→後から知ったのですけれど、姿形を覚えられていた上に、受付で名前まで名乗っていた私は指名手配されていました。

▼『ハバネロ1728』さんの感想を受けて、「テイルズ作品の順番が違っていた件」と、「デスティニーで統一されていなかった件」を指摘されたので修正しました。うっかりしてました。それにしても、よく気付いたものです。
 次のタイトルはPSで発売された『デスティニー』→前のタイトルはPSで発売された『デスティニー』。
 前のタイトルはPS2で発売された『デスティニー2』→次のタイトルはPS2で発売された『デスティニー2』。

▼『ぜんとりっくす』さんの感想を受けて、「クレーメルケイジにから食み出る→クレーメルケイジから食み出る」に気付いたので修正しました。作者が何回読んでも気付かなかった件。
 でも、その大きさだとクレーメルケイジにから食み出るでしょう?→でも、その大きさだとクレーメルケイジから食み出るでしょう?

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