【完結】フリーズランサー無双   作:器物転生

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【あらすじ】
故郷の村は壊滅し、
主人公組は真っ二つに割れ、
王都インフェリアは瓦礫の山になりました。


ネタばらし回

 商人レイスもとい王国元老騎士レイシスに雇われた僕は、レイシスやメルディと共にセレスティアへ渡った。しかし、大災害を引き起こしている「シゼル」によって、レイシスは殺害される。セイファートキーとやらの導きでレイシスは極光術という秘技を習得していたが、似たような極光術の使い手であるシゼルには勝てなかった。

 そこで僕はインフェリアに帰る方法を探す。雇い主のレイシスが死んだからな。すると、旅の途中で出会ったチャットという子供船長から、アイフリードの遺産を探すように提案された。僕はインフェリアに帰れるし、チャットは遺産を入手できる。双方に得のある提案だ。こいつの合理的な性格は、僕にとって都合がいい。

 

『キール! どうしてチャットとばかり話してるか!』

「航路に関して確認したい事があるからだ。それが如何した?」

 

『メルディも、キールと話したいよ』

「何の話だ? 会話の主題を決めてから言え。時間の無駄だ」

 

『ただ話したいだけだよ。いけないか?』

「ダメだな。グダグダと無駄な話をしているくらいなら、寝た方がマシだ」

 

『キールは、やさしくないよ!』

「人の温もりが欲しいのなら、町へ行って男でも漁ってろ」

 

『キールの、バカァ!』

 

 メルディは、この様だ。最初から言動が変だったコイツが、さらに変になったのは、レイシスが死んでからだろう。極光術とやら素質があったレイシスは、メルディにとって特別な存在だったらしい。頼みの綱とも言うべきものか。そのレイシスが亡くなったから、あいつは代わりに僕を求めている。そうして精神の安定を図っていた。

 

「そうだな。僕を雇うのならば付き合ってやる」

 

 なんて言ってみたら、本当にセレスティアの通貨を山ほど持ってきた。どこから持ってきたのかと思ったが、これまでの旅で相応に貯まっていたのだろう。まあ、口だけではなく、金を出すのならば構わない。そうして僕はメルディに雇われ、恋人役として付き合う事になった。晶霊術士としての僕ではなく、恋人としての僕だ。恋人としての僕ならば「それほどの価値はない」から、料金を安くしてやってもいいな。

 

 

 アイフリードの遺産を使ってインフェリアへ渡る。あとはレイシスの依頼を果たすだけだ。それが終わったら学問の町ミンツへ帰ろう。そういう訳で、僕はリッドを探す。どうせ住人が全滅したラシュアン村に「未練たらたらで残っているだろう」と思って行ってみた。すると、やはり、リッドはファラと共に旧ラシュアン村にいた。

 

「キールか。なんの用だよ」

「レイシスに頼まれた。こいつを、お前に渡してくれだとさ」

 

「なんだよ、これ?」

「セイファートキーという物らしい。お前の行くべき道を指し示してくれる」

 

「いらねーよ」

「そう言うな。もう世界を救えるのは、お前しかいないらしい」

 

「メルディの言ってたグランドフォールのことか?」

「ああ、それを起こしてる犯人が見つかってな。だが、犯人の持っている特殊な力に対抗できる存在が、お前しかいない」

 

「このままじゃ世界が滅びるってか?」

「そうなんじゃないか?」

 

 これまで明後日の方向を見ていたリッドは、僕を見る。旧ラシュアン村に家を新築したリッドは、ファラと共に暮らしていた。畑で野菜を育て、山で動物を狩っている。たまにレグルス道場へ生活用品を買いに行く程度で、ほとんど他人と関わる事はないらしい。まるで世捨て人だ。

 

「世界が滅びるとか如何かなんて、偉い騎士様や晶霊術士に任せておけばいいんだよ。俺はファラと一緒に、ここで暮らせれば十分なんだ」

「お前とファラの小さな世界も、いずれ世界の滅びに巻き込まれるぞ」

 

「いいさ。俺はファラと一緒に死んで行ければ、それでいい」

 

 これはダメだな。リッドは諦めている。こんな奴じゃ世界を救うなんて無理だ。しかし僕に対する報酬は、すでに「オージェのピアス」として支払われている。これのおかげで僕は、子供船長のチャットやメルディと不自由なく会話できたんだ。だから僕はリッドにセイファートキーを押し付けた。これでいいだろう。たとえリッドがセイファートキーを捨てたとしても、渡し終えた僕には関係ない。

 

『キールは行くのか?』

「ああ、僕の仕事は終わった。ミンツに帰るのさ」

 

『そっか』

 

 メルディは、やけに素直だ。嫌な予感を覚えた僕は、背後にいるメルディの様子を探る。しかし、そんな僕の背中に刃が突き立てられた。僕は顔を歪めて「がぁっ」と声を上げる。何が起こったのか考えるまでもない。メルディに後ろから刺された。僕は晶霊術の詠唱を始めたものの、うまく呼吸できない。空気を吸えない。どうやら肺を傷付けられたらしい。

 

『あんなにお金をあげたのに、まだ足りないか? メルディは足りないよ。キールが足りない』

 

 そう言ってメルディは、僕を優しく抱き寄せる。そんな事より、僕の傷を治療してくれないか? このままでは死んでしまうぞ! 苦しみに足掻く僕の手を、メルディは握りしめる。僕の手を痛いほど、強く握りしめた。メルディは笑っている。気味の悪い笑みを浮かべている。気持ち悪かった。そんな目で僕を見るな。

 

Re

 

 セイファートキーという重要そうな物をキールが残して行った。その日、俺は夢を見る。王城にあるような豪華な部屋に俺はいた。だが俺の体じゃない。男ではなく女の体だった。俺は他人の体の中にいるらしい。俺の物じゃない体は勝手に動いて、話を進めていた。どうなってんだ?

 

「王が平民と通じていると知られれば貴族に糾弾され、王としての資質を問われるのです。それを私は心配しています」

「はい、私も承知しております」

 

 俺に向かってネチネチと小言をいう女がいる。話の内容によると、どうやら王妃らしい。よく分からねぇ話だったけど、王妃が嫌な奴ってのは分かった。体を自由に動かせねぇから、余計にイライラするぜ。1時間も長々と王妃は説教を続け、俺の我慢は限界を突破する。そうして、やっと帰って行った。もう二度と来るんじゃねーぞ!

 

「そんな事を言ってはいけませんよ」

 

 ん? 今のは俺に話しかけたのか? 試しに返事をしてみたものの違うらしい。俺の体、じゃねぇな。俺の入っている女性は、独り言のように誰かに話しかけている。これは気を病んでいるようにしか思えねぇ。その予想は当たっていたらしく、女性は数日後に毒を飲んだ。自殺だ。

 それでも俺は女性の中にいる。目は閉ざされているから、周りの様子は分からねぇ。だけど体の感覚から察するに、棺の中へ入れられたようだ。まだ、この人は死んでねぇんだけどな。心臓の鼓動が弱くなっただけで、この人は生きている。でも、このままじゃ生きたまま埋葬されそうだ。

 そう思って傍観していると、女性は意識を取り戻した。棺の蓋を押し退けて、体を起こす。すると、棺の前にいる男性と目が合った。男性は流していた涙を拭う事も忘れて、生き返った女性を見つめる。ん? 見覚えがあるな。って、よく見たら父さんじゃねーか! なんで生きてんだ!?

 

「おはようございます」

「ぎゃー!」

 

「ちょっと!? なんで逃げるんですか!? ここは感激のあまり抱きつく所でしょう!?」

 

 女性が朝の挨拶を行うと、父さんは悲鳴を上げて走り去った。おい、父さん。10年前に死んだ父さんのイメージについて、再構築する必要がありそうだ。父さんに置いて行かれた女性は、溜め息を吐くと棺から出た。そのまま人目を避けて、建物の外へ出る。そして運悪く近くを通った女性を殺して、その衣服を奪った。

 おかしい。こいつは誰だ? 「毒を飲む前の女性と同一人物だ」なんて思えない。あまりにも毒を飲む前と、行動が違いすぎる。毒を飲んで変になったのか? それに何で、わざわざ人目を避けて建物から抜け出た? このままじゃ本当に死んでる事になっちまうぞ?

 

「当てが外れましたね。やはり自分の体は、自分で守るしかありませんか。ミンツへ行けば、クレーメルケイジの一つや二つはあるでしょう」

 

 そんな独り言を呟いて、女性はミンツ大学へ向かう。最初は正面から行って、入れないと分かると盗みに入った。そしてクレーメルケイジと、オージェのピアスを盗む。そのままラシュアン村へ向かい、逃げた父さんと再会した。女性は父さんに対して、「山に住む」と告げる。

 

「村の中に住めば良いじゃないか。俺の家とか」

「私は死んだ事になっています。私は村の皆と、顔を合わせてはいけないのです」

 

「みんなだって黙ってるさ。ロナは村の誇りなんだから」

「死体がなくなったので、きっと指名手配されていますよ。そうなれば王都に連れ戻されて、また毒を飲まされるかも知れません。それは嫌です」

 

「しかし、山の中はモンスターがいるから危険だ」

「大丈夫ですよ。後宮へ入っている間に、身を守るための道具を手に入れていました」

 

 そう言って女性はクレーメルケイジを見せる。だが、それはミンツ大学から盗んだ物だ。それなのに平気な顔で、女性は嘘を言う。そして父さんは疑うことなく、女性の言う事を信じてしまった。おい、父さん。ちょっとは疑えよ! なんで父さんは、この女性に対して、こんなに甘いんだ?

 そろそろ俺は気付いていた。この女性は、あの人だ。ファラに「魔女さん」と呼ばれている「あの人」だ。でも、あの人が、こんな嘘を言うのだろうか? 俺は信じられなかった。ああ、やっぱり夢だ。これは夢なのだろう。ほら、俺は夢から覚める。その直前に、あの人の声を、俺は聞いた。

 

「ロナ、貴方が望めば、貴方以外の全てを殺しつくしても良かったのですよ」

 

 

 次の夜、夢の中で「あの人」は、何かに憑かれたファラの父親と戦っていた。

 その次の夜、夢の中で「あの人」は、俺達と一緒に旅をしていた。

 4度目の夜、夢の中で「あの人」は、王様を殺して、王都を滅ぼした。

 

 こうして客観的に見ると、あの人の行動を異常に思える。まるで、その異常に感化されるかのように、俺達もオカシクなっていった。「あの人」からクレーメルケイジを渡されたキール、「あの人」を庇ったファラ、「あの人」に通訳をされていたメルディ、そして俺は「あの人」を追っていた騎士に殺意を覚えた。

 

 5度目の夜、夢の中で「あの人」は、名前の刻まれていない墓の前にいた。

 

「『本編』なんて如何でもいいじゃないですか。貴方のいない世界なんて如何でもいいのです。貴方さえ居ればよかった。貴方だけ居ればよかった。貴方だけ生かして、全て殺してしまえばよかった。でも貴方は、それを望まないのでしたね。

 だから殺しません。でも私に敵対するのならば殺しても良いですよね? 先に刃を向けたのは相手の方です。貴方の体を壊される訳には行きませんから。だから仕方ありません。正当防衛です」

 

 俺は理解した。あの人は狂っている。顔に貼り付けた笑顔の仮面の下は、悪意に塗れている。「原作」という言葉の意味は分からないけれど、「他人の事なんて如何でもいい」と思っている事は分かった。あの人は俺達を守るために王を殺したんじゃなかったのか? あの人は村の皆の仇(かたき)を討つために、王都を滅ぼしたんじゃなかったのか?

 

 

 夢から覚めて、一つ疑問に思った事がある。あの人は全て知っていたんじゃないか? 何かに憑かれた村長によって村が滅びる事も、セレスティアからメルディが来る事も、王都で死刑になりかける事も、セレスティアへ行く方法も、あの人自身になってみれば「全て事前に知っていた」としか思えない。

 夢の真偽を確かめる方法はあった。だが、今さら俺には関係ないだろ? そう思っていたけれど毎晩、あの夢を見れば気になる。だから俺は、夢を見る原因と思われるセイファートキーを投げ捨てた。だが、そのセイファートキーをファラが拾って、家へ持ち帰る。これって呪いのアイテムなんじゃねぇか? キールの野郎、なんて物を押し付けやがった。

 

「ねーねー、リッド。どうして捨てたの?」

「そいつを受け取ってから毎晩、夢を見るんだよ。嫌な夢だ」

 

「それって、もしかして魔女さんの夢?」

「げっ、ファラもかよ。やっぱり呪われてるんじゃねーか、これ」

 

「私も気になるから「見に行きたい」って思ってたの。リッドも行こうか?」

「行かねぇ方がいいって。ぜったい何かの罠だぜ?」

 

「もしも本当だったら、どうするの?」

「どうもしねぇよ。俺達は今まで通りだ」

 

「本当に?」

 

 俺の耳元で、ファラがささやく。

 

「だって、このままじゃ毎晩、寝不足だよ!」

「そいつは大問題だな」

 

 そんな訳で俺とファラは、学問の町ミンツへ向かった。大学へ行って、受付名簿を見せてもらう。しかし、20年以上前の受付名簿なんて残ってる訳がなかった。だが、ここしか当てがねぇんだ。あの人の事を知っていた父さんも、ファラの父親も、村長も、村の皆も、誰も彼も死んでしまった。

 

「そういえば20年前に泥棒に入られたって聞いた事があるわ」

「本当!? その泥棒さんの名前って分かる?」

 

「名前? あーあー、そうそう! 一時期、似顔絵が出回ってたっけ」

「その似顔絵ってありますか?」

 

「さすがにねぇ。でも名前は覚えてるわ。簡単な名前だったし。泥棒として入る前に、面会を求めて受付で名乗ったって。どうせ偽名だとは思うけど、たしか名前は、」

 

 レナ

 

 それは夢の中で、あの人が受付で名乗った名前だ。正確に言うと、レナ・ウィンディアと名乗っていた。ロナではなく、レナと名乗った。でも、あの人の名前がレナか否かなんて重要な問題じゃない。重要なのは「夢で名乗った名前」と「現実に残っていた名前」が繋がったという点だ。つまり、あの夢の内容は、ある程度まで信用できる。 




▼『gura』さんの感想を受けて、「!?」が「1?」になっていた件を修正しました。『gura』さんは「潤ぼす→滅ぼす」という、なかなか発見難易度の高い誤字を発見した方です。いい目をしていらっしゃいます。
 ちょっと1?→ちょっと!?

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