【完結】フリーズランサー無双   作:器物転生

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【あらすじ】
皆の力を合わせて
ラスボスを倒したと思ったら
極光の輝きに世界は飲まれました。


おわり

 見張り台の上に、俺はいた。いつの間にか立っていた。なんでだよ!? 慌てて辺りを見回すと、平和そうな山々が広がっている。見覚えのない、一つの村も見えた。ここは、どこだ? どうなってんだよ。とりあえず見張り台から降りるか。そう思って下を見るとファラがいた。ふぅ、とりあえずファラは無事らしいな。

 

「ひさしぶり! どう、調子は? 獲物は、いっぱい捕れた?」

「お、おう」

 

 やっぱり訂正する。ファラは無事じゃなかった。頭がやられちまったのか? そう思った俺は、ファラの両手がある事に気付いた。おかしい、たしかファラの片手は、あの人を庇った際に斬られたはずだ。右手だったか? いや、左手だったか? うーん、両方ついてるな。

 

「どうしたの、リッド? なんか変だよ?」

「ああ、いや、なんでもねーよ。それよりファラは、何しに来たんだ?」

 

「空の様子が変だから、ちょっと見に来たんだよ。最近、色がおかしくない?」

「グランドフォールの影響だろ?」

 

「グランドフォール? それって、なんのこと?」

「いや、気のせいだった」

 

「?」

 

 ファラの様子がオカシイ。大災害のグランドフォールを知らないだって? そんな訳ねぇだろ。どうなってんだ? 夢、な訳ねぇか。でも、あの人の夢を見た時の体感に近い。くそっ、どうすりゃ良いんだ? このファラは敵か? 味方か? 誰か説明してくれる奴はいねぇのかよ!

 

「あっ、いま空が光った!」

 

 ん? 今のセリフは聞き覚えがあるな。たしか猟をしている時にファラが来て、空の色が気になるとか言ってなかったか? さっきのファラのセリフと似てるな。たしかメルディが、乗り物に乗って空から落ちて来たんだ。あの時は危うく、乗り物の下敷きになる所だったぜ。そうして俺は空を見上げる。すると、見覚えのある光が空から落ちてきていた。

 

「やべぇ! ファラ、逃げろ!」

「リッド!」

 

 その光は見張り台に直撃した。だが、見張り台から飛び降りた俺とファラは無事だ。すると元気なファラは「落ちてきた物を見に行こう!」という。そこで俺は疑問に思った。メルディが落ちてきたんだよな? 俺とファラが墜落現場へ向かうと、やはりメルディが倒れていた。すっかり忘れてたけど、クィッキーもいるな。

 

『こんにちは。助けてくれて、ありがとな』

「ああ、それより早く離れようぜ。その機械、爆発するから」

 

「リッド、この子の言葉わかるの!?」

「なに言って、いや、それよりも早く離れろ!」

 

 ドカーンと機械が爆発する。メルディとファラの体を引っ張った俺は、そのまま地面に伏せた。すると、俺とメルディの体が接触して、キラキラと光を放つ。これは極光の輝きだ。「真の極光術」の素質がある俺と、「闇の極光術」の素質を持つメルディが触れた事で発生している。あの時は分からなかったけれど、今の俺は理解できた。

 

『ふぃぶりる! ふぃぶりる! おねがい! メルディに力貸してよ!』

「分かった。分かったから、しがみつくなっての!」

「この子、どこの誰だか分からないけど、一つだけ確かな事があるね」 

 

「助けを求めてるんだよ、オレ達に!」  「きっとリッドが好きなんだよ!」

 

「って、あれ? リッド、私が言うこと分かったの?」

 

 メルディの目的は分かってる。インフェリアの大晶霊を集める事だ。まあ、大晶霊に大災害の阻止を頼んでも「人の責任だから」って理由で断られるんだけどな。結局、諸悪の根源である「あの人」を倒さなくちゃ世界の終わりは防げねぇ。あの輝きに世界はおかされるんだ。

 俺とファラは、メルディを連れて村へ戻る。でも、村の場所が違うな? 10年前に大きなクレーターができた場所だ。かつて村があった場所だった。なんで現実と違う部分が、こんなにあるんだ? なにか意味であるのか? 村の奴らに聞いてみると「10年前に村が消し飛んだ」という事はなかったらしい。なんだって?

 

「お、おい、なんで泣いてるんだ?」

「いや、なんでもねぇ。なんでもねぇよ」

 

 兵士に殺されたはずの村人が生きている。その事に気付いた俺は、思わず涙を流した。涙が止まらなかった。俺は自分の家に駆け込みたかった。でも、場所を覚えていなかった。不思議そうに俺を見るファラは、俺の家まで案内してくれる。「もしや父さんも生きているのか?」と思ったけれど、やはり父さんは10年前に死んだらしい。残念だ。

 落ち着いた俺は、メルディの話をファラへ伝える。すると、やはりメルディは、グランドフォールに自分の両親が関わっている事を話さなかった。まぁ、仕方ねぇな。本当に悪いのはネレイドとあの人だ。そう思っていると突然、壁を壊して不審者が現れた。せっかく無事だった「俺の家」を壊して現れた。

 

『見つけたぞ、メル』

「てめぇ! 俺の家を壊してんじゃねぇよ!」

 

『ぎゃーっ!』

 

 現実で、再建された村を破壊した奴だ。こいつのせいで俺とファラは村から追放された。だから手加減なんていらねぇ! 現実で全10種の大晶霊を集めていた頃に習得した特技を、不審者に叩き込む。この頃には覚えていなかった「真空裂斬」だ。すると不審者は斬った衝撃で、壊れたばかりの壁から飛び出て、ビッタンビッタンと地面の上を派手に跳ね飛んでいった。

 

『これで終わったと思うなよ!』

 

 そう言って、俺の一撃でフラフラになった不審者は早々に帰って行く。だが、俺は知っている。この後、不審者は二度と現れない。ここで姿を見せてから、あの人が世界を滅ぼしそうになっても、最後まで姿を見せる事はなかった。たしか現実では、あの人のフリーズランサーを一発くらっただけで引き下がっている。何者だったんだろうな?

 

「すごーい! リッドって何時の間に、そんなに強くなったの!?」

「たまたまだよ、たまたま。そんな事より部屋を片付けねぇと。ったく余計な事しやがって」

 

 床に落ちた絵を拾う。現実では10年前に失われた物だ。この絵も村の消滅と共に失われた。その絵には、父さんの姿が描かれている。それと知り合いらしき女性も描かれていた。その父さんの横に描かれた女性の絵を見て、俺は手を止める。これって、あの人じゃねぇか? そう言えばロナって人と、父さんは知り合いだったな。

 

 

 ラシュアンから旅立った俺達は、学問の町ミンツに到着した。ミンツへ寄ったついでに、ファラはキールを訪ねに行く。すると、なぜかファラは大学へ向かった。ファラによるとキールは、大学に通っているらしい。本当かよ? あの拝金主義者のキールだろ? メルディに金を貢がせたキールだぜ?

 しかしキールは居なかった。連鎖的世界崩壊説を唱えて、休学処分を受けているらしい。グランドフォールの事だ。それに気付くなんて、こっちのキールは優秀なんだな。キールに会えなかったファラは諦めず、岩山の観測所までキールへ会いに行くという。いいんじゃねぇか? こっちのキールが如何なのか、俺も気になるからな。

 そうして会ってみた結果、キールは研究主義者だった。拝金主義者よりはマシか? どっちにしても好みが偏ってるな。ファラに聞いてみると、キールの両親は生きているらしい。キールの両親は、現実では10年前に死んでいた。この差が現実のキールと、こっちのキールの差を作ったのか。

 

 そろそろ、俺は気付いていた。こっちには、あの人がいない。ロナという女性じゃなくて、その死後に現れた「化け物」がいなかった。それだけで、こんなに違うのか。たった一人、あの人が居ただけで、あんなにも世界は歪んでいたのか。この世界は俺に、それを教えるためにあるのかも知れない。

 キールを連れて、俺達は木陰の村モルルに到着する。現実では、あの人がマゼット博士の存在を俺達に教えた。でも、こっちではキールの提案で、マゼット博士に会いに行く。こっちのキールにとってマゼット博士は恩師らしい。おかげで現実では入手できなかった「オージェのピアス」を、マゼット博士は俺達に譲ってくれた。

 このピアスは現実で、あの人に盗まれた物だろう。ピアスを着けた後、ちょっとした事件が起こり、ファラとキールの2人もメルディと言葉を交わせるようになった。それをメルディは、とても喜んでいる。ああ、そうだ。現実では、あの人が通訳をしていた。でも俺達はメルディと意思を交わせていなかった。だから、ちょっとした誤解で、メルディに疑心を抱いてしまったのだろう。

 

 

 俺達は王都に着いた。キールは論文を持って、あちこち回る。しかし、誰もキールの言う事を信じてくれなかった。たしかグランドフォールは「セイファート再臨の予兆」とか言われてるんだったな。そして俺達は教会の前まできた。いつかのあの人と同じように、俺は教会の前で立ち止まる。

 どうする? きっと教会から出れば、兵士に待ち伏せされている。そうして兵士に捕まれば、待っているのは死刑だ。だからと言って反抗すれば、もっと酷い事になる。あの人がいた現実では、王が死んだ。王都も無茶苦茶になった。いいや、ダメだ。そんな事にはさせねぇよ。

 

「おい、キール。そろそろ止めとこうぜ。兵士に睨まれたら捕まっちまうだろ?」

「何を言ってるんだ! これは世界の一大事なんだぞ! セイファート教会ならば、黒体という異常に気付いているはずだ!」

 

「黒体はセイファート再臨の予兆って言われてるんだよ。だから教会は信じちゃくれねぇ」

「なんだと? そんなバカな。待てよ、じゃあ、まさか大学で、僕の理論が相手にされなかったのは、そのせいか」

 

 キールを止めた。止められた。よし、これで王が殺されるなんて事態には、間違ってもならねぇだろう。俺達が兵士に追われる心配もない。その代わりに俺達は、これから如何すれば良いのか分からなくなった。とりあえず、その日は宿屋に泊まる。どうする? 順番をショートカットして大晶霊を集めに行くか? 大晶霊の場所やセレスィアへ渡る方法なら俺が教えれば、

 

『風の大晶霊はバロールという町の近くに、火の大晶霊はシャンバールという町の近くにいます。すべて集め終わったらファロース山へ行ってください。そこにセレスティアへ続く道があります』

 

 俺は思わず、立ち上がった。幻聴か? なんだ幻聴か。ビックリしたぜ。でも、そうだな。それじゃ、あの人と同じだ。あの人の示した道筋を辿るのは、嫌な予感しか覚えねぇ。別の方法を考えるべきだ。なんとか知恵を絞っていると、キールを訪ねて偉い人がやってきた。キールの論文を拾った、王立天文台長ゾシモスというらしい。

 その偉い人のおかげで「インフェリアとセレスティアの距離が縮まっている」と確認された。そして俺達はゾシモス台長の計らいで、王による重大発表の場へ参加する事になる。きっとインフェリアの総力を挙げて、グランドフォールの問題を解決してくれる。そう信じていた。俺は疑っていなかった。まったく学習しねぇな、俺は。

 

「インフェリアとセレスティア、この2つの世界が今、徐々に近づきつつある。天文台の望遠鏡で計測した結果、このままだと100オスム後には、衝突することになるはずだ。原因は、セレスティア人達の謀略とみなされている! 奴らは、数々の災厄を引き起こすだけでは飽きたらず、世界全体を破壊させようと計画したのだ!」

 

 やっぱり殺した方がマシだったかも知れねぇ。国王はグランドフォールを「セレスティアの陰謀」と宣言したんだ。結局、俺達は独自に大晶霊を集める事になった。さらにキールが、王立天文台に引き抜かれる。俺とファラとメルディの3人で、大晶霊を集める事になった。やっぱり、こっちのキールも、現実のキールと同じだったか。上手く行かねぇな。

 

 

 風の大晶霊の下へ向かう途中で、俺達はレイシスと会った。旅の商人と名乗っているが、じつは元老騎士である事を俺は知っている。現実では王都で出会ったんだけどな。こっちでは国王が死ななかったから、王都へ戻らなかったんだろう。現実ではキールから聞いた話によると、セレスティアでレイシスは命を落としたらしい。

 

「コンパスキーは人の進むべき道を指し示す。不思議な力をもった鍵だ」

「聞いたことあるある! へえ、これがそうなんだ」

「レイシス。あんたの進むべき道ってのは、どこなんだ?」

 

「やだぁ、リッドったら。レイシスじゃなくて、レイスだよ!」

「おっと悪い、レイス」

「いや、大した差ではないさ」

 

 やべっ、やっちまった。偽名が安直すぎるんだよぉ! レイスが熱い視線を俺に向けているのは気のせいだと思いたい。俺はレイスと視線を合わせないように、目の前の焚き火を凝視した。そしてチラッとレイスの様子を探る。すると運悪く、レイスと目が合った。こっち見てんじゃねーよ!

 その後、風の大晶霊と戦ってクレーメルケイジに入れる。そうして風晶霊の空洞から出ると、レイスが俺達と別れた。ん? そうか。こっちじゃ俺達は王殺しに関わった訳じゃない。強いて言えば大晶霊の力を借りた程度で、レイスが俺達を捕まえる理由なんて無いはずだ。現実では敵対していたせいで、こっちでも敵って印象が強いな。

 

「キール! どーしてここに?」

 

 レイスと代わるように、キールが現れた。王立天文台に引き抜かれたんじゃなかったのか? どうもキールの様子がオカシイ。嫌な予感がするぜ。それは兎も角、風の大晶霊が提供するエアリアルボードに乗って、俺達は火晶霊の谷へ向かう。そうして火の大晶霊をクレーメルケイジに入れると、光の大晶霊が降臨した。

 

「レム! お願いがあります! グランドフォールを止めて欲しいんです!」

『それは出来ぬ。人間の起こした問題は、人間が自ら答えを見付けるのじゃ』

 

 ここでグランドフォールが人の起こした災害だと判明する。そしてメルディが問い詰められて、セレスティア人の仕業である事を白状するんだ。これを何とかしなくちゃならねぇ。だが、そのヒントはメルディの言葉の中にあった。セレスティアの総領主「バリル」だ。王都で「キールの論文を読んでくれたゾシモス台長」から聞いた、セレスティアへ渡った奴も「バリル」って名前じゃなかったか?

 

「なあ、セレスティア人って、みんなメルディみたいに肌が黒くて、額にガラス玉つけてんのか?」

『はいな、エラーラついてる』

 

「バリルもか?」

『ううん、バリルはない。つるつるのおでこで、白い肌で、みんなといっしょ』

 

 バリルはインフェリア人だった。現状でグランドフォールを起こしているのは、インフェリア人という事になる。これでメルディに対する信頼は回復できただろう。そして光の橋の場所は俺が言わずとも、キールが王立天文台で聞いてきたらしい。やるじゃねぇか、キール! そういう訳で俺達は、ファロース山へ向かった。

 そこで俺達はレイスと再会する。ファロース山の頂上にある石室で、レイスは元老騎士である事を明かした。レイスは「セイファートキーが指し示す君達は、王国の平和を乱すものに違いない」という。そう言って俺達に刃を向けた。そうだったな、こいつは、そういう奴だった。現実のレイスと、そういう所は関わらない。だったら遠慮はしないぜ!

 

「 猛 虎 連 撃 破 」

 

「ぐわぁー!」

 

 現実で全10種の大晶霊を集めていた頃に習得した特技を、レイスに叩き込む。王都が崩壊していた、この頃には覚えていなかった奥義だ。すると俺の連撃を受けて、レイスは床に膝を突いた。俺の攻撃を受けたレイピアが耐え切れず、バラバラになる。レイスの手もブルブルと震え、立ち上がる事さえ満足にできない状態になった。

 

「リッド、それほどの力を持ちながら、なぜ?」

「答えは、そのセイファートキーとやらに聞いてみろよ」

 

 思い出した。これは呪いのアイテムだ。知らずに受け取ると、毎晩悪夢を見せられる。この様子だとレイスは見てねぇらしい。ああ、そうだ。セイファートだ。セイファートの使者に会えば、なにか分かるかも知れねぇ。セレスティアへ行ったら、極光術の試練を受けるセイファート神殿へ行ってみるか。

 そう思った俺は、レイスの持っていたセイファートキーを取り上げた。悪いな、レイス。このセイファートキーがないと、セイファート神殿の鍵は開かないんだ。しかしレイスにとって、よほど大事な物らしい。レイスは地面を這ってでも、セイファートキーを取り戻そうとしている。

 

「ま、待て。返してくれ」

 

 そんなレイスを置いて、仲間達の下へ戻る。すると俺の方を見て、仲間達の顔は引きつっていた。何事かと思って背後を振り返ると、地面を這うレイスしか見えない。そうか、仲間達が見ているのは、俺か。「床を這う死に体のレイスから、レイスが大事そうにしている物を奪う俺」。なるほど、これは酷い。

 

「リッド、お前って外道なんだな」

 

 メルディに貢がせたキールには言われたくねぇよ! そんな事より、さっさと光の橋を渡ろうぜ! 俺達の目の前に、光の大晶霊が作った光の球がある。その中に俺達は入り、空へ浮かび上がった。そんな俺達をレイスは、絶望に塗れた目で見ている。そんなレイスの姿を見た俺は、そっと視界から外した。見なかった事にしよう。

 

 

 セレスティアへ渡った俺達は、子供船長の部下になる。そして、やっと船を手に入れた。あの人と戦うために乗った船だ。この甲板で俺達は、最後の戦いに挑んだ。そして、どうなったんだろうな? その答えを知るために、さっそくセイファート神殿へ向かう。現実でセイファートの試練を受けために行った事があるからな。だからセレスティアにある神殿の場所を、俺は知っていた。

 

「おい、リッド。なんだ、ここは? どうして、こんな場所を知っている?」

「夢で見たんだよ。ちょっとセイファートの使者に会ってくるぜ」

 

「おい! ちゃんと説明しろ!」

 

 キールの声を後に、俺は鏡面を越える。ここから先は、資格のある者しか入れない。早くセイファートの使者から話を聞きたいぜ。きっとセイファートの使者なら、現状を説明してくれるはずだ。いったい如何なってるんだ? どうして「この世界」に、あの人は居ないんだ?

 そう思っていたけれど、俺は足を止めた。このままキール達に説明せず、先に進んでいいのか? それじゃ、あの人と同じだ。その思いが、俺を引き止める。溜め息を吐いた俺はキール達の下へ、一度戻る事にした、何が起こっているのか俺にも分からねぇ。でも説明しなくちゃならねぇんだ。

 

「メルディが降ってきた日に、俺は目覚めた。その前は、この世界に似たようで、全く違う世界に居たんだ」

「似たようで、全く違う世界?」

 

「キールは研究主義者じゃなくて拝金主義者だった。メルディは言葉が通じず、俺達に信じてもらえなかった。ファラは片手を騎士に切り落とされた。インフェリア王は殺された。王都も滅ぼされた。ラシュアンは兵士に焼き払われた」

「なんだ、それは? 無茶苦茶じゃないか?」

 

「俺も、そう思う。あっちの世界は無茶苦茶だった。なにもかも狂っていた。その原因になっていた奴を倒そうとして、たぶん失敗して俺は、こっちの世界に来たんだ」

「狂っていた原因って?」

 

「ファラは魔女って呼んでたな。たぶん名前はレナ・ウィンディア。死人の体を乗っ取った化け物だ」

「そんな人、私は知らないよ?」

 

「こっちの世界には居ないんだよ。だから平和なもんだ」

「どこが平和だ。いや、そうか。リッドの話によると、あっちの世界の僕達は散々な状態だったな。それに比べれば良い方なのか?」

 

「とりあえず俺も、何が起こったのか分かってねぇ。だからセイファートの使者に、話を聞きに来た。この奥に行けば会えるはずだ」

「セイファートの使者にって。お前、あっちの世界じゃ重要人物なのか?」

 

「お前等もだよ。世界の敵を倒すために、みんなで力を合わせて戦ったんだ」

「その結果は、どうなったんだ? いや、その途中で、こっちに来たという話だったな」

 

「ねぇ、リッド。こっちの世界のリッドは如何なったの?」

 

 ファラの質問を聞いて、俺は息が止まる。それは予想外の質問だった。いいや、もしかすると俺は、考えないように避けていたのかも知れない。そうだ、そうだよ。こっちの世界の俺は如何なったんだ? そう思った俺は「ロナが自殺して、あの人になった時」の事を思い出す。まさか、俺も?

 

「分からねぇ。少なくとも見張り台に上がるまでは、こっちの俺だったはずだ」

「そっか」

 

「それも含めてセイファートの使者に聞いてくる」

 

 そう言って俺は立ち上がった。ファラの視線から逃れるように、神殿の奥へ向かう。知らぬ間に、体が震えていた。落ち着け、俺は違う。俺は「あの人」とは違う。そう自分に言い聞かせて震えを止めた。目の前に扉がある。この先が試練を受ける場所だ。これから先に進むのは恐ろしい。だが、いつかは進まなくちゃならねぇ。だから俺は思い切って、扉を開けた。

 

『待っていたよ、リッド』

 

 ああ、よかった。少なくともセイファートの使者は、俺の現状を理解しているらしい。俺は光り輝くセイファートの使者と対面する。ん? 前の世界で会ったセイファートの使者と違うな。そうか。まだ、こっちの世界ではレイスが死んでいないからか。こんな所も違うんだな。

 

『まず始めに、君が誤解している点を訂正しよう。ここは君が彼女と戦った世界と、同じ世界だ』

「そうなのか? でも、全然違うじゃねーか」

 

『ここは彼女の中なのだ。君達は彼女の中に取り込まれたのだよ』

「あの人の中だって? それにしては、広過ぎるんじゃねぇか?」

 

『ネレイドの世界である非物質世界に似た構造なのだ。自身の外側ではなく、内側に小さな世界を内包しているという点で、ネレイドと異なる。とは言っても、そもそもネレイドは収めるべき物質を持たないが故に、大きな世界その物となっているが』

「そうか、悪いが分からねぇ。それよりも如何すれば、この中から脱出できるんだ?」

 

『我々を捕らえている、この世界を引き裂くしか方法はない』

「どうすりゃいいんだ?」

 

『グランドフォールを利用する。世界の中心たるセイファートリングに、世界中の晶霊が集まりつつある。その晶霊を用いて極光術を使い、世界を引き裂くのだ』

「おい、ちょっと待てよ。それは俺に、グランドフォールを起こせって事なのか?」

 

『ネレイドと君の手段は一致する。この世界から脱出するためには有効な手段だ』

「そもそも、この世界にいるファラやキールはメルディは何なんだ? 幻なのか?」

 

『君の知っている人々だよ。しかし、記憶がない。彼女の操り人形と化して、終わりのない演劇を続けている』

「この世界から解放すれば、元に戻るのか?」

 

『その通りだ』

 

 セイファートの使者によると、俺以外の奴等は記憶を奪われているらしい。この世界に「あの人」が居ないのは、「あの人」の中だからか。だから「あの人のいない世界」として存在している。でも、この世界を引き裂けだって? それは本当に正しいのか? セイファートの使者の言うことは真実なのか? あとで「間違えました」じゃ済まねぇぞ?

 

「ネレイドに会ってみる。それからでも遅くはねぇだろ?」

『彼女の中で、時間は限りなく引き延ばされている。じっくり考えるといい』

 

 答えは出ない。だから先送りにした。この世界を引き裂くという事は、この世界を滅ぼすという事だ。簡単に決めちゃならねぇ。ああ、そうだ。俺一人で考えたって、上手く行くはずがない。みんなに相談しよう。みんなの話も聞こう。そう考えながら俺は、試練の間から出た。バタンッと背後で扉が閉まる。だから、その後の、セイファートの使者の言葉は聞こえなかった。

 

 

 

『これが『1回目』という訳ではないからね』

 

 

END




Special Thanks

▼感想を10回も書いてくれた人だよ! スタンプを2つも押してあげたよ!

 ★★『(´・ω・`)パルメ』  感想数がぶっちぎりな人

▼感想を5回も書いてくれた人だよ! スタンプを1つ押してあげたよ!

 ★『紫檀』  アンソロジーの人
 ★『meldy』  感想の50番目を取った人

▼感想を4回も書いてくれた人だよ!

 『ソウル体』  「フリーズランサーさん」の人
 『雑種犬』  考察屋さん
 『真昼』  「立体魔法陣マヒル式ソリッド(仮)」の人

▼感想を3回も書いた人だよ!

 『九蓮内』  ヤンデレメルディを勝ち取った人
 
▼感想を2回書いた人だよ!

 『ぜんとりっくす』
 『kic』  バイト代の人 
 『メッサー』
  
▼感想を書いた人だよ!
 『ふぉ』
 『ハバネロ1728』
 『SAKULOVE』
 『Sierpinski』
 『snow』
 『トシカイ』
 『羽屯 十一』
 『sane』
 『ながも~』  有限秩序の人
 『銅銭』
 『裁判長EX』
 『九七式中戦車』
 『satake』
 『gura』
 『ふに』
 『泪雨夜』

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