【完結】フリーズランサー無双   作:器物転生

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【あらすじ】
ファラの勧誘を断ったキールくんを雇い、
博士から翻訳ピアスを入手できず、
通訳の役割を終えられません。


インフェリア城に殴り込む

「うーはいどぅー、メルディ」

「それで「見つけたぞ、メルディ」となります」

 

『リッドが言ってる事、メルディは分からないよ』

「発音が悪すぎますね」

 

 王都へ向かう道中です。リッドくんの発音に、メルディがバッテンマークを出しています。何をやっているのかというと、メルニクス語の勉強です。翻訳を自力で出来るようになれば、私が通訳する必要はなくなるでしょう。メルニクス語を覚えようという態度も見せず、私に頼り切るなんて許しません。我ながら名案でした。

 残念な事に覚えが良いのは、私の護衛として雇ったキールくんの方です。晶霊術に応用できると考えて、キールくんは熱心に勉強しています。リッドくんとファラの覚えは、今一つ足りないようです。ちなみに発音は兎も角、一番メルニクス語を覚えているのは、不本意ながら私です。私の記憶は肉体で覚えるものではなく、魂に刻むものですから当然の事でしょう。そうでなければ記憶を引き継げません。

 

 長旅を終えて、インフェリアの王都に主人公組は到着しました。主人公組の目的は、大災害の件を王様に報告する事です。そもそも「大災害は本当に起こるのか?」という疑念はあったものの、それは大晶霊と出会ったことで晴らされました。その時、王様に報告する提案を行ったのは、主人公であるリッドくんです。王様に丸投げして、自分は村へ帰るつもりなのでしょう。

 まずは王城へ主人公組は向かいます。しかし、門番によって追い返されました。次に王立天文台へ向かいます。しかし、王立天文台の中に入れたものの、研究員は聞く耳を持ちません。最後の希望はセイファート教会です。まあ、そこもダメなのは言うまでも無いことでしょう。

 

「私は教会の外で待っています」

「ダメだよ。魔女さんが居ないと、メルディの言ってる事が分からないでしょ?」

 

「少しは分かるでしょう?」

「本当に少しだけだよ!」

 

 ダメですか。そうですか。この後、主人公組は衛兵に捕まります。だから私だけ逃げようと思っていたもののダメなようです。仕方なく私は主人公組に同行し、大災害について説明します。その結果「不届きもの!」と言われました。その場で捕まりそうになったので、主人公組と共に逃げ出します。

 しかし主人公組は教会の外で、待ち伏せしていた衛兵に取り囲まれました。このあと死刑判決を受けて水攻めされ、王立天文台長によって死ぬ前に助けられます。しかし、それはキールくんが論文を残していた場合の話です。大学に在籍していないキールくんは、論文なんて書いていません。つまり死刑確定です。

 

「世界の破滅などという邪説を町中で話しやがって。王の前でひざまずけ! そして直々に死刑判決を受けるんだな!」

 

「死刑って、」

「どうする? イチかバチか暴れるか?」

「僕も捕まると不味い理由があるからな」

 

 本来ならば暴れる事を止めるキールくんも、リッドくんに同意しています。なぜでしょう? ああ、私の渡したクレーメルケイジのせいですか。そのクレーメルケイジを何処から入手したのか分かると大変ですからね。そういう訳で私達は、衛兵と戦う事になりました。

 そう、「私達」です。主人公組ではなく、私も含まれています。これは仕方ありません。この場で主人公組だけ捕らえる、という話ではないのでしょう。応戦しなければ私も捕まって死刑になります。まあ、大人しく死刑になるつもりは無いのですけれど。後で牢屋から脱出するのも、ここで暴れるのも同じ事です。

 それに泣き付いて頼み込むのならば兎も角、私に刃を向けて脅すのは許しません。私に刃を向ける者は、明確な敵です。悪口を言うくらいならば許してあげましょう。武器を隠し持っているとしても許してあげましょう。しかし、たとえ身を守るためだとしても、その刃をチラつかせて威圧するのならば、私の敵です。絶対に、許しません。

 

「フリーズランサー」

 

 私は主人公組を球状の魔法陣で包みます。それは私と主人公組を守る結界のようです。しかし、この魔法陣に身を守る効果はありません。これは攻撃用です。その魔法陣から外側に向かって、針のようなサイズの氷の槍が生み出されました。私と主人公組を包む魔法陣を見た衛兵は、慌てて命令を下します。

 

「捕らえろ!」

 

 でも、手遅れです。魔法陣の外側に向かって、針のようなサイズの氷は射出されました。キャリキャリキャリという高い音が魔法陣の内側に鳴り響きます。射出される氷の針に覆われて、こちらから魔法陣の外側は見えません。主人公組の様子を見ると、驚いた顔をしていました。私が攻撃を行ったのは、そんなに意外な事ですか?

 射出を止めて、視界を開きます。すると辺り一面は、氷に覆われていました。私達を取り囲んでいた衛兵達も、すぐ側にある教会も、近くの建物も、見渡す限りの範囲に氷の膜が張り付いています。これは本編でいう「氷結」の状態異常です。体の表面が凍って動けないだけなので死んではいません。

 本来ならば私のフリーズランサーで、周囲の建物ごと叩き潰していた所です。でも、そんな事をすれば主人公組が文句を言うでしょう。なので針のように小さく、脆くしたフリーズランサーを、大量に射出して攻撃しました。リッドくんもキールくんも抵抗するつもりだったので、このくらいは許容範囲でしょう。

 

「みんな生きてるの、魔女さん?」

「凍らせただけです。状態異常を治す薬を振りかければ治ります。今の内に逃げましょう」

 

「逃げるって、どこに逃げるんだ? 王都の何処かに隠れるのか?」

「どこまで逃げるのか、が問題だな。ここまでやったんだ。モルルまで戻る事を考えた方が良いだろう」

 

 「ここまでやった」の辺りでキールくんは、凍り付いた街並みに視線を向けます。なんですか? なんか文句があるんですか? 衛兵を殺さなかっただけ良かったと思ってください。主人公組は凍り付いた衛兵を後にして、王都を囲む壁を目指します。おそらく壁を抜ける際に、あと一戦あるでしょう。

 

「魔女さん! どうしたの!?」

「おいっ、ゆっくりしてる場合じゃねぇぞ!」

 

「私は別ルートで脱出します。みなさんとキールくんは、そちらから脱出してください」

「それなら僕も、あなたと一緒に行こう。僕は貴方の護衛だ」

 

「来ないでください。私に戦力が偏っても仕方ありません。リッドくんやファラを助けてあげてください」

 

 そう言って私は、別の方向へ向かいます。「別ルートで脱出する」なんて言ったものの、脱出する気はありません。20年前に翻訳リングを盗んだ時とは訳が違います。あの時は指名手配をされただけでした。でも今回は相手は明確に、私の前で、私に対して敵意を向けたのです。

 許しておけません。「これ」を放って置くとモヤモヤします。きっと衛兵を殺していれば、その場でスッキリしていたのでしょう。そのまま主人公組と共に王都を脱出していたはずです。でも、主人公組の前で人殺しはできません。少なくとも主人公組は、私に対して敵意を向けていないのですから。悪く思われたくありません。

 私はメルディに泣き付かれて、主人公組と同行する事になりました。それを内心、煩わしく思っています。でも、敵ではありません。刃を向けられて、従うように脅された訳ではありません。不本意ながら、ちょっと強引に迫られれば私は受け入れてしまう所があるのです。けれども、暴力で私を従わせようとするのならば、殺してでも抗います。それだけは、私の意思をおかす事だけは、絶対に許しません。

 

「おい、何の用だ。そこで止まれ!」

「それ以上近付けば、引っ捕らえるぞ!」

 

 お城の門番が私を止めます。手に持つ槍を私に向けました。そんな小さな槍で、どうするつもりなんですか? 私の持つ槍は、貴方達の持つ槍よりも大きいのですよ? 貴方達が私を突き刺すよりも、私が貴方達を突き刺す方が速いのです。ふふ、おねがいしますよ、小人さん。

 

<おやすいごようです>

 

「フリーズランサー」

 

 手加減無用、容赦無用です。先に刃を向けたのは、貴方達なのですから。巨大な氷の槍はドガンッという音と共に、門番を圧し潰しました。岩畳に穴を開け、巨大な氷の槍が突き立っています。その横を通って私は、1つ目の城門を越えました。しかし、城へ続く橋は上がっています。城と門の間には水堀があって、普通に行けば泳いで行くしかありません。そうしている間に、対岸の衛兵によって射られるでしょう。けれども私のフリーズランサーは万能なのです。

 

「フリーズランサー」

 

 氷の槍を水面に向かって撃ちます。バシャバシャバシャと、大量の氷を撃ち込みました。続いて対岸で弓を構えている衛兵に槍を撃ち込み、水面に出来た氷の道を通ります。壊し過ぎると城が崩れるので、大きな氷を撃ち込むのは止めましょう。私は背後に魔法陣を展開し、中くらいの槍を生み出しました。

 

「フリーズランサー」

 

 じゃあ、死んでください。私に敵意を向ける者は、みんな敵です。泣いて謝るのならば許しましょう。怯えて逃げるのならば見逃しましょう。そうでない者は、死んでもらいます。そうして、やっと私は安心できるのです。モヤモヤした思いが消えて、スッキリするのです。私の安らかな平穏のために、死んでください。

 

Re

 

 余はインフェリア王だ。インフェリアにおいて、王とは絶対不可侵のものであった。民は誰もが余を崇め、インフェリアの頂点として当然のものと考えている。反乱などと言うものは文字だけのものだった。王の下で民は階級によって分類され、混乱のない秩序ある統治が行われる。

 その王の下へ討ち入る不届きものがいるらしい。その報告を受けたのは謁見の間だ。隣に座る王妃や王女と共に、次の謁見者を待っている時だった。衛兵によって避難を促され、余は玉座から立ち上がる。しかし、衛兵の報告は遅かったようだ。その瞬間、謁見の間にある大きな扉は打ち壊された。

 扉を打ち壊した物体が、余の前を横切る。それは余の逃げ道を塞ぐように、壁へ突き刺さった。避難を促していた衛兵は、余の目の前から消えている。どこへ行ったのかと思って氷の表面を見ると、赤い染みが付いていた。もしも一歩先に進んでいれば、余も圧し潰されていたのだろう。そう考えると恐怖から、余の心臓はギシリと痛んだ。

 

「こんにちは、シネ」

 

 シネ? シネとは何の事だ? ヒトの名前か? それが「死ね」という意味だと気付いたのは、壁一杯から槍が突き出た後だった。あれは氷だろうか? その氷の槍は今にも発射されそうだ。あれほど無数の槍に突き刺されれば、ライフボトルを使っても生き返れぬだろう。なんとか生き残ろうと思った余は、侵入者と会話する事を望んだ。

 

「なにが目的だ?」

「街中で衛兵さんに襲われまして」

 

 ああ、意味が分からない。なぜ衛兵に襲われた事が、王城へ殴り込む事に繋がるのか。衛兵に襲われたからと言って、王を害そうとする者など居るはずがない。これは困った。侵入者は狂人の類(たぐ)いだ。まともな会話の通じる相手ではない。この者の中で衛兵に襲われた事と、王を殺害する事はイコールで繋がっているのだろう。その思考形態が分からない。余は生き残るため、必死に頭を回らせた。

 

「今さら何をしに来たのです! あなたの居る場所なんて、ここにはありません!」

 

 王妃が狂人に向かって叫んだ。なんと驚くべき事に、王妃は狂人を知っているらしい。いったい何処で知り合ったのか。王妃の口振りからすると、王城に居た事のある人物らしい。ならば、その人物を余も知っている可能性がある。ここに重要なヒントがあると余は察した。

 

「王妃よ、彼の者を知っているのか?」

「忘れもしません。あの者はロナ・ウィンディアです!」

 

 なにを言っているのだ、おぬしは。ロナ・フォーマルハウトは20年以上前に余の見初めた者だ。後宮へ入れた際にフォーマルハウトの姓を授けた。余の見初める前の姓が、ウィンディアだ。しかしロナは20年ほど前に、毒を飲んで亡くなっている。誰かに毒を仕込まれたのではなく、自ら毒を飲んで亡くなった。そもそもの原因は王妃が、嫉妬からロナに詰め寄った事だったが。

 

「私はロナではありません」

「うそおっしゃい!」

 

「王妃よ。なぜ彼の者をロナと見る?」

「女の勘です!」

 

 ダメだ、こいつ。王妃の発言を聞いて、余は頭を抱えた。20年前にロナは死んでいるのだぞ? 生きているはずが無い。この有様では王妃が、狂人を知っているという話も疑わしい。おそらく王妃は錯乱して、狂人をロナと間違えているのだろう。ロナに詰め寄った王妃は、ロナの死を気に病んでいた。その具合はロナの隠し子に、王国元老騎士の位を与えるほどだ。

 

「やはり生きていたのですね!」

「黙ってください」

 

 氷の槍が一つ、弾けるように飛び出した。それは王妃の頭部に突き刺さり、内側から破裂させる。顔の潰れた王妃の体は、バタリと床に倒れた。すぐ側にいた王女の横で、その母親である王妃の頭は吹っ飛んだ。それを見た王女は何が起きたのか分からない様子で、何が起こったのか理解すると悲鳴を上げる。

 

「キャアアアアアア!」

「うるさいです」

 

 またパァンと血肉が弾ける。今度は王女の体がパタリと倒れた。何の迷いもなく、狂人は王族を殺害する。まさしく狂人だ。ほとんど間もなく、余は一人になってしまった。広い謁見の間で、余は一人で狂人と向き合っている。これでは余を殺害する際も、瞬く間に事を終えるだろう。それでも最後まで余は諦めず、時間を稼いだ。

 

「余を殺す者の名を聞いておきたい。汝の名は何という?」

「私は、」

 

 狂人は困った顔をする。この質問は意外に効果があったらしい。余は耳を澄ます。すると数多くの足音や声が近付いてくる事に気付いた。もう少しだ。あと少しで衛兵がくる。「そうすれば」と思った所で余は、狂人の背後に浮かぶ無数の槍をチラリと見た。これは衛兵が来たところで、どうにかなるのだろうか?

 

「ロナではありません」

 

 そのセリフは、もう聞いた。と思った所で余の意識は途切れる。おそらく王妃や王女と同じように、氷の槍で貫かれたのだろう。狂人は、やはり最後まで狂人だったか。インフェリアの王である余を殺す事が、どのような結果をもたらすか考えもしなかったのだろう。

 

 

狂人は世界の敵となり、世界は狂人の敵となる。

インフェリアで暮らす何者も、狂人を認める事はない。

それゆえに王の殺害は、狂人に身の破滅をもたらすだろう。

 

呪いを、くれてやる

 




▼『ソウル体』さんの「フリーズランサーを小さくして散弾銃のようにドパッと出せたりするんでしょうか?」という感想を受けて、「凍結の状態異常を付与する非殺傷用のソウル式フリーズランサー(仮)」を実装しました。やったね、ソウル体ちゃん! ちなみに、もしも『ソウル体』さんの感想が無かったら、普通に主人公組の前で虐殺する予定でした。

▼『真昼』さんの「大きな魔法陣描いてその範囲なら自由に撃てる的な何かとか(妄想」という感想を受けて「立体魔法陣マヒル式ソリッド(仮)」を実装しました。すごいよ、真昼ちゃん! ちなみに、もしも『真昼』さんの感想が無かったら、両手に魔法陣を展開してツイン・マシンガンのように振り回す予定でした。

▼話が飛んでる
 今回は始めに「クイッキー捜索」から始まる話を書いて、消して、
 次に「水晶霊の河」から始まる話を書いて、消して、
 次に「ウンディーネ戦」から始まる話を書いて、消して。
 最後に「王都」から始まる話を書いて投稿しました。
 大丈夫だ、問題ない。

▼『meldy』さんの感想を受けて、「氷結の状態異常」が「氷結の状態以上」になっている件を指摘されたので修正しました。それにしても『meldy』さんって、メルディじゃあ! メルディ様のお告げじゃあ!

▼『唐木紫檀』さんの感想を受けて、「王妃の死を王妃が見ている件」を指摘されたので修正しました。単語自体は間違っていないため、なかなか発見難易度の高い誤字です。いい目をしていらっしゃる。
 王妃は何が起きたのか分からない→王女は何が起きたのか分からない

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