【完結】フリーズランサー無双   作:器物転生

8 / 13
【あらすじ】
衛兵に刃を向けられたため、
一人で王城へ殴り込み、
王様を殺害しました。



通訳やめました

 魔女さんの跡を追って、王城へ入った時には手遅れだった。私とリッドとキールとメルディの4人は、あちこちに刺さった氷の槍を発見したの。鎧を着た衛兵の人達が、その槍に貫かれている。どこにも生きている人はいなかった。硬い金属の鎧を氷の槍が貫通しているから、すごい威力だったんだって分かった。

 

「ひどい。これって本当に魔女さんの仕業なの?」

「相当の使い手だとは思っていたが、これほどの力を持っているとはな」

 

 キールが納得しているけれど、こんな事を魔女さんがするなんて信じられなかった。ちょっと冷たい雰囲気のある魔女さんだけど、本当に困っている時は力を貸してくれる。メルディの通訳をお願いした時だって、嫌々ながらも付いてきてくれた。本当は優しい人なんだって思ってた。

 

「私達のせいなのかな。私達を逃がすために魔女さんは、こんな事しちゃったのかな?」

「だからって王城に攻め入るのは、やりすぎだろ」

「リッド、ファラ、どうする? 今なら引き返しても、知らない振りをできるぞ?」

 

「そんなこと、できないよ!」

「お前はどうなんだよ、キール」

「あの人が通訳を辞めるまでは付いて行くさ。そういう契約だ」

 

 魔女さんの通訳が必要なくなるまで、キールは護衛をする事になってるの。キールの雇用主は魔女さんだから、魔女さんが居なくなればキールも居なくなっちゃう。私達がキールを雇おうと思っても、賃金が高すぎて雇えなかった。幼馴染みって理由で、キールは力を貸してくれないのかな?

 私達とメルディは王城の中を進む。魔女さんの残した破壊の痕を辿って、広い部屋に入った。そこは謁見の間なんだと思う。魔女さんは頭のない、3つの死体の側に立っていた。その首から上を吹き飛ばされた無惨な死体は、豪華な服を着ていて、すぐに王様の死体なんだって私は気付いた。

 

「そんな、」

「おいおい、シャレになんねぇぞ」

「王を、殺したのか」

 

 私もリッドもキールも、その光景に驚いていた。王様はインフェリアで一番偉い人なの。絶対不可侵で、インフェリアを象徴する存在だった。王様は王様という人で、私達とは比べ物にならないほど崇高な存在だと私達は信じている。そんな王様を殺すなんて考えられなかった。「なにかの間違いなんじゃないかな?」って思いたかった。

 

「貴様ら! そこで何をしている!」

 

 私達の後ろから来たのは、街中で魔女さんに凍らされた兵士さんだった。一人だけ先行して来たらしくて、他の兵士は連れていないみたい。その兵士さんは剣を抜いて私達に向けた。でも、私達の向こう側を見ると、魔女さんに気を取られる。ギョッと目を見開いて兵士さんは、魔女さんの足下に転がっている死体を見つめた。

 

「きさまぁ! よくもアレンデ姫を!」

 

 あっ、王様じゃなくて、そっちなんだ。なんて間抜けな事を私は考える。現実逃避だった。「魔女さんが王様を殺した」って事を認めたくなかったんだと思う。どうして魔女さんは王様に手をかけたんだろう? どうして魔女さんは、こんな事をしたのかな? それは、もしかして、私達のせいだったんじゃないかな?

 

「ゆ” る” さ” ん” !」

 

 それは地獄の底から這い上がるような声だった。憎しみの篭った声に、私は寒気を覚える。兵士さんは私達の事なんて目に入れないで、魔女さんに向かって走り始めた。魔女さんが悪いのかな? 本当にそうなのかな? そう考えた私は思わず、兵士さんの前に立ち塞がっていた。

 

「待って!」

 

 きっと私が悪いんだって、それを恐怖していた。私を責める誰かに、トンッと背中を押された気がした。私が魔女さんを誘ったから、こんな事になったんだ。魔女さんを誘わなければ、こんな事にはならなかった。10年前だって、私がレグルスの丘へ行ったから、お父さんは死んで、リッドとキールの両親も死んで、村の人も死んで、家もなくなった。すべてを失った。

 

「邪魔だ! どけぇ!」

 

 銀色に輝く剣が振るわれる。それは白い軌跡を残して、私の右手を切り落とした。ゴミを取り除くように、斬り捨てられた。兵士は私の体をドンッ押し退けて、魔女さんへ向かって行く。兵士さんに押された私は石畳の上に倒れて、切り落とされた右手を目に映した。私の右手は切り落とされた。そう自覚した瞬間、灼熱の痛みが私を襲う。

 

「あ、ぅ、ぃ、いたい、いたいよぉ」

「バカ! なにやってんだ!」

『バイバ! ファラが大変だよ!』

 

 リッドが布で私の腕を縛る。右手の痛みは全身に広がって、私の体はビクンビクンと跳ねた。痛くて、痛くて、誰かに助けて欲しい。そう思いつつも私は無意識の内に、自力で治癒功を発動させていた。体の中をグルグルと力が駆け巡って、急速に痛みを和らげていく。

 

「おい、ファラ! 大丈夫なのか!?」

「うん、ごめん。魔女さんは?」

 

「問題ねぇよ。お前が庇う必要なんてなかったぜ」

「体が勝手に、動いちゃった」

 

 誰かに崖から突き落とされた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 魔女さんの声が聞こえる。そっちを見ると、魔女さんが近寄ってきていた。その側には氷の柱が突き立っている。その先端は赤く濡れていた。おかしい、おかしいよ。魔女さんは、こんな事をする人じゃない。こんな簡単に、他人の命を奪う人じゃなかった。あなたは誰なの?

 そう思っていると魔女さんは足を止めた。私を見て、足を止めた。魔女さんは私を見て笑った。あれ? なんで? どうしたんだろう? 魔女さんは、どうかしたのかな? そう思ったけれど、どうかしていたのは私の方だった。そのとき私は、魔女さんを見て震えていたんだ。

 

「怖がらせてしまったようですね」

「違う、違うの、魔女さん。これは、」

 

「風の大晶霊はバロールという町の近くに、火の大晶霊はシャンバールという町の近くにいます。すべて集め終わったらファロース山へ行ってください。そこにセレスティアへ続く道があります」

 

 なにを言ってるのか分からないよ、魔女さん。

 

「ここで、おわかれです」

 

 そんなの嫌だよ、魔女さん。そう思っていたけれど、声に出せなかった。私の意識は遠くなっていく。治癒功で体を治さなくちゃ。でも、体に力が入らない。体の中でグルグルと回していた力が減っていく。力が足りない。リッド、キール、魔女さんを止めて。このまま、さよならなんて、私は嫌だ。

 

『ファラ、しっかりするよ!』

「呆けっとするな、リッド! ライフボトルだ!」

「あ、ああ、そうか。わるい」

 

 手を伸ばす事すら出来なかった。私の意識は暗闇に落ちていく。その暗闇の中に魔女さんの背中が、白く浮かび上がっていた。暗闇の中を一人、魔女さんが歩いていく。やがて私の意識が途切れると共に、魔女さんの姿も闇の中へ消えた。魔女さんは一人になったんだ。

 

Re

 

 コンパスキーという物がある。人の行くべき道を指し示す道具だ。私の持つコンパスキーはセイファートキーといって、創造神セイファートの意思を反映していると云われている。もちろんインフェリア王国の国宝だ。私はインフェリア王より元老騎士の位を授けられ、セイファートキーの意思に従って動くように命じられていた。

 そのセイファートキーが、かつてないほどの反応を見せる。いいや、このような事は、かつてなかった。懐に入れたセイファートキーが勝手に発動し、光を発しながら空へ飛び上がる。そして海の向こうへ、その光は放たれた。王都の方向だ。なにか変事があったに違いない。

 私は荷物も纏めず、王都へ駆け付けた。そんな私を迎えたのは、無惨に傷付けられた王城だ。王城へ押し入った賊(ぞく)によって王は崩御され、多数の騎士も命を失ったと聞く。王妃も、アレンデ姫も、兵長のローエンも、誰も彼も逝ってしまった。今の王城は真面に機能していない。

 

「そこでレイシス殿、貴殿には王になっていただきたい」

「こんな時に冗談は止めてくれ。私は一介の騎士にすぎない。次の王は正当な王族から選ばれるだろう」

 

「それが、もはや王族や側室の方々は、残っておらませぬ」

「まさか、賊は他の王族にも手をかけたというのか?」

 

「いいえ、賊の手から逃れる事はできました」

「ならば、なぜ? なにが起こった?」

 

「王が崩御されたと知ると互いに毒を送り合い、その結果すべての王族が共倒れになってしまったのです」

「ありえぬよ。頼むから冗談だと言ってくれ」

 

「嘘や偽りは申しておりません」

 

 私は目の前が真っ暗になった。この国の未来も真っ暗だ。まさか国民の中から、新たな王を選ぶ訳にはいかない。そのような事を許せば、王を殺して成り代わろうとする者が現れる。誰でも良いのならば、誰もが王座を奪い合うに違いない。しかし、本当に全ての王族が共倒れになったのだろうか?

 

「遠縁であっても、血の繋がった者はいるはずだ」

「ええ、ですからレイシス殿に、王になっていただきたいと申しているのです」

 

「知っているのか」

「ええ」

 

 何の事かと言うと私が、王の側室の子供だったという事だ。もしも母が生きていれば、私も王族だったのだろう。しかし、それは有り得なかった話だ。私は血が繋がっているというだけで、正当な王族ではない。王位の継承権を有していない。私は王子ではなく。王に仕える騎士として生きてきた。

 

「それは王位の簒奪(さんだつ)に当たる。私は王位を継承できないし、継承しようとも思っていない」

「それでは貴殿以外の誰も、王位に就けません。それに王の崩御は、貴方と無関係ではないのですよ?」

 

「市井で噂になっている、ロナ・フォーマルハウトのことか。何十年も前に死んだ者が、地上を闊歩(かっぽ)しているとでも言うのか?」

「死んでいるはずの人間を見た者は、実際に少なからずいるのです。彼女はラシュアン染めを広めた人物として有名になったため、顔を覚えている者がいました」

 

「似た顔の人間も、少なからずいるだろう」

「さらに20年前、ロナ・フォーマルハウトが死んだ後、彼女はミンツ大学に名を残しています。その外見は生前のロナ・フォーマルハウトと一致しているそうです」

 

「王が崩御されて数日の間に、よくぞ其所まで調べたものだ。感心するよ」

「私はロナ・フォーマルハウトの、ファンの一人でしてね」

 

 こいつが黒幕なのではないか? 王族が毒を送り合って共倒れになったという話も怪しいものだ。おそらく、今回の賊をロナ・フォーマルハウトとする証拠を捏造しているのだろう。そして王位に就いた私を簒奪者(さんだつしゃ)として打ち倒し、名を揚げるつもりなのか。

 

「貴殿はコンパスキーという物を知っているかな?」

「ええ、人の行くべき道を指し示すという道具でしょう」

 

「それを私も持っているのだ。ここは一つ、私の行くべき道を占ってみようと思う」

 

 私はセイファートキーを取り出して、空へ向かって放り投げる。するとセイファートキーは発光し、その光を特定の方向へ向けた。その光の先には赤い髪の男性と、緑色の髪の女性と、桃色の髪の女性の3人がいる。急に空から降り注いだ光を見て、その3人組は驚いていた。

 と思ったら3人組は急に慌て始めた。怪しい。とてつもなく怪しい。降り注ぐ光から3人組は逃げようとしている。しかし創造神セイファートの導きは、逃げる3人組を執拗(しつよう)に追いかけた。まるで「こいつらですよ! こいつら!」と創造神セイファートが告げているかのようだった。よく見ると緑色の髪の女性は、片手の手首から先を失っている。

 

「どうやら私の行くべき道は、王道ではないらしい。これで話は終わりだ。私は失礼するよ」

「お待ちください! レイシス殿には、どうあっても王位に就いていただきます! 王として相応しい血筋と品性を兼ね備えた人物など、レイシス殿しかいないのです!」

 

「私を過大評価してもらっては困るよ。私は一介の騎士に過ぎないのだ」

「ええい、こうなれば力尽くでも王位に就いていただきます! ものども、であえー! であえー!」

 

「わっしょい! わっしょい!」

「わっしょい! わっしょい!」

「わっしょい! わっしょい!」

 

 物陰に潜んでいた兵士達が、かけ声と共に私を取り囲む。その兵士達に遮られて、さきほどの男女女な3人組は見えなくなった。セイファートキーによって指し示された事から考えて、あの3人組は重要な意味を持つに違いない。王を崩御させた賊に繋がる手がかりを持っているという可能性もある。間違いない(確信)。

 

「さあ、レイシス様を祭り上げるのだ!」

「つつしんで御断りしよう! 神は言っている! それは私の行くべき道ではないと!」

 

「そーりゅー(↓) ざんこーけん!(↑)」

 

 爪竜斬光剣と、私は声を上げる。それは残像が残るほどの速さで、標的を切り刻む技だ。わざわざ技名を言ったのは、兵士達に対する威嚇(いかく)と警告のためだった。技の種類によって、私の本気度が分かる。爪竜斬光剣は下手すると、怪我では済まないレベルの技だ。さらに「どんな技を使うのか?」を宣言しておけば、避け損なって致命傷を受ける者は居ないだろう。そうやって私は、兵士の壁を突破した。

 

「大変! リッド、さっきの人が追いかけてきてる!」

「げっ! やっぱ、バレてんのか!?」

『やーだ! やーだ!』

 

 3人組の後を私が追い、私の後を兵達が追う。服装も階級も違う、統一性のない集団だ。その奇妙なマラソン集団は王都の外に出て、「いざないの密林」へ入るまで続いた。さずがに密林まで兵達は追ってこない。ここは「死後に行き場を失った魂」が集う場所だ。数の多い兵士達が無闇に入れば、その気配に引かれて集まった無尽蔵のモンスターと戦う事になるだろう。

 

「なんとか逃げ切れたね」 

「ふぅ、あぶなかったぜ」

『メルディは疲れたよー』

 

 

 

「ところで君達の名を教えて貰えないだろうか? 私はレイスという」

 

「!?」

「!?」

『!?』




▼『唐木紫檀』さんから改名した『紫檀』さんの感想を受けて、「さきほど」が「さきおど」になっていた件を修正しました。毎回思うのですけれど、よく発見できるものです。「さきおど」ってスクリプトの誤字チェックにも引っかからないんだぜ!
 さきおどの男女女→さきほどの男女女

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。