青年は出会いと別れを繰り返し、何を選ぶのか──。
「アンタ、こんなとこで何してんの」
「あ?誰だよ…見てわかんねえ?釣りだよ」
ある日、見知らぬ人に声をかけられた。
青年は趣味の釣りをするため誰もいない防波堤にやってきていた。クーラーボックスを隣に置き、折り畳み椅子を開き、竿に餌を仕掛ける。そして釣り針を海に垂らし、魚が掛かるのを待っていた時のことだった。
声をかけてきたのはセーラー服を着た少女(中学生だろうか)で、髪を一つに纏めて所謂ポニーテールのような髪型をしていた。
「おめぇこそ何しにきたんだよ、危ねえぞ」
「見てわかんない?釣りよ」
そう、ここへやってきた少女も釣り竿やクーラーボックスといった釣りをするための道具をを持ってきていた。
「海は危ねえからガキは家に帰ってろ」
「ガキじゃないわよ、それにアンタも見た感じ大人じゃないでしょ」
「俺は今年で17になんだよ、つまり四捨五入したら成人だ」
「つまりまだガキってことね」
「うっせえ言ってろ」
そんな言い合いをしている最中も少女は釣りの準備を続けており、青年とは逆側に向けて釣り針を海へ垂らした。
「海なんかに来たら親御さんが心配すんじゃねぇの」
「"保護者"には許可を取ってきたわ」
「まじかよ」
「まじよ。アンタこそ親が心配してんじゃないの」
「しねえよ」
「なんで」
「なんでもだ」
「…ふーん、そう」
特に意味もない、ありきたりな会話。青年も少女も顔を合わさず、背中合わせで淡々と会話をしていた。
「アンタいつからここで釣りやってんの」
「いつからだっけなぁ…まあ小せえ頃からやってたな」
「釣れたことはあるの」
「ねえな」
「でしょうね」
「奴らがいなけりゃなあ」
「…深海棲艦」
深海棲艦。
十年前、突如として海から現れた深海生物。それは目についたあらゆる生命を破壊し、蹂躙していき、人類、ひいては世界の敵として存在している。
深海棲艦には大きく3つの特徴をもっている。
一つ目は既存の兵器では深海棲艦は傷つかないこと。驚くことに深海棲艦は既存の兵器では傷がつけることが出来ない。ある国家が深海棲艦を鹵獲することに成功して様々な実験を行ったらしいが傷一つつけることが出来なかったらしい。ちなみのその実験を行った国は既に滅んでいる。
二つ目は船の形をしていること。深海棲艦は海なら何処でも出現し、人を襲う。そして、陸地の近くに出現する深海棲艦は船の形をとっていることが殆どだ。
三つ目は強力な個体は人型になること。一般人に認知されている深海棲艦は艦型が殆どだ。しかし、陸地から遠く離れた海洋には人型の深海棲艦が跋扈している、らしい。らしいというのは詳しいことはこの青年は当然、一般人には詳しく説明されていないためだ。説明されているのは深海棲艦という名と、艦型であること、強力な個体は人型をとること、そして人を襲うということである。
何故急に現れたのか、何故人間を攻撃するのか、何故生まれることとなったのか、その全てが一切不明となっている。
「深海棲艦が現れてから海洋生物は死滅、釣りの出来ないつまんねえ世の中になっちまったなあ」
「いや、今やってんじゃん」
「これはあれだよ、小せえ頃からの習慣は中々治せねえんだよ。あと惰性」
「惰性って言っちゃってんじゃない」
「そういうおめぇはなんで釣りをしに来たんだ?」
「私は…あれよ、日々の疲れを癒すために趣味を探してんのよ」
「リフレッシュってことか、いいんじゃねえの、釣り。この辺は鎮守府が近くて艦娘がよく巡回してるからな、安全だろ」
「…そうね、確かによく見るわ」
「艦娘をか?てことは海にはよく来んのか?」
「そうよ」
「へー、おめぇみたいなガキも海に近寄れるってことは少しずつ良い方へ向かってんのかねえ」
「なにがよ」
「時代だよ」
艦娘。
十年前、深海棲艦が世界中を襲撃し、人類がなす術もない時に現れた救世主。既存の兵器では傷つかない深海棲艦を、艦娘は傷をつけることが出来る。艦娘と協力関係になった人類は勢いをつけ、今では深海棲艦による襲撃は減ってきている。
「ここからでも偶に艦娘が見えるけどまじで女の子なんだな」
「なに?まさかエロい目で見てんの?気持ち悪い」
「ンなわけねえだろ。恩人に対してそんな目で見れねえよ」
「恩人?」
「あー、あれだ。十年前助けてもらったことあんだよ。とにかくまあ、今こうしてのんびりしてられんのも艦娘のおかげだな。艦娘さん、あざーす!」
「変なの」
艦娘は名前に娘がついている通り、少女の姿をしている。というより少女が艦娘になる。艦娘装備というものがあり、それを装着することが出来るのが性別が女の人だけだという。
現在、海軍では二種類の養成学校が設置されており、その片方が艦娘養成学校である。そこで育てられた艦娘候補生達は適正のある艦娘装備を身につけて鎮守府へ着任後、深海棲艦と戦う。
「アンタは国のために戦わないわけ?」
「言い方に棘があんぞ…俺だって提督養成学校に応募したんだぞ。そしたらな──」
『君に提督の素質はない、残念だが帰りたまえ』
「──って言われちまってな」
「アッハハハ!だっさいわねーあんた!」
「うっせー結構傷付いてんだぞこれでも。まさか面接で落とされるとは思わんかったわ」
提督。
十年前、艦娘と共に現れ、艦娘を指揮し、深海棲艦と戦う存在。提督になるには人格面はもちろん、艦娘を正しく指揮できるように数多の戦術を理解し、提督自身も不測の事態に対応できるよう運動能力が求められる。そしてなにより大事なのは"妖精"が見えることである。妖精は提督と艦娘に力を与える存在で、選ばれた者にしか見えないという(青年は全く信じていないが)。
「アハハ、でもなんとなく落とされた理由は分かるわ」
「?なんだよ、理由って」
「アンタ、優しすぎるわ」
「はあ?」
少女の言葉に青年は理解できないようで、眉間を寄せしかめっ面をしている。
「アンタ、私と会った時始めに"危ない"って言ったじゃない」
「言ったが、それがどうした」
「この辺で深海棲艦の脅威を心配してる人なんていないわよ。ほら、アレみたらわかるでしょ」
少女はそう言い、ある方角を指差す。青年もそれに釣られて指さされた方へ視線を向ける。
その先にあったのは巨大な建造物だ。
「鎮守府。アンタもさっき言ったわよね、近くに鎮守府があるって。しかも──」
「日本最強の精鋭部隊。英雄の住む鎮守府。深海棲艦のいない絶対領域…ほんとめちゃくちゃ言われてるよな」
「どれも否定できないのがより、それらの呼び名を絶対なものにしているのよ。ともかくそんなことを言われてるからこの辺りに住む人は十年前以前の時のように平和を享受しているわ。だから、誰も深海棲艦の脅威を心配しない」
「それでおめぇを心配してた俺が優しすぎるってか。そんだけでわかるもんじゃねえだろ」
「そういうのわかるの、私」
「あーはいはいそうですか。そんで?なんで優しすぎると提督になれねえんだ?」
「腹立つ言い方するわね…そもそも忘れている人が多いけれどこれは"戦争"なのよ。互いの存亡をかけたね」
「…そりゃあ、そうだけどさ」
「ここ最近、一般人にとって目に見えた脅威が減ってきたのが原因ね。その際でみんな戦争していることを忘れてしまっている。そんな中、アンタみたいなやつが提督になってみなさい。理想と現実のギャップで発狂するわよ」
「そういうもんか」
「そういうものよ」
少女の厳しい物言いに青年はバツが悪そうにする。少女は言いたいことを言ってスッキリしたのか自身の竿のウキをじっと眺めている。
しばらくして、青年は重そうに口を開く。
「…別に忘れてねえよ」
「戦争の話?」
「ああ。別に忘れたわけじゃねえ、思い出したくないんだ。みんながどうかは知らねえけどよ、少なくとも俺はあの日の光景が脳裏にこびりついて離れねぇ。何処に逃げようと深海棲艦からの脅威からは逃げらんねえし戦おうとしても門前払いだ」
「それで海を眺めてるわけ?自分も提督や艦娘みたいに闘いたかったって」
「…違えよ。言ったろ、
青年はそう言い、遠い何処かを見つめる。
「ふーん。まっ、アンタに覚悟があっても妖精が見えてない時点で提督にはなれないけどね」
「うっ」
アハハと、少女の笑い声が辺りに響く。
◆◆◆
少女がやってきてから数時間が経ち、頭上にあった陽は傾き、空は夕焼けに染まっている。
二人は示し合わせたわけでもなく同じタイミングで釣りを終え、片付けをしていた。
「ねえ」
「なんだ」
「明日も来るの?」
「いいや、次来るのは丁度一週間後だな。釣りは週一って決めてんだ。平日は学校あるし、土曜は課題で忙しいからな」
「そう」
話している間に片付けを終わらせた二人は、夕陽を背に防波堤から出ていく。
「おめぇ、帰りはどっちだ」
「あっちよ」
「逆か…しゃあねえな」
「なに?送ってくれるの?別にいいわよ、近いし」
「そういうわけにもいかねえだろ、ガキを守るのはいつだって大人って決まってんだ」
「アンタは大人じゃないでしょ。それに、ほら。私の家はアレだから」
少女は近くに見える家屋を指差し、自分の家だと言い張る。
「嘘つけ」
「嘘じゃないわ」
「あれ、ダチの家だから何度か行ったことあるけどおめぇ見たことないぞ」
「……」
「…はあ、そんなに嫌か?俺が送ってくの」
「別にそんなんじゃないわよ!」
「おおう、そんな強く否定せんでも」
「いいから、送らないでいいわよ」
「…わあったよ、知らねえ人にはホイホイついてくなよ」
「子供が私は!」
「ガキだろ」
そういい、青年は帰路に着こうとする。
「そんじゃおめぇも気をつけて帰れよ」
「…ぼの」
「あ?」
「おまえじゃない、私の名前は"ぼの"って言ってんの」
「…ああ、そうか。じゃあな、ぼの」
「名前」
「なんだよ」
「ああもう、鈍いわね!アンタの名前はって書いてんの!」
「ああ、そうか悪い」
顔だけ少女の方へ向けていた青年は少女の方は向き直り、自身の名前を口にする。
「
「ヒーロー?名前負けしそうな名前ね」
「その言い方はやめろ、恥ずかしいだろ」
「別に恥ずかしがることないじゃない。かっこいいわよ」
「…そうかよ」
少女の言葉に青年は恥ずかしくなったのか顔を隠すように自身の家がある方は体を向け、別れを告げる。
「またな、ぼの」
「…うん、またね」
青年には見えなかったが、少女はこの日初めて笑みを浮かべた。
◆◆◆
「なんだ、今日は俺の方が先か」
青年は今日も防波堤へやって来ていた。ぼのと名乗る少女と出会ってから半年が経ち、一週間に一度だけではあるがこうして青年と少女は防波堤へやってきていた。顔を合わさず、背中越しではあるが不思議と会話は弾み青年はこの時間を心地よく感じていた。
(ま、ぼのもそのうち来るだろ)
青年はそんなことを考えながらいつも通り、釣りの準備をしていく。
あれから二人はいろんなことを話した。好きなこと、釣り以外の趣味、学校ではなにをしてるかといったいろんなことを。明るい話題ばかり、というわけでもなく現在の世界の状況、人類と深海棲艦の戦いはどうなってるなど、暗い話もよくしていた。その話題になると少女は決まって"戦争"という言葉をよく口にしていた。まるで青年に言い聞かせるように。戦争の悲惨さを忘れてはいけないと伝えているかのように。
準備を終え、海は釣り糸を垂らした時、青年に人影が近づく。青年は誰かが近づいて来ているのに気づかず、今日も動かないウキを眺めている。
「あ、あのー、すいません」
「……」
「あ、あのー」
「……」
「すいません」
「……」
「……」
「……」
「あのっ!!」
「うわあっ!なんだ!?」
大きく息を吸い込み、青年の耳元で発せられた声は青年を跳び上がらせるほどの大きさであった。
そうしてそうやく青年は近づいて来た人物をようやく認識するとともに、どこか既視感を覚えた。
声をかけて来た人物はこの間、青年に声をかけて来た少女と同じくらいの歳でセーラー服を着ていた。少女は少しおどおどとした様子で青年の様子を伺っていた。
「あの、陽彩さん、で合ってますか?」
「は?なんで俺の名前を知ってんの?」
「ヒィッ!?」
「え、あ、いやごめん。口調が荒いの直せってぼのにも言われてたんだったな」
「あ、そう、なんですか…」
それ以降、少女は口を閉ざし二人の間に重苦しい空気が満ちる。
耐えきれなくなった青年が、思い切って口を開いた。
「そ、それで?アンタは?」
「あ、そうですね。自己紹介をした方が良いですよね」
すると、先ほどまでしていたおどおどとした様子は何処かへ行き、そこには凛とした少女が立っていた。
しかし、その口から出てくる言葉に青年は顔を驚愕に染めるのだった。
「駆逐艦、綾波型十番艦の潮です。先週までここへ来ていた曙ちゃんの妹、のようなものに当たります」
「え…?」
思考が止まる。
目の前にいる少女が艦娘というのも驚愕だが、それよりも聞き捨てならない言葉があった。
「ちょっと待ってくれ、ぼのが、艦娘…?」
「はい、彼女は駆逐艦、綾波型八番艦の"曙"です」
これまで話してきた少女が艦娘だったという事実。なぜこのタイミングで知らせてきたのか。そして彼女しきりに言っていた"戦争"といえ言葉。
青年の中でカチリ、と何かがハマったような音がした。
「曙ちゃんは毎週、この時間を楽しみにしていました」
「待ってくれ」
「趣味を共有できる人を見つけたと、そしてとても気が合って話してると楽しいって」
「頼むから」
「身分を偽っているのが心苦しい、いつか本当の自分を見てほしいって」
「まさかぼのは──」
「曙ちゃんは先日、哨戒任務中、敵潜水艦の奇襲に遭い轟沈しました」
「嘘…だろ…」
目眩がし、膝をついて倒れる青年に潮と名乗った少女、艦娘は続ける。
「一瞬だったそうです。現れるはずのない敵、制圧した海域での出現、ありえない攻撃。全てが想定外の事だったと」
「……」
「…私たち艦娘はその殆どが家族がいません。十年前の襲撃で家族を失った人達が艦娘養成学校へ志願するからです。幼い頃に家族を亡くした私たちは愛に飢えています。だから血は繋がっていなくても私たちは姉妹を作り、互いに愛を求めます」
「……」
「曙ちゃんは男性の方に対して気性が荒くなる性格でして、私を含め曙ちゃんと姉妹は手を焼いていました。そんな時に貴方が現れたんです」
「……」
「あの曙ちゃんも貴方の前では不思議と大人しかったみたいなんです。日に日に性格が柔らかく、明るくなった曙ちゃんを見て私たちは嬉しかったんです」
「……」
「詳しいことはあまり言えませんが私たち艦娘は未来に対してあまり希望を持てませんでした。でも曙ちゃんは貴方と出会ってから未来に対して前を向いて歩き始めたんです」
「……」
「こんな
「……」
「今日は姉妹を代表して曙ちゃんと接し続けていただいた貴方にお礼を言いにきました。今までありがとうございました」
「…そう、か」
少女はそう言い合えると頭を下げ、防波堤から離れていった。
「……」
青年は呆然とした様子で海に浮かぶウキを眺めていた。
「…『またね』って言ってたじゃねえかよ…」
その日以降、この防波堤へ人が現れることはなかった。
◆◆◆
出会いがあれば、別れもある。
それは表裏一体であり、不可分である。
避けられない別れがあるこの世界に──
──
艦これニワカなのでキャラ崩壊してたらごめんなさい。
続き書くかは未定。