今日から夢にまで見たアカデミーでの生活が始まる。
世界の真理の深淵を覗き、欲望の赴くまま知識を蓄え、自然の法則に逆らっても己の望むものを手に入れる。
そんな道への第一歩を踏み出すのだ。
そう、夢に見ていたのだ。
夢の中でも調合し調合し戦闘し採取し調合し……賢者の石をつくる。
アカデミーを卒業し、マイスターランクに入る。
そして武闘大会で優勝優勝してイングリド先生に罵られr……げふげふ。
もとい、マイスターランクを卒業してマリーと二人で工房を!
夢の中でバラ色の調合生活に浸っていたはずなのだ。
(なんで俺、アトリエシリーズの世界に転生してんだろ)
水無月 悠人(みなづきはると)28歳、いつの間にかハルトムート・ベッカーとして生きていました。
―――――――――――――なんで?
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そもそも俺は田舎町のパン屋の息子だった。
有名チェーン店に押されながらも、パンを作り、ケーキを作り、週に一度は地域の小学校に給食パンを納め、商店街の一員としてイベントを盛り上げた親父の息子である。
家は兄貴が継ぐので、俺は一昨年までドイツで修業してたんだが、日本で自分の店を持ちたくて帰国した。最近は実家のパン屋の手伝いに加えて確定申告に自身の開業の準備にと忙しく、あまり寝ずに毎日動いていたんだが……過労死か事故死でもしたのか、俺。
気が付いたらぼんやりとした視界の中、横たわっていた。
嗅ぎ慣れた粉のにおい。
店で倒れて奥の部屋にでも寝かされているんだと思っていた。
(何かいつものと匂いが違うけど、新商品用かな?)
なかなか焦点を結ばない視界に疲れすぎていたんだと苦笑しつつ体が動くようになるのを待つ。
だが、いつまでたっても視力は回復しない。
おまけに体もうまく動かない。
脳梗塞でも起こして全身麻痺!?まさか・・・・・・ね。
「※◇、起き%○◎。気分△■◆?」
ガタッと音がして大きな影が俺を覗き込んだ。
女性の声?なんとなく落ち着く気配だった。
だがその話している言葉に俺は驚いた。
日本語じゃない。
ドイツ語に似ているけれどもところどころしか聞き取れない。
どこの国の言葉だろう。
何でうちにいるんだろう。
いや、もしかして俺は出先で倒れていまってこの人が助けてくれたのかもしれない。
ありがとうございます。貴方が助けてくださったんですか。
「うあー、あう、なーなー」
あれ、声が変みたいです。
「う?あうーあうーあ」
え?
「□※!ハルト△&%$しゃべ#◎◆○!」
女性の声が興奮している。
バタバタと足音がしてもう一人駆け込んできた。
これがこの世界での最初の記憶だ。
ハルトムート・ベッカーは、ザールブルグでパン屋を営むベッカー夫妻の次男として誕生した。