彼は、英雄とは呼ばれずに   作:トド

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⑫ 『紐解かれる真実』

 悠々と美味を楽しむイルリア。そしてジェノに、「いいから、食事を続けてくれ」と言われて食事を再開したメルエーナとバルネアが、昼食をすべてを食べ終わった頃に、その客たちはやって来た。

 

 連れてきたのは、自警団のキール。

 彼も入り口の掛看板は見たはずなのだが、やはり店の入口から入ってきた。

 

 もっとも、レイとは異なり、ノックをしてこちらの返答を待ってからだったので、イルリアは手荒な真似はしない。

 

「こちらの方たちが、ジェノに会いたいと仰るので、お連れしました」

 ようやく視力が回復してきたレイが憮然として壁を背に立っているのを不思議な顔で見たが、キールはそう慇懃に要件を皆に伝える。

 

 彼が連れてきたのは、老夫婦とその孫らしい。だが、イルリアは、彼らがジェノとどういう接点を持っているのか想像がつかない。

 応対しようとするジェノを客席から見ながら、彼女は耳をそばだてる。

 

「なんなの、この人達は?」

老夫婦の、特に老婆の怒りの形相をみて、イルリアは思わずそう小声で口走ってしまった。

 

 ジェノは無愛想なだけで、年寄りや子供に危害を加える人間ではない。だが、老婆はひどく腹を立てていて、彼を睨みつけている。孫らしき少年は顔をずっと俯けたままだ。いったい何だと言うのだろう。

 

「失礼。私は、この街の北区に住んでいるリウスというものなんだが、家内が、どうしてもジェノと言う奴に文句を言わねば気が済まんと言って聞かなくてな」

 温和そうな老爺が会釈をして名を名乗る。

 

「君が、ジェノで間違いないかな?」

「はい」

 ジェノがそう答えると、我慢の限界が来たのか、老婆が口を挟んで来た。

 

「あんたがジェノなんだね! 冒険者だかなんだかしらないけれど、私達の可愛い孫を、コウを危険な目に合わせたっていうのは本当なの!」

 その言葉に、イルリアは驚く。それは彼女と同席しているバルネアとメルエーナも同様だった。

 

「ジェノちゃん。皆様を奥の席にご案内して」

 すっと立ち上がったかと思うと、バルネアはそう言い、老婆達の前に足を進ませて頭を下げる。

 

「はじめまして。この店の主人で、この子の保護者のバルネアと申します。お話が長くなりそうですので、どうかお席にお座り下さい。私も同席させて頂きますので」

「これはご丁寧に。いや、助かります。孫の説明だけではどうも要領を得ませんで。保護者の方がご一緒頂けるのでしたら、非常にありがたいです」

 バルネアの応対に、リウスは安堵の表情を浮かべる。

 

「バルネアさん、これは俺の問題……」

「いいから、席にご案内して」

 

 強い口調ではなかったが、譲歩する気がないバルネアの言葉に、ジェノは悔しそうに歯噛みする。彼のそんな表情を、イルリアは見たことがない。

 

 そして、イルリアは悟る。きっとこの事柄が、先の一件でジェノが隠そうとしていた事柄なのだと。

 

 それを理解して、イルリアは行動に出た。

 

「待って下さい。ジェノと同じ冒険者仲間のイルリアと言います。仲間のことです。私もご一緒させて下さい。邪魔は決してしませんので」

「あっ、ああ。それは構わないが……」

 リウスの戸惑う声。だが、そこにレイが口を挟む。

 

「それだと、そちらの人数が多くなり、こちらの二人が萎縮してしまう可能性がある。だから、俺も同席させてもらおう。もともと、こちらのご婦人もそれを希望されているからな」

 

 その言葉に、イルリアはレイも同じ気持ちでいることを悟る。

 レイも、ジェノが隠している先の事件の真実を知りたいのだ。

 

「メル。この子の相手を頼めるかしら? 長くなりそうだから」

「……はい」

 メルエーナは頷いたが、彼女は酷く悲しげだった。

 

「ごめん、ごめんなさい、お姉ちゃん。僕、僕……」

 そして、コウという名の少年がメルエーナの元に駆け寄ってきて、涙を流して謝るのを目の当たりにして、イルリアはようやく理解した。

 

 事実を隠していたのは、ジェノ一人ではなかったことを。

 

 そして、奥の席で行われた話し合いで、イルリア達は先の事件の隠された事実を知ることになるのだった。

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