彼は、英雄とは呼ばれずに   作:トド

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⑩ 『馬車にて』

 旅の初日は天気にも恵まれたこともあり、快適に進んだ。

 お昼に食べたバルネアさん特製のお弁当は絶品だったし、女慣れしているであろうリット君は言わずもがな、シーウェンさんも気さくな人柄で話していてとても面白いと皆にも好評であった。

 むしろ好評すぎて、これから私達が何をしに行くのかを改めて皆に注意を促さなければいけなかったほどに。

 

 パメラは、これから自分たちはラセード村にお見合いパーティーをしに行くということを忘れてはいけませんよと、先輩たちに釘を差した。そうしておかねば、たらし込まれてしまいそうな人もいたからだ。

 

 それはリットとシーウェンが魅力的なのが原因なのか、男性とまともに交際をしたことがない自分たちがちょろいのかは分からない。いや、きっと両方だろう。

 そういえば、女性信徒が多い宗教の信徒はこうなりがちだと他の宗教の友人も困り顔で話していたのを思い出し、パメラは苦笑する。

 

 そういった現場を考えると、こういった交流は良い事柄なのかもしれない。まぁ、どちらもマイナーな宗教なので、どちらの宗教に改宗してもらうかなどの問題はあるが。

 

(今の時代は、どの神様を信じるかは個人の自由とされているけれど、やっぱり一つの家族が別々の宗教を信仰しているのはトラブルの元だしね)

 大昔にあったという邪神の信仰などは今が全く聞いたことがないし、宗教の違いによる争いももう何百年と起きてはいない。だから信仰の自由が人々には認められている。それは素晴らしいことだとパメラは思う。

 

 それに、どの神様であろうと、元は一つの<世界樹(ユグドラシル)>から生まれたのだから、その教義の違いなどで人々が命を奪い合うなどあるべきではないと思うし、この平和が続いてほしいと思う。

 ただ、そのためには神々の教えを正しく後世に伝えていく存在が不可欠だ。そう、自分たちのような神官たちがその役目をしっかりと担っていくことが大事なのだ。

 

「シーウェンさん。お水を飲みませんか?」

 先輩神官たちとのお喋りに興じているリットとは対象的に、シーウェンは話に参加はするけれど、自分の一つ前の席に座って前の馬車を、ジェノ達の乗ったそれを常に気にかけているようなので、パメラは少し気を休めてほしいと思い声を掛ける。

 

「ああ、ありがたい」

 笑顔でそう言うと、シーウェンは昼食の際に皆に渡したグラスを差し出してきたので、パメラはそこに水筒から水を注ぐ。

 

「そんなに、ジェノ君のことが気になりますか?」

 水を美味しそうに口にするシーウェンに尋ねると、彼は「まぁな」と笑みを返してきた。

 

 話の流れで他の先輩神官に年を尋ねられたので知ったのだが、シーウェンはパメラの一つ上で、二十歳だという。ただ、それよりももう少し年上に思っていたパメラは内心で驚いていた。

 別段、シーウェンが老けて見えるということではない。精悍な顔立ちだが、その所作が年相応以上に落ち着いた様子に思えるのだ。そんなところが良いと、彼に好感を持つ女性も多いだろうなぁとパメラは思う。

 

「ジェノは真面目で一生懸命なんだが、それが過ぎるところがあるんでな。先輩としては気になってしまうんだ」

 シーウェンはジェノと同じ師匠の元で武術の鍛錬をしているのだという。そして、後輩であるジェノを可愛がっているようだ。それが彼の表情からも読み取れる。

 

「その気持ちはわかります。ジェノ君は仕事の時以外も肩に力が入りすぎている気がしますから。少しずつでも、メルがそれを改善してくれれば良いと思います」

「ああ。メル嬢ちゃんはいい娘だからな。ぜひそうなって欲しいものだな」

 嬉しそうに笑うその笑顔を見て、パメラはきっとシーウェンもジェノに似ている性格なのだろうと感じ取った。この人も、他人のことを大切に思える人なのだろうと。

 

「こらこら、パメラ君。私達に注意をしておきながら、シーウェン君を独り占めするのは頂けないなぁ」

「そうそう。こんないい男と話をする機会なんてめったにないんだから、独り占めは駄目よ」

 先輩たちにそう言われ、パメラはおどけたように、「いやぁ、すみません」と謝罪する。

 

 シーウェンは気を利かせてくれて、それから積極的に皆との会話に入ってきてくれる様になった。

 ただ。それでも皆の目を盗んでは前の馬車を気にしているのが、席の近いパメラにはよく分かったのだった。

 

 

 

 

 

 馬車での移動は順調そのもので、予定通り、夕刻に本日の目的地である町までなんのトラブルもなく到着することができた。

 だが、その町で予想外のことがあった。それは、自分たちが宿泊する宿について。

 

 ナイムの街にならばもっと高級な宿屋はあるが、間違いなく、この町では最高品質の宿であろうことが分かる佇まいに、ジェノは驚き、そして訝しんだ。

 

「パメラさん。本当にこの宿に宿泊するんですか?」

「ふっふっふっ。驚いたかね、ジェノ君達」

 ジェノとは対象的に、パメラはしてやったりといった顔で微笑んでいる。

 

「まぁ、詳しい話は宿にチェックインしてから、食事の時に話すね。みんなもお腹が空いているだろうからさ」

 パメラ達神官の皆は目を輝かせながら、普段は泊まる機会がなさそうな高級な宿屋に入っていく。

 

「まぁ、宿屋が悪いよりは良いじゃあないの」

 リットは気にした様子もなく宿に入って行き、それにマリアとイルリアが続く。

 

「ジェノ、先に入っているぞ」

 わざわざそう断りを入れてから、シーウェンも宿に入っていく。

 それが万が一のための配慮だとジェノは理解していた。

 

「随分と高そうな宿ですね」

 ジェノの気持ちを代弁し、セレクトが話しかけてきた。

 彼もこの状況に違和感を覚えているのだ。

 

「この宿に不審な点はありません。何かしらの魔法の痕跡も感じません」

「……そうか。考えすぎなら良いんだがな」

 セレクトの確認の言葉を聞いても、不安な気持ちが拭えない。

 

「私も貴方と同じ考えです。貸し切りの馬車に、高品質の宿屋の手配。これをたかだか田舎の一つの宗教団体が負担しているというのは妙に思えます」

「……夜に一度話し合いたい」

「分かりました」

 ジェノとセレクトは簡単な打ち合わせをし、宿に足を進めることにしたのだった。

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