彼は、英雄とは呼ばれずに   作:トド

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⑬ 『唯一の手段』

 メルエーナが食事を終える頃に、ランプを片手にジェノが戻ってきた。

 特に成果はなかったらしい。

 

「ジェノさん、ご馳走様でした。本当に美味しかったです」

 メルエーナが笑顔で礼を言うと、しかしジェノは「そうか」と返してくるだけだ。

 

「この、へそ曲がり! 少しは嬉しそうにしなさいよ」

 イルリアの叱責にも、ジェノは何も反応らしい反応をせず、先程まで座っていたコーリスの隣に腰を下ろす。

 

「そんなことよりも、明日の相談を全員でしたい。コーリスさん、メルエーナ。疲れているでしょうが、少し話を聞いて下さい」

 ジェノがそう提案したため、イルリアは不満そうな顔をしながらも、口を閉ざす。

 

「分かった、聞こう」

「はい」

 父と共に、メルエーナも頷いてジェノの言葉を待つ。

 

「夕食前にコーリスさんと打ち合わせをしたんだが、この道をもう二時間ほど進むと、先に通った道――往路と接近する箇所がある。

 向こうが上でこちらの道が下だということもあり、ローグ達が待ち伏せするには絶好の位置だ。俺達がこの道を通っている事をあいつらが理解していれば、間違いなくここで攻撃を仕掛けてくるだろう」

 ジェノは地図に印をつけて、それをメルエーナとイルリアに見せる。

 

「だが、この箇所を通る以外に村まで戻る手段はない。だからどうしても強行突破をせざるを得ない。ここまではいいか?」

 皆が頷いたのを確認し、ジェノはイルリアの方を見る。

 

「イルリア。すまんが、アレの説明をするぞ。知っておかないと、危険が……」

「いいわよ、そんな確認を取らなくても。非常事態だもの、仕方ないわ」

 ジェノの言葉を遮り、イルリアはジェノに説明を続けるように言う。

 

「イルリアは魔法を使える道具を腰のポーチに入れています。銀色の薄い板上のそれには、一枚につき魔法を一回分だけ溜めておくことができるのです。コーリスさんの傷を癒やすことができたのも、これのおかげです」

 

 ジェノの言葉に合わせて、イルリアはポーチからその銀色の板を取り出す。

 

「魔法か……。さっきの水の確認はよく分からなかったが、矢が刺さて転落したのに、こうして普段と同じように動けるのだから、すごい力なんだな」

「ええ。そして、この『魔法が使える』というのが、我々の数少ない優位性です」

 ジェノはそこまで言うと、少し押し黙り、「ですが……」と呟く。

 

「この中には、あと一枚分の魔法しか残っていないんです……」

 ジェノに代わって、イルリアが自身の腰のポーチに触れながら渋面で答える。

 

「……すみません。私達を助けるために、たくさん使わせてしまったせいですよね」

「そうか。本当に君たちには色々迷惑をかけていたんだな。すまない……」

 メルエーナ達が謝罪すると、イルリアは「そんな事はありません」と言って微笑む。

 

「こんなときのためのものなんですよ、これらの魔法は。だから、謝らないで下さい。私達が勝手に使っただけなんですから」

 本当に、イルリアさん達はいい人だと、メルエーナは感動すら覚えていた。

 この優しくて頼もしい二人がいてくれて、本当によかった。村に戻る事ができたら、できる限りのお礼をしなければいけない。

 

「それに、この一枚は本当のとっておきで、今までの魔法とは違い、相手を攻撃する大きな雷が封印されているんです。これを受けたら、普通の人間は絶対に無事ではすまないほどの威力があります」

 イルリアはそういい、ジェノに視線を移す。彼は小さく頷き、口を開く。

 

「銀色の板に溜め込まれた魔法は、それを持つ人間が使おうと思えば、それだけで発動します。そして、これは誰でも使用が可能です」

「俺やメルでも魔法を使えるということなのか?」

「はい。ですので、これを敵に奪われてしまうようなことになれば、大変なことになります。だから、この話は他言無用でお願いします」

 ジェノにそう言われ、メルエーナは恐怖で体を震わせる。

 

「大丈夫よ。私が肌身放さず持っているから。それに、このポーチに入れている間は、絶対に魔法は発動しない仕組みだから、安心して」

「はっ、はい……」

 人を簡単に傷つけられるものが近くにあることは怖くて仕方がないが、メルエーナはここまで自分たちを守ってくれたイルリア達を信じる事にする。

 

「危険性はありますが、使い方を誤らなければ、これほど有効な武器はありません。さらに、この魔法は有効範囲がかなり広いため、先に言った往路との接近地点で待ち伏せしている奴らを一網打尽にできる可能性もあります」

「だが、どうやって敵がどこに潜んでいるかを判断するんだ? 一度しか使えないのだろう?」

 

 コーリスのもっともな問に、ジェノは何も躊躇うことなく、

 

「俺が囮になります。そして、俺に向かって矢が放たれたら、その飛んできた方向に向かってイルリアに魔法を使わせる予定です」

 

 そう告げる。

 

「馬鹿を言うな! そんな事をしたら、お前は奴らに射抜かれて死ぬんだぞ! それに、その魔法とやらは、よく分からんが大きいんだろう。それなら、もしも矢が急所を外れても、お前はどちらにしろ魔法に巻き込まれるだろうが!」

 コーリスの指摘に、ジェノは頷く。

 

「おそらくそうなるでしょう。ですが、隠れてこちらを狙ってくる奴らを相手に、他に有効な手段はありません。

 コーリスさん達は、魔法の効果が終わったのを確認して、かまわずイルリアと一緒に逃げて下さい。この地点を超えれば、村まではそう遠くは……」

 

「そんなことはできません! どうして、ジェノさんが犠牲にならなければいけないんですか!」

 黙って聞いていられなくなり、メルエーナは思わず叫んでしまった。

 

「メル……」

 涙さえ浮かべて怒るメルエーナに、イルリアは言葉を失う。

 

「落ち着け。これは、最悪のケースの話だ。奴らが俺の読みどおりに待ち伏せしているとは限らない」

「ですが、それを確認する方法はないんですよね? それなら、ジェノさんはその場所についたら、やっぱり自分を犠牲にして、あの人達がどこにいるのかを……」

 メルエーナはジェノを睨む。それは、そうしないと泣き崩れてしまいそうだから。

 

 どうしてこの人は、簡単に自分の命を捨てようとするのだろう?

 そのことが腹立たしくて仕方がない。

 

「俺も、娘と同じ気持ちだ。ジェノ、その案はなしだ」

 コーリスはそう言ってジェノを睨みつける。

 

「ジェノ。やっぱり、他の方法を考えましょう。まだ夜が明けるまで時間があるわ」

 イルリアもメルエーナ達に賛同してくれた。

 

「……話はここまでだな。明日は早い。みんなは早めに休んでくれ。俺は火の番をしている」

 しかし、ジェノはそう言ったきり、考えを変えようとはしなかった。

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