彼は、英雄とは呼ばれずに   作:トド

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⑱ 『謝罪』

 村の裏門が僅かに視界に入って来る頃だった。

 メルエーナ達が、村人と冒険者見習い数名の一隊と合流することが出来たのは。

 

 二重遭難と判断した村長が、冒険者見習い達に頭を下げて、捜索隊を五部隊も組織したらしい。

 そして、念の為にと、この旧道の方にも捜索隊を出してくれたことが幸いした。

 

 もともと冒険者見習い達は、当初に村長が提案したハンクという名の村人の捜索依頼を喜んで受ける心持ちだった。

 だがそこに、年長者だということを傘に来て、ローグ達に仕事を引き受けないように脅されていたから受けられなかっただけ。

 だから、邪魔者がいない状況での依頼であれば、彼らは喜んで依頼を受けてくれたらしい。

 

 ジェノとイルリアが顔なじみの見習い仲間に事情を説明し、ローグ達が、事もあろうに依頼主であるはずのリムロ村の住人を殺害及び暴行を行おうとしたことが公になった。

 

 話し合いの末、ローグ達の回収は、その冒険者見習い達が引き受けてくれた。

 ジェノはメルエーナ達を村に送り届けた後に、自分は一人戻ってその手伝いをしようとしていたようだが、イルリアだけでなく、メルエーナとコーリスにも説得されて、彼も村で休むことを了承した。

 

 コーリスの、「お前がまた無理をするかと思うと、俺達は安心して休めない。俺達のために、お前も休んでくれ」という言葉が決め手だったようだ。

 

 そして、メルエーナ達は、予定どおり昼前に村に戻ってくることができたのである。

 

「メル!」

 村の裏門を潜るとすぐに、メルエーナの母であるリアラが駆け寄ってきて、愛娘を抱きしめた。

 

 先程出会った冒険者見習いの一人が、ジェノ達を発見したことを先に村に伝えに戻っていたので、こちらから娘たちが戻ってくるのを、リアラは知っていたのだろう。

 

「お母さん……」

 ほんの一日だけ離れていただけなのに、とても長い時間離れていたかのような心持ちになってしまったメルエーナは、母の胸で涙を流す。

 無事に帰ってくることが出来たのだと、ようやくそこで実感することができた。

 

「リアラ。心配をさせてすまなかった」

「あなた……。無事で良かったわ」

 リアラはメルエーナを抱きしめたまま、コーリスに笑みを向ける。

 

「ジェノ、イルリア。本当にありがとう。お前達が俺と娘を救ってくれた。心から感謝する」

 頭を下げる父の姿に、メルエーナも母の胸から離れて、それに倣う。

 

「ありがとうございました。お二人がしてくれた事を、私は絶対に忘れません」

 メルエーナも心からの感謝の言葉を述べる。

 

「いえいえ。こちらこそ、同業者がご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

 イルリアはそう言って顔を上げるように言ってくれた。

 だが、ジェノは何も言わない。

 

 その事を不思議に思い、顔を上げたメルエーナは、そこで思わぬ光景を目にした。

 

「申し訳ありませんでした。依頼を完遂することが出来ませんでした」

 ジェノは何故か母に頭を下げて、そう謝罪をしたのだ。

 

「どうしてそんな事を言うの? メルも、うちの人も無事に帰ってくることができたわ。貴方達は私の依頼をきちんと果たしてくれたじゃあないの」

 母はそう言って、怪訝な顔をする。

 

「お母さん。どういうことですか?」

「リアラ。依頼って……いったい何のことだ?」

 メルエーナとコーリスは、揃ってリアラに尋ねる。

 

「ああ、ごめんなさい。二人には話していなかったけれど、昨日の早朝に、ジェノ君とイルリアちゃんに私が依頼をしたの。貴方達二人を守って下さいって」

「はっ、初耳だぞ! なんでそんな事を黙っていたんだ!」

「だから、話していなかったって言っているじゃないの。それに、いざという時の保険だったの、ジェノ君達は」

 全く悪びれた様子もなく、リアラはそう言って微笑む。

 

「おっ、お母さん。どうしてジェノさん達にそんな依頼を? 昨日初めて会ったのに……」

 メルエーナは頭が混乱してしまう。

 

「ふふっ、それはね。直接会うのは初めてだけれど、私の後輩が手紙で何度も教えてくれていたから、私はジェノ君の事を知っていたのよ。

 って、そんなことよりも、どういう事か説明して、ジェノ君」

 

 そう話を中断されて、メルエーナは何とも言えないもやもやした気持ちを抱いてしまう。だが、確かに今はジェノの説明を聞くことが先決だろう。

 

 母に依頼されていた事にはびっくりしたが、ジェノとイルリアは自分達父娘をしっかりと守ってくれて、村まで無事に送り届けてくれた。それなのに、依頼を完遂できなかったというのは訳がわからない。

 

「リアラさん。貴女から受けた依頼は、『夫と娘を、今日一日守って欲しい』というものでした。ですが、自分の不注意で旦那さんに重症を負わせることになり、そして、帰還がこのように遅くなってしまいました。これは、明らかな失敗です」

 ジェノは頭を下げたまま、そう報告をする。

 

「待て、ジェノ! お前達はずっと俺達を守ってくれただろうが!」

「そうです! それに、今日もしっかり私達を守ってくれました。依頼以上の事をして下さったのに、そんなことは言わないで下さい」

 父娘でジェノに抗議するが、彼は顔を上げようとはしない。

 

「ジェノ君。夫と娘は、ああ言っているわよ?」

「いいえ。それらはただの失敗の埋め合わせです。そんな事をしたからと言って、任務を失敗したという事実は変わりません。本当に申し訳ありませんでした」

 

「そっ、その、申し訳ありませんでした」

 ジェノが頭を上げないため、イルリアも彼と同じように頭を下げて謝る。

 

「おい、ジェノ! いくらなんでも、お前は頑固すぎ……」

 普段は人一倍頑固なコーリスが文句を言おうとしたが、リアラが手を彼の前にやってそれを制する。

 

「……ジェノ君、イルリアちゃん。貴方達はあくまでも依頼を完遂できなかったというのね。それなら、私の提示した報酬は受け取らないつもりなの?」

「はい。受け取れません」

 間髪をいれずに、ジェノは返事を返す。

 

「そう。分かったわ。でも、頭を下げて謝罪するだけでは、私は不満だわ。だから、追加で一つ依頼を受けて。……当然、受けてくれるわよね?」

 リアラは声を低くして、ジェノとイルリアに酷いことを言う。

 

「お母さん! ジェノさんもイルリアさんに、そんな言い方をしないで下さい!」

「黙って、メル。これは、依頼主である私と、それを請け負ったジェノ君とイルリアちゃんの問題よ。貴女に口を挟む権利はないわ!」

 

 他に村人が、更にいえば声をかけるタイミングを逸して、どう声をかけたものかと慌てている村長さんまでいるのに、リアラは大声で言い放つ。

 

「……依頼の内容を教えて下さい」

 ジェノは頭を下げたまま、リアラに説明を求める。

 

「そう。殊勝な心がけね。それでは、依頼内容を説明するわ」

 リアラは不機嫌そうに腕組みをしてそう言うと、

 

「とりあえず、お風呂に入って眠りなさい。その上で、私達の家に夕食を食べに来ること。ご馳走を作るから、しっかりお腹を空かせてくのよ。……いいわね?」

 

 そう明るい声で依頼を口にし、破顔した。

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