彼は、英雄とは呼ばれずに   作:トド

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㊻ 『そして、今に戻り』

 もう、日が沈もうとしていた。

 昼過ぎからずっと話し続けても、これほど時間がかかってしまった。

 

「すみません。随分、長話になってしまいました。俺の話は、これで終わりです」

 途中、自分の中にいる<獣>の話をあえて省略し、さらに要点をまとめて話したつもりだったが、随分と長くなってしまったことをジェノはガイウス達に詫びる。

 

 だが、ガイウス達は、誰一人反応を示さない。

 

 少しでも口を開くと、怒号が漏れてしまうのだろう。ガイウスは怒りを懸命に堪え、震える拳を握りしめていた。

 

 メルエーナは涙を流し、同じ様に涙をこぼすバルネアに座ったまま抱きしめられている。

 

 ジェノは皆が落ち着くのを待つことにした。

 

 

 ややあって、ガイウスが口を開いた

 

「ジェノ。お前は以前、あの嬢ちゃんは、聖女の居る村に着くとすぐに亡くなったと俺に言っていたな。その村のカーフィア神殿内のゴタゴタに巻き込まれて、ろくな治療も受けられずに死んだと。だから、お前はその事が気に入らず、依頼の報酬を受け取らなかったと……」

 ガイウスの鋭い眼光がジェノに向けられる。

 

 その視線は、何故、今までこんな大事なことを言わなかったかの追求だ。

 

「エルマイラム王国とは遠く離れた、シュゼン王国の、外国での出来事です。こんな話に関わらないですむのであれば、何も知らないでいる方が良いと考えました。」

「……ああ。そうだな。それで終わるのであれば、この話は誰にも知られないほうが良い。だが、お前の話に出てきた化け物が、先日、この街で無差別殺人を起こした、あの大猿に似た化け物とほぼ同じだったと言うことが問題なんだな?」

 ガイウスの言葉に、「はい」と頷き、ジェノは言葉を続ける。

 

「風貌、攻撃のパターン、背中から腕を生やす特徴。どれもが合致していました」

「つまりだ。あの化け物は、お前が話していた<霧>と呼ばれるものに汚染された人間の成れの果てだというのか?」

「俺はもちろん、リットもまだ<霧>というものが何なのかは正確に把握していません。ですが、そう考えたほうが良いと思います」

 ジェノはガイウスに説明すると、不安げなバルネアとメルエーナに、先日の事件の際に、リットに頼んでこの街に、『聖女の村』のような異変が起きていないか調べてもらっていたことと、幸いそのような予兆は何もないことを告げる。

 

「……ジェノ。どうして俺にまで、この話を聞かせたんだ? 正直、この話は自警団なんていう小さな組織でどうこうできる案件ではない。それが分からないお前ではないだろう?」

 ガイウスの問に、ジェノは少しの沈黙の後に口を開く。

 

「経緯はまるで分かりません。ですが、このエルマイラム王国の首都であるナイムにも、あの化け物が現れました。これが、外部の人間の仕業なのか、この国にも<霧>とやらを利用しようとする輩が潜んでいるのかも分からない。そして、今のところ、俺には何の手の打ちようもありません。

 ですが、いざ事が起こった際に、この街の人々を守るのはガイウスさん達の自警団です。その自警団が、この情報を知っていれば、一人でも多くの人を救えるかも知れないと考えました」

 ジェノは真っ直ぐにガイウスを見て、言葉を口にする。

 

「ははっ。簡単に言ってくれるな。まったく、俺達はただでさえ忙しいと言っただろう? それなのに、こんな厄介なことまでやらせようというのか?」

 ガイウスは苦笑しながら言葉を紡ぐが、その目は微塵も笑っていなかった。

 彼の目は、この街を守る男の鋭い眼光に変わっていたのだ。

 

「情報が入り次第、ガイウスさんにも報告します。ですから、どうか力を貸して下さい。

 俺は、何も知らず、ただ感情のままに突き進んでしまい、結果として多くの命が失われる結果になってしまいました。ですが、もう、あんな事を起こすわけには……」

 ジェノは席を立ち、ガイウスに頭を下げる。

 

「おいおい。頭を下げるのは俺の方だろうが。情報提供に感謝する。俺達に何ができるかは分からないが、悪いようにはしない。約束する」

 ガイウスは力強く笑うと、ジェノに倣い、静かに席を立つ。

 

「だが、今の話を他言するなよ。この街を脅かそうとする敵が、どこにいるのか分からない。それに、普通の人間なら、今の話を信じようとはしない。狂人扱いされるのが関の山だ」

「分かっています。ですから、ガイウスさんに話しました」

「ほう。どうして俺なんだ?」

 ガイウスは、楽しそうに尋ねる。

 

「貴方が俺を信用してくれているからです。その証拠に、俺のこんな話も真実として聞いて、手を打とうとしてくれる。そして……」

「そして?」

 

「貴方が、この街の平和が奪われることを、絶対に良しとしない人間だからです」

 ジェノのその言葉に、ガイウスは「そうか」と言って口角を上げると、「バルネアさん、ご馳走様」と言って、食事の代金をテーブルに置き、店を後にしようとする。

 

 だが、ジェノの横を通り過ぎる時に、ポンと彼の胸を軽く叩き、

 

「俺は諦めんぞ。お前をうちの自警団に入れてみせる」

 

 そうガイウスは言い残して行った。

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