自称、美少女錬金術師(26)が雄英の教師になった。   作:さくあけ

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お待たせ、待った?


えーと、評価に色がついてたりお気に入り登録してくれる人がいたりして…作者驚いております。少し話を進めてアンケートの結果を見て連載するか検討します。
多分続くんでしょうけど!


今回、作者が調子乗ってたくさん書いたので大体9000字です(にっこり)
サブタイトルに深い意味はございません。


過去の話するんだけど…僕のこと好き?

 リゼ・ヘルエスタが周りより衝撃を受けるのには理由があった。それは、9年程前から友達だということ。それがどうした、そう思うだろうが友達となったきっかけが周りとは少々違うのだ。

 きっかけはある事件が起きた、9年前に遡る――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さーん!」

 

 ある家で、子供が母を呼ぶ声が響く。

 声の主は白髪に深い青色のメッシュが効いたリゼ・ヘルエスタという名の少女。

 

「どうしたの、リゼ?」

 

 母が柔らかい笑みを浮かべ、優しい声色で返す。

 

「呼んだだけ~!」

 

 無邪気に笑い、母に抱き着く。

 

 何ら変わらない一家に、平然と悪が歩み寄って、幸せを壊して、奪い去っていく。

 

 

 

 ある冬の休日、敵の心の中を映し出したように濁る曇天の日だった。

 

「雨、降りそうだし早く帰ろうっと」

 

 空き地で一人、ボーっと過ごしていたリゼは雨を察知して普段より早く帰路についた。

 

「ふんふんふ~ん」

 

 鼻歌を歌い、余所見をし、小さくリズムを刻み、家までの道を駆け抜けていく。人気の多い場所を余所見して走っていたら誰かにぶつかるのは必然的だった。

 

「わっ」

 

 顔面から誰かの服に突っ込んで、小さく悲鳴を上げて尻もちを着く、寸前で受け止められる。

 

「ごめんね、大丈夫?」

 

 目立つ赤髪に赤眼でヒーローコスチュームを纏った女性――後の紅の錬金術師、アンジュが優しく声を掛け頭を撫でる。

 

「うん、だいじょうぶ。ありがとう、ヒーローさん!」

「…気を付けて帰ってね」

 

 丁寧にお礼を言って走って去って人混みに紛れていくリゼの背中を見つめ、地面に落ちた何かを見つけてそれを拾うとリゼを追いかけ始める。

 

「どうした、アルケミー(アンジュ)!?」

「ぶつかった女の子の髪飾りが落ちたみたいなので返してきます、(ほむら)

「迷子になられても面倒だ、わしも行こう」

 

 焔と呼ばれた女性はアンジュの後ろ追いかける。人混みをかき分けて進んで行く。

 

「いた!…ちょっと待っ―――――」

 

 人混みを抜け、リゼを見つけ制止の言葉をかけようとするが続かず、代わりのようにアンジュの顔が絶望に染まる。

 

「ヒーローだ!早く逃げるぞ!」

 

 時すでに遅し、リゼは敵の個性か何かで眠り悲鳴一つ上げず、抵抗もせず抱えられていて敵が逃げていく。

 

「動け!」

「っはい!―――あ…?」

 

 個性を発動させようとするが敵は姿形残さず、消えていた。

 

「何が…!?」

 

 辺りを散策しようとするアンジュを止め、焔は止める。

 

「多分転移系の個性だ、今は戻ってあの子の身元を探る。お前は家に帰れ、もう遅い」

「ですが…!」

「アルケミー、お前はまだ経験の浅い‘‘インターン生‘‘でしかない。この事件はわしたちプロに任せろ」

「…わかりました」

 

 悔しそうに表情を歪め髪留めを強く握りしめる。それを見て焔が呆れたように、声を掛ける。

 

「…そんなに助けたいなら、やるか?」

「本当ですか!?」

「あぁ、だが、雄英を数日間休むこと、事務所で寝泊まりすることは覚悟しろ。許可はこっちで貰う」

「もちろんです、数日間の勉強ぐらいすぐに終わらせます…!」

 

 闘志を目に灯し、アンジュは事務所に向かって歩き出す焔を追いかけて歩き始めた。

 

――――――――――――

 

 泣く子も黙る丑三つ時、事務所で緊急会議が開かれた。

 

「――拉致られた女の子の身元が判明した」

 

 資料を渡し歩きながら焔が言って、少し間を開けて続ける。

 

「女の子の名前はリゼ・ヘルエスタ、歳は八。リゼを狙っての拉致かはわからないが、わしは狙っての拉致だと思う」

「何故そう思うんですか、焔?」

 

 サイドキックが問いかけると資料の個性欄を見るように促す。

 

「個性が発現する場合は大抵、両親の片方を引き継ぐか混ざったものを引き継ぐかの二つがある。だがこの子はどうだ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。狙うとしたらこれが主な理由だろう」

「なるほど…」

 

 納得するサイドキックたちとは対照的にアンジュは納得がいかなかった。

 

「個性が二つ持ちが狙う理由だとして、拉致して何の意味があるんですかね?」

「…お前なら少しわかるんじゃないか?」

「私なら、わかる…?」

「お前の個性でできる、人体錬成、とかな」

「――!」

 

 脳裏に、嫌な過去が過る。

 

「やったことがあるかは知らんが間違えれば人ではない化物ができるんだろう?――個性も持ち過ぎれば身体が耐えきれなくなって化物と化す。だがあの子(リゼ)は二つ発現させて平然と暮らしていた、じゃあ変に頭の回るやつは考える。

――二つ耐えれているんだから、増やしても耐えれるでは?ってな」

「じゃあ…!いや、でも個性を与えれるやつなんていないはずだ!」

 

 勢い良く立ち上がり、信じたくないとでもいうように否定する。

 

「聞いたことは無いか?超常黎明期、社会がまだ‘‘個性‘‘という変化に追いつけていない頃の話だ。‘‘人間‘‘という規格が突如として崩れ去り、法は意味を失い…文明が歩みを止めた」

「それが何だって言うんですか」

「まぁ聞け」

 

 首を傾げるアンジュの肩を揉みながら話を続ける。 

 

「そんな法も何もかも無くなった混沌の時代をいち早く人々をまとめ上げた人物がいた。ここからは聞いたことくらいあるんじゃないか?」

「人々から個性を奪い、圧倒的な力で勢力を拡大させ、悪の支配者として君臨した男…。そんな昔のやつが生きてるはずが…!」

「不老不死か寿命を延ばす個性でも奪ったんだろう」

「でも、奪うだけなら意味が無いじゃないですか!」

「そいつは個性を与えることも出来る」

「その男が…」

「多分な、わしも詳しいことは知らんからな」

 

 敵の心中など察せぬわ、アンジュから手を離しサイドキックたちと話を再開する。アンジュは話に耳を傾けながら、強く服を握って小さく悪態をつく。

 

「あの時動ければ…」

 

 アンジュの中には、後悔が渦巻いていた。

 

――――――――――

 

「ん、うぅ…」

 

――何してたんだっけ、そうだ家に帰る途中だったんだ。歩道で寝ちゃうなんてどうしたんだろ私…

 

 疑問一つ抱かず、リゼは重い瞼を開けて家に帰ろうと立ち上がって―――。

 

ガキン、ガチャン

 

 鉄と鉄が擦れ合う音と共にリゼは地面に座り込む。

 

「あ、あれ?足も、手も動かない」

 

 手足どちらとも鎖を巻き付けられていてリゼは思うように動くことができない。物音でリゼが起きたことを察知したのか何者かが近づく。

 

「あぁ、起きたのかい」

 

 マスクで顔を覆った男がリゼの前で腰をかがめて瞳を覗き込みながら言う。リゼは体を震わせて後退するが、壁に阻まれ後退することも許されない。

 

「そんな怖がらなくても、手は出しやしない。だって君は()()()()()だからな」

「―――!?」

 

 男の顔はマスク越しでもわかるほど、不敵な笑みを浮かべていた。

 

――誰か、助けて

 

 嗚咽も漏らさずリゼは静かに涙を流す、それを見て男は心底楽しそうに笑った。

 

―――――――――――――

 

 緊急会議から三日、事務所内ではサイドキックたちが慌ただしく動いていた。

 

「――居場所が分かったぞ!そして攫った男の名前も!」

 

 サイドキックの一人が情報を掴んで帰ってきたのだ。三日間進歩が無かった事務所は大騒ぎだった。その中で一番騒いだのはアンジュ、と言いたいところだがアンジュはソファで眠っているのでまだ聞いていないのだ。

 

「さて、これでアルケミーが起きたらオッケーだな」

 

 焔はソファに腰かけ、吐息を立てて眠るアンジュの頭を撫でる。

 

「――あんちゃん!…ってあれ?」

 

 アンジュは勢いよく起き上がり、周りを見渡し首を傾げる。それを少し笑いながら焔は声を掛ける。

 

「起きたか、アルケミー。朗報だぞ」

「ろ、朗報…?」

あの子(リゼ)の居場所が分かった」

 

 目を大きく開いてアンジュは驚愕の表情を浮かべる。

 

「場所はここ、静岡県の焼津市(やいづし)浜当目(はまとうめ)にある廃墟だ。救出作戦決行は二日後だ」

「焔の事務所だけで決行ですか?」

「そんな馬鹿のことはせんよ、あそこと一緒だ」

「あそこってまさか…」

「お前の友が行ってるところだ」

「嘘だそんなこと!」

 

 そんなに友が嫌いなのだろうか、サイドキックたち共々が疑問を抱いた時、事務所のドアが勢い良く開く。

 

「来たぞ、焔」

「そこに資料が置いてあるから目を通しておいてくれ、ベストジーニスト」

 

 ベストジーニスト、雄英の卒業生で今後の活躍が期待されるヒーロー。個性は繊維を自由自在に操るという地味な個性だと思われがちであるがかなりの熟練を要するテクニカルな個性である。

 資料を読むベストジーニストの後ろから人形を抱いた男子が出てくる。

 

「あ、アンジュさん。お久しぶり」

「あ、うん。久しぶり、(かなえ)さん」

 

 素気なく返すアンジュに叶と呼ばれた中性的な男は歩み寄って問いかける。

 

「事務所入る前に『嘘だそんなこと!』って聞こえたんですけど…もしかして僕が来ることに対してでしたか?」

「い、いや、そんなことないよ!うん!」

「ホントに?」

 

 白々しく否定し、叶に怪しまれたアンジュは降参とでもいうように両手を上げる。

 

「はい、言いました。叶さんに対して言いました」

「正直でよろしい」

 

 茶番が終わったところで焔がアンジュと叶に疑問を問いかける。

 

「アルケミーとライトニングゲイボルグ()は同い年だろう?何故さん付けなんだ?」

「「なんとなく」」

 

 精髄反射で返した言葉が重なり、二人は「げ」と顔を合わせて距離をとる。

 

「合わせて言うなよ!というか『ライトニングゲイボルグ』って言うヒーロー名長いんだよ!」

「それ以上言うならアンジュさんが勢いで付けようとしたヒーロー名バラしますよ」

「あっ、それは良くないかな。仲良くしよう、叶さん」

 

 見事に手のひらを返して、叶と握手を交わす。

 

「ライトニング、資料に目を通しておけよ」

「はーい」

 

 ベストジーニストの呼びかけに叶は気の抜けた返答を返して資料に目を通す。

 

「そっか、ライトニングって呼べばいいのか」

 

 なるほど、納得するアンジュの前で資料に目を通し終わった叶が吐き捨てるように呟く。

 

「こんな子まで狙われるのかよ」

 

 それが耳に入ったアンジュは悔しそうに頷く。が、すぐに笑みを浮かべて叶の背中を軽く叩く。

 

「助け出すんだよね、相棒?」

「相棒って…俺の相棒は葛葉(くずは)なんだけど…」

「そこはそうだなって返せばいいの!」

「そうだな、アンジュさん」

「うん、遅い!」

 

 繰り広げられる茶番は緊張していたサイドキックたちを和ませた。

 

 

 後に二人の組み合わせは『えんじぇるず』と呼ばれることになる。

 

 

――――――――――

 

「準備はできたか?」

 

 作戦決行日、アンジュたちは目的の廃墟の横の森に身を潜めていた。

 焔が控えめな声量で問うとヒーローたちは静かに頷く、それを満足そうに見て最後の確認を行う。

 

「廃墟に確実にいるのは商人の男とその手下だけ、もし別の敵が来ても冷静に対処しろ」

 

 行くぞ、短く言って警察と先頭を歩く。

 

「アンジュさん、よろしく」

「こちらこそ、…学生とはいえ一応仕事だしヒーロー名で呼ぼう、ライトニング」

「りょーかい、アルケミー」

 

 ハンドガン――ベレッタm92を指で器用に回しながら叶は返答する。叶はかなり軽装で動きやすさを重視した服装のよう。

 先頭を歩いていた警察がドアらしきところを何度か叩き、声を張り上げる。

 耳を澄ませていたアンジュが体を震わせ、顔を蒼くする。

 

「アルケミー、どうかし―――!?」

 

 叶の声は続かず、破砕音と悲鳴が森に木霊する。

 

「全員警戒態勢!」

 

 焔の切羽詰まった声が響き、ヒーロー全員が体を強張らせる。

 二人がいるのは最後尾、前で起こったことなど見えない。警戒しつつもアンジュは先頭で起こったことを確認するべく移動する。それを叶も後ろから追って移動する。

 先頭で起きたことが目に入り叶とアンジュは絶句する。

 

 警察が立っていたであろう場所は大穴が出来ていたのだ。

 

「無茶苦茶だ…」

「ここに居ても何も進歩する気がしないし、前、行こう」

 

 驚きを感じさせない声色でそう言って叶が先行して歩いていく、アンジュは何かを考えてから追いかける。

 大穴が開いた先頭に着き、焦って話しているベストジーニストと焔に二人は声を掛けた。

 

「あぁ、お前ら二人か」

「この大穴開けたのは資料に載っていない敵の個性のようだ。あの攻撃から全く攻撃が来ない」

 

 焔が軽く説明し、アンジュと叶は大穴に目をやり数秒後、顔を合わせ頷き合う。

 

「ここから私の錬金術で階段を作って下に降りましょう、暗くてわかりにくいけど下には道が続いてる。敵は、地下にいる」

「そうか、地下があったか。わしたちの目も落ちたものだな、ベストジーニスト」

「あぁ、そうだな」

 

 そこからアンジュの行動は早く、円形の模様を地面に描き両手を地面に押し付ける。

 音をたてながら瞬く間に階段が完成する、アンジュは軽く階段を叩き強度を確認して親指を立てる。

 

「アルケミーとライトニングゲイボルグは先に行け、わしたちは指示をしてから行く!」

「でも…」

 

 私たちはただの学生です、その言葉は叶に遮られる。いつものようなふわふわとした表情ではなく、真剣な表情で。

 

「僕たちを信じてくれてるから言ってくれてるんだ、裏切るわけにはいかない」

「そう、だね」

 

 両手で頬を叩いて気合を入れなおし、アンジュはリゼを救うべく走り出した。

 

―――――――――

 

「ヒーローが来てるとは思わなかったけど、まぁ仕方ないか。…本当に助かったよ」

「気に入ってもらえたようで嬉しい限りさ。で、弾むんだろうな旦那?」

 

 目の前で行われる話にリゼは体を震わせることしかできなかった。この五日間、リゼは出された食事を断固として口に入れず、見知らぬ男と過ごし体力面的にも精神面的にも弱っているはずなのに、青く透き通る瞳は死んでいなかった。そしてその瞳は‘‘ヒーロー‘‘という単語で爛々と光る。

 

「――しっかり頂きました、じゃあさいなら。気をつけな、ヒーローも直に来る」

 

 男は跡形もなく闇に姿を消し、残ったのは旦那と呼ばれた清掃を身に纏った男と鎖につながれたリゼ。ゆっくりとリゼに近づき、ごつごつとした手を伸ばす。リゼは壁に体を精一杯押し付けて、静かに唸る。

 

「大丈夫さ、心配しなくても。――個性を増やすだけだから」

 

 手がリゼの頭に触れる、寸前。

 稲妻を纏った何かがそれを遮り避けるために身体を仰け反った隙を突くように闇から現れた稲妻が鎖を潰しリゼを攫って行く。

 

「ナイス、ライトニング!」

「そっちこそ!」

 

 リゼを抱えているのは叶ことライトニングゲイボルグ。そして地面に両手をついて口角を上げるのはアンジュことアルケミー。

 

「…?あぁ、見覚えが無いと思ったらただの学生か」

「ただの学生とは、言ってくれるね」

「一応これでも、仮免取ってますから」

 

 この二人は異例で、仮免を高校一年でとっているのだ。あと一人いるが。

 

「仮免を持っていたとしても、経験を積んでいないのならば石ころと同じさ」

 

 そう薄く微笑み、男は手をかざす。

 

「君たちには恨みは無いけれど、邪魔をするというならこちらもそれなりの対応をさせてもらう」

 

 圧倒的な殺気、それに二人は怯みそうになるが無理やりに笑みを浮かべて戦闘態勢をとる。

 

「残念だ」

 

 感情の籠らない言葉と共に、二人は透明な何かに押され壁に打ち付けられる。

 

「カハッ」

「っぐ!」

 

 叶は離すまいとリゼを強く抱きしめ、アンジュの元に走る。

 

「ライトニング、その子(リゼ)を連れて逃げて。その時間の間は何としてでも稼ぐ」

「…わかった」

 

 アンジュを信じての苦渋の決断だった。取り返した女の子をここで奪われてしまえば、親族に顔向けができない。

 叶は雷を身体に纏い、リゼと共に闇に姿を消した。

 

「良い判断だ、だが、子供一人で私は止められない」

 

 また手をかざし、個性を発動させる。

 

「もう、仕組みはわかった」

 

 そう言ってアンジュが振り払うように手を動かす。来るはずの衝撃波が来なかった、アンジュが相殺したのだ。

 

「一つ分かったところで、まだまだある」

「そんなの承知の上、早く来い!」

「君も、発現させた個性も、面白いな」

「お褒めに預かりどーも!」

 

 いい捨てるように言って、アンジュは指を鳴らす。その刹那、男が爆炎に包まれる。アンジュは慢心せず、遠くから構えながら男を見る。

 

「何の個性かわからんが汎用性のある個性だ、私がもらってやろう」

 

 音も無しに目の前に現れた男は、アンジュの頭を躊躇い無く掴み、宙に持ち上げる。

 

「これで戦えない、ただの人間だ」

 

 手を離し、アンジュは地面に落ち、倒れる。勝ち誇ったような笑みを浮かべアンジュに告げる。が、アンジュは笑っていた。

 

「何が、面白い?」

「――いつ、だれが、個性を発現させたと言った!?」

「っ!?」

 

 その叫びと共に、地面から無数の棘が男に向かって伸びる。その光景に驚愕していた男は反応が遅れ、棘が両腕を捕える。

 

「!!今回は、私の完敗だ。次は必ず、奪いに来よう」

「来なくてっけっこー…」

 

 掠れた声で答え、アンジュは誰もいなくなった部屋で意識を切り離した。

 最後に聞いたのは、

 

「アルケミー、何があった!?」

 

 焔の声だった。

 

――――――――

 

ピッ、ピッ

 

 機械音が部屋に響く。その部屋には二つのベッドがあり、その一つ上で包帯を巻いた赤髪の女が鎮座していた。

 

「……やることない」

「だね」

 

 そしてもう一つのベッドには人形を抱き茶鼠色で癖毛の男がスマホ片手に鎮座していた。

 作戦決行から二日、アンジュと叶は仲良く二人で背骨を綺麗に折っていたので入院中なのだ。

 

「あーでも、今日はあの子が来るんじゃない?」

「あの子?あ、あの子か」

「そう、あの子」

 

 あの子を連発する二人にガララ、と引き戸が引かれた音が耳に届く。

 

「お客さんだ」

「誰だろうね」

「今話してた子でしょ」

 

 そっか、叶は納得したように頷く。

 そして二人の眼には一人の少女――リゼが映る。

 

「こんにちは、傷は痛まないですか…?」

「うん、大丈夫だよ」

「この叶にかかれば傷など即座に完治かのっ!?」

 

 調子に乗って立ち上がり、傷が痛んだのか呻き声を上げながらベッドに倒れる。

 

「あの人みたいに調子乗ったらだめだからね」

「う、うん」

「叶さん、この子天使だわ」

「何言ってるんですか、僕が天使ですよ」

「ナニソレハツミミー」

 

 貶すようにアンジュが感情の籠っていない言葉を返してリゼに笑いかける。

 

「大丈夫だった?怪我とか、怪我とか、怪我とか…」

「怪我しか出てこないじゃん、語彙力無いんですね」

「うっ、うるせぇ!語彙力あるんか!?」

「え?喧嘩ですか?受けて立ちますよ」

「やってやらぁ!」

「――めう?」

 

 猫撫で声でそうアンジュに言う。

 

「可愛くない」

めう

 

 先ほどの猫撫で声から想像できないほどの図太い声で眉間にしわを寄せて言う。

 

「何か、不満そう」

 

 二人のやり取りを見ていたリゼがぷっと小さく噴き出す。

 顔を両手で多い、腰を屈めて笑い声を漏らす。

 

「叶さん、私たち二人でお笑い芸人やる?」

「ところで、ちゃんリゼはお母さんたち来てないのかい?」

「ねぇ、聞いてる?…キャナウェイ?キャナウェイ!?」

「お、お母さんたちは外にいます」

 

 遂に子供からもシカとかぁ、アンジュは掛布団に包まりベッドに寝転ぶ。

 

「…助けてくれて、ありがとうございました!かっこよかったです、アルケミーさんに、ライトニングゲイボルグさん!」

 

 リゼの言葉に、二人は照れくさそうに笑った。

 

「じゃあ、また!」

 

 リゼは何度か振り返りながら病室を出た。そして数秒後、入れ替わるように焔が入ってくる。

 

「元気か?」

「はい、調子乗るくらいには元気です」

「女の子を笑わせるぐらい元気です」

「ならば良し」

 

 隅に置かれていたイスを引っ張り出し、腰かけ深刻な顔で二人に告げる。

 

「今回の事件のことだが、警察側から公表するなと言われた」

「何故ですか、焔」

「プライベートだからドーラでいい。それと理由だがわしにもわからん」

「やっぱり、あいつが関わっていたからですか、ドーラさん?」

「さぁ、どうだろうな」

「公表しないこと自体はいいけど、理由を教えてくれないならなぁ…」

 

 叶はそう言って携帯をいじる。それな、とアンジュも肯定して言う。

 

「…二人の功績が称えられることも無く、終わるんだぞ?良いのか?」

「それは悲しいけど、もう一回功績上げればいいかなぁって」

「だね、地道にやればいいさ」

「そうか、ならわしから言うことは無いな」

 

 満足そうに立ち上がり、手をひらひらと振りながらドーラは病室から出て行った。

 二人になった空間で、アンジュが呟く。

 

「二人っきりだね」

「どうしたんですか?アンジュさん」

「うん、もういいや」

 

 思うような返事が来ず、アンジュは諦めベッドに倒れる。そしてしばらく経った時、また引き戸を引く音が鳴った。

 

「次は誰だろ」

「ベストジーニストさんとか?」

「あぁ、あの人ね」

 

 二人の予想は大きく外れた。

 

「ん?ちゃんリゼじゃん、どしたの」

 

 そこにいたのは恥ずかしそうに立つ、リゼがいた。

 

「えっと、あの」

 

 リゼは何度か口をぱくぱくと開閉させて、二人に手を伸ばした。

 

「私と、友達になってくれませんか!」

 

 二人は驚きながら目を合わせ、頷き合うと声を合わせて言った。

 

「「もちろん」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻り、体力テスト。

 生徒の間を抜けリゼは久しぶりに会った‘‘友達‘‘に抱き着いた。

 

「おわっ!?」

 

 反射的に受け止めて、アンジュは驚いた顔でリゼを下ろす。

 

「久しぶり、アンジュ」

「…うん、久しぶり。話したいことは色々あるけど、先に個性把握テストな」

「――カトリーナ、友達か?」

「まぁ、そんなところです」

 

 アンジュはそう言って笑みを浮かべた。

 生徒たちは何が起こったかはわからなかったそうだが何故か心が温まったという。

 

「じゃ、始めるぞ。まずは、50m走からだ」

 

 イレイザーヘッドの声で生徒たちは慌ただしく動き始めた。

 ある生徒のボール投げ以外何も起きず、除籍処分も嘘だと告げられ、ただの個性把握テストとして濃い一日が終わった。

 

―――――――――

 

 窓の外はオレンジ色に染まり、かなり時間が立っていたことを実感させられる。

 

「――カトリーナ、呼ばれてるぞ」

「っは、行ってきます」

 

 軍隊のように敬礼してからアンジュは出入り口に向かう。

 そこにいたのは、笑みを浮かべたリゼだった。

 

「まだ帰ってなかったの?」

「一緒に帰りたいな~って思って」

「んー、ちょっと待ってて直ぐに終わらせてくる」

 

 自分のデスクに戻り、かなりのスピートでタイピングし、消して、タイピングして、それを繰り返して僅か五分でアンジュは荷物をまとめ、タイムカードを切った。

 

「先に失礼します」

「気を付けて~」

 

 ミッドナイトに会釈して、アンジュは職員室を出てリゼの方を見てふざけたように言う。

 

「お待たせ、待った?」

「ううん、待ってない」

「よかった、じゃあ途中まで送るよ」

 

 まぁ周りから見たら恋人たちのそれで…彼女たちからすると普通のじゃれ合いなのだろうが。

 

「あんちゃんは何してるだろうなぁ…」

 

 アンジュの呟きは、隣のリゼに聞かれることも無く風にかき消された。




しばちゃんの配信楽しみ。
次回は戦闘訓練。

説明。

あんちゃん=アンジュの兄

ドーラさん
ヒーロー名:焔(ほむら)
個性:炎の竜――炎の竜という名の元、炎を主体として戦う。普段は人型だがたまーに竜になって暴れたり…?

叶さん
ヒーロー名:ライトニングゲイボルグ(長いのでライトニングと呼ばれることが多々)
個性:稲妻――稲妻を操るという少し単調な個性だが、使い方を工夫するだけでかなり厄介な個性に変貌する。

にじさんじを知っているか

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