ウソつき怪談のススメ   作:笹貫 満

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零:人物紹介

私(りっちゃん)
 このシリーズの語り部。
 お婆ちゃんと友人にあだ名されている。
 運動が大の苦手の腰痛持ち。
 午前三時に起きるので就寝時間がとにかく早く、たまに夜に訪れるみっちゃんの通称 深夜徘徊に辟易している節がある。

みっちゃん
 りっちゃんのウソつきな友達。
 一つ括りの髪がトレードマーク。
 りっちゃんに未だに名前をきちんと覚えてもらうことが出来ずみっちゃんと呼ばれている。



壱 唆されたカイダン

 

 同じクラスのみっちゃんはウソつきだ。

 

 彼女はミハルだかミサトだかホントのところは知らないが、みっちゃんだなんて渾名からもわかるように所謂『陽キャ』な人間で、教室の片隅で本を読んでいるような私とは根本的にタイプが違った。

 

 そのため、私たちはこれまで大した接点もないまま過ごしてきたのだが、彼女のこのとんでもない悪癖を知ったのはちょうど一年ほど前のことだった。

 

 

 その日、運悪く体力テストを欠席していた私は再テストを受けに体育館へ向かっていた。

 

 外は生憎の土砂降りだったので五十メートル走やらハンドボール投げやらの面倒な種目はまた後日に開催されるらしい。億劫だなとは思ったものの、結局恨むべきは自分の風邪である。

 むしろ、この再テストの機会さえも失うことの方が怖ろしいだろう。広い体育館で、これといって親しいわけでもない体育教師と二人ぼっちで測定するのはどうにも気が重いだろうから。

 

 

 同じく運悪く体力テストを欠席したらしいみっちゃんと同じ学年だということで一緒に並ばされたのが、何だか少し気まずく思って、彼女に軽く挨拶をしてからは俯いていた。

 みっちゃんの背は私の十センチ程上なので、目線が交わることはまず無いのだけれど。

 

 因みに、私は友人からお婆ちゃんと揶揄される通りに体育は大の苦手である。別にそのあだ名は運動音痴から取られたわけでもないのだが、ぴたりとハマっているので訂正しようにも中々出来ないでいる。

 

 やっぱり身体を動かす度に腰は痛むし、足は軋むのを感じた。恐らく、明日の筋肉痛から逃れることは叶わないだろう。どうにも不運だ。まあ、日頃の運動不足が祟ったのだろうから自業自得だと早々に諦めてしまった。

 

 上体起こしやシャトルラン、反復横跳びの都合上、みっちゃんとペアになったので知っているが、彼女は一つ括りの髪を揺らしながら軽く私の倍をこなしていった。

 

 運動音痴の私とはえらい違いである。

 

 

 

 そんなこんなで室内種目は全て終わったので、後は帰るのみである。

 

 後片付けやらなんやらでそうこうしているうちに夕暮れ時が迫っていて、黄赤色の光が窓を照らす。早く帰ってしまわないと明日朝は寝坊する羽目になるなあと手早く室内履きをくつ袋にしまった。 

 二十時に寝て、三時に起きる生活は結構慌ただしいのだ。

 

 「一緒に帰ろうか」

 

 そんなみっちゃんの声に振り返る。それを諾して並び歩いた。

 

 「ねえ知ってる?階段の段数」

 

 体育館から地上へと伸びる階段は途轍もなく長くて、不養生な私はいつも息絶え絶えになるのが常だ。

 そのせいで、私は昼休み直後の三限目体育がとても嫌いだったりする。食べ物を胃の中へ入れたせいで脇腹がつきつきと痛くなるし、ここの階段は勾配が大きいものだから、重心を後ろにしないと、こけた時に派手に顔面ダイブする羽目になるからだ。

 

 「いやあ、長いのは知っているけれど」

 

 「百四十八段あるんだよ」

 

 「え、そんなにあるんだ。それは私が辟易するのも仕方ないや」

 

 「じゃあ、今日は不運だね」

 

 不穏な発言をされたので何故と返す。

 そうするとみっちゃんは事も無げに一段増えてしまうからと返した。そんな事は建物の都合上ありえないオハナシだ。

 

 私の頭の上にはハテナが浮かんでいたのだろう。

 みっちゃんは提案した。

 

「じゃあ、丁度いいから数えてみようよ。気になるでしょ?」

 

 疑問が残ったまま帰宅するのも釈然としなかったので、数えながら帰ることにしようかとその提案を呑む。

 

 一段、二段、三段。

 

 長い階段を数える間、無言なのもイヤな感じであるし、どうにも愛想がないだろうと思ったものだから、その間にぽつぽつと学校でのこと、先生の面白かった話を話していった。

 

 例えば、部活で育てていた二匹の金魚が死んだこと。

 一昨年の四月に飼い始めたのでシガツとフールと名付けて可愛がっていたのだけれど。

 もしかしたら、名前が気に入らなかったのかもしれない。四月馬鹿だから、という理由でシガツとバカにしようとしたものの、片方がバカになるのは流石にかわいそうだったので、エイプリルフールのフールにしたのだ。けれど、フールも愚者という意味を持つのだとついつい最近になって知った。

 それとも、実験が肌に合わなかったのだろうか。もう既に金魚の供養碑には色々と埋められている。血も涙もない実験だと陰で噂もされていた。

 

 

 例えば、生物を教える笹本先生のこと。

 程よく炭酸が抜けたソーダみたいな優しい先生で、可愛らしいインコを飼っているのだとよく自慢をしてくれる。授業一コマで出来るだけ多く、もっと言えば全員当てることを目標としているようで、授業中によく当たること。

 間違えてもフォローが上手い先生なものだから、あまり緊張感はないこと。

 

 長い階段の合間合間にした話のラリーは意外と長く続いた。

 

 「ところでさあ。なんで一段増えてしまうのだろうね」

 

 「帰らないんで欲しいんじゃないの」

 

 だってほら、百四十九っと。

 彼女はそう数えながらくるりと振り返る。

 

 奇しくも最後の段だった。

 

「ほら、今って丁度、逢魔が時なんだから。その辺の低級に唆されて理性を手放しちゃうんだよ。生徒を帰したくないな、まだまだ一緒に遊びたいなって」

 

「それは不穏だなあ」

 

 橙色の光に包まれる。

 急に恐ろしくなって残りの一段を数えながらみっちゃんに並んだ。

 その私の挙動不審さが笑いを誘ったのか、みっちゃんは大笑いし出す。

 

「なあに笑ってるの! 君は失礼だなあ」

 

 少し顔が青ざめているのが自分でわかる。

 だって、本当に一段増えていたのだ。

 そうしてもだもだしていると、みっちゃんが衝撃的なことを言った。

 

 「ウソだよ」

 

 「は?」

 

 「だから、ウソ」

 

 「どこからどこまで?」

 

 「一段増えるなんてないよ、その階段は元々百四十九段あるの。知らないみたいだからついついからかっちゃった」

 

 そう言って、てへっと笑うみっちゃんは憎らしい程にいい笑顔をしていた。

 

 「なあんだ。びっくりしちゃったよ」

 

 「あはは、ごめんって」

 

 「すっかり引っかかってしまったね」

 

 「ありえないでしょー、建物がそんな感情を持つだとか、段数が増えるだとか」

 

 「妙に信憑性があったんですぅー、付喪神だって居るんだから学校が怪異になったっておかしくないんですぅー」

 

 「何その語尾、ウケるんだけど。ってか、この学校創立十七年なんだから。もっと年月が経たないと付喪神になんてならないんですぅー」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな帰り道があってから、何故か彼女と仲良くなってしまったのだ。

 今でも本名がミユキだったかミキだったかあやふやなのでみっちゃん、と呼んでいる。彼女は自分の渾名に因んだのか、私のことをりっちゃんと呼ぶようになった。

 

 だから私は知らない。

 

 あの階段が百四十八段あるということを、学年新聞の学校の名物紹介欄にて知ったことを。

 あの夕暮れ色で自分の影を探した時にみっちゃんとあともう一人、長い髪を靡かせる人らしきナニカの影を見たことを。

 

 みっちゃんは良い友人だ。

 その悪癖に目を瞑り、時には乗りこなす度胸は必要かもしれないけれど。

 

 

 

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