ウソつき怪談のススメ   作:笹貫 満

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不眠症 VS 早起き

ウソをつくこと、夜更かしすること。あとひとつのみっちゃんの悪癖は?


肆 運命の人との出会い方

 

 同じクラスのみっちゃんはウソつきだ。

 

 彼女のウソに諦念を抱いていた頃、私は彼女の「ウソつき」以外の悪癖を知った。

 

 午前三時といえば何を思い浮かべるだろうか。

 

 草木も眠る丑三つ時、または丑の刻参りなんて物騒なことを考える人もいるだろう。

 私はそのどちらでもない。私にとって午前三時とは布団という名の愛しの恋人と涙の別れを告げ、一日の行動を開始する時刻なのだ。

 

 ジリジリと時刻を告げる目覚まし時計を引っ叩かんとばかりに止め、洋服に着替えた時だった。

 

 窓の方から小鳥が嘴で突くような音が断続的に二度三度程響く。時刻が時刻なので震える手を激励しながらカーテンを引くことにする。窓ガラスが少し傷付いているのが見えた。

 目を凝らしてその先をよくよく見てみると、暗がりの中からみっちゃんの姿がぼおっと浮き上がる。

 

 此方に大きく手を振っているみっちゃんは午前三時に突っ立っていると思えないくらいに元気そうだった。

 

 「何で私の家を知ってるの?」

 

 「年賀状?」

 

 今年の年賀状をぴらぴらとさせるみっちゃんに私は脱力した。

 

 「まあ取り敢えず降りてきなよ」とジェスチャーで伝えられる。

 もう春とはいえ夜、特に深夜はとても冷えるので上からコートを羽織ることにした。

 

 思えば毎日この時間帯に起きている癖に窓の外を気にしたこともないし、親に行先を告げずに何処かへ行ったこともなかった。

 たまには何処かの不良よろしく盗んだバイクで走りだしてみようか。もう十六の年は十日かそこら前に更新されたけれど。十数日の誤差くらい、この際関係ないだろう。

 

 隣に並んだ時のみっちゃんの身長はやっぱり私の10センチ上だった。

 

 「何の用事があるのよ」

 

 「この先にある神社。りっちゃん早起きじゃん? 丁度進行方向に家があったから一緒に行こうと思って」

 

 お婆ちゃんだねえ。なんて言われる。そうは言っても、みっちゃんも早起きだと言い返したら「昨日から寝ていないんだ」とあっけらかんと言われてしまった。

 

 不眠症というやつではないのか、それは。

 

 何でもその神社では変な現象が起こるらしい。

 

 「何が起こるんだって?」

 

 「何か絵馬に変な文が書いてあるらしいよ。まあ、オカルト板に書いてあるだけだから信憑性はあんまり」

 

 「いや、変な現象やらなんやらに信憑性求める方がおかしいでしょ」

 

 「それな」

 

 2人して面白いのかよく分からない話をしながら歩く。

 閑静な住宅街なので人通りはなく、たまに車が走る音がするくらいだった。

 クイーンビーが下級生に向かって「この泥棒猫! 」と罵っているのを見ただとか、ジョックがその後行方知れずだとか。どこの昼ドラも、今ドキそんなベタな展開は視聴率が取れないだろう。

 

 私自体スクールカーストという言葉は知っていたが自分の学校にそのような制度があることは全くもって知らなかった。

 みっちゃんによると私は「誰とでも話す」人間に分類されているから、らしい。確かにそこら辺の人と適当に話すことが多い。そもそも階級のようなものを意識的にせよ無意識的にせよ作る方がばかばかしいのだ、だなんて開き直ってこれからも知らないふりを貫き通すことに決めた。

 特に意識したこともなかったので、これからも意識することなどないだろうし。

 

 そうこう言っている内に件の神社に着いてしまった。

 

 「ところで変な文って何? 」

 

 「うーん。見ればわかるんじゃないかなあ」

 

 適当なことを言いながら絵馬掛所を見る。

 

 「A君と両思いになりますように」という可愛らしい願いから「世界平和」というスケールが大きいものまで筆跡様々に色々な願いが書き連ねられていた。

 その中にふと異様な雰囲気を持つ絵馬を見つけた。

 

 「いつか うめんいひのと と でまあえすうよに」

 

 何だかおかしい。

 その絵馬を凝視していると、みっちゃんに肩を叩かれた。

 

 「順番、入れ替わってんじゃん」

 

 そしてボソリと言われる。

 

 瞬間、ゾッとした。

 

 「えっ、えっ、何これ」

 

 パニックに陥った。そりゃ、人間誰しも普通ではない文字配列で作られた文章を普通に認識出来たらとても怖いと思う。

 

 

 どこからか、鐘の鳴る音が聞こえた。鳴らしているのは多分神社のものじゃない。もっと甲高くて重量の感じない音だ。

 後ろを振り向けば人。

 白粉でも塗ったのか真っ白な顔に真紅の唇。瞳が爛々と輝いて見えた。首にぴたりと沿う着物が昔の時代劇を私に連想させる。歩きにくそうだなと現実逃避に考えた。

 

 「走るよ」

 

 みっちゃんは短く私に指示を出して走る。運動靴しか外履きを持っていなくて良かったとこの時ほど思ったことはない。

 逃げるのにこれほど適した靴は無いだろうから。

 

 血を取り込んだような朱を誇る神社の鳥居を出てから大きく迂回する。3つ目の角を曲がって駄菓子屋さんを右に曲がって細い路地裏に出た。

 

 「撒けた?」 

 

 「多分?」

 

 大きく息を吐き、また吸う。運動不足のこの身はひどく重い。

 草履の音はいつまで経ってもしなかった。

 

 「モノホンと鉢合わせちゃったよ」

 

 「は? どう言う意味?」

 

 「変質者」

 

 たまに居るんだよねー、とみっちゃんは困ったように笑った。

 春の風物詩でもあるそれは心霊物と切っても切り離せぬものなのだという。

 

 「もう一生夜中に出歩かないからあ」

 

 変な絵馬も見つけてしまうし。

 

 「ゴメンね、絵馬はウソ」

 

 やはりテヘッとみっちゃんは言った。可愛くなんてないからな。

 そうやってみっちゃんは鞄をゴソゴソやって絵馬を出す。

 先程のものと文言が一緒だ。

 

 「最初と最後の文字さえ合っていれば人間ってきちんと読めるらしいね」

 

 気になってしまったらしい。 

 

 それで、脅かしついでに私を神社に誘った……と。

 

 「宿題やる時間があと二時間しかないじゃんか! バーカッ!」

 

 「ごめん、ごめん。でもあと二時間もあるよ」

 

 「無駄にいい笑顔だな!」

 

 日の出まであと少し。宿題の時間がこんな馬鹿みたいなことの為に削られたのが少し癪に触った。

 

 しかし、ここ最近の運動不足が解消されたので結局許してしまう。

 自室には辿り着いたものの、そのまま二度寝をキメた私は自業自得というやつだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 だから私は知らない。

 

 あの神社は干支絵馬なこと。みっちゃんが持っていた絵馬のデザインが亥で、あれは子だった。

 

 鐘を使う呪いは汎用性があること。恋人探しにも向くだろう、この世にいるのならば。

 

 そして、左前のあの人は男だった、ということ。

 

 

 

 

 

 

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