少し湿るような感覚が体全体を襲う。しかしそれも川から来たそよ風によってすぐに取り払われてしまう。それを身に感じながらも私は河川敷を走っていた。朝早い時間であった為、人はまばらで、犬を連れて歩いているおじいちゃんとかがいた。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
すれ違う人と軽く挨拶をしながら、流れている川を見る。透き通った水、その水がたまに川の表面に顔を出している石に当たり中に舞う。まるでそれは、お伽話に出てくるような水の妖精のように見えた。
「なんか、凄い穏やかだなぁ……」
いつものハピハロや学校でのこころとのやり取り、それに昨日あったパスパレとの会議とか考えてみるとこんな感じで穏やかな時間はそうそう無いよなぁとしみじみと思う。すると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてくる。
「あのーおはようございます、美咲様」
この声は……昨日の黒服さんかなぁ、なにようかなっと思いつつ立ち止まり後ろを向くと、そこには赤髪に紫目で私と同じぐらいの背の女性の方が立っていた。ん?っとなり目を手でかいた後、目を何回か瞬く。
「すみません、貴方、誰ですか?」
「あー私ですよ、黒服を着ている……黒隊長と言えば分かりますかね」
そう言って目の前にいた女性はポケットからサングラスを出して装着する。あぁーこの人確かに昨日の黒服さんだ。え?でも待ってなんでこの人髪の毛が赤いんですかね。
「あれ、でも、なんで髪の毛が赤いんですか?」
「あーあれ、実は桂なんですよね」
桂!?え、え?なに、どこの攘夷志士ですか!ヅラじゃない桂ですって言えばいいのかな……いや、流石にアカンでしょ、これ。
「え!?エリザベスはどこにいるんですか!」
「それはずっとスタンバッてる人のネタですね」
すぐさまネタをネタで返してくる。こう言うネタについて来れるって事はこの人、昨日の黒服さんで間違いないですね、はい。なにせ、聖◯☆お◯◯さーんネタを無意識に放った人でもありますしね。
「美咲様、少しばかり失礼な事思っておられませんか」
昨日の若宮さんもそうなんだけど、なんで私はすぐに心読まれるのかなぁ……本当。
「い、いや、気のせいだと思いますよ、えーと、それで……」
その追及を避けようとして、黒服さんと呼ぼうとしたが、今現在目の前にいる黒服さんはスポーツウェアを身につけており、黒服さんと呼ぶに呼べなかった。すると、いつも黒服さんの時だと見せることのない破顔した笑みを私に見せてくる。
「そうでした、美咲様、私名前を名乗るのを忘れていましたね、私は弦巻グループ日本支部ハッピーハローワールド宣伝兼サポート部門隊長、黒崎黒子と申します。名前の最初が黒黒なので訳して黒隊長と呼ばれています」
礼儀正しく頭を下げられたあと、私は一つ疑問に思ったことを聞く。
「え、でも黒服さんが素性を明かしていいんですか」
私の質問に頭を上げた黒服さんこと、黒崎は苦笑いを見せ、首を横に振る。
「いいえ、通称黒服と呼ばれる私共は、このように素の状態で弦巻家、弦巻グループの者又その関係者に接触するのは禁止されています。ただ今回は特例で上層部の方から美咲様に対してのみ許可が下ろされたので接触しました」
え、えーと、取り敢えず分かる事は黒服さんの社会にも上層部とかそう言うのあるんですね……。
「は、はぁ……わかりました、けど、なんで私だけと接触するのが許されたんですか」
「そのそれは、二ヶ月後の前夜祭の件で私共が美咲様に無茶を強いるような形でいろんな事を押し付けざるえをない状況になってしまったと言う負い目からと言うのと、体力増強してくださいっと言って体力増強を全て美咲様に押し付けるのも話が違うと言う結論に至ったからかですかね。それに加えて、昨日のパスパレの件がありますし、私共黒服の中から一人専属でミッシェル様とも言い美咲様に就くべきだと言う話になったからです」
サングラスを外してポケットに仕舞った黒崎さんが少し曖昧そうな雰囲気を出しながらそう答える。でも、確かに私一人だけで体力増強しようとしても分からないことが多いから助かると言えば助かります。
「な、なるほどね……因みに今日のこの邂逅は仕組まれてたんですか?」
「いいえ、それはたまたまです。私は昔からこのルートで走ってました。そもそもの話そこまで美咲様を監視する必要もありません。それにこちらとしても信頼置いている相手にしたく無いと言う事情もありますが」
本当にここで邂逅したのはたまたまですっと苦笑しながら黒崎さんは言い、首を横に振る。あ、でもちゃんと信頼はしてくれているんですね。なんか、それはそれで誇らしいなぁ……。そう思っていると黒崎さんが目を細めてくる。
「しかしながら、美咲様も朝ここら辺を走ってらっしゃったのですね」
「あ、いえ、昨日またまた早起きして走ったら気持ち良かったので今日も走ってみようかなだと思って走ってるだけなので続くかはわからないです」
不安そうに私が言うと、黒崎さんは意地悪そうな笑みを見せる。
「でしたら、明日から私と一緒に走ると言うのは如何でしょうか、勿論、やるかやらないかは美咲様次第ですが」
目を閉じてにっこりと笑う黒崎さんの圧に押されて頷くまでにそう時間はかからなかった。