市ヶ谷さんと前夜祭について軽く話した日の放課後、その日はハピハロの会議も特になかったから私はこころと一緒に帰宅していた。そしてその途中で黒服さんに拉致られた。もちろん、こころ邸の黒服さんなので、身体改造されてヒーローになったとか、ゾンビに改造されたとか、変な薬を飲まされて子供になった(あ、でも鶴巻グループの事だしこう言うの普通に作れそう)とか、そう言う話ではなく単純に件の前夜祭についての話をするためだった。
「美咲様に一つご報告がありまして強引な手を使わせていただきました」
「それで、何用ですか」
こころと、弦巻邸内で別れた後別室で黒服さんの一人と机越しに対面する。対面していた黒服さんは重々しく口を開く。
「件の前夜祭に弦巻家がスポンサー入りするのが決定しました」
「はい、それでなんですか」
こころがやるって決めた以上、大手企業らしい弦巻グループが関与するのはわかる。確かに凄い事だけど……だけど、それで?って感じが凄いする。
「そこである程度なら、前夜祭中に私達が美咲様のサポートする事ができるようになりました」
「はい……いや、だから?」
素っ気なく返すと、黒服さんが立ち上がりこちらに前のめりになる。
「そこは嬉しがる場所でしょう!事情を知ってる人達が周りにいるだけでもだいぶ変わりますって!」
「いや、それでも根本的な解決になってないでしょうが!」
実はこんな感じのやり取りは実は二回目で、一回目はこころと弦巻邸へ向かっていた時の車内にて行われていてーーー
『こころ様、弦巻グループが今回の前夜祭のスポンサーになりました』
『凄いじゃない!』
『あはは、それはよかったね』
この時はまだ私もへぇ〜ってなってた。凄いぞ、弦巻グループってね。
『ふぅ……これで少しでも楽になればいいんだけどなぁ』
思わずそう呟いた矢先、隣にいた違う黒服さんが耳打ちをしてきて……
『すみませんが美咲様には一日中ミッシェルで出てもらう事には変わりません』
ーーーその時の私は"僕は今、冷静さに欠けています(真顔)"状態に陥ってました。まぁどちらにせよ、弦巻グループが関与する事になっても、私が前夜祭に一日中ミッシェルとして駆り出されるのは変わらないと言う時点で私にとってはどうでもいい話になる。
「私達にはそこまで関与する事はできないんですよ!」
「じゃ、一々私を拉致する様な形で弦巻邸に連れて来ないでくださいよ!車内で感じた尊敬を返して!」
私も机を両手で叩きながらも立ち上がり対抗するようにして、前のめりになる。
「美咲様には迷惑をかけたと思ってるが故のこちらの配慮なんです!」
「配慮はありがたいけど!それをするなら次のハピハロ会議で伝えてください!」
「ですがっ……」
それでも食い下がろうとする黒服さんを他の黒服さん肩を叩き、目の前にいる黒服さんが座る。それに釣られて座ると、肩を叩いた方の黒服さんが口を開ける。
「お言葉ですが、美咲様、私共は弦巻グループの令嬢であるこころ様の意思が"前夜祭一日中、ミッシェル様を舞台の上に立たせてあげたい"のであれば、私共はその意思を全力でサポートすると言うのを1番に置いてやっております。そこで、キーパーソンになる美咲様にはいち早く情報を知ってもらって予め動けるようにして欲しいが故の配慮なんです。」
「……ごもっとですね」
言い方には少しトゲはあるもののその他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんの言う通りだと思う。冷静に考えてみて、私がいつも相手にしてる人物は大富豪の令嬢、そして、彼らはその令嬢の付き添い人みたいな人達……そりゃ、私の言う事は通らないよね……。
「ただ、真夏日に着ぐるみを着せられて十分に水分が補給できないかもしれない場合、最悪のケース死ぬ恐れがあります。それはこころ様が望んでいない事なのは確実なので、それを未然に防ぐ為、私共は貴方を全力でサポートすると言う事なのです。ただ、それでも不安要素があるが故に貴方の強化にも乗り出した、と言う事になります」
すっと他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんはサングラスを上げる。そして、じっと私の方を見る。
「……実に合理的ですね……」
「えぇ、こころ様の為には合理的に動かなければいつの日か、綻びが生まれてしまいますからね」
どうにかして絞り出した言葉に、他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんがサングラス越しでも分かるぐらいに目を細める。それは何処か冷酷な雰囲気を醸し出していた。
「美咲様がもし、今回の件で非合理的な事をした場合、この話から下りてもらわなければならくなります」
冷たい声でそう言われる。ゴクリと唾を飲むとバンっと扉が開き、また新しい黒服さんが飛び込んでくる。そして、その黒服さんが他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんの方を向いて叫んだ。
「黒隊長!こころ様が美咲様を探してここに来ます!」
「え?なんですと!?」
先程とは打って変わって変な声が出た他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんが扉を開けて飛び込んできた黒服さんの方も向いた後、他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんは顔だけこちらに向けてくる。
「美咲様!ミッシェルの仮面(仮)持ってきましたか!」
「拉致られるとは思ってなかったので家におきったぱです」
なんだそのガールズフレンドみたいな言い方はと思いつつ、ジド目で見返すと"oh,yeah yeeeyaaaaaa"っと某大乱闘の某人気キャラばりの叫び声を上げる。いや、この人どっからその声出してるの。あれ、ここって物真似大会の会場だっけ?
「美咲様、こういう時のようの替えの仮面です!」
すると、他の黒服さんの肩を叩いたか黒服さんの斜め後ろにいた黒服さんが昨日、私が貰った仮面の瓜二つの仮面を手渡してくる。いや、予備あるならそれすぐに渡しなさいって!それからドアを開けて入ってきた黒服さんの後に来た黒服さんがこころを連れてきたので慌ててミッシェルの仮面(仮)をつける。
「美咲ー?美咲は何処かしら?」
「すみません、こころ様、美咲様は先程お帰りになりました」
"oh,yeah yeeeyaaaaaa!"っと言った人とは思えないぐらいに、他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんがこころに向かって言うのを笑いを堪えながら見る。あら、そうと答えたこころの目が案の定こちらを捉える。
「あら、ミッシェルじゃない」
「どうも、こんばんは、弦巻様」
軽く会釈すると、口の端を大きく上げとびっきりの笑顔をこちらに向けてくる。うっ、何この神々しさ、下町にいる薔薇の冠を被った男の人が薔薇の冠が頭に食い込んだ時かよってぐらい明るい。
「ミッシェルはなんでここにいるの」
「少し、弦巻家の人達が話すことがあると言われたので参上しました」
そう聞かれた私はチラッと他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんの方を見てから応答する。実際話されたし、嘘はついていないはず。
「じゃ、私ともお話ししましょう!」
食い気味で私の元に来ようとしたが、他の黒服さんの肩を叩いた黒服さんが私とこころの間に入りこころを止める。
「すみません、お言葉ですが、こころ様、これからミッシェル様は移動する必要があります」
「むーーーーー」
頬を膨らませたこころを見つつ、どうするかと思っていると、その黒服さんが肩越しにこちらを見る。
「さぁ、行きましょう、ミッシェル様」
「あ、はい」
言われるがまま私は立ち上がり、その黒服さんについて行くようにしてその部屋を出る。その間、こころはずっと頬を膨らませていたのだった。