どこに連れて行かれるかわからないまま乗せられた車の車内で、先程他の人の肩を叩いたか黒服さんが運転席から私に声をかけてくる。
「先程のこころ様の笑顔、どう感じました」
私とこの黒服さん以外この車には乗っていない上、防音のせいで外の音が聞こえない状態で淡々とその黒服さんが聞いてくる。
「え、それはどういうことですか」
ミラー越しにその黒服さんの目とが合う。
「先程のこころ様の笑顔はとても輝いてましたよね、まるで下町にいる悟りに達した男性の方が悟りに達した時の様に」
「あ、はい、そう感じました……え?」
素で返すと、その黒服さんは少しだけ頬を赤らめてこほんと咳をする。
「これは失礼しました、こころ様を相手する訳ではないので気が少し緩んでしまっていました」
は、はぁ……と生返事をする。でも、確かにさっきのこころは必要以上に笑顔が明るかった。
「でも、それが、どうしたんですか」
「あれは、こころ様なりの警戒と自己防衛しているんです。弦巻家の御令嬢として沢山のパーティや交流をする上で、自分の身を守る為に笑顔を保つ様になったと聞いております。私もこころ様の過去は知りません、ただ日本に来る前に仕えていた人の話によると、こころ様は昔は静かで絵本を読む事が好きな子だったらしいです。しかし、弦巻家の重圧が原因かどうか知りませんが、ある時から笑顔しか見せなくなった様です」
「……じゃ、私は嫌われてしまったって言う事になるんですか」
少し前のめりになる。それに対してふふっと黒服さんは笑う。
「いいえ、それはとは違います、こころ様が本当に嫌いだっと言う名を示す時は、無関心になりますからね、あんな感じで食いつきはしません。ただなぜあの様な対応をしたか感覚的な推測からいかせてもらいますと、こころ様から見て新しい人が来た嬉しさと若干の不安さがあったからではないでしょうか」
「そっか、あのミッシェルとこのミッシェルだと違うミッシェルだからそこに不安を感じてしまったが故にその笑顔になったと言う話ですかね」
着ぐるみをつけただけでこころの中では美咲はミッシェルになる。仮面をつけただけでこころの中では美咲は別のミッシェルになる。ポケットの中に入れていたミッシェルの仮面(仮)を触りながらそう思うと、ふふっとまた黒服さんが笑う。
「そうですね、そう思ってください、決して美咲様を嫌いになったとか、そう言う訳ではありません」
そう言われ、若干生まれた不安と安心感を感じつつ背もたれにもたれる。
「それでどこに向かっているんですか」
「それはつけばわかります」
そう言って黒服さんが静かになると、車内の話し声は、まるで砂時計の砂が全て下に落ちたかの様に静かになったのだった。