嘘つきの道化師    作:ノッキー

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普段パステルパレットが使っている事務所には関係者以外入る事は許されない。それは、例え、弦巻家の関係者だったとしても無理だと思う……ただ、この黒服さんはちょっと違っていた。そんな入れない筈のパステルパレットの事務所に入れてしまったのである。そこで日菜先輩、大和先輩、ブシドー……若宮さんの三人を待っている間にその事についても、黒服さんに聞きたところ"昔の関係で少しありまして"としか答えてくれなかった。まぁ、それはそうと今目の前ではある種の修羅場と化していた。

 

「あやちゃんとちとせちゃんがキスをしていたとか、本当なの!!」

 

「日菜ちゃん、それは誤解だって言ってるでしょ」

 

「そうですねー私もそこら辺少し気になります」

 

「ブシドー!!!」

 

「いや、フジドーってなんですか!?」

 

三人と合流した後、私に起こった(私がここにいる事についてはあとまず置いておくとして)出来事を一通り話したところ、日菜先輩が特攻し、その後を二人が追いかけると言う形で部屋に入室する羽目になった。そして件の丸山先輩と白鷺先輩を全員で質問攻めすると言う修羅場になっている(若干一名違う事言ってるけど)。因みに、丸山先輩は白鷺先輩に先に咎められたらしく俯いてじっと黙っていた。

 

「ブシドーはブシドーなんです!」

 

「いや、訳がわからないですよ!」

 

「凄いるん♪って来たんだけどなー」

 

「だから、それは、ドラマの撮影であやちゃんがキスシーン出来ないって言ったからその練習をしてたの」

 

「僭越ながら白鷺様、私の記憶が正しければこの先2ヶ月の間に白鷺様と丸山様が出演なさられるドラマ、テレビではそのようなシーンはございませんが……」

 

「ちょっと待ってなんで貴方がそれを知ってるんですか!」

 

白鷺先輩が至極真っ当なツッコミを入れると黒服さんは首を少し傾げる。

 

「え?これからしばらくの間ハピハロとパスパレのコラボ企画がありますので、そこで情報を仕入れました」

 

「ちょっと待ってください、その話は今初めて聞きましたよ!?」

 

「ハラキリー!」

 

「るん♪って来たー!!」

 

ザ・カオスと化した室内でそろそろ耐えきれなくなってきた私がドンっと机を叩き立ち上がる。

 

「あぁーもう!皆さん一旦静かにしてください!取り敢えず、白鷺先輩と丸山先輩変に勘ぐってごめんなさい、日菜先輩はるん♪っと来るのは別に構わないんですが一旦静かにしましょ!あと若宮さんは本当に何言ってるかわからないからちゃんと通じる言葉使ってください!」

 

バンっともう一度机を叩くと指摘された四人がギコチなく頷く。

 

「す、凄いツッコミ力ですね……」

 

「あはは……あの3バカに否が応でも鍛えられましたからね……」

 

私の右隣に座っている大和先輩が若干引き気味で言われ、私は思わず苦笑いをする。

 

「それで、黒服さん、最初にお尋ねしますが、なんで私をここに持ってきたんですか」

 

そのまま黒服さんの方を向き、その事を聞くと黒服さんは少し思案するそぶりを見せる。

 

「それについてですと、白鷺様と丸山様の追求が疎かになってしまいますが……」

 

「これ以上丸山先輩と白鷺先輩の痴情に関しては触れないであげてください」

 

わかりましたと言い黒服さんが俗に言うお誕生日席の所まで移動する。その間に私は座り、目の前にいた白鷺先輩がジド目で見てきたがそれは気にせず黒服さんの方を見続ける事に専念した。

 

「それでは、何故、美咲様がここに来たのかをご説明します」

 

説明を始めようとしていた黒服さんを余所に左に座っていた日菜先輩が私の肩をつつく。

 

「美咲ちゃんも知らないんだね」

 

「そうですね、私も弦巻邸から引きづられる形でここに来ましたからね」

 

日菜先輩にそう聞かれるが、私も全容把握してるわけではないので曖昧にしか答えられなかった。へぇーとあまり興味なさそうに日菜先輩は黒服さんの方を向く。

 

「二ヶ月後に開催される世界的なテニスの大会の前夜祭に、ハローハッピーワールドを含め、パステルパレット、アフターグロウ、ロゼリア、そしてポッピンパーティが出演するのは皆さんもご存知ですよね」

 

それに一同が首を縦に振ると黒服さんは話を続ける。

 

「その上で、ハローハッピーワールドに所属するミッシェル様がその前夜祭に一日中借り出される事が、こころ様主催のハピハロ会議にて決められました。その上で前夜祭中はミッシェルが他のバンドにも参加します。そして、そのミッシェルをしている美咲様と他のバンドの仲を深めるためにここに連れてきたまでです」

 

「では、何故私達パステルパレットが持っている番組にもミッシェルが参加する必要があるんですか」

 

少し目を細めた白鷺先輩が聞くとまるでそれを待っていたかのように黒服さんがサングラスをクイッと上にあげる。

 

「それについて話しますと、美咲様がミッシェルで居られる時間はハローハッピーワールドがバンドをしている最中に限られてしまう為、少しでも長くミッシェルの中にいて、長時間の環境に慣れてほしいと言う理由があります。勿論、番組で出演する際に発生する出演料などは私共弦巻グループが管理いたしますのであまりお気になさらないでください」

 

その代わりにっと、黒服さんが一言付け加える。

 

「この先、前夜祭辺りまでに発生するパスパレの番組は全てスポンサーとして弦巻グループが関与する形となります」

 

成る程、等価交換と言うことになるのか。パスパレの番組に弦巻グループがスポンサーとしてつけば、私とパスパレの皆さんが仲良くなるし長時間のミッシェルの着用も現実的になる。逆にパスパレやテレビの運営側は弦巻グループという大手企業からの信頼とブランド名を借りられるという話になるって感じかな……。

 

「でも、大丈夫なんですかね、コラボと言っても他のバンドのメンバーを唐突に番組に出していいものなんですかね……主に批判的な意味でですが」

 

わざわざ手を上げて大和先輩が言うと、黒服さんはふふっと笑う。

 

「それについては大丈夫です、今現在ハローハッピーワールドは弦巻グループが保有しているバンドと言う立ち位置にあります。厳密に言うと少し違いますがそれでもハローハッピーワールドのミッシェルではあることは間違いないです。しかし、それと共に弦巻家グループが保有しているミッシェルと言うキャラでもあります。すなわち、ハローハッピーワールドのミッシェルと同時に弦巻グループのキャラであるミッシェルと言う二面性を持つ事ができますので、ある方に対してはハローハッピーワールドのミッシェル、ある方に対しては弦巻グループのミッシェル……と見る人によって見方が変わります。言ってしまえば、ミッシェル自身を批判すると言うことは弦巻家に楯つくと言う事に繋がるのです」

 

根回しいいなぁ……流石、弦巻グループ、そこまで出来るとは、やっぱ財力が違う。

成る程……っと少しあっけない顔をしている大和先輩と打って変わって、今度は丸山先輩が手をあげる。

 

「はいはーいって言う事は、美咲ちゃんは私達の練習にずっと付き合うという事になるんですか」

 

それに対して黒服さんは首を横に振る。

 

「いいえ、美咲様には他のバンドとも同じく交流を持って欲しいのでパステルパレットの練習に付き合うと言う事はずっとはない思いますが、時間が合えば随時っという形にはなりそうですが」

 

どこか思案するように黒服さんは顎に手をやる。すると、またしてもつんつんと日菜先輩に肩をつつかれる。

 

「美咲ちゃん、こんな事言ってるけど大丈夫なのー?」

 

「そうですね……大丈夫とかそれなんかより、やってみないとわからない事が多いのでやれる事やってみます、それに物は試しとも言いますしね」

 

そう答えると日菜先輩は、今度は楽しそうにあははだと笑う。

 

「美咲ちゃんも大分考え方変わったね、なんか凄いるん♪って来た」

 

「そうですかね」

 

そうだよと、日菜先輩が笑顔のまま言う。なんやかんや私もこころの部活動を通じて日菜先輩とは交流があったりすけど、そう言われるのは今日が初めてかもしれない。すると今度は若宮さんが手をあげる。

 

「それはそうと、ミッシェルって誰ですか?」

 

若宮さんが放った言葉に、全員ドリフみたいな感じで椅子から落ちかけるような動作を行う。

 

「……イ、イヴ、ちゃん?今の話ちゃんと聞いてた?」

 

若干、頰を引きつらせながら白鷺先輩が言うと、若宮さんはんーっと唸り、そしてハッと何か思い出したかの様に手を叩く。

 

「あっ、そうでした!ミッシェルは美咲さんでしたね!」

 

若宮さんが天然なのかどうかは知りませんが、にっこりっと笑ったまま私の方を向きながら言ってくる。まぁどちらにせよあなた絶対さっきの私が放った言葉に根を持ちましたよね、だって若宮さん、貴方今目笑ってませんもん!

 

「でもですね、よく一日中なんて許しましたよね」

 

若宮さんの目に少し狂気を感じながら、大和先輩の言葉を聞きえ?っと私の口から間抜けな声が出る。

 

「決定時の時に私の意思なんてありませんでしたよ」

 

はい?っとパスパレの面々から言われ、結局私がそうなった経緯を話す羽目となる。テニス部の練習でハロハピの会議に遅れた事、それに追従して勝手にその事が決められていた事について話す。話すにつれてパスパレの皆さんは静かになっていった。

 

「あはははは……」

 

全て話終わった後に、日菜先輩の乾いた笑みが部屋に響く。全員私の方を見て無言になってる最中、一人だけ、白鷺先輩だけは何かを考えていたらしく少し俯いていた。

 

「…………なんで」

 

ぼそっと白鷺先輩が俯きながらも言葉を漏らす。

 

「なんで貴方達はそれを止めようとしなかったの」

 

「だから、私の意思は……」

 

「違う、貴方じゃないわ、貴方達よ」

 

顔を上げた白鷺先輩は黒服さんの方を見る。

 

「なんで、弦巻さんを止めようとしなかったんですか」

 

「……私共も花音様と一緒に止めには掛かったものの、美咲様が着くまでに間に合わなかったのです」

 

「それでも、その時にできる事はあった筈でしょ」

 

それを言われた黒服さんは少し言葉を詰まらせてから、ふぅと息を吐く。

 

「確かにその機会はあった気がします」

 

「だったら……」

 

「お言葉ですが、白鷺様、そう決まってしまった以上変えることはできない、貴方様ならばそれが重々承知していると思われますが」

 

続けて言おうとした白鷺先輩の言葉を遮り、黒服さんが諭すように言うと白鷺先輩は引き下がってしまった。まぁ、アイドルをやっている以上、同じような事が多いのかな……ってそう考えて思ったんだけどそう言えばこの人たち"パースパレボールーション"とか言って歌っているアイドルだった事忘れてた。ブシドーとかブシドーとかハラキリとかそこら辺で全て持ってかれてた気がする。

 

「……あのーかなり、失礼な事考えていません?」

 

「いや、気のせいですよ」

 

思わず若宮さんの方をじっと見てしまい、案の定見透かされてしまったが、曖昧にして誤魔化す。そうしているうちに大和先輩が口を開けて言葉を発する。

 

「そう、ですね……長時間に耐える体力とそれに耐えれるような環境を作らなくてはならいのも納得です。それに夏、裏方やってる時もなにかと物が密集すると暑苦しい上に息苦しいですしね。ましてや、それが着ぐるみだと言う話になると想像がつきませんね」

 

流石、パスパレの縁の下の力持ちをしているだけのことはある。裏方の事情やそう言うところを言われてしまうともうグゥの音も出ないでしょうね……。

 

「ご理解頂けたでしょうか」

 

後押しする様に黒服さんが言う。しかし、静まり返った室内で日菜先輩がボソッと何かを呟き、私達全員の目線が日菜先輩に向く。

 

 

「……るん♪って……やっぱ、るん♪ってこないよ!」

 

 

少し目を細めた日菜先輩が立ち上がり黒服さんの方をみる。

 

「なんで美咲ちゃんが一日中そんな辛い思いをしなくちゃいけないの、代理とか、そう言うのはできないの?」

 

「ですが、氷川様……」

 

「知ってるよ、こころちゃんはちょっとした違いでも見破るってことは!でも、なんで、そこまで美咲ちゃんにこだわるの!美咲ちゃんに辛い思いさせようとしてるの!」

 

なんだろう……おかしいなぁ……日菜先輩が物凄く輝いてる気がする。いつもはどーんとかるん♪とか抽象的な事しか言わない、あの日菜先輩が……ちゃんと理屈で話してる。

 

「しかし、決定事項ですし……」

 

「決定だからって、その言葉に逃げるのは良くないと思う、それにやりようによっては私達と一緒にパーフォーマンスやっている時だけでも変えるって言うことにはできないの」

 

人が変わったかのように食いつきまくってる日菜先輩に対し、黒服さんは首を横に振る。

 

「いや、それはできない相談です……なにせ、美咲様にはDJをやりつつ、パスパレの曲とリミックスしてもらう必要があるからです」

 

「ちょっと待って、黒服さん、その話も私初耳なんですけど」

 

またも初耳の情報を聞きツッコミを入れたが、無視される。

 

「じゃ、他のDJが出来る人に頼めばいけるよね!」

 

「着ぐるみを着ながらそれができる人が他にいると思いますか」

 

「だったら黒服さんがやれば……」

 

「私共は、美咲様をサポートする事はできますが、美咲様の代わりにはなる事ができないんです」

 

んぐぐぐぐと不屈そうに唸りながら日菜先輩は座ってしまった。やばい、この人にも言い勝てるって黒服さんって何者なん……本当……。

 

「さて、一通り話すことは終わりました、他に何か言いたい事はありますか」

 

日菜先輩をやり通りした黒服さんはどこか安心したようにふぅーと息を吐く。そして反論が出てこなくなった部屋にまた静寂が訪れ、私は天井を見上げるのだった。

 

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