デンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン……   作:葛城

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第九話: その顔は、憐れみを覚えるほどに……

 

 

 

 

 ――陽動、である。

 

 

 

 場所は、とある地方の山中。

 

 視線の先にて、ひっそりと佇むのは『万世極楽教』の施設。大きく『万世極楽教』と描かれた看板が……その存在を不気味にさせていた。

 

 何せ、場所が場所だ。加えて、建物は……珍妙な形をしているだけでなく、妙に大きかった。

 

 ワケ有りの者たちが集まって団体を作っているのだとしても、大き過ぎる。内部に40人、50人ぐらいは留まって寝泊まりしても問題ないぐらいの大きさであった。

 

 街中にあるならば珍妙な見世物小屋かと思われるだろうが、施設の周辺には小さな村が点在しているだけ。当然ながら、人の行き交いなんてほとんどない。

 

 

 けれども、全く無いわけではない。

 

 

 報告に有った通り、周辺地域の駆け込み寺みたいな扱いになっているようだ。時々ではあるが、明らかに困窮していたり顔色の悪い人だったりが、中へと入って行くのが見える。

 

 あるいは、ナニカに心酔しきったかのような、心ここに有らずと言わんばかりな様子で、ふらふらと出入りしている者も……おそらく、それが信者なのだろう。

 

 

 

 これもまた……報告にあった通り。

 

 

 『万世極楽教』の資金源は、そういった信者からの寄付金によって賄われている。つまり、身なりが比較的裕福な者は、そういう信者なのだろう。

 

 そして、信者にとって、教祖は神にも等しい存在だ。

 

 おそらく、教祖と対面したに違いない。食われていないのは、単純に金づるとして利用されているからなのだろうが……もしくは、鬼から術を掛けられている可能性も否定は出来ない。

 

 そして、他にも……というか、最も奇妙な点が一つ。

 

 それは、施設に入った人の数が合わない点。鬼殺隊が秘密裏に調べた限りでは、入った数に比べて出てくる数が明らかに違うのである。

 

 その数、41人。探り始めてからそれ程月日が経っていないというのに、41人もの人間が施設から出てこないのだ。

 

 鬼という一点を除いて考えるならば、異常だ。鬼という一点を加えて考えれば、これは明らかに……潜伏している可能性が非常に高いとなるわけだ。

 

 

(……で、私に鬼以外の者たちの気を引いてほしい……というわけか)

 

 

 さて、時刻は昼。時間にして、13時頃だろうか。

 

 あいにくの曇り空ゆえに、地上に届く太陽の光は非常に弱弱しい。弱り切った鬼ならともかく、雑魚の鬼でも十二分に活動できる空模様であった。

 

 

(……でも、どうやって気を引けばいいんだ?)

 

 

 そんな空模様の下で、ウンウンと考え込む女が1人。

 

 熟れた桃のような色合いの長髪をそよ風に靡かせる、特徴的な衣服に身を包んだ……言うまでもなく、彼女である。

 

 その後ろで……ガチガチに全身を硬直させている男が1人。

 

 

 男の名は、村田と言う。顔立ちは普通で、艶やかなヘアーが特徴。

 

 

 鬼殺隊の隊員の1人であり、実力こそ鬼殺隊の中では中堅より下ではあるが、死なずに生き延びている隊士である。

 

 で、そんな一般隊士の1人でしかない彼が、どうして彼女の傍に居るのか……それはまあ、そう複雑な理由があるわけではない。

 

 

 簡潔にまとめるのであれば、助言役である。

 

 

 その仕事内容は……言うなれば、やり過ぎであるならば、一声掛けろというものだ。

 

 ……よくもまあ引き受けたなと思う所だろうが、実はコレ、半ば強制的に決まったことである。

 

 というのも、鬼殺隊において位の高い隊士(すなわち、柱)で動かせる者はみな、施設の近くにて潜伏し、彼女の陽動が始まるのを待っている状態だ。

 

 これは万が一、教祖が上弦……いわゆる、鬼の中でも位を与えられた特別な鬼である可能性を考慮し、最強戦力をぶつけるためである。

 

 なので、彼女の傍に就けられる者は、『日の神狂い』ではない者であり、同時に、『日の神様に対して』当たり障りなく声を掛けられる者に限定された。

 

 

 その結果、選ばれたのが村田である。

 

 

 選ばれた最大の理由は、『日の神に対して世間話ができるから』、らしい。ちなみに、世間話云々は全くの誤解で、当人の感覚では緊張し過ぎて何を話しているのか分かっていないぐらいだ。

 

 また、当人は『日の神』に対して助言など畏れ多くて……と、辞退しようとしたが、トップの耀哉より任命され、周りからも半ば生贄みたいに見捨てられてしまった結果、こうなった次第である。

 

 

「……あ、あの、日の神様」

「ん?」

「そ、その、どのようにして陽動をするのでしょうか? お、俺でも手伝えそうな事でしたら頑張りますので、なんなりと!」

 

 

 まあ、何時までもグチグチしていても始まらない。

 

 終わったら見捨てたやつらに飯を奢らせる事を誓いつつ、村田は……先ほどから右に左に首を傾けて悩んでいる彼女へ、単刀直入に尋ねた。

 

 村田としては、力になれないのであればともかく、力になれる事なら精一杯頑張ろうという、言葉通りの気持ちであった。

 

 ……だが、しかし。村田は、忘れていた。そして、知らなかった。

 

 

「いや、陽動ってどうしたらいいのかなあって……」

「え、決まってないのですか!?」

「うん、好きな様にやっちゃってくださいって言われているけど、私はこういうのはしたことないから、自由にしろと言われても良いのが思い浮かばなくて……」

「はあ、なるほど……確かに、いきなり何かをやれって言われても混乱しますよね」

「そうなのだよ……目立つような事とは、具体的に何をしたら良いのか……参考までに、一緒に考えてくれないか?」

「えっと……はい、分かりました、精一杯頑張ります」

 

 

 彼女は――そう、彼女自身にその自覚が薄かろうとも。

 

 

「とりあえず、目立つことをするのは確定だとして……どうせやるならば、鬼と戦う柱たちが有利な状況を作っておいた方が良いと思うのだよ」

「はあ、仰る通りかと」

「しかし、何が柱たちにとって有利に働くのかが私には分からない。とりあえず、思いつくことが有れば、幾つか挙げてもらっていいかな?」

「そう、ですね……柱が有利と考えるなら、やっぱり雲が晴れて太陽が出ているような状態でしょうか」

「ふむ、太陽か」

「日の光には、鬼を殺すだけでなく、鬼が引き起こす『血鬼術』という異能を打ち消す事が出来ます。鬼の術は、日の光の下ではほとんどその力を発揮出来ませんから」

「そうか、そんなに……よし、では雲を晴らそう」

「え?」

 

 

 彼女は、『日の神』と人々より崇められている、この世で唯一その存在が確認されている太陽神――と思われている存在。

 

 

 その正体は、バスターマシン7号。

 

 

 今の人類の文明であれば、だ。

 

 最少クラスであっても一体で人類を皆殺しに出来る宇宙怪獣を、数十億、数百億、相手に出来る性能を秘めた、人類の守護者。

 

 『バスター・ビーム』

 

 人知を超えたその力には……雲を晴らすことなんぞ、容易い事であった。

 

 

 

 

 

 ――そして、その時……村田は、彼女の後ろ姿に神を見た。

 

 

 

 いや、神を見たのではない。

 

 神が、そこに降臨していた。

 

 人の姿に擬態していた神が、初めて……己の前に、本来の姿を見せたのだと村田は理解した。

 

 それは、太陽のように輝いて、炎のように燃えて揺らめく真紅の長髪。

 

 それは、太陽のように輝き、日の光が具現化したかのような白き身体。

 

 全てが、神々しかった。同時に、ああやはり貴女様は本当に日の神様なのだと、村田は心より理解した。

 

 日の神より放たれた光の束が、どんよりと広がる雲に突き刺さる。

 

 一拍遅れて、ほわっ、と……空に大きな穴が開かれたかと思えば、目に映る範囲の全てに光が降り注いだ。

 

 それは、幻想的な光景であった。

 

 生まれて初めて、目を奪われた。人知の及ばない美しさに、村田は心を奪われてしまった。

 

 

「いちおう、鳥とかに当たってないか見てくるね」

 

 

 だから……その言葉と共に、姿を見せた青空の向こうへ、ふわりと……シュン、と不思議な音と共に飛び立って行くのを。

 

 

「……お館様……勝てます。鬼殺隊は、必ず無惨を倒せます。日の神様と共に、無惨を……必ず、無惨を……!」

 

 

 手を合わせ、涙を流しながら……ただただ、天が味方に付いてくれた幸運に、震える事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 ――鳥とか隕石とかにも当たっていないから、ヨシ!

 

 

 そんな思いで、ひとまず何事も無い事を確認し終えた彼女は、雲海の上にて大きく胸を撫で下ろしていた。

 

 いちおう、細心の注意を払ったつもりではある。しかし、何事もイレギュラーが発生するのが常。

 

 直撃はしなくとも、余波を受けて失神したり、方向感覚がマヒしたり、何か起こっても不思議ではない。

 

 なので、急いで空の上へと飛んだ彼女は、その勢いのまま影響範囲を探り……何事もなく宇宙にてビームが四散し、消え去ったのを確認した……ところである。

 

 

「……おお、何だか人が集まっているじゃないか」

 

 

 とりあえず、次は何をしようかと考えながら施設を見下ろすと、何やら建物の中からワラワラと人々が出て来ているのが見える。

 

 この程度の距離、バスターマシンの前では目の前に居るも同じ事。

 

 出てきた人々……どう見ても信者なのだが、彼らは慌ただしい様子で互いの顔を見合わせ、空を見上げ、己を……いや、開かれた青空を指差している。

 

 考えなくても分かるし、唇の動きを見なくても想像がつく。

 

 突如雲を晴らして光が降り注いだ事で、不審に思った信者たちが出て来て……で、ぽかんと開かれ顔を覗かせた青空を見て、驚いた……といったところか。

 

 さて……とりあえず、彼らの注意を引くことは出来たが……後は、それをどれぐらい維持できるか、だろう。

 

 

(う~ん、柱たちがそろそろっと中に入って行っているけど……このままだと、そのうち彼らも中へ戻ってしまう)

 

 

 いくら珍しい光景とはいえ、10分も15分も全員の興味を引き付けられるかといえば、そんなわけがない。そのうち、飽きてしまうのは当然の流れ。

 

 しかし、そうなってしまうのは困る。鬼との戦闘がどれほど掛かるかは不明だが、さすがにそんな短時間で終わるわけがない。

 

 最低でも、30分……出来る事なら、1時間ぐらいは彼らの注意を引き付けておきたいが……さて、どうしたもの……あっ、そうだ。

 

 

(そういえば、バスターマシン7号は、太陽系を護る絶対防衛システムへとアクセスし、組み合わせることでダイバスターと呼ばれる集合体に成れた覚えが……)

 

 

 ふと、彼女は思い出す。

 

 

 彼女の、この身体が本来活躍した、『トップをねらえ2!』の劇中にて登場した、人類が生み出した最強の決戦兵器。

 

 それは、太陽系そのものを覆い隠すようにして無数に広がる防衛兵器、『バスター軍団』。その、バスター軍団にて建造する、集合構造体。

 

 バスターマシン7号を中核とし、数千億機にも及ぶバスター軍団を集合させたその身体は、全長10000kmを越える……作中においても、最強最大の人型兵器である。

 

 いちおう、構造を変えれば人形以外にもなれるらしいが……この場において重要なのは、見た目だ。

 

 劇中とは違い、この世界の彼女にはバスター軍団はいない。製造しようと思えば出来るが、今から作ろうとすれば……どう頑張っても間に合わない。

 

 しかし、見た目だけならば……全長数十メートルぐらいならば、取り繕うだけならば、ギリギリ間に合う。

 

 戦闘能力は皆無だが、問題はない。ハリボテのように継ぎ合せても、遠目からはバレないだろう。

 

 というか、いざとなったら全身を光らせて誤魔化せば……ヨシ!

 

 

 『フィジカルリアクター』

 

 

 躊躇している暇はないので、超特急で作業を進める。

 

 さすがに地上より見える位置だとバレる可能性があるので、一旦宇宙へ――そうなれば、人目を気にする必要はない。

 

 作って、作って、継ぎ合せて、継ぎ合せて、形を作る。

 

 装備は一切必要ない。兎にも角にも見た目を最優先で、中身はスカスカ。表皮(装甲)を剥がせば、骨格がそのまま露わになるような状態だ。

 

 

 そうして、所用時間……3分12秒。完成したダイバスター(張りぼて)は、中々に出来が良かった。

 

 

 全長、約50メートル。見た目は、ダイバスター……ではなく、彼女のサイズをそのまま大きくしただけだ。

 

 残念ながら、塗装の問題や造形を思い出しながら作る時間はない。ゆえに、現在の自分の姿をそのまま拡大したようなものだ。

 

 中はスカスカの空洞なので、これで宇宙怪獣と戦おうものなら4秒ぐらいで粉々にされてしまうぐらいに脆い。

 

 しかし、張りぼてとして使うには十分。いちおう、内部の構造は透けて見えないように細工もした。後は、2,3時間ぐらい誤魔化せれば、それで良いのだ。

 

 

(よし、後は私が中へ……うわ、動かしにくい……)

 

 

 早速、コントロールをする為に中核として内部に入った彼女は……直後に、動かし難さに顔をしかめる。

 

 まあ、関節を含めて何もかもが低品質。ある程度動くだけでも御の字か……そう思いながら、彼女はダイバスター(張りぼて)にリンクし、視界を同調させた。

 

 

 

 

 

 

 ――その日、『万世極楽教』の信者たちは、神を見た。

 

 

 

 最初は、曇り空に生じた異変。どんよりと、今にも雨が降り出しそうな空だったのが、突然、ぽかりと穴が開いたのである。

 

 ただ、穴が開いただけでは、驚きこそすれ、信者たちもそこまで気には留めなかっただろう。

 

 せいぜい、知らぬ間に晴れ間が覗いていたかと思うぐらいで、このまま晴れてくれたら良いなと話を流されていた。

 

 しかし……この時ばかりは、事情が違った。

 

 何故なら、数人の信者が偶発的にも目撃したのだ。

 

 光の柱と共に、雲に大きな穴が開いたのを。

 

 一瞬、見間違いかと誰もが思った。だが、実際に空に穴が空いて、その向こうより日差しが降り注げば……それが、只事ではない事に彼らは気付く。

 

 教祖に声を掛けに行くべきか……いや、それよりも、何が起ころうとしているのか。

 

 それを知る為に、手が空いている者はみな……いや、手が空いていなくとも、只事ならぬ異変に、誰しもが靴すら履かないままに飛び出し、空を見上げた。

 

 

 

 

 ――そして、彼らは見た。天より降臨する、神の姿を。

 

 

 

 

 神は、人間なんぞ比べられないぐらいに巨大であった。

 

 その身体は光り輝き、太陽のように朱く輝く髪が揺らめいて、美しいと思う事すら不敬に思わせてしまうような、美しい女神の姿をしていた。

 

 神は、地上に生まれいずる如何なる命よりも優しかった。

 

 人間であれば気にも留めぬ命すらも慈しむかのように、その足は地上を踏まず。雄大に広げた腕は、まるでこの世の命と嘆きを受け止めるかのようで。

 

 

「――ひ、日の、日の神様だ」

 

 誰かが、ポツリと言った。

 

 

「な、なんと神々しい……」

 

 誰かが、静かにその場に膝をついた。

 

 

「日の神様だ……日の神様が、我らの下に降臨なさった!」

 

 誰もが、手を合わせた。深く、深く、深く、何度も頭を下げた。

 

 

「日の神様……ああ、日の神様だ……ああ、ああ、ああ……」

 

 誰もが、涙を流した。誰もが、それ以上の言葉を出せなかった。

 

 

 この場に居る誰もが……いや、万世極楽教に入信している誰もが、辛さや悲しみから逃れる為に、この宗教へと身を浸した。

 

 事情も経緯もバラバラな彼らにとって共通するのは、只一つ。もう、これ以上の苦しみを味わいたくない、逃れたい、その一心であった。

 

 

 ……そんな、迷える者たちの前に、日の神が降臨した。

 

 

 この場に居る誰もが、御伽噺や絵巻物に記され、様々な逸話と共に伝えられた、実際には見聞きした覚えのない存在であった。

 

 一年に一度、『日の神を見たぞ!』と鼻息荒く夜空を指差す者が現れるぐらいの、実在すると信じてはいても、心の何処かで実在していないのではと疑う……そんな、存在。

 

 それが、今、目の前に居る。人知を超えた存在として、自分たちの前にその御姿を見せてくださった。

 

 

 

 

 ――日の神様は、我らを見守ってくださっていた!

 

 

 

 

 その思いが、彼らの心を幸福へと導いた。

 

 その思いは時間と共に飛躍的に増大し……5分と経たないうちに、動ける人間は全て施設の外に出て来て、神を見上げ、涙を流す。

 

 

 

 『何故、人は痛み、悲しみ、苦しむのでしょうか』

 

 

 

 そして……彼らにとっては二度と忘れられない、夢のような一時が始まった。

 

 

 

 『それは、生きているからです』

 

 『ならば、死を迎えれば楽になるのか』

 

 『確かに、それらは消えるでしょう』

 

 『しかし、真の意味で消えるわけではありません』

 

 『ただ、見えなくなるだけです』

 

 『痛みも、悲しみも、苦しみも、変わらずそこにはあるのです』

 

 『けれども、死を迎えた者たちには何も出来ません』

 

 『魂となってしまった者たちはもう、何も成し得ません』

 

 『死した者たちが出来る事は、生きている者に語りかけるだけ』

 

 『ただ、それだけ。ただ、見守るだけ』

 

 『どれほどの心残りがあろうとも、何も出来ません』

 

 『故に、生きなさい』

 

 『痛くても、悲しくても、辛くても、生きなさい』

 

 『生きる事に、理由など必要ないのです』

 

 『誰かに認められる必要など、本来は無いのです』

 

 『しかし、人は生きる理由を他者に求めます』

 

 『人は、自分が思うよりも寂しがり屋なのでしょう』

 

 『寂しいから、誰かを求める。寂しいから、知ろうとする』

 

 『求められないのは苦しく、寂しいのも苦しい』

 

 『故に、生きる事は辛くなる。辛いから、逃れたくなる』

 

 『けれども、それでも、生きなさい』

 

 『生きている間に成し得る事は星の数ほどにあります』

 

 『ですが、死してから成し得る事は一つとして存在しません』

 

 『何も成し得る事は出来ないと、思うのは間違いなのです』

 

 『貴方にとっては路傍の石を蹴る程度のことであっても』

 

 『それは巡り巡って、別の命を助ける事もあります』

 

 『これだけは、覚えておくのです』

 

 『たとえ、世界の全てが貴方を否定し、貴方を追い出しても』

 

 『私が、貴方を見守っております』

 

 『だから、精いっぱい生きなさい』

 

 『心の良心に従って、胸を張って生きなさい』

 

 『死を迎える、その時まで』

 

 『命の宿命に従って、その命の旅路を終えるまで』

 

 『私は、待ちましょう』

 

 『貴方たちが精いっぱい生きて、私の下へ来る時まで』

 

 『私は、待ち続けましょう』

 

 『そして、輪廻を巡り、貴方たちの命が新たな旅路へと向かう、その時まで』

 

 『私の下で、安らかに……眠りなさい』

 

 

 

 それは、迷い傷ついた彼らにとって……正しく、慈雨の言葉であった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、そんな彼らの視線を一心に集めている、ダイバスター兼日の神様(笑)はと言うと。

 

 

(これ、それっぽいよね? それっぽく演説っぽいこと出来ているよね? ね? ね? ねえ!?)

 

 

 1人、ダイバスターの中でテンパっていた。

 

 いったい、どうしてテンパっているのか……それは単に、ダイバスター状態で登場した後の事を、何一つ考えていなかったからである。

 

 お前どうしてそんな大事な事を……と言われそうだが、やってしまった以上はどうしようもない。

 

 自覚していなかったが、彼女も色々といっぱいいっぱいだったのだ。とりあえず、ドーンと登場すれば、後は流れでどうにでもなると軽く考えていたのだ。

 

 当然ながら、そんな軽い考えで物事が上手く行くなら、誰も苦労はしない。

 

 

 確かに、登場してすぐは上手くいった。

 

 

 全長約50メートルという今の文明レベルでは巨大すぎるダイバスターの姿は、信者たちの注意を完全に奪った。

 

 だが……分かってはいたが、何時までも注目を引き付けてはいられない。

 

 やはり、変化の無い状態が続くと人は慣れてしまう。

 

 その証拠に、ほとんどはダイバスターの姿を見てその場に膝をついたが……立ち上がり、施設の中へと戻ろうとする者が3人ほど。

 

 

 これはマズいぞと、彼女は焦った。

 

 

 3人や4人や5人ぐらい、既に潜入している柱たちが瞬時に気絶させる事ぐらいは容易いだろうが……問題なのは、中に入っている鬼だ。

 

 鬼は例外なく狡猾で、どんな汚い手でも使うと鬼殺隊より聞いていた。

 

 ならば、運悪く正体を出した鬼に見つかれば、人質なり何なりに使われる。そうならなくとも、食い殺されて回復の材料にされる可能性だってある。

 

 

 ならば……どうする?

 

 決まっている……どうにかして、注意を引き続けなければ。

 

 

 そう考えた彼女は……唯一、信者たちに対して行える……『言葉』にて、注意を引く事を選んだ。

 

 まあ、ダイバスターは中身張りぼてだから、動こうと思ってもまともに動けないから、言葉以外で出来ることは皆無なんだけど……で、だ。

 

 とりあえず……イメージとしては、カウンセリングだ。

 

 相手を否定せず、かといってむやみやたらな肯定もしない。

 

 ただ、そうやって悩み傷つくのも悪い事ではなく、それもまた生きる事なのだと……そんな感じで、上から目線でそれっぽい言葉を並べてみた。

 

 そのおかげか、あるいは、ダイバスターという超常的な姿に感動したのかは不明だが……結果的には、釘づけに出来た。

 

 

(……しかし、鼻水びしゃびしゃ垂れ流しながら拝まれると、罪悪感が凄い……ごめんね、私ってばそんな大そうなアレじゃないから)

 

 

 信者に対して、心の中で謝り……次いで、ふと、思う。

 

 

(……ここはもう大丈夫そうだし、ちょっとぐらいは様子を見に行った方がいいかな?)

 

 

 基本的には手を出さないと決めてはいるが、かといって、見殺しになる結果になる可能性を放置するのは……正直、後味が悪い。

 

 

(見た所、全員動いているから誰かが戦闘不能になったわけではなさそうだけど……)

 

 

 とりあえず、ダイバスター内にてスキャンをしてみる。

 

 すると、動きが止まっている(つまり、負傷して動けなくなっている)者はいないのが分かる。

 

 しかし、このまま全員が無事に事が終わるかといえば、誰も断言は出来ない。

 

 でも、種族『縁壱』の可能性が考えられる富岡義勇が居る時点で、心配する必要は……でも、万が一の可能性が……いや、でも、種族『縁壱』だぞ?

 

 

(でもなあ……う~ん、実際に見たわけでもないし……)

 

 

 実力の程は知らないが、耀哉たちからの話では……相当に強いとは耳にしている。

 

 少なくとも、ここ数十年の間では間違いなく最強の隊士だとも……だから、心配の必要は……う~ん。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………縁壱は無事でも、他の者たちは違うし……様子だけでも、いちおうは見ておくべきか。

 

 

 そう、結論を出した彼女は、早速ダイバスターより離脱する。もちろん、外からは分からないように、足元からこっそりと。

 

 自律機能の無いダイバスター(張りぼて)は、そのままだとバランスを崩して眼下の森をベキベキとへし折りながら倒れかねない。

 

 なので、『フィジカルリアクター』にて製造した装置を内蔵させ、外部より無線にて制御出来るように改造する。

 

 ついでに、音声装置も一緒にセット。

 

 これで、只でさえ張りぼてで危ういというのに、信号の受信状況によってはそのまま倒れるという更に危うい状況へと悪化した。

 

 まあ、ダイバスターの周囲を分厚い鋼鉄で完全に囲うぐらいしないと信号の遮断は不可能なので、現時点では心配するだけ無駄だが……さて、と。

 

 信者たちに見つからないよう木々の下を低空飛行しながら、施設へ。

 

 鬼殺隊が潜入した時と同じルートを進み、スキャンを随時使用して、誰にも見つからないまま奥へ進み、地下へと潜り……で、到着。

 

 件の鬼(教祖の事)は、地下の奥……おそらくは宗教的な意味合いが強い、祭壇と思わしき場所に居た。

 

 出入り口は、突入の際に鬼殺隊が壊したのだろう。

 

 扉がへし曲がっていたり切られていたり、何とも酷い有様だが、室内の方がもっと酷い有様で……相当な戦いが繰り広げられて……ん?

 

 

(鬼殺隊の者たちに囲まれている、あの男が鬼なのは分かったが……どうにも様子が変だな)

 

 

 教祖の鬼は、鬼らしく(らしく、という言い回しも変だけど)珍妙な姿をしている。

 

 見慣れぬ衣服もそうだが、頭から血を被ったかのような、赤色が入り混じった金髪の……ふむ、目玉に『上弦』だとか『弐』だとか有るが、ちゃんと人の形をしているだけ、マシか。

 

 

 で、その鬼だが……何だろうか、これは。

 

 

 直接近付くと義勇に勘付かれそうなので、スキャンにて詳細な様子が確認出来る位置より状況を見た彼女は……軽く小首を傾げた。

 

 

 有り体にいえば、戸惑っている。誰がって、あの鬼殺隊が、だ。

 

 そして、肝心の鬼はと言えば……何だろうか、酷く痩せこけている。いや、痩せているなんて話じゃない。

 

 

 まるで、骸骨に薄皮を張りつけたかのような、異様な痩せ方だ。鬼だからなのかもしれないが、顔色も青白くて、まるで精気を感じられない。

 

 それでいて、目が笑っていない。口元は笑っているのに目だけは笑っておらず、かといって、鬼殺隊に抵抗する素振りはない。

 

 諦めている……というわけでも、なさそうだ。

 

 抵抗の機会を伺って……う~ん、そのようにも見えない。おそらく、鬼殺隊も、そんな鬼の異様な態度に、罠を疑って警戒している……ん?

 

 

 『――出来ないというのはですね、嘘吐きの言葉なんだよ』

 

 

 鬼殺隊の皆様に倣って、彼女も動向を伺っていると……唐突に、鬼はそんな事を呟き……さらに、言葉を続けた。

 

 

 『――出来ないというのはね、途中で止めてしまうから無理になるんだ。途中で止めなければ無理じゃなくなるんだよ』

 

 『――鬼に睡眠は必要ない。そもそも、必要ないってことは、疲れていないってこと』

 

『――365日間、朝な夕なと働いても眠くならないのは、それだけ怠けているってことなんだ』

 

 『――俺に言わせれば、出来ないのは本気でやってないから出来ないだけなんだ』

 

 『――365日24時間死ぬまで働け。それが、働くってこと。休みが、人間にとって幸せなのかな?』

 

 『――鼻血を出そうがブッ倒れようが、無理やりにでもやれば、それは出来ない事じゃなくなるんだ』

 

 『――本当の本当に本気になれば、いちいち肉が口に入るわけがない。腕の一本や二本かじって、それで十分』

 

 『――あの御方への“ありがとう”、掛けられる労わりの言葉、その感動だけで生きていけるんだよ』

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………え、こいつ、え、なにコイツ?

 

 

 ぞぞぞっ、と。

 

 

 思わず、彼女は背筋に怖気が走った。

 

 スキャン越しに見やれば、鬼殺隊の柱たちもまた、意味不明な言動に対して、本能的な恐怖を抱いているようだ……と。

 

 

 『――お前を切る。何か、言い残す事はあるか?』

 

 

 柱の中でも、冷静さを保っている義勇が刀を構える。さすがはやつの子孫(推測)だ、常人には出来ない事をあっさりやってのける。

 

 

『……言い残すこと?』

『無いのであれば、直ちに切る。何か、あるか?』

『何も、ないよ。何も、考えたくない……無になりたい……』

『一つぐらい、あるだろう』

『……一つ……一つ……そうだな』

 

 

 ぽつり、と。溜め息にも似た、『あ、そうだ』その言葉と共に。

 

 

『もし、生まれ変わる事があるなら……次は、貝になりたい』

『貝に?』

『深い海の底で、岩にへばりついて……何も考えず、そのまま寿命を迎えたい』

『……それが、最後の言葉で良いのか?』

『うん、いいよ……』

『……そうか』

 

 

 その言葉と共に、ひゅん、と。

 

 残像すら確認出来ないままの、一瞬の風切り音。

 

 ふわり、と。

 

 義勇の両足が、鬼の背後にて着地した……その時にはもう、ぽろりと鬼の頸は落ちていて。

 

 

 『――ああ、これでゆっくり眠れる』

 

 

 にっこり、と。

 

 それはそれは嬉しそうな顔で……灰になり、塵となって……この世から消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………こうして、今回の任務は全て終わった。結果は考えるまでもなく、全て大成功である。

 

 

 何事も無く天へと還る(まあ、フリですけど)ダイバスター。

 

 何処となく神妙な面持ちの柱たちに、鬼より採取した大量の血液。

 

 様子が異なることに首を傾げつつも、鬼舞辻無惨攻略へと本格的に動き出す珠代と愈史郎。

 

 そして、来るべき決戦に備える為に始まった特別な訓練、『柱稽古』。

 

 それは、柱より下の階級の者たちが、柱を順番に巡って稽古をつけてもらえる……というもの。

 

 その目的は、隊士たち全体の能力の底上げと……柱たちの援護。すなわち、最強戦力である『柱』の消耗を極力抑えるため。

 

 鬼舞辻無惨を確実に仕留める為に、下の隊士たちが命を賭して柱たちの消耗を抑え、万全の状態で戦わせる……いわば、捨て石。

 

 普通に考えれば、戦う下の者たちの士気は下がるところだ。何せ、肉の盾となり柱を護れ……そう言っているのだから。

 

 だが、隊士の誰一人、士気が下がる者は居なかった。弱音こそ零すが、稽古から逃げ出す者はほぼ皆無であった。

 

 何故なら、隊士たちの目的は只一つ。怨敵、鬼舞辻無惨の討伐……ただ、それだけ。

 

 己の人生全てを使ってでも、必ずヤツを殺す。その為ならば、それこそ己の命一つくれてやる……その一心。

 

 

 ――決戦の時は、近い。

 

 

 誰もが、言われずともそれを察していた。

 

 誰もが、最後の戦いが始まる事を予感していた。

 

 誰もが……少しずつ、覚悟を固めていった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな、復讐者たちの中で……ただ1人。

 

 

(鬼舞辻無惨……手下である鬼すらも、あそこまで使い潰すとは……なるほど、鬼殺隊という組織が出来るだけでなく、長き時に渡って恨みが消えることなく積もり続けるわけだ……)

 

 

 与えられた、部屋にて。

 

 

(……ワープは使わないけど、あの空間への通路ぐらいは……あいつにだけは、次を与えては駄目だな)

 

 

 彼女は……決戦の時が、耀哉から攻め込む時が来たと知らせが来る、その時を……待っていた。↓※ただし、自力で。3日事に報告要、 3日毎

 

 

 

 




 ―――――――――――――――――




 とある宗教団体の教祖を務める鬼の業務。全て、無惨の命令により拒否権無し。


 1.鬼を増やし、場合によっては鬼を減らす
※ただし、多様性を確保するため、一つの村や集落などでは1人ずつだけ。相手が血に耐えきれずに死ぬと、罰として上弦の鬼ですら悶え苦しむほどの強烈な激痛が半日与えられる。

 2.日の呼吸の素養がある者を殺す
※ただし、自力で。時間が無くて探せないは言い訳。7日間ごとに1人殺せないと、同じく半日ほど激痛でまともに動けなくなる。現在、1人も達成出来ず。

 3.青い彼岸花を探す
※ただし、自力で。3日事に報告要、出来ない場合は強烈な激痛が半日。出来ても内容次第では激痛半日。現在、手掛かりは一つも得られていない。

 4.ある程度強くなった鬼を、無惨の下へ送る
※これは、少しでも『お労しやロボ』の動きを阻害させるため。しかし、この作業の際、胸を『お労しやロボ』に切られ、思い出すたびに全身が震えてしまうとか。

 5.鬼殺隊の動向を探り、異常があれば無惨に知らせる
※ほとんどの場合、自ら赴いて解決する。ただし、最近は鬼殺隊の平均的な実力が高く、疲弊している現在の教祖では手傷を負わせるのが精いっぱい。

 6.下弦の鬼の統率
※下弦の鬼が怠けている(無惨の基準で)場合、連帯責任として教祖も激痛を半日。下弦の鬼が絶望して自殺した場合、24時間の激痛タイム

 7.無惨の苛立ち発散のサンドバック
※少しでも無惨がイラついたら、不定期に激痛タイム。これにより、教祖は毎日24時間緊張感のあるフレッシュな気分が続いている



 基本的に、無惨より与えられている任務はこの7つ。



 これによって、教祖は食事の回数が一日一回、平均所要時間6秒という早食いを習得。

ただし、激痛が始まると食事が出来なくなるので、食事は15日に一度、腕一本を食すのが平均的なサイクルとなっている。

 昔は人の心を知りたいと思っていたらしいが、最近は心を知る事よりも、何も考えたくないと思うようになっている働き者の鬼である。


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