デンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン……   作:葛城

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コメントに時々ありました、『富岡義勇』のやつ
あれ、わざとやっています

元のキャラとあまりに違う&縁壱の血筋(疑惑)という二つの事から、縁壱だから1足したという安直な理由からです(いちおう、他にも理由が一つあります)

なので、違うキャラなら無一郎 → 無二郎 みたいな感じになっていた可能性もありました



第十話: 最初で最後の攻勢

 

 

 

 

 ──その日、その時。

 

 

 

 彼女は、ちょいと気紛れに部屋を出て……どういうワケか、身を寄せている蝶屋敷の女たちと一緒におやつを頂く事となっていた。

 

 正直、彼女自身も何でそうなったかは分からない。

 

 ただ、タイミングと流れと一緒にお茶をしたいという胡蝶カナエのお願いによって、そうなったということだけは理解していた。

 

 不本意ながら神様扱いされることの多い彼女、これには大喜び。何故かと言えば、蝶屋敷にて働く者たちは皆、麗しい美人ばかりだからだ。

 

 お前まだ男の感性が残っているのか……そう思われるような反応だが、少し誤解がある。

 

 確かに、この身体になる前の彼女(正確には、前の世界)は男である。しかし、そんなモノは月日の流れの中で、すっかり色あせている。

 

 おそらく、バスターマシン7号という身体を得た影響もあるのだろう。

 

 元男という感覚は今も残っているし、『女』という存在に目を引かれるのは事実だが……それでも、以前のソレとは根本から異なっている。

 

 

 ──言うなれば……アレだ、美しいモノを遠くから眺めるような感覚だろうか。

 

 

 あるいは、ヨチヨチと四つん這いだった赤ん坊が、ようやく二本の足で立ち上がった瞬間を目にしているような感覚……だろうか。

 

 どうしてそんな感覚になるのかって……それは何と言っても、彼女が昔を知っているからだ。

 

 

 というのも、だ。

 

 

 日本のみならず、大陸を渡り歩いていた(時には飛んでいた)時、彼女は……それはもう、幾つもの死を目撃した。

 

 前世の事を抜きにしても、現在の大正時代の事を抜きにしても、本当に昔は人が些細な理由で死んだ。

 

 他人や動物に襲われたとか、それだけが理由ではない。あまりに信じ難い迷信によって、大人も子供も次々に命を落としていった。

 

 現在では誰も信じないだろうが、昔はとある民族の尿が虫歯の予防になるとか、傷口には馬糞を塗ると止血になるとか、病は精霊の力を借りて治すとか、そういうのが本気で信じられていた。

 

 

 だから、大人になった男女はすぐに子供を作った。

 

 言い換えれば、大人ですら本当に些細な事で死ぬのだ。

 

 

 前世と同じように成人してから交際を重ねて……なんてまだるっこしい考えでいたら、両方とも死亡してしまう可能性が出てくるのが当たり前だった。

 

 おまけに、産んだ子供が成人する割合は半分を切っていた。10人産んで、5人成人出来れば御の字……彼女の知る昔は、そんな時代だったのだ。

 

 故に、彼女は……ちゃんと歳を重ね、無事に大人へと成ろうとしている彼女たちの姿を眺めているだけでも嬉しかった。

 

 

 なので、相手が少女だと嬉しいというのは、アレだ。

 

 

 どっちも好きだけど、『子犬』と『子猫』、強いて選ぶならどっちが好きかと尋ねられて、片方を選ぶ程度の感覚。

 

 その中でも美人という形容詞が付く理由は……毛並みの色合いが好みとか、長毛とか短毛とか、そういう程度の話である。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 蝶屋敷にて入院している者の世話、薬などを受け取りに来た隠(かくし:要は鬼殺隊の裏方)への対応、諸々の日常的な業務を済ませた、午後。

 

 空は、晴れ晴れ。ぽかりと広がる穏やかな時間と、たまたま手元に来た茶菓子……それを前に、蝶屋敷の長である胡蝶カナエが、『日の神様も!』というわけであった。

 

 

 彼女としては、誰かとお茶をするのは本当に久しぶりである。

 

 

 どういうわけか、どいつもこいつも己が傍に来るとカチコチに固まってしまうから、これまで遠慮していたが……相手から誘ってきたのであればと、承諾したわけ……なのだが。

 

 

「──怒りを胸に秘めてはなりません。怒りは、己を支える足場であり、己を動かす原動力でもあるのですから」

 

 

 これまた、どういうわけか……彼女は、蝶屋敷の女たちを前に……謎の演説を行う。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………いや、違うのだ。これは、彼女も不本意なアレであった。

 

 

 

 そもそもの流れとしては、だ。

 

 

 

 まず、お茶会(おやつタイム)に集まったのは、発起人である胡蝶姉のカナエと、その姉の行動にちょっとばかり緊張している、妹のしのぶ。

 

 

 栗花落(つゆり)カナヲ、神崎アオイ、寺内きよ、中原すみ、高田なほ……ここまでは、彼女たちが順番に自己紹介してくれた。

 

 

 カナヲは、名字こそ違うが胡蝶姉妹の末妹という立場。アオイ・きよ・すみ・なほの4人は、戦えるだけの実力がないので、後方支援としてこの蝶屋敷に住み込みで働いているとのこと。

 

 後は、『緊張し過ぎて何も言えなくなっている』のと、『当人が自分で名乗りなさい』というしのぶのお叱りによって、現状では名無しのまま参加となっている少女が3名。

 

 

 いわゆる、継子(つぐこ)(鬼殺隊用語、らしい)と呼ばれている内弟子らしい。

 

 

 前髪を綺麗に横一線に整え、両サイドをお団子にした、水色の髪飾りの少女。

 

 オールバックのポニーテールが似合っている、桃色の髪飾りをしている少女。

 

 真ん中から綺麗に左右に分けた、ボブカット。緑色の髪飾りを付けた少女。

 

 

 全員、可愛らしい顔立ちをしている。これで、ガチガチに固まっていなければ良かったのだが……話を戻そう。

 

 

 お茶会は、順調(という言い方も何だけど)に進んだ。

 

 最初は取り留めのない世間話に始まり、流行の衣服がどうとか、どこそこの店が美味しいとか、本当に取り留めのないモノばかりであった。

 

 

 ──う、うう、ううぅ……! 

 

 

 その流れが変わったのは……緊張しっぱなしであった名無しの3人の内の一人が、限界に達してポロポロと涙を流し始めたのがキッカケであった。

 

 彼女としては、そこまで緊張させてしまう事が気まずくて堪らなかったが……涙を流している当人は、もっと気まずい。

 

 

 実際、胡蝶姉妹を始めとして、集まっている少女たちは泣いている子を宥めているが……それは、むしろ逆効果になってしまった。

 

 

 まあ、当人の頭の中が、今にも消えたい気持ちでいっぱいなのは想像するまでもないが……しかし、せっかくのお茶会なのだ。

 

 泣いている少女を黙って見つめるのは駄目だろうし、かといって、視線を逸らし続けるのも駄目だろうし、席を外すのはもっと悪い。

 

 

 だから、彼女は……緊張を解す意味も兼ねて、空気を入れ替えるために昔話をする事にした。

 

 

 

 内容は、悲しい話だけれども、そう複雑なモノではない。

 

 

 

 親代わりに己を育ててくれた偉大な師匠に追い付こうとするも、立ち塞がる壁に悩む少年の……生涯である。

 

 少年は、才能が無かった。努力では補えない、素質という絶対的な壁を前に苦しみ、師匠のようには成れない現実に苦悩していた。

 

 少年と師匠は、すれ違った。危険な世界よりも、日の当たる世界で生きてほしい師匠と、そんな師匠の隣を歩きたいと願う少年。

 

 すれ違うのは、当然である。そして、そんなすれ違いは……師匠の死によって、決定的となってしまった。

 

 少年は、復讐に全てを費やした。『光の世界に生きろ』と願う師匠の願いを、少年は覚えていた。けれども、少年はそれを選べなかった。

 

 憎かった。恨めしかった。何を捨ててでも、何を犠牲にしてでも、少年は復讐を果たしたかった。

 

 だからこそ、少年は修羅の道を進んだ。

 

 ありとあらゆるモノを捨てる代わりに、己が持ち合わせていなかった才能を埋めた。師匠が少年に望んでいた全てを捨てて、師匠の仇を取る為に前へと進み続けた。

 

 その結末は……命と引き換えの、復讐の完遂だった。

 

 

「……周りの人は、復讐を止めなかったのですか?」

 

 

 話し終えて、一息。

 

 改めて淹れてもらったお茶を啜っていると、神妙な面持ちで尋ねて来たのは、泣き出した少女……ではなく、しのぶであった。

 

 

「復讐の為に、協力してくれた人たちが居たんですよね? どうして、周りの人たちは止めようとしなかったんですか?」

「止めようとはしたよ。でも、あの子はもう、自分でも止められなかった。それこそ、手足を切り落とすぐらいはしないとね」

「それは……」

 

 

 絶句する、しのぶ。いや、しのぶだけでなく、彼女を除いた全員が言葉を失くしていた。

 

 まあ、そりゃあそうだ。手足を落とすってことは、実質殺すようなものだ。殺す以外に止まらないと断言されれば、それ以上は何も言えなくなる。

 

 

「何とも、ままならない話だとは思いませんか?」

「……酷い話だとは思います」

「そうだね、酷い話だ。師匠の想いも、周りの人たちの想いも、大切に想ってくれている人たちの想いも全て踏みにじって、やりたい事をやりとげた人でなしだよ」

「え?」

「ん? 何でそんな驚いた顔をするのかな? 方向性の違いがあるだけで、周りの想いに見て見ぬフリをして、やりたい事をやっているのは事実でしょ?」

 

 

 そう言えば、しのぶは……表面上は隠していたが、明らかに気分を害した様子で……いや、しのぶだけではない。

 

 他の者たちも、明らかに顔を強張らせている。例外はカナエと……ずっと無表情のままの、カナヲぐらいであった。

 

 

「結局のところ、復讐っていうのは本人の自己満足なんだよ。でもね、忘れてはいけないよ。その復讐に身を浸すというのは、貴方を想う誰かの心を傷付ける事にもなる」

「…………」

「とはいえ、それは仕方ない事なんだろうね。だって、そうしないとあの子は前に進めなかった。復讐を果たさなければ、あの子は何処へも行けなくなってしまっていた」

「…………」

「貴方たちを見ていると、時々だけど、とても哀れに思えてしまう。貴方たちの心は、ずっと、あの日から、あの夜から、止まったままなんだろうなあ……って、思うんだ」

「……日の神様は」

「ん?」

「日の神様は、私たちを……鬼殺隊を、どのように見ていらっしゃるのですか?」

 

 

 まっすぐ向けられる、視線。

 

 しのぶより、いや、全員より向けられた視線を真っ向から受け止めた彼女は……ゆっくりと、持っていた湯呑をテーブルに置いた。

 

 

「愛の為にその命を燃やし、生きる為にその愛を燃やす者……かな」

「……愛の為、生きる為、ですか?」

 

 

 意味が分からず首を傾げるしのぶに、「そうだよ、愛さ」彼女は……少年の事を思い返しながら、答えた。

 

 

「愛しているからこそ、人は命を燃やす。愛しているからこそ、想う者たちをふりきってしまう。愛というのはね、殺意よりもずっと、ずっと、ずっと……鬼よりもずっと、厄介なモノなんだよ」

 

 

 ──だって、愛も度が過ぎれば、『捧げる……』とか言い出していきなり我が子の頸を私に捧げ始めるやつが出て……止めよう、思い出したくない。

 

 その言葉を、すんでのところで呑み込みつつ……そのまま、彼女は……全員の顔を見回しながら、言葉を続ける。

 

 

「勘違いしてはいけないよ。貴方たちは、再び歩き出す為に鬼と戦っているという事を」

「もう一度……歩き出す……」

「戦い方は、人それぞれさ。でも、皆同じ。もう一度歩き出すために、もう一度生きる為に、貴方たちはここに居るんだ」

「…………」

「大丈夫、貴方たちは生きている。生きている限り、また歩き出せる。だって、それが生きている者の特権なのだから」

 

 

 そう言い終えると……彼女は、するりと席を立った。

 

 どちらへ──そう尋ねるカナエの言葉に、彼女は……にっこり笑みを浮かべると。

 

 

「お館様のところだよ……全ての決着を付ける時が、もうすぐ来るってことだろうね」

 

 

 入口より、来訪を告げる隠の呼び声が……そう告げて直後に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──無惨の能力を抑える薬の開発自体は、もう既に終わっていた。

 

 

 

 では、どうしてすぐに動かなかったのか? 

 

 それは単に、無惨を封じ込めている場所の周囲一帯を閉鎖し、包囲する為である。これは、万が一を考えての予防策であった。

 

 

 周囲の人里から距離があるとはいえ、鬼の足だ。

 

 

 疲れる事を知らない身体に加え、身体能力そのものが尋常ではない。その気になれば、山の二つや三つを駆け抜けてしまう。

 

 鬼殺隊の最高戦力である『柱』とて、限りある人間。完全に逃げの一手を取られ、持久戦に持ち込まれてしまえば、勝ち目は0になってしまう。

 

 何せ、包囲網より逃げ出されてしまったら、捕捉するのは困難。そのまま一度でも見失えば最後……また、可能性は低いが人質を取られる危険性もある。

 

 

 故に、耀哉は……かねてより、準備を進めていた。

 

 

 まず、周辺地域より(要は、回復を断つ)人間を全て他所へ移す。これで、万が一逃走された際の人質(補給)を阻害する。

 

 次に、封印されている場所の上……辺り一帯を買収し、生い茂る森林の枝葉を落とし、一部は伐採する。

 

 経済的に、後々へと響くダメージだが、手は抜けない。これを逃せば、機会は二度と訪れない……だが、あくまでも、ある一定の範囲に絞って行う。

 

 これは、無惨が逃走した際の逃げ道や場所を限定させる為。いくら無惨でも、日の当たる場所を逃げ続ける事は出来ないと考えての事。

 

 更に、それらを囲うようにして散布するのが……藤の花より抽出した薬液だ。この薬液は、鬼にとっては強烈な毒薬である。

 

 これも、要は足止めだ。ほんの数秒でも動きを遅らせる事が出来たのであれば、万々歳。効果は無くとも、わずかでも精神的なダメージを与えられても万々歳。

 

 更に更に、その散布された薬液の地点に……大きな鏡を置く。それも、いくつも。

 

 理由は、光を反射させて、少しでもより多く、より強い光を無惨に浴びせるため。一方向からだけでなく、それこそ八方向から浴びせられたならば……さすがの無惨とて、だ。

 

 そして……作戦決行日は、雲一つ無い晴天の朝。地上に出れば焼け死ぬのが確定する時間帯にて行う。

 

 

 作戦内容は、こうだ。

 

 

 鬼舞辻無惨が潜伏する空間は、おそらく空間操作系の血鬼術(けっきじゅつ)(要はスキル)を持つ配下の鬼によって管理されているというのが、耀哉の推測である。

 

 

 つまり、この配下の鬼をどうにかしない限り、最悪無惨を取り逃がす可能性が生じてしまう。

 

 なので、潜入した際に真っ先に抑えに掛かる必要な相手が、この鬼だ。

 

 上弦の鬼かどうかは不明だが、これまでほとんど情報を得られていない辺り、お気に入りとして傍に置いている可能性が極めて高い。

 

 しかし、ただ殺すだけでは駄目だ。そのまま灰になって消滅するだけならまだしも、空間そのものが崩壊して……潜入した隊士たちが生き埋めになってしまう可能性がある。

 

 どうにかして、空間が維持された状態で、無惨を仕留めねばならない。

 

 だが、頸を落としても無惨が死なない可能性がある以上は、確実に殺す為には、この鬼は絶対に討伐しておかねば……しかし、無惨を地上へと引きずり出す必要がある。

 

 

 故に、耀哉は……この鬼を利用する事にした。

 

 

 幸いにも、耀哉たち鬼殺隊は、鬼ではあるが無惨に対して強い恨みを抱き、無惨を殺す為、長年に渡って研究を続けている協力者を新たに得た。

 

 

 その協力者とは、珠代と愈史郎である。

 

 

 この二人の協力によって、無惨の能力を抑える薬を開発し、同時に、空間操作の鬼を洗脳し、空間そのものを地上へと引きずり出す方法を選ぶことが出来るようになった。

 

 その際、鬼殺隊が行うのは、無惨の注意を引き付けて注意を逸らし続ける事と、要となるこの二人……特に、鬼を洗脳する為に同行する愈史郎を守り続ける事。

 

 地上に出しさえすれば、戦況は圧倒的に鬼殺隊に傾く。無惨も攻め込まれた場合を想定して、強力な鬼を配備しているだろうが……それこそ、鬼殺隊の出番である。

 

 

 これまた、偶発的に……いや、もはや、運命なのだろう。

 

 

 そう輝哉が思ってしまったぐらいに、現在の状況は、かつてないぐらいに鬼殺隊が有利に動いている。

 

 つい先日、無惨が持つ最大戦力である上弦の鬼(?)の討伐に成功しただけでなく、『日の神様』より伝えられた情報により、それ以外の上弦と思われる鬼も討伐されている可能性が極めて高いことが分かった。

 

 対して、鬼殺隊の最大戦力である『柱』は、鬼殺隊の歴史を紐解き比べてみれば、ここ2,300年の間で最も戦力が高まった状態であると思われる。

 

 

 特に、水柱の富岡義勇がヤバい。

 

 

 何がヤバいって、いざとなれば自ら自爆して隙を作る覚悟すら固めている耀哉ですら、『もしかしたら、義勇1人だけで勝てるのでは?』と一瞬ばかり考えてしまうぐらいにヤバい。

 

 何なら、とある神様扱い(当人は否定)されている者からも、密やかに『お前、やっぱり縁壱の子孫だよね(疑いの眼差し)』と思われ、人間扱いされていないぐらいにヤバい。

 

 そして、これまで分からなかった無惨の居場所が判明し、それまで無かった新たな戦法を用意し、こちらから攻撃に打って出ることで、地の利すら得た状態で戦端を開く。

 

 これで勝てなければ、以降1000年は勝てないだろうと思ってしまう程に、千載一遇の好機であると輝哉は考えたわけである。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、出来うる限りの準備を終えた、その日。

 

 

 ついに、鬼殺隊は……その歴史上初めてであると同時に、最初で最後になるかもしれない……鬼への攻勢に動いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 『無惨ぶっ殺しに行くから、入口の封印を解いてほしい(意訳)』

 

 

 呼び出されて早々、彼女としてはまだるっこしい挨拶を交わした後で、耀哉よりお願いされた彼女は、二つ返事で快諾した。

 

 正直、恨み辛みは別として、アレは存在してよい存在ではないと彼女も考えている。

 

 他の生物と同じく繁殖するわけでもなく、死すれば命が循環するわけでもなく、ただただ他の命を食い続けるだけでなく何百年何千年と生き続ける生物なんぞ、異物も異物。

 

 しかも、生きる為に必要な数だけ殺すのではなく、ただ苛立ったとか、ただ日の下を歩けるようにとか、その程度の理由で数えきれない数の命を無作為に奪っていったのだ。

 

 縁壱も討伐失敗を悔いているような事を話していたし、鬼殺隊も無惨が死ねば、新たな一歩を踏み出すことが出来る。彼女としても、そうなってくれれば万々歳。

 

 

 だから、二つ返事で快諾した。

 

 

 少なくとも、もう向かう事はないだろうと思っていた……あの空間への道を、開くことにしたわけである。

 

 

 

 

 

 

 ……そうして、その日、その時。

 

 

 季節は、梅雨。つい先日まで雨が降っていたが、しかし、計画し予測していた通り、決行日は、空は見事なぐらいに快晴であった。

 

 ぎらぎら、と。

 

 堪らずむせてしまうほどの熱気が、日光と共に降り注いでいる。常人であれば、嫌気を覚えるような不快感だが……その場に集まった誰もが、欠片も気に留めていない。

 

 いや、それどころか、誰もが喜んでいた。何故なら、日光の強さ=鬼へのダメージが増すからだ。鬼を殺す為ならば己の命など投げ出す鬼殺隊にとって、正しく天の恵みである。

 

 きらきら、と。

 

 そして、その恵みはただ降り注ぐばかりではない。地面に生じた水溜りによって、僅かではあるが光が反射する。すなわち、鬼は天と地、両方から焼かれるわけだ。

 

 

 ──まるで、天すら味方に付いたかのようだ。

 

 誰かが、ポツリと呟いた。

 

 

 ……いや、違う。

 

 誰かが、ポツリと答えた。

 

 

 ようだ、ではない。

 

 天が、味方に付いているのだ。

 

 

 曖昧なモノではない、鬼にとっては不倶戴天の天敵である……太陽神、『日の神』様が! 

 

 

 この計画に参加する鬼殺隊の誰もが、不安を覚えている。だが、同時に、誰もが心の何処かで確信を得ていた。

 

 この戦いは──鬼殺隊の勝利に終わる、と。長き時を経て繰り返された鬼との因縁に──終止符が付くのだということを。

 

 

「……あっ」

 

 

 そう、声を漏らしたのは誰だったか。あるいは、全員が多少なりズレはあっても、声をあげたのかもしれない。

 

 

 ──その日、その時……誰もが、『日の神』を見た。

 

 

 この場に居る誰もが、多かれ少なかれ、ヒノカミ様を目撃している。大半は遠くから拝む程度の事ではあるが、中には直接会話した者もいるだろう。

 

 

 しかし……そのほとんどが、真の姿となった『日の神』を見た事はなかった。

 

 

 いや、その目で見た幸運な者ですらも、悠然と佇む日の神様や、気さくな態度を取ってくれる日の神様の姿ぐらいしか知らない。

 

 そう、誰もが初めて見たのかもしれない。

 

 まるで太陽のように燃え上がる長髪を揺らめかせながら、全身より薄く光を放つ神々しき白き御姿……様々な伝承にて残された、『太陽神・日の神様』を。

 

 

 ──ふわり、と。

 

 

 天空より降り立った日の神様は、畏怖と敬意と共に開かれた道を通る。距離にして数十メートルとない先頭には、柱を始めとして……この計画の要となる者たちが集結していた。

 

 そんな、彼ら彼女らの視線を一身に集めている日の神様は、緩やかに……漂うように足跡を付けることなく、先頭にてふわりと静止する。

 

 

 ──途端、キラリ、と。

 

 

 日の神様の両手の甲と胸に輝く、赤・緑・青の三つの宝玉。それらがひと際強くきらめいたかと思えば……変化は、すぐに現れた。

 

 一言でいえば、大地が割れた。いや、割れたというより、開かれた、の方が正しいのかもしれない。

 

 

 まるで、道だ。

 

 

 地面が盛り上がり、大地が削られ、階段が形作られ……地下へと、鬼舞辻無惨が封じられている、地下の空間へと続く道が、出来上がってゆく。

 

 

 

 ──行きましょう。

 

 

 

 その言葉は、正しく神託。誰もが、動いた。誰もが、この日、この時、この瞬間──歴史が変わるのを予感した。

 

 そうして……最初で最後となる、鬼舞辻無惨討伐作戦が……決行された。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………さて、だ。

 

 

 悲願を果たす為に戦える誰もが決死の覚悟で階段を下りて、涙と無力感に歯を食いしばりながらも地上にて待機する者たちが、交差する……その最中。

 

 

(うわぁ、怖すぎぃ……どいつもこいつも目が血走っていて怖いよぉ……)

 

 

 日の神と崇められている彼女は……正直、めちゃくちゃ引いていた。

 

 

 何と言うべきか、これはアレだ。

 

 

 はるか昔にて遭遇したが、聖戦だと言って戦いへと赴く兵士たちと同じ顔をしている。

 

 いやあ、あの時は『ちょ、おま、止めなよ』という感じで上から見下ろしていただけで、口を挟めるような状態ではなかったが……まあ、今回も口を挟める状態ではないので、同じである。

 

 

 とりあえず、一秒でも早く先へと進みたいという感じの視線をビシバシ背中に感じながらも、彼女はゆっくり地下への道を作ってゆく。

 

 

 だって、そうしないと道が崩れちゃうし……無い所に無理やり道を作るわけだし、大勢出入りするわけだから、空気の循環とかも出来るようにしなければならないわけだし。

 

 痒い所に手が届くのが『フィジカルリアクター』だけど、有効範囲が狭いという弱点があるから、どうしても彼女自身が先導して道を作る必要があるわけだ。

 

 もちろん、状況的には非常に危険である。それが彼女に通じるかはともかく、最も襲われやすい位置に居ると言っても過言ではない。

 

 そして、当然ながら……あの謎空間にて、今も縁壱ロボによって切り刻まれている無惨も、侵入者の接近に気付くわけで。

 

 当たり前といえば当たり前だが……侵入者へのカウンターを配置し、あるいは、呼び寄せるわけだ。

 

 

『嫌じゃ! もう嫌じゃ! もう嫌なのじゃ! ワシはもうあの化け物に切られとうないのじゃ!』

 

 

 それは、突然であった。

 

 彼女が作った道の途中、というより、最後方。全員が通り過ぎて、比較的手薄になっている場所にいきなり出現したのは……障子である。

 

 その障子が開かれ、奥よりぬるりと姿を見せたのは、おかっぱ頭の女鬼。6本の腕と、6個の(まり)を手にしたその鬼は、それらを──一息にぶん投げた。

 

 その勢い、正しく砲弾が如し。びゅん、と空気を貫いて進むそれは、まともに当たれば手足の一つや二つは砕けて弾けるほどの威力と硬度があった。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 

『──えっ』

 

 

 

 その毬が、隊士に当たる事はなかった。

 

 何故なら、振り返った隊士たちは誰一人動揺することもなく、実に滑らかな動きで毬を切り落とし、無効化させ──直後、女鬼の目では捉えきれない速度で一気に接近すると。

 

 

『あっ──やっと、ワシは楽になれるのじゃな』

 

 

 すぱん、と。

 

 抵抗する間もなく、その首は落とされたのであった。

 

 

 そして……それは、その女鬼だけではない。

 

 

 気付いた無惨の抵抗なのだろうが、次々に出現する障子が開く度に、新たな鬼が送り込まれてくる。

 

 けれども、誰一人……いや、どの鬼すらも、隊士1人突破する事が出来ない。

 

 

 それも、当然だ。何故なら、この作戦に参加している隊士たちはみな、厳しい稽古を突破してきた精鋭ばかり。

 

 

 故に、柱の弟子に当たる『継子(つぐこ)』ですらない、一般隊士すら一人も殺せないまま、片っ端から首が落とされてゆく。

 

 

 だが……不思議な事に、誰一人、恨みを吐き出すようなことはなかった。

 

 

 誰も彼もが、嬉しそうに笑って灰になってゆく。窪んだ頬、痩せ細った首筋、今にも折れそうな手足。

 

 何時ぞやの、貝になりたいと呟いていた鬼と似たような風貌になっている鬼たちが、笑顔と共に朽ち果ててゆく。

 

 

 それは、正しく異様であった。鬼を滅殺することに心血を注いでいる鬼殺隊ですらも、その異様さに目を剥き……次いで、無惨討伐へと意欲を燃やした。

 

 

 そうして……ついに、無惨が切り刻まれ続けている謎空間へと通路が開通し、我先にと突入した鬼殺隊が、最初に目にしたのは。

 

 縦横無尽に通路やら部屋やらが連結し、思わず目の錯覚を引き起こしてしまいそうなぐらいに入り組んだ構造となっている……謎空間、ではなく。

 

 ちょうど、鬼殺隊から見て真正面。舞台のように開けた広間の中央にて、遠目にもやる気なく仰向けになってゴロゴロしている……単眼の女鬼の傍に立てられた。

 

 

 

『本日の営業は終了しました』

 

 

 

 と、中々に達筆な字が記された……謎の看板であった。

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………はい? 

 

 

 思わず、首を傾げたのは誰が最初だったか……それは、日の神と呼ばれている彼女ですら、分からない事であった。

 

 

 

 






いつから、ブラック労働が上弦だけだと錯覚していた……?

無惨様陣営はアットホームな職場、みんなで一緒に頑張って働き、やりがいのある仕事というのが売りですから
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