デンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン……   作:葛城

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忘れたころに最終話

サラッとした終わり方だけど、長ったらしくするのも変な感じだし、逆に淡々とした終わり方がこの作品らしいかなって
無惨視点だと、直接主人公と対決したのって一度きりだし、それ以外は事前に上弦の鬼化を防いでいたって感じだし、気付いたら負けてたって感じなのかな……と


最終話: それは歴史の小さな1ページ

 

 

 鬼という存在に成ってから、おおよそ……どれほどの時が流れただろうか。

 

 

 肉のゆりかごの中で最期が近づいているのを感じ取っていた鬼舞辻無惨は……改めて、己の敗北を実感していた。

 

 

 ──私は、負けたのだ。

 

 

 そう、明確に思うようになってから、どれ程の月日が流れただろうか。

 

 既に考える事が億劫に思えるぐらいに疲れ切っていた無惨だが、不思議とそう思うようになったキッカケだけは、何時でもすぐに思い出せる。

 

 

(……そう、あの女だ。太陽の化身、日の神だ)

 

 

 そいつの事を思い返すたびに、無惨は腸が煮えくり返るほどの憤怒が湧き起こるのを感じる。

 

 出来うるならば、その身を鬼に変え、何百何千何万と生き地獄へと叩き込んだ後で太陽の下へと送り出し、その血の一滴すらもこの世には残さなかっただろう。

 

 

 だが、出来ない。

 

 

 何故なら、無惨にその力が無いからだ。

 

 あまりにも、格が違い過ぎる。文字通り、天と地ほどの差がある。

 

 無惨の力では、どう足掻いても傷一つ付けられない存在……それが、日の神だったから。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………噂で、聞いてはいた。

 

 

 太陽の化身、日の神にはけして無礼を働いてはならぬ、と。

 

 

 全てに手を貸してくれるわけではないが、実際に慈雨の如き愛をもって見守ってくれている日の神は、人間のやることにいちいち目くじらを立てたりはしない。

 

 

 ──長い時を掛けて無惨が集めた、様々な『日の神伝説』においても、それは顕著だった。

 

 

 無礼な態度を取られても微笑みで返し、刃を向けられても悲しそうに笑って夜空へと消えるだけ。

 

 日の神が神罰を下すのは、民草たちを理不尽に虐げる者たちばかり。弱い者の味方ではなくて、道理を通さぬ者に、その力は向けられる。

 

 現に、悪政を敷いて私腹を肥やしていたとある国の王は、日の神の神罰によって築き上げた全てを失った。

 

 様々な手段を用いて数と法の力を身に纏い、合法的に非道を楽しんでいたとある国の商人も、その身を塵に変えた。

 

 生きる為に命を奪う者に対して、日の神は滅多なことでは神罰を下さない。外道な手段であったとしても、それしか生きる術を持たない者に、日の神は憐れむだけ。

 

 だが、生きる為ではなく、より楽しく生きる為に他者の幸せを奪う者に対しては、日の神は容赦しない。

 

 

 ……だからこそ、無惨は己が心の何処かで神にも許されているのだと思っていた。

 

 

 己が人を食らうのは、生きる為だ。生きる為に人を食らい、食らわねば飢えてしまう。だから、仕方がないことだ。

 

 己が人を鬼に変えるのは、己が日の下を生きられるようにするためだ。弱肉強食、ただそれだけのこと。

 

 人が寒さを乗り切る為に炎を灯らせ、飢えを凌ぐために大地を削って畑に変え、時には獣の命を奪って血肉を得る。

 

 

 そこに、何の違いがあるというのだろうか。

 

 

 相手が獣か人か、食らうのが獣の血肉か人の血肉か、それだけの違いだ。

 

 日の神は、獣と人とを区別し、人が行う獣への殺生は見逃す存在だとでもいうのか? 

 

 ならば……人を食う事を許されている己は、いったい何なのだろうか……答えは、すぐに出た。

 

 

 ──己は、天災なのだ。災厄そのものであり、人がどうこう出来る存在ではないのだ。

 

 

 それならば、納得が出来る。

 

 天の神である日の神が、何時まで経っても己に天罰を下さないことに……いつしか、そう、いつしか無惨は、そう思うようになった。

 

 天災に見舞われた人々が、天災を恨み抜いて、天災に復讐しようと大地や空に向かって何時までも槍を投げたりするだろうか? 

 

 

 そんなわけがない。それと、同じだ。

 

 

 己に食われた者は、その家族は、運が悪かったと諦めるのが筋なのだ。天の配剤にいちいち腹を立てず、日銭を稼いで慎ましく暮らせば良いのだ。

 

 そう、無惨は心から思っていた……あの日までは。

 

 

(……許されてなど、いなかった)

 

 

 あの日……初めて日の神と遭遇した時、無惨は……もしかしたら、己の最後を予感したのかもしれない。

 

 

 ──ただ、気付いていなかっただけだった。

 

 ──無惨の行いに、日の神は気付いていなかっただけ。

 

 

 そうだ、日の神は一度として無惨を許してなどいなかった。

 

 ただ、無惨の存在に気付いていなかっただけで、無惨の行いに関しては前から神罰を下していたのだ。

 

 その事に気付かなかった無惨は、ようやく使えるようになった駒が突如消滅した事を不審に思い、様子を見に行って……そこで……ああ、そこで。

 

 

 ──勝てない。どう足掻いても、人が、鬼が、勝てる存在ではない。

 

 

 己の身を以て、無惨は思い知った。

 

 己は、天災などではなかったのだ。

 

 

 たかが人外の、人を食らう怪物に過ぎない。所詮は天の意思一つで塵に変えられる、矮小な人食いに過ぎないのだと。

 

 

(……ああ、温かい。そうか、日の光とは、こうも温かいものだったのだな)

 

 

 そう、幾度目になる結論を出しながら……無惨は、己に降り注ぐ光を感じると共に、己の魂が地獄の業火へと引きずり込まれようとしてゆくのを感じ取りながら。

 

 

「     」

 

 

 最後は、声一つ出せないまま、多数の者たち……鬼殺隊の視線に囲まれながら、降り注ぐ太陽の光を浴びて……長きに渡る日々を終わらせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………そうして、数多の者たちには知る事も知られる事もなかった、長きに渡る鬼退治はついに成功した。

 

 

 討伐に参加した者たちに、少しばかりの心残りが無かったといえば、嘘にはなるだろう。

 

 なにせ、結局は仇の相手へ一矢報いることなく、その相手は死んだのだ。

 

 いや、いちおうは天井を崩して太陽の光を当てるという作業をしたから、厳密には手を下したわけではあるけれども。

 

 それでも、一太刀入れてやりたかったという想いが鬼殺隊の者たちの心に湧くのは、仕方がないだろう。

 

 

 それほどに、鬼舞辻無惨という化け物は恨まれていたのだ。

 

 

 彼が鬼と成り果ててから約1000年。記録に有る限りでは、それほどに長く生きた存在だったらしい。

 

 だが、それがいったいどうしたというのだろうか。1000年生きたから、許せとでもいうのだろうか。

 

 一度として許されたことなどない者たちへの、積もり積もった恨みの高さは……とてもではないが、言葉で言い表せられるものではない。

 

 

 しかし、誰もが……そんな想いを呑み込んだ。

 

 

 それは、鬼殺隊に限らず、日本において広く信仰されている……『日の神様』の御言葉があったからだ。

 

 

 

 ──貴方たちは恨みを晴らす為に生きるわけでも、死ぬのでもない。

 

 ──明日を生きる為に、明日へと踏み出す為に、決着を付けなさい。

 

 

 

 その言葉は、不思議なくらいに彼ら彼女らの凍り付いていた心の一部を溶かしていった。

 

 そうして、初日こそ複雑な顔をしていた者が多かったのだけれども……三日も経つ頃には、誰もが現実を受け入れ、鬼の居ない事実に笑みを浮かべるようになっていた。

 

 

 ……もちろん、鬼が全て消えたという事実を、改めて受け入れるキッカケとなった出来事が二つある。

 

 

 一つは、隊士たちの心を動かし、鬼殺隊に協力していた……愈史郎と珠代の存在だ。

 

 

 ──結論から述べるならば、二人は人間へと戻った。

 

 

 無惨を弱体化させる過程で完成させた、鬼を人間に戻す薬のおかげである。

 

 とはいえ、そうなる過程も色々と大変であった。

 

 というのも、これは結果の話なのだが……愈史郎は別として、珠代は無惨の死亡に合わせて自害しようとしていたことが直前にて発覚したからだ。

 

 

 これには、事実を知った愈史郎くん大激怒&泣き落とし発動。

 

 しかし、珠代も酔狂で自害を考えていたわけではない。

 

 

 普段なら何だかんだと愈史郎の言う事に耳を傾けるのだが、この時ばかりはとにかく首を縦には振らなかった。

 

 何故なら……昔の事ではあるが、珠代は自暴自棄になって何人もの人を食らい殺した過去があった。

 

 そう、どんな理由であれ、どんな経緯があったにせよ、珠代は無惨たちと同じく……己の為に人を食い殺した鬼なのだ。

 

 

 

 ──無惨が死ねば、無惨の手で鬼にされた己は死ぬだろう。そうならなかったとしても、おそらく長く生きられず、直に弱って死ぬ可能性が極めて高い。

 

 ──だが、死なない可能性も0ではない。最悪なのは、己の身体に流れる無惨の血が暴走し、理性を失くした化け物になること。

 

 ──鬼殺隊に首を落とされるのも、日の下に行くのも、どちらでもよい。ただ、役目を終えた己は死ぬのが筋であり、死ななければ申しわけが立たない。

 

 

 

 そう言われてしまえば、いくらか情が湧いてしまっていた者たちも、引き留める言葉を掛けるわけにはいかなかった。

 

 柱たちとて、同じだ。いや、むしろ、珠代の事情を知らされていた柱たちの方が、珠代の気持ちに理解を示した。

 

 それは、愈史郎とて例外ではない。

 

 泣き落としこそ発動したが、珠代が心から悔い続けているのを当人の次に知っているのは、他ならぬ愈史郎である。

 

 だからこそ、覚悟を完全に固めた珠代が、その命をここで終えようとしていることに……何も言えなかった。

 

 

『──え、いや、何言っているの?』

 

 

 だが……たった一人だけ。いや、たった一柱だけ……唯一、物を申せる彼女だけが、それに異を唱えた。

 

 

『生きる為に戦ったのでしょう? 明日へと進む為に足掻いてきたのでしょう? 諦めたら終了って、言いましたよね?』

 

『なに勝手に死のうとしているのですか? だったら、結果的に貴女を今へと繋いだ者たちの命はどうなるのですか?』

 

『貴女は、己がこの時に自殺する為に、その命が糧になったと仰るのですか? それは、鬼以上に傲慢な考えだとは思わないのですか?』

 

 

 と、いった感じで。

 

 怒涛の……それはもう怒涛の説得に、さすがの珠代もタジタジとなり。

 

 

『それでも悔いるのであれば、生きて償いなさい。己が培った医術を使い、殺した者たち以上の命を救いなさい』

 

『それは貴女にとって、苦難と苦悩と苦痛に満ちた道になるでしょう。生涯に渡って、貴女は過去の己が犯した過ちに追いかけられる日々を送るでしょう』

 

『それが、罰なのです。それこそが、貴女にとって相応しい罰なのです……ゆえに、生きるのです』

 

 

 最終的にはコレが決め手となり、根負けする形で人間へと戻り、余生を生きることになった。

 

 

 ──もちろん、これが通じたのは『日の神』である彼女の言葉あってこそ。

 

 

 さすがの珠代も、実在が確認出来る神様相手に反論出来ず……生きて償えと言われてしまえば、他の者たちも口を挟めず……その結果、珠代と愈史郎は人間として生きる事を決めたわけである。

 

 

 ……そして、二つ目は……無惨を封じ続けていた『番人』だ。

 

 

 どうやら『番人』は、珠代とは古い知り合い……だったらしい。

 

 らしい、という言い方になるのは、それを生み出した彼女が何も言わなかったから。そして、『番人』自身も、無惨が消滅したと同時にその場より動かなくなったからだ。

 

 

『彼は、もう十分に頑張った。話したい事もあるのでしょうが、そうする前に彼は黄泉に待つ奥さんのところへ戻ったのでしょう……その気持ちを、どうか酌んでやってください』

 

 

 気になる鬼殺隊たちもそうだし、珠代も話したそうにしていたが、彼女よりそう言われてしまえば……それ以上は何も言えず。

 

 

『──では、皆様方。鬼舞辻無惨もこの世より消え去った今、急な事ではありますが、私も彼の依り代と共に天へ帰ります』

 

『寂しいと思ってくれるのは嬉しい。しかし、本来はこれが普通なのです。私が口出しして良い事ではありません』

 

『今まで通り、私は見守っています。ただ、見守るだけ……貴方たちの未来は、貴方たちの手で切り開いてゆくべきなのです』

 

『……さあ、顔を上げて。もう、夜に怯える日は、来ないのですから』

 

 

 最後、言いたい事を好きなだけ言い切った彼女は、それはもう呆れる程に自分勝手な有様で……澄み渡った空へと飛び立ち、人々の前から姿を消したのであった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………とまあ、そんな感じで、だ。

 

 

 鬼殺隊は様々な事後処理を行った後で、正式に解散が決まり。

 

 労いとして、産屋敷家より財産分与が行われ、行く当てのない者は産屋敷を通じて様々な職を紹介され……そうして。

 

 

 

 

 ──長きに渡った鬼退治は、約1000年の時を経て……ここに、勝利の二文字と共に、閉幕となったわけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………さて、そうして大団円となった人々を他所に、一方その頃空の上、雲海の中では……だ。

 

 

「……また、ほとぼりが冷めるまで待つのか」

 

 

 何故か機能停止している……本当にどうして機能停止したのか作った当人すら分からない……縁壱ロボの解体作業を行いながら、彼女は……誰に言うでもなく、愚痴を零していた。

 

 

 ……いったいどうして……それは単に、己が目立ち過ぎてしまったからだ。

 

 

 無惨討伐のために致し方なかった事とはいえ、色々とやり過ぎた。いくら箝口令を敷いているとはいえ、人の口を完全に塞ぐなど出来るわけがない。

 

 鬼殺隊の者たちは分かってくれている……いや、一部ガチで崇拝している者もいたが……外部の者たちは、そうではない。

 

 

 ……そう、彼女が嫌なのは、そういう人たちなのだ。

 

 

 彼女は、のんびり過ごしたいだけなのだ。何なら、普通にアルバイトでもして日銭を稼ぎ、安宿とかで寝起きしたい。

 

 

 ──間違っても、『日の神様』だとかで崇拝されたいわけではない。深々とお辞儀されるような存在になりたいわけではないのだ。

 

 

 だが、そうするには無駄に素性と所在が知られ過ぎた。

 

 いわゆる手遅れというやつで、こうなればもう、ほとぼりが冷めるまで時間を置くしかない。

 

 

「……まあ、あと何十年か経てばパソコンとか作られるだろうし、そしたら私の事もスパッと忘れ去られて、コスプレしている女……みたいな感じで、目立たなくなるだろう」

 

 

 結局、これまで幾度となく繰り返してきた戦法に賭けるしかない。

 

 

 ──どうか、次に降りる時は私の事など忘れていますように。

 

 

 そう願いながら、彼女は……ブツブツと愚痴をこぼしながらも、縁壱ロボの解体を進めるのであった。

 

 

 




次回、番外編というか掲示板風の話で閉廷となります
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