デンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン……   作:葛城

4 / 14
強い肉盾&便利な手駒を揃えようと頑張っている無惨
「はあ、はあ、はあ……よ、良し、こいつの感性は良く分からんが壺は高く売れるから、表での生活資金の確保が出来そうだぞ(年収1000万)。加えて、また縁壱みたいなやつが出てきても逃げ切れるように色々考えたぞ!」

ワープするやつ絶対許さないマシン7号
「お前のところの壺、ワープするみたいやな……ほな、しょうがないな(物理無効・術無効・毒無効・弱点特攻・精神特攻・逃走阻害・回復阻害)、宇宙怪獣呼び寄せる可能性は根絶やしやで」

強い肉盾&便利な手駒を揃えようと頑張っている、無惨(無収入)
「う、うわああああああーーーー!!!????!?!?!?」



※本編とは関係あるのやらないのやら


第三話: ワープするやつ絶対許さないマシン

 月明かりが降り注ぐ闇夜の中。人々はおろか鳥達も眠り始める丑三つ時。その日もまた、夜空に浮かぶ雲の一部が薄らと月を遮り大地を更に闇に染める。

 

 

 未だ夜の闇を照らす照明器具(家電)が一般的ではない、この時代……人々が未だに踏み入れていない場所は数多い。しかし、確かな存在が息を潜めている場所が、一つあるとされている。

 

 それは、雲の中……すなわち、雲海の中。

 

 空を覆う雲の中に、あるいはポツリと浮かぶ雲の中に居るとされ……何時の頃からなのかは定かではないが、人々の間で密やかに、時には隠されることなく伝わっている神様の名が、一つある。

 

 

 その名は──日の神。

 

 

 日本においては太陽の化身、あるいは天照大御神の別名だともされているその神は、意外な事に、日本のみならず諸外国にもその名が知られており、一部では神の使いとして神聖視されている。

 

 けれども、日本とは違い、諸外国における日の神の立ち位置は、その国によって異なっている。

 

 

 ある時は悪魔を連れてくる邪神として。

 

 ある時は冥界の門番として。

 

 ある時は天を司る雷神の一種として。

 

 

 ……まあ、それは良くあることなのだが、そこで、奇妙な事が一つある。

 

 

 それは、どの国でも似たような供述を成されている、日の神が住まう(あるいは、居る)場所という部分だ。

 

 不思議なことに、どの国どの地域の書物や伝承にも、『日の神は雲海の中を漂い、時に悪事を働く者に天罰を落とす女神である』とされているのだ。

 

 

 特に一致しているのが、悪事を働く者に天罰を下す女神という点だ。

 

 

 邪神としてでも、冥界の門番であっても、雷鳴を轟かせる神であっても……不思議な事に、言葉や書き方に違いはあるが、日の神にはそういった善性がある女神でもあると記され、あるいは語り継がれているのである。

 

 まあ、実際にその天罰を目にした者もいるらしい……のだが、それは今はいい、話を戻そう。

 

 そういう不思議が未だに解明されていない日の神だが、共通している部分もあれば、国や地域によってバラバラな部分もある。

 

 その中でも共通して全く定まっていないのが、『日の神の姿』だ。

 

 これまた不思議な事に、その行いよりも姿形の方がバラバラなのだ。普通は絵画や石像などで姿が先に定着する事が多いのだが、日の神に限っていえば、その逆だ。

 

 

 

 ある時は、神託を授かった美しくも心優しい村娘として。

 

 ある時は、善意を食らい悪意を産み落とす、魔女として。

 

 

 ある時は、民衆の前に立つ勇ましき聖女にして天使として。

 

 ある時は、人心を惑わせ争いを招いた、傾国の悪女として。

 

 

 

 美しく描かれる時もあれば、禍々しく描かれる時もある。ある時は匂い立つような美女として描かれ、ある時は嫌悪感を想起させる悪魔として描かれ……その姿は、実にバラエティに富んでいた。

 

 ……ちなみに、日本における日の神は、『太陽のように光り輝く長髪を揺らがせた、白き衣を身に纏う美女』とされており、時折、地上に降り立つ女神として……ああ、いや、またまた話を戻そう。

 

 ……で、だ。

 

 そんな、日本どころか世界中にその名が(正確に伝わっているかは別として)知れ渡っている……当の女神様はと言うと、だ。

 

 

「……作ったはいいが、どうしよう、これ」

 

 

 雲海の中で、困った顔をしていた。全身で、これは困った事態になったぞと物語っていた。

 

 ……まさか、雲海の中で、当の女神が途方に暮れている等とは……彼女を信仰する者たちはおろか、お釈迦様すらも……夢にも思わないだろう現実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──どうやら、私はあまり物事の先見というか、後先考えずに思いつきで行動する節があるようだ。

 

 

 

 そう、彼女が改めて実感するまでに至る数十年……いや、数百年。縁壱の言う通り、まだまだ動乱が続いていたことをこれでもかという程に体感した、事実であった。

 

 そして、それは彼女自身が気付いた事(まあ、自覚するまで長かったが)ではあるが、客観的な視点から見ても、彼女にはそういった癖とも言える性質が元々有ったのかもしれない。

 

 だが……彼女の擁護をするわけではないが、ソレに関してだけならば、彼女には特に責め立てられるような非は無い。

 

 

 ……元々、彼女は……この身体になる前の『彼』は荒事とは無縁の、いち社会人でしかなかった。普通という言い方は失礼だが、特別な何かを備えた人間ではなかった。

 

 

 言い換えれば、『彼』は凡人なのだ。可もなく不可もない、世界的に見ても平和な国の中で生まれた、凡人の一人。

 

 そんな凡人ゆえに、その視点や考え方はあくまでミクロに留まっている。つまり、自分と、その周辺……後は、おぼろげに自分の住まう国という範囲でしか物事を見た事がない。

 

 だから……というのも少し誤解を招くだろうが、『彼』はその点に関しては考えが……いや、そういうのとも、少し違う。

 

 要は、身体のデタラメさとその影響を抜きにすれば、彼女となった『彼』の精神はいたって凡人であり、彼方にそびえる山々よりも身近の草花に目が行く……そんな狭い視野しか持っていないのだ。

 

 

 ……もちろん、それが悪いわけではない。

 

 

 いや、むしろ、それが自然なのだ。二本の足で立って歩いて、普通に年老いて、死ぬ。噂を信じたり信じなかったり、食べ物の好き嫌いが有ったり無かったり、そういうありふれた人間の一人でしかない。

 

 

 しかし、それはあくまで前の話であって、今は少し違う。

 

 

 自覚はしていないが、彼女は、ある程度はバスターマシン7号の身体の影響を無意識の内に受けている……いや、受けた事で形を変えたという方が、正しいのかもしれない。

 

 そうでなければ、数百年という月日を、平常な精神のまま生きられるわけがない。脆弱な人間の精神で、誰とも話をせずに雲の中で何十年も息を潜めてなど、いられるはずもない。

 

 人間はおおよそ、孤独の中では生きられない。どれだけ孤独に耐性があっても、完全なる孤独に身を置くと、例外なく心を壊してしまうのだ。

 

 何せ、『こいつ……人間?』と誰もが首を傾げる存在であった縁壱ですら、その心は人のソレであった。

 

 

 それ以外の何物にもなれなかったから、あれほどに心を苦しめたのだ。

 

 

 

 それなのに、彼女は平気である。

 

 

 

 もちろん、人間であった頃の『彼』の部分があるから、全く何も感じていないわけではない。実際、それで再び地上に降り立ち、縁壱と再会したのだから……まあ、それもいい。

 

 重要なのは、人間としての精神を持ちつつも、同時に、バスターマシン7号としての精神性も、彼女は持っているということだ。

 

 退屈に嫌気が差すこともあるが、もう少し我慢しようと思う程度の嫌気しか覚えず、そのまま1年5年と時を待つ事が平気な程度に……その程度にしか、感じない。

 

 それは、正しく超越者(あるいは、異常者)の精神性である。普通の人間には耐えられない、上位的存在特有の考え方であった。

 

 

 ……しかし、言い換えるならば、だ。

 

 

 自覚出来ていないとはいえ、そんな精神性(バスターマシン7号の超常的な身体の影響なのだが……)が備わってしまったからこその弊害が幾つかある。

 

 

 その中でも最も表に出ているのが──己が仕出かした因果の行く末……という、客観的な視点だ。

 

 

 例えば、彼女が装備(というより、組み込まれている)している武装は本来、基本的には銃器……すなわち、長距離~超長距離が想定されたモノである。

 

 この長距離……言っておくが、地球の尺度で考えてはならない。彼女の長距離というのは、それこそ数百万メートルぐらいからが最低ラインであり、地球一周分の長さなど……である。

 

 

 なので、ぶっちゃけてしまえば彼女の射程距離は地球全体である。

 

 

 文字通り、地球という星にいる限りは射程から逃げる事は叶わない。彼女がその気になれば何時でも何処でも、裏側から攻撃する事が可能である。(ただし、地球の被害を考慮しない場合に限る)

 

 

 ……普通の感性であるなら、それが如何に馬鹿げた事であるかはすぐに思い至るだろう。

 

 

 少なくとも、以前の『彼』ならば。彼がまだ人間として生きていた時代なり世界なりの常識で考えるならば、銃口を向けただけでも、思わず腰が引けてしまっていたところだろう。

 

 だが、今の彼女はそうならない。

 

 暇潰しも兼ねて雲の中から地上を見下ろしていた際、何気なく……本当に何気なく、闇夜の中からスルリと姿を見せた異形の存在(つまり、『鬼』)を見つけた、その直後。

 

 

 ──あ、鬼発見。

 

 

 そんな呟きと共に、はるか上空を漂う雲の中からバスターミサイルを一発。時折、傍にいた人だとか獣だとかが衝撃で転げまわる事があっても、『生きているんだから、ヨシ!』で終わらせる。

 

 ミサイル一発で、地面に穴が開く。場合によっては周囲の木々もなぎ倒すことだってあるが、まあ、死者が出ないのであれば微差としか思っていないし、思えない。

 

 

 その感覚は、もはや駆除である。

 

 

 断言しておくが、鬼を倒す等といった使命感や義務感などではない。ただ、増えると色々と厄介だろうなという、そんな程度の感覚でしかなかった。

 

 ……もちろん、人間たちに対する愛着があるからこその、行動でもある。でなければ、わざわざミサイルを放ったりはしない。

 

 実際、人間に擬態をして世界中を回った時もそうだが、仲良くなった相手が寿命を迎えるのは悲しいし、縁壱が亡くなったのを知った時は、寂しくもなった。

 

 そんな彼ら彼女らの子孫が生きていてくれるのは、正直言って、嬉しい事だ。わざわざ顔を見せに行くつもりは毛頭無いが、元気にやっていることが分かれば、相応に嬉しく思う。

 

 

 しかし、それだけだ。

 

 

 死ぬのならば死ぬで、助けようとは思わない。たまたま足元を通った際に危機に陥っていれば助けもするが、わざわざ助けには行かない。

 

 

 命が終わること事態は悲しいが、生物である以上は仕方のない事である……それが、今の彼女の認識であった。

 

 

 だから……特に思う所もなく、見つけ次第、台所に湧いたネズミを駆除する程度の感覚で、彼女は地上へミサイルを放つ事を繰り返していた。既に、四ケタに達した辺りからもう、Kill数を数えてはいない。

 

 幸いにも……という言い方も変な話だが、見付けた鬼のほとんどはミサイルの直撃を受けて灰となった。稀に傷を再生させて復活するやつもいたが、肉片一つ残さず打ち抜けば同じ事。

 

 狙われた者からすれば、堪ったモノではないだろう。それが例え、常人を容易く凌駕した身体能力を持つ、異形の怪物であったとしても。

 

 何せ、彼女が居るのは上空8000メートルから10000メートルの間ぐらい。発生する雲の位置や種類によってある程度変わるが、基本的にはそれぐらい上空を飛んでいる。

 

 人間の身体を綿菓子のようにあっさり引き裂く怪物とて、そんな上空を飛ぶ彼女を捉えるのは不可能。いや、それどころか、その姿を認識することすら至難の業である。

 

 そんな位置から、一方的に砲撃されるのだ。それも、着弾位置の誤差がミクロン単位という正確なバスターミサイルで、だ。

 

 おまけに、その一発一発は早い。さすがに光速とまではいかないが、それでも肉眼では捉えるのは難しい。鬼ですら、そのほとんどが認識と同時に着弾しているのだから……そのデタラメさが窺い知れよう。

 

 そんなデタラメな事を容易く行える存在が、果たして以前の脆弱な人間の感覚のままでいられるのだろうか……答えは否。自覚の有無を問わず、遅かれ早かれ仕出かす未来が確定する。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 大分逸れていた話を元に戻すが、そんな彼女は此度、やってしまった。色々と、それはもう後先考えず、やってから後悔するというありふれた失敗をしてしまった。

 

 

 いったいそれは……答えは一つ。

 

 

 下手に地上に降りるのはマズイという縁壱の忠告をしっかり守ること、数十……降りる度に騒ぎになってしまったから、結局は百数十年近い時を待つハメになって。

 

 そうして、いいかげんに暇を持て余していた彼女は、戯れに作ってしまったのだ。この時代どころか、100年以上先でも再現不可能なオーパーツを。

 

 

 いったい何を……答えは一つ。

 

 

 たまたま地上を覗いた際に見かけた絡繰り人形なる物を見て、彼女は考えた。そうだ、暇潰しも兼ねて、私も絡繰り人形を作ってみよう……と。

 

 その結果、何が生まれたのか……答えは一つ。

 

 

「動きを再現するのに核融合炉が必要って、やっぱアイツは人間じゃない……?」

 

 

 その絡繰り人形の外観は、人間の男である。より正確に言い表すのであれば、背丈もあって首も太い、屈強な男である。

 

 装甲はバスターマシンにも併用された特殊金属。動力に縮退炉を使うのは危険すぎるので、まだ出力の弱い核融合炉を使用。

 

 それらを十二分に制御する為の量子コンピュータを内蔵することで、スムーズな……ああ、いや、そうではない。

 

 

 ……回りくどい言い方を少し止めて、はっきり言おう。

 

 

 その絡繰り人形の顔は彼女の記憶の中にある縁壱であり、見た目は何処から見ても人間だが、その身体はバスターマシンに使用される特殊金属で構成され……まあ、つまりは、だ。

 

 

「……フィジカルリアクターは万能なれど、さて、どうしたものかなバスターマシン縁壱」

『お労しや、兄上……!』

「記憶の中のお前は晴れ晴れとした最後だったのに、どうしてお前は地獄をさ迷い歩いているかのような表情になるのだろうね」

『お労しや、兄上……!』

「いや、ほんと、作った私が言うのも何だけど、何がどうなってそうなったの? さっきから同じ事しか言わないけど、本当にどうなっているの?」

『お労しや、兄上……!』

 

 

 未だにコイツは人間であったのかと疑う時がある、『鬼見必殺(鬼は絶対ぶっ殺すマン)ロボ』をこの世に作り出してしまった……というわけであった。

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………え、それが、どうしてやらかしたことになるのかだって? 

 

 

 

 

 これがまた、困る話なのだ。

 

 

 

 何故なら、このバスターマシン縁壱ロボ……略して縁壱ロボだが、まず、その存在を構成している全てがオーパーツ……つまり、現在の人々の科学力では逆立ちしたって解明出来ない代物である。

 

 知識の無い人が見ても精巧に作られた人形だと思われる程度だが、知識が有る者が見れば、例外なく目を剥いて……1人の例外もなく、このロボの出所を探ろうとするだろう。

 

 というのも、この縁壱ロボ……想像するまでもなく、現在の人々の手では破壊不可能なうえに、万が一(兆が一の可能性も無いが)暴走したが最後、彼女以外に止める手段が無いのだ。

 

 対宇宙怪獣を想定した装甲は伊達ではない。さすがに、バスタービームの直撃には全く耐えられないが、銃弾……いや、戦術核程度の火力ではビクともしないぐらいに強固である。

 

 そのうえ、この縁壱ロボの機動力もヤバい。何がヤバいって、生前の縁壱と同じ動きをする……そう、アレだ、お前本当に人間かと彼女が疑ってしまった、あの動きをする。

 

 起動テストも兼ねて地上に降り立ち、見付けた鬼を相手に試してみたが……正直、こいつと相対した鬼たちに対し、僅かばかり気の毒に思えたぐらいにヤバかった。

 

 

 だって、死なないのだ。いや、正確には、死ねないのだ。

 

 

 縁壱ロボの手によって全身を170分割ぐらいされてもなお死ねず、朝日が昇るまで延々と切り分けられ……最後は誰もが同じ言葉を零した。

 

 

 ──やっと死ねる、と。

 

 

 もちろん、中には幾らか抵抗出来たやつもいた。

 

 そういうやつらは決まって瞳に文字が入っている奇妙なやつだった。共通して再生する速度が速く、他のと比べて少しばかり手間取りはしたが……結局、最後は同じとなった。

 

 だって、縁壱ロボの動きがもう生物のソレではないし。間違って縮退炉積んだかなと思うぐらいの機動性の前には、瞬殺されるか30秒持つかの、その程度の違いでしかない。

 

 だいたい、この縁壱ロボには人間の肉体という、オリジナルの縁壱すら逃れられなかった生物としての弱点が無い。鬼の方から『お前反則だろ!』と怒鳴られたのは、恐らく縁壱ロボが初めてだろう。

 

 いや、それどころか、圧倒的なアドバンテージすら得た事で……もはや、存在するだけで世の理を乱してしまう存在である。

 

 

 

 ……はっきり言おう。作ったけど、コイツやばい……それが、彼女の偽りならぬ本音であった。

 

 

 

 ……で、だ。困るというか問題となっているのは、作る前よりも、そこから後。具体的には、この縁壱ロボをどうするか……その一点である。

 

 

 何せ、初めての作品である。フィジカルリアクターという反則技を使って作ったにせよ、これは違う此処が違うと頭を悩ませ時間を掛けて作った、渾身の一品である。

 

 有り体にいえば、愛着が湧いた。少なくとも、露見すると混乱を招くから分解しようという判断を即座に却下する程度には。

 

 

 さりとて、何時までも保管はしておけない。

 

 

 何故なら、ここは空中……雲の中。当然、重力の影響は万人に降りかかっていて……縁壱も例外ではない。

 

 で、残念ながら、縁壱ロボにはロケットブースター等といった飛行装置は備わっていない。拘りが有る彼女は、そんな無粋な物は付けないのだ。

 

 

 なので、フィジカルリアクターを応用して縁壱をその場に留めておく事で落下を防いでいる……というのが現状だ。

 

 

 ……こんなことを言うのも何だが、疲れるというわけではない。だが、どうも気が休まらない。例えるなら、こう……24時間、背筋を伸ばしっぱなし……という感覚だろうか。

 

 嫌になったわけでもないし嫌いになったわけでもないが、正直……ちょっと傍に置いておくのは面倒だなあ……という気になってきたのだ。

 

 これで縁壱ロボがまともに受け応え出来ていたのなら少しばかり違っていただろうか、結果はコレ……寝ても醒めても、『お労しや兄上』の繰り返しである。

 

 ノイローゼ等になる事はないが、鬱陶しさを覚えているのは否定出来ない。かといって、分解するのは嫌と思うぐらいには愛着もあるし、ポイッと捨て置く事も出来ない。

 

 

 何せ、この縁壱ロボ……日常会話が出来ず、兎にも角にも『お労しや』としか言わないのだ。

 

 

 そのうえ、鬼に対しては絶対必殺。過敏を通り越した、鬼を絶対殺すマン。正直、我ながらヤバい物を作ってしまったと何度も何度も彼女は思っている。

 

 縁壱ならば、という憶測の下に対鬼専用レーダーを取り付けてみれば……最長10km先にいる鬼を探知したかと思えば、即座に殺しに向かうヤベーやつになってしまった。

 

 10km……彼女からすれば短すぎて有って無いのと同じ範囲だが、人間基準で考えれば驚異的だろう。

 

 しかも、どのような手段を用いて隠れたとしてもすぐさま見つけ出す……鬼たちからすれば悪夢である。

 

 

(その鬼たちとて、一撃で仕留められるのであればまだ良いが……さすがに、日が昇るまで死ぬことも出来ないまま延々と解体され続けるのは……)

 

 

 縁壱ロボは彼女とは違い、レーザー兵器の一切を搭載していない。

 

 武器はフィジカルリアクターで作り出した刀だけで……刃こぼれ等しないけれども残念ながらそれでは鬼を殺せないようだ。

 

 だから、鬼たちは日が昇るまで死ぬことすら出来ない。鬼に家族を殺された者たちからすれば、胸がすくような光景なのだろうが……とりあえず、彼女としては見ていて気持ちの良い光景ではない。

 

 

 だいたい……いくら相手が鬼とはいえ、中には人間とそう変わらない姿をした者もいる。

 

 

 そんな者が、刀を持った男に生きたまま解体されている……考えるまでもなく、猟奇的な光景だ。

 

 延々と、死ぬことすら出来ずに断末魔が如き悲鳴と命乞いを上げ続けているのを尻目に、無表情のままに刀を振り下ろし続け……どうして、こうなったのだろう。

 

 事情を知らない一般人が見れば、腰を抜かすだけでなく一生モノのトラウマになって当然の光景。ある意味、鬼よりも鬼らしい怪物なのかも……あっ。

 

 

「……そういえば」

 

 

 ふわりと、赤く輝く彼女の長髪が、雲の中で揺れる──ふと、思いだした。縁壱ロボを作った影響なのか、物凄く久しぶりにその言葉を思い出した。

 

 

 

 

 ──鬼は、特殊な材料を用いて作り出された武器でなければ殺せない。

 

 

 

 

 一つ思い出せば、それがキッカケとなったのかもしれない。忘れ去っていた記憶が次々に浮かび上がってきて……ふむ、と彼女は頷いた。

 

 その内の一つは、あの時、兄との戦いが始まる少し前。縁壱が語っていた、彼が属していた組織……名は確か、『鬼殺隊』。

 

 鬼たちを生み出し続けている鬼無辻無惨という鬼を抹殺する為に日夜行動し、鬼という存在に並々ならぬ憎悪を抱く者が多い組織……だっただろうか。

 

 

(……そこから、対鬼用の武器を分けて貰えれば……縁壱を野に解き放っても大丈夫……か?)

 

 

 この際、細かい部分には目を瞑ろう。何度か調整はしたが、それでも駄目だったのだから……まあ、よく分からないけどヨシ、だ。

 

 とにかく、人々に対して無用な攻撃さえしなければ、良い。

 

 どうにも意思疎通の取れない縁壱ロボは、鬼に対してのみ絶対的な攻撃的意志を見せる。

 

 言い換えれば、鬼を退治する以外の行動の一切をしないということでもある。

 

 

 

 ……ならば、いっそのこと……一撃離脱でさっさと鬼を仕留め、痕跡すら残さないのであれば……万が一目撃されても……? 

 

 

 

 それは正しく、発想の転換であった。少なくとも、彼女にとっては天啓に等しい考えでもあり……我ながら良い考えだぞ、と自画自賛したぐらいであった。

 

 

「──と、なれば、必要なのは縁壱が使っていたのと同じく、特殊な素材を用いて作られた刀だが……そんな刀、巷で買えるものなのか?」

 

 

 そこまで考えた辺りで、少し待てよと彼女は逸る気持ちを抑えて立ち止まる。

 

 

 

 ……どれぐらい前だったかは忘れてしまったが、刀を始めとした武器の所持が禁止されて……そうしてから、これまで。

 

 頻繁に降りてはいないから、今の法律がどのように変化しているのかは知らないが、変わっていなければ……刀なんてのはもう簡単には買えなくなっているはずである。

 

 いちおう、探せば買う事は出来るが……それで買えるのは模擬刀。本物に似せて作られた刀であり、強度も本物より劣るだけでなく、刃先も削って切れないようにされているだろう。

 

 

 ……切られないように製造された刀ですら、そうなのだ。

 

 

 人間よりも頑強な鬼を切る事が出来る刀……それも、特殊な材質を用いて作られる代物なんて、市場に出回っているわけがない。

 

 ましてや、持ち歩くだけで見咎められる物ともなれば……まず、表には出回らない。出回るとしたら、極々一部の……鬼殺隊のような組織ぐらいだろう。

 

 

 

 

 ……あれ、そう考えたら……手に入るの難しくないか? 

 

 

 

 

 思わず、彼女は唸る。実際の所は不明だが、門外不出の類であるのは考えるまでもない。しかし、そうなると……伝手も何もない彼女が手に入れる手段は……皆無である。

 

 

(いっそのこと、放熱式のヒートサーベルとかなら……いや、駄目だ、下手したら山火事が発生する)

 

 

 それでは、さすがの縁壱ロボも戦力が半減であるし、そもそも本末転倒もいいところだ……が。だからといって、フィジカルリアクターで作れるかと問われれば、そうもいかない。

 

 負け惜しみというわけではないが、作ること事態は不可能ではない。

 

 とはいえ、バスターマシン7号も全知全能というわけではない。さすがのフィジカルリアクターも、何の素材で作られたのかが分からなければ作り様がない。

 

 つまり、想像でそれっぽい物は作れても、それは巷の模造刀よりも上という程度の、新たな模造刀でしかない。例えるなら、より頑強な鉄剣と同じだ。

 

 強度の高い武器やバスター兵器や縮退炉が作れるのは、その製法……すなわち、材料を始めとした、作る為に必要な物質が何であるかを理解しているからであって……知らないモノは、作れないのだ。

 

 

 ……となれば、だ。

 

 

 チラリと、視線を傍の縁壱ロボから……遙か下方の大地へと向けられる。今の時刻は夜だが、彼女には何の問題にもならない。

 

 

(『鬼』の近辺には鬼殺隊とやらが来ている可能性が高い……)

 

 

 手っ取り早く、『鬼殺隊』の本部か何かを見付けられれば話が早いと思うけれども、いきなり現れて刀を見せてくれ等という交渉が通じる可能性は……極めて低いだろう。

 

 何かしらの社会的地位が有れば話は別だが……今更の話だ。とりあえず、いくらか仕留めているうちに遭遇するだろう。

 

 

 そう判断した彼女は、ひとまず縁壱ロボを伴って(フィジカルリアクターの作用範囲は意外と狭い為)地上へと降り立つ。

 

 

 そこは、人里から遠く離れた山間の、洞窟と呼ぶには小さい、偶発的に岩石が組み合って生まれた隙間のような洞穴であった。

 

 そこに、彼女は縁壱ロボを置いて……というか、押し込む。

 

 客観的に見れば、息絶えた人間の身体を洞穴に埋めているように見えるが……まあ、こんな山の中だ。近づくのは鬼ぐらいだし、鬼ならまあ……運が悪かったと思って諦めてもらう他あるまい。

 

 

 ……ヨシ。

 

 

 とりあえずは雨等に濡れないよう体表を特殊フィルム(フィジカルリアクターは本当に万能である)で覆った後……改めて、彼女は頷くと。

 

 

 ──カッ、と。脚部ブースターが大地を削り、土埃を辺りに撒き散らす。

 

 

 人とも獣とも異なる独特の波長を持つ存在……すなわち、鬼の所在をセンサーで拾いつつ、再び夜空へと飛び立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 ……そうして、気付けば時間は流れ、季節は夏。雲海より高度を下げた彼女は、眼下に広がる、鬱蒼と生い茂る森を眺めながら緩やかに飛んでいた。

 

 バスターマシンである彼女には分からない(正確には、暑くも寒くも感じないだけ)事だが、センサーの数値を見る限りでは、初夏を通り越しているものと思われる。

 

 

 その推測を裏付けるかのように、頬を擽る夜風はしっとりの湿り気を帯びている。

 

 

 鬱陶しさすら覚えるほどに纏わりつくそれらの原因は、ここ数日に渡って続いている、断続的な雨の影響だ。雲海の中は何時も変わらないので最初は新鮮味を覚えて良かったが……さすがに、飽きる。

 

 そんな不快感を紛らわせる意味も込めて、彼女は僅かばかり加速する。縮退炉からの余剰エネルギーによって発光する長髪をなびかせながら、脚部ブースターがバシュウと熱気を噴いた。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………鬼殺隊の捜索を始めてから、けっこう経つ。順調に鬼を討伐し続けるのを繰り返している彼女だが……未だ、鬼殺隊との遭遇は果たされていなかった。

 

 

 

 

 そう、会わないのだ。全くもって、鬼殺隊に出会えない。

 

 

 特に探していない時は30回に1度は鬼殺隊と鬼が交戦している所を観測出来ていたというのに、いざ、鬼殺隊を目当てにしたら……これだ。

 

 出端を挫かれるという言い回しは少し違うが、幸先が悪いと彼女は思っていた。

 

 

 ──ふわり、と。地上へと降り立った彼女は、さて、と辺りを見回す。

 

 

 人里離れた山奥の中、それも、山道を始めとした交通ルートからも外れた地点。それ故に辺り一帯どころか周辺をレーダーで探知しても、住民を探知する事は出来ない。

 

 

 代わりに、こういう場所で探知出来るのは獣(虫は除く)だ。

 

 

 人の手が入っていないだけあって、市街地に比べたら圧倒的に獣の数が多い。村が一つでもあれば獣の数が減るからこそ、こうして山奥に降り立つと、その違いがよく分かる。

 

 

 まあ、違いというのは数ぐらいで、その生態……基本的な部分は全く同じだ。

 

 

 神経をとがらせながら周囲に注意を張り巡らせ、獲物を探し、襲い、食らい、寝る。本能に忠実だからこそ、その動きはシンプルであり、レーダー越しでありながらもその行動から状況を予測するのは簡単である。

 

 これは、人間も同様だ。二足歩行のデメリットをもろに受けるせいで、獣以上に決まったルートしか通らないし、それ以外を通っている時は右に左に進行方向が定まらない。

 

 身体が縦に大きい分、動きも遅い。周囲への注意力も散漫で、獣なら気付く外敵の接近にも気付けない事が多い。だから、ある意味では獣以上にレーダーで見分けが付きやすいのが人間であった。

 

 

 ……言い換えれば、だ。

 

 

 その二つに該当しないのが……『鬼』である。一度だけ、鬼並みの動きで森の中を駆け巡っていた『忍者』と遭遇した事もあったが、アレは例外中の例外だろう。

 

 

 ……で、話を戻そう。

 

 

 鬼とその他の生物の違いは、何といっても警戒心の無さだ。鬼は、獣や人間とは違い、外敵に対する警戒心が極端に薄い。いや、もはや、無いと言っても過言ではない。

 

 他の生物と違い、内蔵を食い破られようが手足を落とされようが死なずに再生するからこその慢心なのだろう。だからこそ、獣以上に、人間以上に、『鬼』は目立つ。

 

 何せ、人間も獣も相手が何であれ、このような場所で他の生物の存在を認識すると、決まって一瞬ばかり硬直する。

 

 有り体に言えば、驚くのだ。そして、身構える。戦うにしろ、逃げるにしろ、相手を観察し、次にどう動くかを瞬時に考え、決断する。だからこそ、最初の一瞬だけは硬直する。

 

 

 対して、鬼はそのほとんどが硬直しない。

 

 

 死なないという慢心があるからこそ、そういった緊張感を持てない。他の生物と接触しても欠片も怯まないし、身構えない。

 

 レーダーで見れば、一目瞭然だ。他の個体が止まったり反転したりする最中、それだけは何一つ変わらずに動き続けているのだから……と。

 

 

(──よし、見つけたぞ)

 

 

 早速、鬼らしき反応を捉えた……が、しかし。直後、彼女は残念そうに眉根をしかめ、ため息を零した。

 

 

(うむ、今回もハズレか……やれやれ、何時になったら鬼殺隊の者たちと遭遇出来るのやら)

 

 

 ため息の理由は、ただ一つ。これまで同じく、傍に鬼殺隊らしき反応が無かったからだ。正直、ここは見逃しておこうかという気持ちが湧いたが……直後に却下する。

 

 

 ……人間ではなくなったとはいえ、感性の根っこは以前のままな部分も多い。

 

 

 ここで見逃しておけば、後で絶対に被害者が出る。伊達に、『鬼』の所業を見て来てはいない。正義の味方になどなったつもりはないが、さりとて、将来必ず起こる悲劇の種を見過ごせるほどに無機的になった覚えもない。

 

 結果、彼女が下した決断は……何時もと同じ。苦しませることなく一撃で仕留めてやろうという、せめてもの憐れみであった。

 

 

「……ん?」

 

 

 だが、しかし。

 

 何時ものように、微かな異音と共に脚部から真横に伸びる白い発射台。水晶を思わせる半円状のレンズ……発射口を、何時ものように探知した鬼へとロックオンを──しようとした、その時であった。

 

 

「──え?」

 

 

 前触れもなく──いきなり、レーダーから『鬼』が消えた。

 

 それは、彼女にとって初めて体験する現象であった。その瞬間、ステルス(あるいは、それに近しい事)の可能性が彼女の脳裏を過った。

 

 

 だが、すぐに、違うと彼女は内心にて首を横に振る。

 

 

 数年単位で一度ぐらいしか地上に降りないから、今の文明が如何ほどに進んでいるのかを詳しくは知らないが……少なくとも、彼女が『彼女』に成る前の基準にすら到達していないのは、断言出来る。

 

 現時点では、彼女のレーダーから身を隠すことはおろか、レーダーに気付くことすら不可能……のはずである。そのはずだと、彼女は思っていた……のだが。

 

 

(──別の場所に?)

 

 

 そんな、彼女の動揺と困惑をあざ笑うかのように、その直後、別の場所にていきなり出現した反応を見て……首を傾げる。

 

 撃墜されたとか、消滅したとか、そういう兆候は無い。また、高速で移動した反応も見られない。というか、捉えられない速度で移動したのならば、その反応を捉える……はずだ。

 

 けれども、そんな反応は微塵も無い。文字通り、いきなりその場から消えて、別の場所に出現したにしか思えない……と。

 

 

 ──また、だ。

 

 

 思考を巡らせている傍で再び反応が消えて、直後に別の場所に出現する。それが、何度も、何度も、何度も……なのに、探知出来ない。

 

 レーダーで探知した限りでは、同一……別の個体を間違えているのではなく、同じ個体が瞬時に移動を繰り返しているのが……ふむ。

 

 

(……どの道、見逃すわけにはいかない)

 

 

 興味を惹かれた彼女は、そのまま件の鬼を追い掛けることにした。脚部ブースターが、ごう、と大地を削って……彼女は夜空へと飛び立つ。

 

 ……幸いにも、この鬼の移動距離そのものは短い。どのような手段で移動しているのかは不明だが、見失う心配はないだろう。

 

 

 そうして……追いかける事、一分強。

 

 

 彼女の感覚では、気付かれないように彼方の上空からゆっくりと。

 

 一般的な感覚では、目玉をひん剥いて飛び上がる速度で近づかれ。

 

 

 誰にも気付かれる事なく接近に成功した彼女は……そこで、二度目となる初めてに、困惑する他なかった。

 

 何故なら……レーダーが捉え、移動を繰り返していたモノの正体が……鬼ではなく、『壺』であったからだ。

 

 そう、壺だ。暗喩でもなければ比喩でもない、タダの壺。いや、こんな場所にポツンと置かれている壺が普通の壺でないのは確実だが、少なくとも、彼女の目にはそうにしか見え──あっ。

 

 そうこうしている内に、目の前(とはいえ、直線距離にして数百メートル近くはある)の壺がいきなり消えた──ああ、いや、違う。

 

 

(消えたのではない……移動した? あれは……壺か?)

 

 

 点々と続く移動の跡から予測した次の移動先を見た彼女は、そこにポツンと置かれた壺を捉え……更にその先に点々と続いている別の壺を確認し、なるほど、と頷いた。

 

 

(どうやら、壺の中を点々と移動しているのか……こういう鬼もいるのか)

 

 

 この壺……とりあえず、どういう原理なのかはさておき、何かしらの移動手段の一つではあるようだ。

 

 その証拠に、壺の外観こそ変わらないものの、レーダーにて捉えた質量の増減が壺の内部にて行われている。つまり、この鬼は、瞬間的な移動を壺と壺の間で繰り返して……ん? 

 

 そう考えた瞬間、嫌な予感を彼女は覚えた。それが何なのか分からなかった彼女は、いったい何なのかと今しがたの思考を読み返す。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………壺と壺の間を、瞬間的に? 壺が移動するのではなく? 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………瞬間的に? 速度ではなく、点と点で? 

 

 

 

 そこまで考えた瞬間、ヒヤリ、と。背筋に走った悪寒に……それが何なのかを理解するよりも前に、彼女は数百年ぶりとなる焦りを覚えた──その、直後。

 

 

 

(それって──つまるところ、壺と壺の間をワープして──)

 

 

 

 その可能性を認識した、瞬間。気づけば、彼女はブースターを最大噴射していた。反動で、爆音と衝撃波が直下の木々をぐらぐらと揺らしたが──気にする余裕はない。

 

 

「イナズマ反転──っ!!!!」

 

 

 そう、気にする余裕など、全く無いのだ。

 

 移動を続ける鬼の──その先に有った壺の上空へと一気に迫り、反転──そして、くるりと身体を捻って、壺に向かって片足を突き出し。

 

 

「──きぃぃぃぃっくぅぅぅぅ!!!!」

 

 

 宇宙怪獣すらも葬り去った、バスターマシン伝統の必殺技を放ったのであった。

 

 

 ──イナズマキック。それは、バスターマシン7号に搭載された、劇中において何度か使用された必殺技の一つである。

 

 

 言っておくが、本気で放ったわけではない。無意識に手加減出来たのは、本当に幸運であった。

 

 とはいえ、大地はおろか、マントルを破壊して星を貫通する程の威力を誇る、正真正銘の一撃必殺。

 

 本気でやったら宇宙怪獣どころではない、その一撃は……当然ながら壺を粉砕しただけでなく、大地を陥没させ、周囲に土砂を撒き散らす程の破壊力で……いや、それだけではない。

 

 縮退炉より生み出される膨大なエネルギーが込められることで生まれる高熱。それは余波となって、直径二十数メートルとはいえ、直撃した大地を溶解し、部分的にマグマへと変えた。

 

 

『────っ!!??!??!』

 

 

 タイミングはドンピシャ、手応えは有った。

 

 足先より伝わる、命を粉砕した感触。

 

 壺の中に居たであろう鬼が、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、肉片一つ細胞一つ残さず燃え尽き、消滅したのを感じ取った彼女は……異臭を放つ大地に埋まった足を引き抜くと、その場より少し離れて着地する。

 

 

 ──途端、足先に触れた雑草が一瞬で発火した。

 

 

 気付いて、慌ててもう片方の足で火を踏み消しながら……彼女は、深々とため息を吐いた。

 

 

(……仕方がないとはいえ、地上ではそう易々と使って良い武装ではないということか)

 

 

 瞬間的な冷却を行いはしたが、元々が宇宙空間にて使用する武装だ。宇宙空間では些細な温度であっても、地上では高熱過ぎる。

 

 

 視線を向ければ……ああ、駄目だ。

 

 

 このままでは他にも燃え移る。消火しなければ周囲が危険だと判断した彼女は、ふわりと空中に浮かぶ。

 

 冷却と放熱は続けているが、まだ熱過ぎるようだ。大気との温度差が違い過ぎて、陽炎のようにぐらぐらと空気が揺らいでいるのが見えた。

 

 ……絶対零度の宇宙では、熱を光に変えて放射することで冷却することが可能ではあるが……ここでは無理だ。下手にやると、足先から火炎を放つようなものである

 

 

 仕方がない……ついでに、陥没してマグマ化した大地の後始末もしておこう。

 

 

 そう判断した彼女は、フィジカルリアクターを起動させて物理法則を書き換えて対処を……しながら、今しがた仕留めた鬼の事へと意識を傾けた。

 

 

(まさか……ワープ能力を持った鬼が居るとは思わなかった)

 

 

 そう、彼女の懸念というか焦燥感の正体は、ソレに尽きた。

 

 

 ワープ能力。言い方を変えれば、ワープ技術だろうか。

 

 

 それは、バスターマシン7号である彼女も持ち合わせている機能の一つでありながら……同時に、彼女が恐れていた事態が起きている事への証明でもあった。

 

 

 何故なら──ワープ航行(距離に関係なく)を行うと、奴を引き寄せるのだ。

 

 

 バスターマシン7号が登場する劇中において、最強最大最悪の知的生命体の天敵と揶揄された、宇宙の免疫構造……通称、『宇宙怪獣』を、だ。

 

 正確には、ワープの際に開かれる『タンホイザーゲート(要は、ワープの扉みたいなもの)』の重力変動を感知するらしいのだが……まあ、細かい部分はいい。

 

 

 重要なのは、ワープ航行を使うと宇宙怪獣を引き寄せるという事。

 

 

 それ故に、彼女は自らが『彼女』となったその時から、一度としてワープ航行をした事が無い。何故なら万が一、宇宙怪獣が地球に来襲したら最後……地球を捨てて逃げ去る他、生き延びる術が無いからだ。

 

 だからこそ、焦った。ぶっちゃけてしまえるなら、お前ら何てことしてんだよと怒鳴りたい気持ちでいっぱいであった。

 

 

(さ、さすがに大丈夫……だよね?)

 

 

 一抹の不安は残るが、もう終わった事だ。当の本人は消滅したから、調べようもない。

 

 それに……劇中においても、人類が宇宙怪獣と本格的に交戦するキッカケになったのは、宇宙怪獣に直接発見された後からだ。

 

 地球に攻め込んできた時だって、命からがら地球に逃げ帰った際に、その位置を見付けられてしまったからで……なので、少なくとも地球の位置を知られない限りは、大丈夫……とは思う。

 

 さすがに、銀河の端っこにある太陽系という名の、大して大きいわけでもない恒星に囚われた小さな星の地表に起こった僅かな重力変動に気付きはしないだろうが……あっ。

 

 

 フッ、と。

 

 

 前触れもなく、またもやいきなり現れた存在を、レーダーが捉える。その位置……あれ、これってもしかして……背後? 

 

 まさか、今の一撃から逃れられたのだろうかと驚きつつ振り返った──直後。何かが眼前に迫ったのを認識した彼女は、それを掴み取った。

 

 

「なに!?」

 

 

 視線の先に居る、何か知らないけど驚いている男が一人。掴み取った……何か分からない、タコの足のようなよく分からん造形をした触手。とりあえず、彼女にはそう見えた。

 

 

 ……え、なにこれ? 

 

 

 はっきり言って、まるで意味が分からない状況であった。

 

 客観的に思い返してみても、まるで意味が分から──ていうかコレ、気持ち悪いな。

 

 視線を男から、掴んでいる触手へと向ける。触手は……正しく、触手であった。

 

 何か蛇みたいにうねうねして、口らしき部分に牙が生えていて、がぢがぢと己を腕に噛み付いているのを、首を傾げながら彼女は眺める。

 

 

 ……生物相手なら余裕で噛み千切られるぐらいの力が込められているのが分かる。

 

 

 しかし、それだけだ。生憎と、対宇宙怪獣を想定したバスターマシン7号の装甲は伊達ではない。

 

 その証拠に、必死に噛み付いている触手の牙は……いっそ憐れに思えるぐらいに、全く彼女の腕には刺さらない。

 

 

「──くっ!」

 

 

 何がしたいのか分からないし、そもそもいきなり何だ。

 

 

 そう思って視線を再び向ければ、何やら男の背後から……いや、男の背中や肩から飛び出した新たな触手が、五月雨のように彼女の全身へと降り注いだ。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 豆鉄砲の数が一つであれ十であれ、豆鉄砲は豆鉄砲。そもそもが、当たったところで何の意味もない以上は……男の抵抗(あるいは、攻撃)など、彼女にとっては無意味であった。

 

 

「──くっ! お前は、まさか……やはり、日の神なのか!?」

 

 

 そうしてしばしの間、攻撃を続けていた男は、苛立ちを露わに形相を険しくすると、トカゲのように自らの触手を引き千切って素早く距離を取り……尋ねてきた。

 

 

(……何か知らないけど、何故どいつもこいつも私を見て『ヒノカミ』と呼ぶのだろうか?)

 

 

 ふと、思い返せば、眼前の男に限った話ではない。何時の頃からかは定かではないが、気付いた時にはそう呼ばれるようになっていたし、そもそも縁壱たちもそう呼んでいた気がする。

 

 まあ、予想はつく。どうせ、夜空を飛行していた最中の姿が目撃され、そこからそんな名が付いたという程度には……いちいち否定するのも面倒だし、そのうち飽きて忘れ去られるだろうと思っていた……が。

 

 

「ヒノカミが何なのかは知らないが、私の正体に気付いたやつは皆、そのような名で呼ぶね」

 

 

 まさか、人外の化け物からもそう呼ばれるとは……その言葉を胸中で呟いていると、額に血管を浮き立たせていたそいつは……いっそ清々しさ覚えるぐらいの、派手な舌打ちを零した。

 

 

「答えろ……お前の目的は何だ?」

「……いや、尋ねたいのはこちらの方なのだが?」

「とぼけて誤魔化すつもりか?」

「誤魔化すつもりなど毛頭ないのだけれども」

 

 

 とりあえず、掴んだままの触手の切れ端を放り上げ──それをバスターミサイルで塵に変えてから、改めて……思考を巡らせる。

 

 

(……何故、私は襲われているのだろうか?)

 

 

 眼前にて、同時に、この身に起こっている状況に……その状況が欠片も理解出来なかった彼女は、只々首を傾げる他なかった。

 

 ただ、ありのままを描写するのであれば……とりあえず、眼前の人間(?)は、人間でないのは確定である。これで人間なら……ちょっと、嫌だ。

 

 おそらく、『鬼』なのだろう。というか、鬼でなかったら何なのか分からないから、とにかくコイツは鬼である……と、彼女は判断する。

 

 何せ、体内をスキャンしてみれば……驚くべきことに、この男……いや、この鬼、大脳と思わしき器官が五つ、心臓と思わしき器官が七つもある。

 

 それも、タコのように触手を動かす為の専用の臓器ではない。一つ一つが全身を統括し、生命維持を確保出来るだけの機能を備えていると思わしき質量が確認出来る。

 

 

 ……普通に考えて、生物の範疇に収まっていない特異の生命体であるのは一目瞭然。

 

 

 ……で、だ。それならそれで、私はどうしたら良いのかと、彼女は首を傾げる。

 

 退治すること自体は、これまでの鬼とそう変わりないだろう。しかし、眼前の生物が『鬼』であるのはとは別に……何だろうか。どうも、この鬼は他の鬼とはどこか異なる存在な気がしてならない。

 

 そう……何だろうか、どうにも、気配が濃いというか、存在感が大きいというか、何というか。

 

 まるで、そう、まるで……大本と言うべきか、張り巡らされた配線の根元と言うべき……ん、待てよ。

 

 

(根元……はて、こいつ、もしかして……?)

 

 

 瞬間、パッと視界が開かれたかのような感覚と共に──気づけば、彼女は脳裏に過ったその言葉を口にしていた。

 

 

「お前──もしや、鬼舞辻無惨という名の鬼か?」

「──っ!?」

「おお、その反応……なるほど、お前がそうか」

 

 

 驚愕に目を見開く眼前の……無惨を前に、彼女は納得したと言わんばかりに言葉を続ける。

 

 

「お前の事は聞いているぞ。そうか、お前が縁壱の話していたやつか」

「──そ、その名は!?」

「何だ、縁壱の事を覚えているのか。仕留め損なったと聞いていたのだが?」

「な、何故……どうして、貴様がやつの名を……!?」

「そりゃあ、当人から教えて貰ったからね」

 

 

 目に見えて──只でさえ青白い肌を、夜の闇の中でも分かるぐらいに更に青ざめ、声を震わせた無惨に……彼女は笑みを向けると。

 

 

「お前を倒せば──これ以上、鬼が増える事はないのだろう?」

「なっ──」

「ならば、刀を探す必要も無くなるし、次に私がやることはただ一つだ」

 

 

 その言葉と共に、ぼんやりと輝きを放っていた彼女の髪が、更に輝きを見せる。と、同時に、それは熱気を伴って、まるで周囲が昼間になったかのように温まり始める。

 

 

「縁壱が仕留め損なったのならば──私が代わりに果たしてやろう」

 

 

 縮退炉のリミットを緩める。

 

 途端、溢れた余剰エネルギーが光となって、彼女の全身から滲み始める。煌々と輝いて揺らめく長髪は、もはや小さな太陽が如き眩しさであった。

 

 

「────っ!!!???」

 

 

 その眩しさによって──無惨は状況と事態を理解したのだろう。

 

 焦燥感が入り混じる意味不明の奇声と共に、無惨の身体が赤黒く歪に変形──まるで獣を思わせる大小様々な口が全身の至る所からボコリと盛り上がったかと思えば。

 

 

 ──ひゅごう、と。

 

 

 無惨の全身に生まれた口から放たれる、不可視の砲撃。その正体は、大量の空気を圧縮して生み出す、空気の弾丸である。

 

 その威力は、人間相手であれば十分過ぎた。逸れた弾丸の一部は樹木に穴を開け、地面を陥没させ……大型の獣であっても、致命傷に成りかねない破壊力を有していた。

 

 

 ……が、しかし。

 

 

 彼女からすれば、そんなのは豆鉄砲と変わらない。星々を砕く宇宙怪獣の光線に比べたら、そよ風みたいなもので……事実、空気弾は確かに彼女に直撃したが……当の彼女は怯みすらしなかった。

 

 

 それを見て──無惨は次の手を放つ。

 

 

 まるで、赤黒い有刺鉄線。無惨の血液より生み出された、生物の体内に入れば即死を免れない猛毒によって構成された刃が、彼女を取り囲むようにして瞬く間に──が、それも同じ事。

 

 

 ──フィジカルリアクターを、使うまでもない。

 

 

 舐めるようにして叩き付けられる有刺鉄線ですら、彼女に対して攻撃になっていない。それどころか、動き一つ止める事も出来ず、彼女から放たれるエネルギーの余波を受けて……灰のように塵となって消滅する始末である。

 

 

 そんな光景を前に──無惨の胴体が、斜めに開かれた。

 

 

 まるで、胴体全部が口に変形したかのような大きなそれが、ガチリと上下の牙を噛みあわせた──その、直後。

 

 

 ──凄まじい衝撃波が、その巨大口より放たれた。

 

 

 それは、無惨にとって奥の手の一つである。爆音と衝撃波によって生み出される破壊力は絶大。近距離であれば防ぐ手段は皆無であり、受ければ最後、全身と臓腑が痙攣して動けなくなる。

 

 

「……バスターミサイル」

 

 

 はず、だった。

 

 

「──っ!?」

 

 

 かつて……縁壱に成す術もなく敗れ去り、命からがら逃げ延びた、あの日。似たような存在と相まみえた時、逃げ延びる事が出来るようにと作り出していた奥の手ですら……全く、彼女には通じなかった。

 

 驚愕に目を見開く無惨の視界に煌めく、幾つもの白き閃光。ソレは、無惨にとって初めて見る光景であった。

 

 

 ──と、同時に。

 

 

 避けることはおろか、辛うじて認識するのが精いっぱいであった閃光が、無惨の身体に風穴を開けた。

 

 思わず、無惨の思考は乱れ──次の瞬間、数多のバスターミサイルが無惨の視界を埋め尽くした。

 

 

 

 




殺意増し増しな剣士たち

フラグ7「後に、謎の剣士お労しやロボによる半自動鬼撲滅機能により、隊士たちの生存率上昇。並びに、上弦や下弦と呼ばれている鬼との交戦時、一定確率で乱入し、隊士たちが生存する確率上昇」



野望を内に秘めた臆病者

フラグ7「後々、表での活動資金にて重宝する収入源が途絶えたことで、表の顔が幾つか使えなくなる(鬼殺隊に補足されやすくなる)」

フラグ8「謎の剣士お労しやロボによる永続的追跡により、多大なストレスが降りかかり、老化が通常より加速する(能力値ダウン)」



存在自体が反則だけど敵がもっと反則だったマシン7号

フラグ1「ワープ使うやつ絶対許さない、慈悲は無い」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。