デンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン……   作:葛城

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無惨「もう嫌なのだ、外に出ると怖いセルリアンがどこまでも追いかけてくるのだ。おうちに帰ってお休みするのだ」


縁壱ロボ「私は――お前を倒すために生まれてきたのだ」


無惨「ああああああああああーーーーーもうやだぁあああああ!!!!!!!」





煉獄さんが死んだので、続きです



※前話にて死んでいるはずの鬼が生きているという指摘があり、確認しましたら本当に生きていたので鬼殺致しました
 駄目じゃないか……死人はちゃんと死んでなくちゃ……そんな気持ちです




第四話:わたし、また何かやっちゃいました(煽りの呼吸)

 それは正しく、数の暴力であった。

 

 

 息つく暇すら与えさせない、バスターミサイルの雨。彼女は知る由もない……驚異的な再生能力を持つ無惨ですらも再生が追い付かないほどに大量の、光線の連射。

 

 一発でも当たればタダでは済まない破壊の光が、幾重にも無惨へと突き刺さり……そのまま、大地を穿ち、山を削ってゆく。

 

 合わせて、とてつもない爆音が夜空に響いている。それはまるで、降り注ぐ雷のよう……息を尽く暇を全く与えない。

 

 事情を知らない者がこの場に居合わせていたら、あまりの光景に記憶を飛ばしたかもしれない。

 

 腰を抜かして失神、爆音に驚いて気絶するなら良い方で、悪ければ目が眩むほどの光と鼓膜が破れんばかりの音に、ショック死してもおかしくはない。

 

 事実、バスターミサイルを放ち始めてすぐに、周辺の鳥や獣たちが一斉に離れ始めている。

 

 イナズマキックの時でもそれなり(といっても、下手に火薬を爆発させるより多かったが)に離れて行ったが、今回はその比ではない。

 

 天変地異を予感しての逃走、そうとしか言えないほどの必死な形相で逃げて行く獣たち……正しくそこに、天変地異が起こっていた。

 

 ……だが、しかし、その天変地異は突如として終わった。

 

 巻き上がった砂埃がぱらぱらと落ちて来て、溶けた岩石の臭いが立ち昇る中……訪れた静寂の当人……そう、その天変地異を作り出した、当の彼女はというと……。

 

 

(──しまった、これでは追い打ちを掛けられない)

 

 

 やり方を、間違えてしまった。取り返しが付かぬ痛恨なる失敗、己の不甲斐なさに……悔しさを覚えていた。

 

 いったいどういう事なのか……要点をまとめるなら、彼女は間違えてしまったのだ。

 

 たった今、彼女は、仕留めようとしていた鬼舞辻無惨が地中へと逃げていくことに気付いた。彼女に備わっているセンサーが、ソレを知らせてくれた。

 

 しかし、気付いた所で手の打ちようがない。何せ、地中に居るヤツを仕留めるだけのバスターミサイル……間違いなく、被害はここだけに留まらなくなる。

 

 

 ……そう、最初の一発で全てを終わらせなければならなかったのだ。

 

 

 周囲への影響を考えて、レーザーの威力を抑えたうえで、出力範囲を狭めていたのが悪かったのだろう。これまでのヤツなら即死ではあったが、どうやら鬼舞辻無惨はそうではなかった。

 

 伊達に、全ての鬼の大本というわけではないというわけか。

 

 辛うじて頭一つ分程度の肉塊が、地中を掘り進んでいる。まるで、死にかけたゴキブリが慌てて排水溝へと逃げ去るかのような必死さだ。

 

 だが、問題なのはそこだけではない。

 

 相当なダメージを負っているのは、察知出来るエネルギー量から推測出来る。しかし、彼女にとって重要なのは……その状態になっている無惨への追い討ちが出来ない、それに尽きた。

 

 ……そもそも、劇中では、一度に千から万単位で放たれた宇宙怪獣の攻撃を瞬く間に迎撃した武装、それこそがバスターミサイル。

 

 本来ならば、大型クラスの宇宙怪獣にもダメージを与え、小サイズの宇宙怪獣ならば一撃で肉片一つ残さず蒸発するほどの威力を誇る。

 

 そんなモノをまともに使えば、地球なんぞ一瞬で粉々だ。そうならなくとも、直撃した周辺地域は焼け野原、クワでひっくり返されたかのような光景が広がった事だろう。

 

 なので、地上で使う場合は相応に威力を落とす。落とさないと問答無用で更地を形成してゆくから、落とすしかない。

 

 

 でも、威力を落としたところでそれはバスターマシン基準。

 

 

 超広大な宇宙空間における対宇宙怪獣を想定して作られた、バスターマシン7号。そして、その強力無比な武装を支える大出力動力源……名を、『縮退炉』。

 

 作中において『人類が生み出したモノの中でも最高で最大な動力炉』と称されるだけあって、そこから生み出されるエネルギーはもはや、人知を超えている。

 

 要は、加減が利かないのだ。たとえるなら、身の丈サイズの大タルの水を傾けて、零さずお猪口に注げと言うようなモノ。

 

 出来る限り出力を抑えてもなお、樹齢100年近い幹を貫通し、大地を削って大穴を開け、余波の高熱によって岩石が溶ける。

 

 ぶっちゃけ、考えなしで撃ったらいったいどれだけの犠牲が生じるか、分かったモノではない。

 

 しかし、地中深くのアレを仕留めるには相応に威力を持たせる必要がある。いくら彼女とて、犠牲致し方なしでやれるほど心が平坦にはなっていなかった。

 

 

(……駄目だな、射程距離外だ。おそらく、地中に居れば私が攻撃出来ないことに気付いたな)

 

 

 地中を移動している無惨(肉塊)の位置が、ある一定より上がって来ないのを察知した彼女は、軽く首を横に振って……武装を解除した。

 

 それに合わせて……いや、偶然だろうが、フッと……いきなり、捉えていた無惨の位置が動いた。

 

 

 ……ワープだ。

 

 

 反応を追跡してみれば、何か……そう、地中に広がっている謎の空間が見つかる。

 

 自然に出来た空間ではない。広さもそうだが、構造が明らかに自然のモノではない……意図を持って作られた空間だ。

 

 しかも、移動している。速度はそこまでではないが、その謎空間はゆっくりと地中を移動して──いや、駄目だ。

 

 反射的に作動しかけた武装を、彼女は意志の力で無理やり抑え込んだ。それをしてはならないと、強く己を戒めた。

 

 撃てば、解決するかもしれない。しかし、いくら何でも、何も事情を知らぬ者たちを巻き込むわけにはいかない。

 

 大を助ける代わりに小を切り捨てる……それはマクロの目で見れば正しいのかもしれないが、彼女は、分かっていてもミクロを切り捨てる選択を取れなかった。

 

 

(落ち着け、宇宙怪獣の危険性があるとはいえ、極々小規模のワープ。こんな宇宙の端の端に奴らが気付く可能性は……無いとは、言い切れないけれども……)

 

 

 とはいえ、放って置けないのもまた事実。

 

 先ほどの壺のやつは、まあ、しょうがない。突然だったし、そのうえワープの連続使用だ。鬼だったから躊躇なく仕留めたのは、間違ったとは思っていない。

 

 

 で、今回のコレもまた同様の判定なのだが……位置が悪い。

 

 

 狙ってやったのか偶然なのかはさておき、謎空間が有るのは大きな町の真下だ。つまり、彼女が直接乗り込んで暴れれば……最悪、地上の町がまるごと沈没しかねない。

 

 一発で仕留められれば良いのだが、おそらく無理だろう。微妙にしぶといので、出力を上げる必要が……駄目だ。

 

 そのまま地中に引き籠っているのならば何もしないが……先ほどの問答から推測する限り、絶対にそんな考えには至らないだろう。

 

 本音を言えば、バスターミサイルぶっ放して終わりにしたいが……やはり駄目だと再度の否定を下した彼女は……しばし、考える。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………駄目だ、思いつかない。

 

 

 うんうん、と。右に左に頭を傾げて考え続けたが、上手い考えなどそう思いつくはずもなく……仕方なく、彼女は。

 

 

「バスターマシン縁壱ロボを使うか……」

 

 

 扱いに困っていたソレを、無惨が潜伏するであろう謎空間へとぶち込むことにした。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………いや、まあ、我ながら本末転倒だろうなあ、と彼女も考えた。

 

 

 地中奥深くの謎空間へと縁壱ロボを突入させるには、ワープを使う他ない。だが、それは彼女自身が禁止と定めた行為でもある。

 

 

 出来る事なら、使いたくはない。それもまた、彼女の本音だ。

 

 

 しかし、たった一回を惜しんで止めるか、回復した無惨が好き勝手にワープを使用していくか……肉を切らせて骨を断つとは、この事を言うのかもしれない。

 

 

『お労しや、兄上……お労しや、兄上……』

 

 

 しばし迷ったが、考えても埒が明かないと判断した彼女は早速、洞窟に身体を埋めている縁壱ロボを引き寄せた。

 

 相変わらず、縁壱ロボは虚ろな眼差しで同じことを呟いている。制作した己が言うのも何だが、正直、不気味だなと彼女は思った。

 

 何がどう間違ってそうなったのか製作者すら分からないのは、ある意味致命的な気はするが……まあ、いいや。

 

 とりあえず……現在持たせている、ただ硬くて切れ味の良い刀は取り上げる。代わりに、熱式のヒートサーベル(刀型)を持たせる。

 

 

 特に、深い意味はない。

 

 

 というのも、相手は威力を絞ったとはいえバスターミサイルを数発直撃してもギリギリ即死を免れた、驚異的な生命力の持ち主だ。

 

 普通の刀で切り裂くよりも、傷口を焼くことで再生を阻害出来れば、少しはダメージになるのでは……という、安直な考えであった。

 

 後はまあ、普通の刀よりも灼刀のような、赤く焼けているように見える武器の方が見た目のインパクトが強いから、脅しになるかな……という、軽い気持ちでもある。

 

 

「縁壱ロボ……私が直接乗り込めば話は速いが、地上への影響を考えればそれは出来ない。故に、お前をあの空間へと送る」

『お労しや、兄上……!』

 

「ワープを開くのは二度だけだ。一度目は、お前を送る時。二度目は、お前が無惨を倒した、その時だ。だが、おそらくその武器では無惨を殺せない」

『お労しや、兄上……!』

 

「やつがお前に怯えて地上に出てくれば、位置によっては私が空より砲撃する。仕留められなくとも、とにかく、やつに極力ワープを使わせないようにしてほしい」

『お労しや、兄上……!』

 

「……あの、私の話は聞こえているよね?」

『お労しや、兄上……!』

 

 

 

「……ま、まあ、頑張ってくれ」

 

 

 

 この作戦、もしかしなくとも失敗するのでは? 

 

 

 そう思わずにはいられなかったが、他に何も思いつかない以上は、どうしようもない。

 

 一抹の不安から目を背けるかのように、彼女は一つ間を置いてから心を静めると……『フィジカルリアクター』を発動させ、謎空間とこちらを繋いだ。

 

 そうして、露わになったのは……一言でいえば、広大な空間に作られた迷路であった。

 

 まるで、そこだけ重力が安定していないかのように、上下左右無造作に張り巡らされた通路に家屋……正しく、『混沌』としか言い様が無い光景であった。

 

 

「──なっ!? ひ、日の神っ!!??」

 

 

 その、混沌の中心。宙にぽつんと浮いている板の間にて、何とか上半身だけは再生していた無惨が、驚きに眼を見開き、唾まで飛ばして驚いた。

 

 まあ、驚くのも無理は無い。常識的に考えれば、空間と空間を繋いで移動するワープなど、無惨のような化け物でなければまず不可能な事だから。

 

 その証拠に、無惨の傍にて控えていた単眼の女鬼も、驚愕に大きく目を見開いている。手にしている琵琶が、ぺよん、と情けなく震えて女鬼の内心を物語っていた。

 

 

 ──しかし、情けなど掛ける気はない。

 

 

 さあ行くのだ……そう、縁壱ロボへと顎で促せば、縁壱ロボは無言のままに空間を渡って謎空間へと入り、無惨の前に……すると。

 

 

「き、貴様は縁壱!? な、何故だ、何故お前が生きて……っ!!!????」

 

 

 縁壱に気付いた無惨が、只でさえ青白い顔を更に青ざめた(もはや、石灰のように真っ白だ)。びくんびくん、と痙攣する下半身の肉が気持ち悪い。

 

 それを見て彼女は、そう言えばと思い出す。

 

 

 ──縁壱は生前無惨をあと一歩の所まで追い詰めた男だから、無惨が覚えていても不思議じゃないな。

 

 

 無惨の様子を見る限り、誇張ではなく本当にあと一歩の所だったのだろう。明らかに狼狽して怯えている無惨を見て、これは勝ったなと彼女は……と。

 

 

『……何が楽しい?』

 

 

 前触れもなく、いきなり……初めて、縁壱ロボがこれまでとは異なる言葉を発した。

 

 想定外の事に思わずギョッと彼女は目を見開く。それは無惨たちも同じだったようで、彼らもまたギョッと目を見開いた。

 

 

『……何が面白い?』

 

 

 そんな彼ら彼女らの視線を他所に、縁壱ロボは……ゆるやかに、鞘よりヒートサーベルを抜く。淡く輝く灼刀のようなソレが、すらりと空気を撫でた。

 

 合わせて……無惨の身体が、目に見えて震え始めた。

 

 かたかた、ぴちゃぴちゃ、と。まるで小便のように、下半身から鮮血が零れている。蒼白な顔には鼻水が垂れて、冷や汗がにじみ、白い歯がカチカチと勝手に動いて鳴っている。

 

 

『失った命は回帰しない。何故踏みつける? 何故奪う? お前は命を何だと思っているんだ?』

 

 

 ギリギリギリ……と。

 

 握り締めた持ち手が、軋む。特にそういう作りにはなってないはずなのだが、まるで込められる力に呼応しているかのように、灼刀の輝きがきらめいた。

 

 

『絶対にお前を許さ』

 

 

 そこまで言葉を発した時点で、彼女はワープを閉じた。

 

 理由は、縁壱ロボが謎空間に入ったから。

 

 無惨を倒した方が良いとは思っているが、別に無惨に対して特別恨みを持っているわけではない彼女にとって、泣いて怯える無惨の姿を見ても思う所は何も無い。

 

 だから、入ったから閉じる、ただそれだけ。

 

 それに、縁壱ロボの強さは彼女が一番良く知っている。人間の弱点(脆い身体、有限の体力など)をクリアした、バスターマシン縁壱ロボなら……早々、遅れを取ったりはしないだろう。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、だ。

 

 

 とりあえず、現時点ではこれ以上にする事が無くなった彼女は、ふわりとその場より浮上する……雲海へと戻る。

 

 

 このまま縁壱が仕留めるのであれば、それで良い。

 

 逆に、堪らず地上に出て来たのであれば撃つだけ。

 

 

 まだまだしばらくは様子見をする必要はあるだろうが、どうせ当分は雲海の中で息を潜めなくてはならない身だ。

 

 何せ、縁壱から100年は様子見をしておけと言われたのだ。

 

 実際、最も不穏だった時期も過ぎ去り徐々に世相は落ち着きを取り戻しつつあるが、それはあくまでも見た目だけ。何時どこで何がキッカケで爆発するか分かったものじゃない。

 

 なので、彼女はもうしばらく雲海の中に潜む事に──あっ。

 

 

 ──バスターミサイル、発射。

 

 

 よほど、縁壱ロボとの対決が嫌なのだろう。早々に地上へとワープ(出現)してきた無惨を、レーダーにて感知した彼女は……雲海より、攻撃する。

 

 ぎりぎり……ぎりぎり、直撃を避けた無惨が、泥だらけの身体でゴロゴロと転がっているのを確認した彼女は……再度、バスターミサイルを放つ。

 

 

 どうして町中ではなく、町の外で……予想は付く。

 

 

 おそらく、人々に見られたくなかったのだろう。人を食う怪物だから、下手に姿を知られたくないと思う気持ちは、彼女にも推測出来た。

 

 しかし、それが結果的には逆効果……町から少しばかり離れた位置だったばかりに、実に狙いやすかったのは……正しく、皮肉だろう。

 

 

 ──あ、また地中に戻ったぞ。

 

 

 いったい、どのような葛藤が無惨の中で繰り広げられたのか、それは彼女には分からない。

 

 分かるのは、下手すれば致命傷に成りかねないバスターミサイルに怯えるよりも、例の謎空間にて縁壱ロボより逃げ回る方がマシ……そう、無惨が判断したのだと、彼女は思った。

 

 

 ……可哀想な事、したかな? 

 

 

 レーダー越しにて、縁壱ロボが縦横無尽に動き回っているのを確認した彼女は……改めて。

 

 

「気が向いたら、縁壱ロボを量産しよう」

 

 

 縁壱ロボの有用性に、思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そのまま、如何ほどの時が流れたか……歴史を緩やかに積み重ね、緩やかに情勢が落ち着くのを彼女は待った。

 

 

 もちろん、縁壱の時と同じように、特に狙ったわけでもないけれども、結果的に彼女は色々な事に首を突っ込んだ。

 

 

 ある時は、古ぼけた道場の井戸に毒を入れようとした悪人どもをお仕置きして悪事を未然に防ぎ、夫婦となった歳若い男女(と、その父親)よりお礼の言葉を述べられて。

 

 ある時は、嘘を付き続けた男の死刑が行われようとしている時、その不意を突いて襲い掛かろうとしていた鬼を粉砕し、無事に死刑が執行されたのを見届けて。

 

 

 

 そんな感じで、強きを挫いて弱きを助けるといった、お前どこの水戸○門だよと言わんばかりの世直しムーブをやったりしながら……気付けば、年号が何度も変わった。

 

 その間……特に深い意味はないが、彼女はあまり大陸の方には行かなかった。

 

 理由としては細やかに色々とあるが、一言でいえば……魔女信仰だとか何だとかが非常に鬱陶しくなってしまったからだ。

 

 ぶっちゃけ、放っておいてくれたらそれで良いのだ。だというのに、やれ神を味方に付けるだの、我らは神の使徒だの、もう、もう、もう……本当に面倒臭い。

 

 ていうか、まだ利用しようとするだけならまだマシだ。協力する気は皆無だし、その結果がどうなろうが知った事ではないからだ。

 

 

 だが……殉教は駄目だ。

 

 

 頼んでもいないのに、何が悲しくていきなり『我が子を捧げます……』と生贄を出そうとするのか……これが彼女にはサッパリ分からなかった。

 

 なので、彼女はほとんどを日本の上空にて過ごす事にした。時折様子見の為に降りる事はあっても、それ以外はずっと上空に居た。

 

 大陸に比べたら、日本のソレは何と穏やかなモノか。そりゃあ空飛んでいる女を見たら誤解する気持ちも分かるけど……彼女にとっては精神的な居心地の良さは段違いであった。

 

 とまあ、そんな感じの理由が有るのもあって、『ここはもう地元っすよ』みたいな感覚で、日本の上空を漂い続け。

 

 

 ──無惨のやつ、地上に出られないのにどうやって鬼を増やしているんだろう……とか。

 

 

 そんな事を考えながら、一向に途絶える気配のない鬼たちの姿に小首を傾げ……一度も止まる事なく(おそらくは無惨を)切り刻んでいると思われる、縁壱ロボの動きをレーダーで確認したりしながら。

 

 何となく……そう、何となくだが、少しずつ時代が進んでいるのを彼女は感じ取っていた。

 

 

 たとえば、黒船が日本にやってきて、幕府が終わって政府へと変わったり。

 

 たとえば、廃刀令が敷かれたのか、刀を所持した者が目に見えて減ってきたり。

 

 

 色々と……そう、長く続いた鎖国は終わり、日本にも西洋文化が入るようになってきたのを、彼女は感じていた。

 

 というか、うっかり縁壱より言われた年月よりも更に100年か200年か……けっこう経ったような気がするが……まあ、今更100年も200年も大した違いはないと、彼女は己に言い訳しながら。

 

 地上を離れて、おそらくは数百年ぶりになるであろう……人々の往来と喧騒が賑やかな……都会へと降り立ったのであった。

 

 

 

 

 

 ──当然ながら、彼女はそのまま降り立つ馬鹿でもなければマヌケでもない。

 

 

 いくら鈍い彼女でも、己の見た目が非常に目立つモノであることは重々承知していた。だからこそ、彼女は時が過ぎて人々の意識が改まるのを待った。

 

 何故なら、人間の姿に擬態した彼女の姿は、『トップをねらえ』劇中においては御馴染みの、ピンク色の髪が目立つ、完全な異国人の容姿であったからだ。

 

 しかも、外ツ国の顔立ちとも違う。身に纏う衣服は、セーラー服とも海兵服とも作業服とも違う、あまりに今の時代とは掛け離れている。

 

 

 だから、余計に目立つ。

 

 

 ぶっちゃけてしまえば、外ツ国ですら悪魔の類だと疑われて矢を放たれた事は一度や二度ではない。

 

 外ツ国を渡り歩いていた時には討伐隊も組まれたぐらいなのだから、その目立ちようが伺いしれるだろう。

 

 

 まあ、中には涙と涎を垂らして恍惚の眼差しを……うん、止めよう。

 

 

 とにかく、人間に擬態した時の彼女の姿は、それはそれで目立つのだが……それでも、今回はそこまで大事にはなっていなかった。

 

 

 何故なら、今は大正モダン。そう、時代が移り変わる最中。

 

 

 西洋の文化が入りこそすれ西洋への理解がほぼ皆無な者が多い日本において、目立つ恰好であっても『ああ、西洋かぶれか……』と思う者が実に多かった。

 

 おかげで、この時ばかりは目立って面倒だった容姿も、役に立つ。

 

 

 あっちにぶらぶら、こっちにぶらぶら。

 

 

 店に入って冷やかしをするわけでもなく、その視線は常に動き続けている。というか、身体もくるりくるりと反転し、その両足が止まる気配はまるでない。

 

 容姿だけでなく、明らかに異国人だと分かる雰囲気を漂わせていることもあって、物珍しさこそはあっても不審な目を向ける者はそう多くはなかった。

 

 

(おお……じ、自動車だ! ついに、自動車を再び見る日が来ようとは……!)

 

 

 まあ、前世以来初めてとなる自動車との遭遇に感動している彼女が、そんな周りからの視線に気づいたかどうかは定かではないが……まあいい。

 

 何であれ、日本の空気と西洋の空気が入り混じる、独特な建物が数多く点在する表通りを歩く彼女の機嫌は、正にご満悦であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな、浮ついた気持ちで前も確かめず歩いていたからだろう。

 

 

「ん?」

「あっ……」

 

 

 どすん、と。

 

 

 何かにぶつかったぞと思った直後、ドサッと何かが床に落ちた。

 

 何だと思って視線を下げれば、そこに居たのは……こう、何て言えば良いのか……炎のような明るい髪色の、実に特徴的な顔立ちをした少年であった。

 

 その子供は、呆然とした様子で足元に転がっている紙箱を見つめ──内部スキャン──洋菓子の可能性大──あっ(察し)。

 

 

「ご、ごめんなさい! 前を見ていなくて!」

 

 

 悪い事をしたならちゃんと謝る。

 

 

 それは前世も今世も変わらない。慌てて少年の目線に合わせて屈めば、「い、いえ、私も前をちゃんと見ておりませんでした……」我に返った少年はそう言って紙箱を拾った。

 

 ……言葉ではそうでも、明らかに気落ちしているのが彼女には分かった。

 

 おそらく、箱を拾った瞬間に中身がどうなっているかに気付いたのだろう。食べられなくなったわけではないが、綺麗な形のままが良かった……その気持ちは彼女にも分かった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………し、仕方がない。というか、胸が痛い。

 

 

「何か、御詫びをさせてもらえないだろうか」

「え?」

 

 

 するりと横を通って行った少年が、彼女の問い掛けに振り返る。不思議そうに小首を傾げる少年を前に、彼女は……そのまま言葉を続けた。

 

 

「金は持っていないが、それ以外なら……何か、困っている事はないかな?」

「いえ、そこまで御気になさらずとも……」

「しかし、こちらとしても申し訳なくて……何でもいい、何か困っていることはあるかな?」

 

 

 そう言えば、少年は困ったように眉根をしかめた。

 

 気分を害した……というわけではなく、どう断れば良いのか分からずに困っているといった感じだろうか。

 

 

 ──これは、本当に何も無いのかもしれない。

 

 

 御詫びをしたいが、困らせてまでやるわけにもいかない。

 

 そう判断した彼女は、次に断ったら引き下がろうと思って、少年の返事を待った。

 

 

「……それでは、一つお願いしたい事があります」

 

 

 すると、何かに思い至ったのか、少年はしばし視線をさ迷わせ……さ迷っているのか、これ……あ、いや、そっちじゃない。

 

 

「見た所、外ツ国の者と見込んで……貴女様のお知り合いに、お医者様か薬師様はおられるでしょうか?」

「医者? 薬師? 何だ、君は病気なのか?」

 

 

 予想外のお願いに、彼女は首を傾げた。

 

 反射的に、少年の全身をスキャンする。とりあえず、少年には何の異常も見られない。健康優良児という言葉がそのまま人の形を取ったかのような健康体だ。

 

 

「いえ、私ではなく、母が……」

「母……ふむ、身体を悪くしているのか?」

「詳しく教えられていないので分かりませんが、去年の秋頃より()せる事が多くなって、いっこうに……産後の肥立ちが悪いせいもあると、掛かりつけのお医者様からは……」

「……ふむ、それだけでは病かどうかは分からんな。とりあえず、私には医者や薬師の知り合いはいないよ」

「そう、ですか……なら、お気持ちだけで──」

「まあ、待て。知り合いは居ないが、治せるやつなら私が治してやろう。治せないのならば、それまでだが」

「え?」

「信じるか信じないかは、お前の判断に任せよう。さあ、どうする? 藁にも縋る思いで私の手を引くか、気持ちだけを受け取って帰るか……選んでほしい」

 

 

 心から、ワケが分からないと言わんばかりに目を瞬かせる少年を前に……彼女は、ズバッと言い切ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……そうして、そこから徒歩で1時間半と少々。

 

 

「……ここが杏寿郎くんの御家なのかな? ずいぶんと大きな屋敷なのだな」

 

 

 少年……いや、煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)と名乗った少年に手を引かれた彼女の前には、それはそれは見事な屋敷が姿を見せていた。

 

 瓦屋根に、屋敷全体を囲う塀。堂々たる門構えは実に立派で、西洋文化が目立ち始めた都心部に比べて、杏寿郎が暮らす家はまだ昔の空気を色濃く残している。

 

 まあ、それは屋敷がある周辺の家々もまた同様だが、この煉獄家が放っている空気は別格であった。何と言えばいいのか……代々受け継がれてきたというのが、薄らと感じ取れた。

 

 

「煉獄家は代々鬼狩りを生業とする武家の血筋ですので、ある程度広くなくては鍛錬をする場所がありません!」

 

 

 案の定……というやつなのだろうか。

 

 正門を前にぼんやりと外観を眺めていた彼女を見て、思う所が有ったのか。まるで、自慢するかのように聞いてもいない事を教えてくれた。

 

 というか、自覚は無いが自慢のつもりなのだろう

 

 その証拠に、家の事を紹介した時の杏寿郎の顔は傍目にもはっきり分かるぐらいに喜色満面であった。おまけに、声も大きく力強かった。

 

 

 ……が、それよりも、だ。

 

 

 杏寿郎の語りで彼女が気になったのは、『鬼狩り』の部分。もっとはっきり言えば……その単語に関連したキーワードを、彼女は思い出していた。

 

 

 ──それって、前に縁壱が話してくれた『鬼殺隊』というやつでは……と。

 

 

 もしそうなら、意外な所で遭遇したなというのが彼女の本音であった。

 

 せっかく作った縁壱ロボの為に鬼殺隊を探していた時は全く遭遇出来なかったというのに、特に探しているつもりでもなく街中をぶらついていたら遭遇したとは……何とも、皮肉な結果だ。

 

 あるいは、探し物のお約束というやつなのかもしれないが……さて、と。

 

 

 ちらり、と……彼女は杏寿郎と屋敷を交互に見やった。

 

 

 今更、刀を調達出来てもワープを開くつもりは毛頭ない。縁壱ロボが精力的に動き回っているのをレーダー越しに見る限り、あの謎空間から出られていないのは明白だ。

 

 しかし……こうして今も『鬼狩り』という言葉が有る通り、彼女が把握できていない鬼の数は相当数居るのは間違いない。

 

 

 ……これは、どういう事なのだろうか? 

 

 

(もしや、アイツ以外に鬼を増やせる個体が居るのか?)

 

 

 しかし、縁壱はそのような話をしていなかった……ならば、縁壱たちですら把握していない……鬼舞辻無惨と同格の個体が居る可能性が──っと。

 

 

「父上! 母上! ただいま戻りました!」

 

 

 手を引かれて玄関まで案内された彼女の思考は、杏寿郎の元気な挨拶にハッと引き戻された。

 

 見やれば、玄関(というか、内装が)も立派だ。年期は入っているが、掃除以外に定期的な手入れが成されているのが見て取れた。

 

 まあ、これだけ立派な屋敷なのだ。

 

 内より家を支える母親が伏せている今、代わりに動いてくれる女中でも雇っているのだろう。つまりは、それが出来るだけの財力を有している、見かけだけの……え? 

 

 

「──遅かったな、杏寿郎」

「申し訳ありません。ちょうど売り切れておりまして、焼き上がるまで少し店で待っていました」

「いや、責めているわけではない。ただ、帰りが遅いから何か有ったのかと心配していただけだ……で、そこの人は?」

「あ、あの、それについては……」

「ん? どうした?」

「その、帰る時にこの方とぶつかってしまい、箱を落としてしまいました。外で開けると埃が入るので確認は……たぶん、形が崩れて……」

「……なんだ、そんな事か。腐ったわけでもない、腹に入れば皆同じよ……それよりも、怪我はしていないのだな?」

「はい、軽くぶつかっただけなので、互いに怪我無く……」

「そうか、それなら良い。しかし、それならどうして彼女は……ん、どうした? 大口を開けて……?」

「……? お姉さん? どうしましたか?」

 

 

 親子の会話を尻目に、彼女は……呆気に取られていた。

 

 何故なら、通路の奥より姿を見せた男……おそらくは、いや、確実に杏寿郎の父親と思われるその男の顔は、杏寿郎と瓜二つであったからだ。

 

 杏寿郎が歳を取れば、父親に。父親が若返れば、杏寿郎に。まさかクローンなのかと疑って反射的にスキャンを行った彼女は……仕方ないだろう。

 

 はっきり言って、似ているとか、そんなレベルでは……ああ、いや、そうじゃない。

 

 彼女は内心にて首を横に振ると……こちらを見つめる親子の視線に我に返った彼女は、慌てて二人に頭を下げた。

 

 

「ノノだ。此度、杏寿郎くんの洋菓子を落とさせてしまって申し訳ない。お詫びとして、杏寿郎くんの母親を見て欲しいと提案されたので、こうして付いてきたわけだ」

 

 

 ──何を言っているのか分からない。

 

 

 

 そう言いたげな雰囲気をこれでもかと醸し出している杏寿郎の父親(ほぼ、確定)は、しばし視線をさ迷わせた後……ちらりと、傍の杏寿郎を見下ろした。

 

 それで察した杏寿郎が、父親にポツポツと説明する。

 

 父親は、傍目にも彼女を胡散臭く思っているのは見て取れたが、来てしまったのなら……といった感じなのか。一つため息を零すと、改めて彼女へと向き直った。

 

 

「……ノノさん、で良いのかな?」

「好きな様に呼んでくれて構わない。ノノは、あくまでもこの姿の名前だからな」

「そ、そうか……なら、ノノさんと呼ばせてもらおう。申し遅れた、私の名は煉獄槇寿郎(れんごく・しんじゅろう)。そこの杏寿郎の父だ」

 

 ──しかし、外ツ国の者は独特な言い回しをするのだな。

 

 

 ぽつり、と。

 

 

 おそらくは聞こえないよう口の中だけで囁いたのだろうが、彼女の耳はしっかりと聞き留めていた。バスターマシンは伊達ではない。

 

 ちなみに、彼女は全く気にしていない。

 

 基本的に雲海の中で乱世が落ち着くのを待った(誤差100年以上)のだ。言い回しも古臭いモノになるだろう……という考えがあったからだ。

 

 

「……医学の心得があると杏寿郎より聞いたが?」

「医学の心得など無い。治せるなら治すし、治せないなら治せないと話しただけだよ」

「……? 申し訳ない、仰っている意味が私にはよく分からないのだが……」

 

 

 心底不思議そうに首を傾げる槇寿郎。同じく、首を傾げる杏寿郎。見れば見る程似ている親子を前に、さて、どのように説明したら良いかと彼女は思考を巡らせ──ん? 

 

 

「槇寿郎さん、お客様を何時までも玄関に立たせて、何をしておられるのですか?」

「──瑠火(るか)!? 起きてはならんと言っただろう!」

「そうさせたくなくば、早くお客様をお連れなさってください」

 

 

 不意に、廊下の向こうより姿を見せたのは、槇寿郎とそう歳の離れていない……さらりとした清涼感を思わせる美女であった。

 

 今しがたの父親然とした雰囲気は、無い。愛する妻を心配する夫の顔を前面に見せた槇寿郎は、見事な身のこなしで駆け寄り……優しく、女の手を取って支えた。

 

 瑠火と呼ばれた美女……おそらくは、槇寿郎の妻であり、杏寿郎の母なのだろう。

 

 

「は、母上、起きて大丈夫なのですか!?」

 

 

 履物をパパッと捨て置いた杏寿郎が、慌てた様子で駆け寄るのを、彼女は見送った。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ふむ、今の内に見ておくか。

 

 

 

 気遣う父と息子と、そんな二人の気遣いをやんわり受け止める母の、仲睦まじい一時。杏寿郎の靴を揃えた彼女は、改めて瑠火の全身をスキャンする。

 

 そうして分かるのは……瑠火の容体。バスターマシン7号の身体に搭載された知識の一つが、瑠火の病名を正確に導き出した。

 

 

 ──肺がん、だと? 

 

 

 何気なく検査した結果、重病だと発覚した時の医者は、こんな感覚なのだろうか……彼女は、少しばかり心が揺らいだ。

 

 けれども、それもすぐに落ち着いた。何故なら、彼女には『フィジカルリアクター』が有るからだ。

 

 

(まだ転移はしていないようだが、相当な痛みが出ている……表に出さないのは、二人を心配させないため……かな)

 

 

 見た所、『フィジカルリアクター』を用いて精製するナノマシンによって治療は出来る。それも、カプセル状のナノマシンを飲み続ければ……ん? 

 

 

(……何だコレ?)

 

 

 煉獄親子のインパクト(お前ら似過ぎだよ)のせいで気付くのが遅れたが、変なモノが有る。何気なく視線を横に向けた先の、年期の入った掛け軸だ。

 

 その掛け軸には、女が描かれている。だが、ただの女ではない。

 

 赤と橙色が入り混じる長い髪が天へと揺らぎ、月を背にして雲の合間より地上を見下ろしている……といった感じだ。

 

 

 ……正直、珍しい構図だなと彼女は思った。

 

 

 過去、様子見のために町を覗いた時、女が描かれた掛け軸は何度か目にした。春画もその際目にしたが、空から地上を見下ろす女という構図は初めて見る。

 

 そういうのは、だいたいが吉兆を意味する鳳凰(ほうおう)や、力強さの象徴である鷹、あるいは天を意味する仏陀などの仏などが多い。

 

 他には、太陽神の異名を持つ天照大御神などがあるが……絵は、夜を示している。月を背にする太陽神……何かの暗示なのだろうか? 

 

 

「……どうされましたか?」

 

 

 しばし眺めていると、瑠火より声を掛けられた。

 

 見やれば、彼ら彼女らの間で結論が出たようで、せっかく来たのだからお茶でも飲んで行ってください……と、言われた。

 

 治療の方はいいのかな……そう思いつつ、お言葉に甘えてとあがりかまちに足を──。

 

 

「ああ、すまない。外ツ国の者たちには馴染みが薄いと思うが、この国では家に入る時は履物を脱ぐんだ」

 

 

 ──掛けようとして、槇寿郎より静止された。

 

 

 

 ……そういえば、そうだった。

 

 

 

 あんまり脱ぐ機会が無い(バスターマシン状態の時は、そもそも無い)から、靴を履いているという事すら、うっかりしていた。

 

 なので──『フィジカルリアクター』にて靴を消去し、今度こそ上がりかまちに足を──

 

 

「待て、今……何をした?」

 

 

 ──掛けた瞬間、再び槇寿郎から呼び止められた。見やれば、先ほどまで見せていた友好的な態度は無く……代わりに、射殺すかのような鋭い視線を向けていた。

 

 

「答えろ、今、何をした?」

「……? 何を、とは?」

「とぼけるな、靴をどうした?」

「……? あ、ああ、そうか、靴は消しただけだ。履物は駄目なのだろう?」

「……あくまでも、とぼける気か?」

 

 

 ゆらり、と。

 

 瑠火より離れ、一歩、二歩、歩み寄る。剣呑とした空気を漂わせ、目を逸らした瞬間に投げ飛ばされそうだなと彼女は思った。

 

 

「──槇寿郎さん、お客様に何をするつもりなのですか?」

 

 

 けれども、そうはならなかった。

 

 それよりも早く、瑠火が待ったを掛けたからだ。「何を怯えているのですか、まったく……」呆れたと言わんばかりに溜息を吐いた瑠火は、スススーッと前に出て……彼女へと頭を下げた。

 

 

「お気を悪くさせてしまい、申し訳ありません。夫はどうも、心配性な所がありまして……」

「いや、気にしなくていいよ。ところで、上がらない方が良いのかな?」

「いえ、いえ。是非とも、お茶の一杯だけでも馳走になってやってください」

「ありがとう、そう言っていただけると、こちらも嬉しいよ」

 

 

 促されるがまま上がれば、瑠火はにっこりと笑った。それを見て納得いかないと槇寿郎は鼻を鳴らしたが、じろりと妻から睨まれて、そっと視線を逸らした。

 

 

「……あの、ノノさん。先ほどは何を見ていたのですか?」

「そこの掛け軸の絵を、見ていたんだ」

 

 

 そんな中、真っ先に話しかけに来たのは杏寿郎であった。特に隠す事でもないので、彼女はそのまま答えた。

 

 

「いったい、何の絵なのかなと思ってね。女の絵は振り返ったり派手に着飾っていたりするモノが多いから、珍しいなって……」

「なるほど、分かりました。それは、『日の神様』の絵です」

「え、これがヒノカミ?」

「はい、そうです。外ツ国でも、日の神の名は広まっているのですか?」

 

 

 杏寿郎の問い掛けに、それは分からないと彼女は応えた。すると、「でしたら、何処で知ったのですか?」と問われたので。

 

 

「何故かは知らないけど、ヒノカミと呼ばれる事が多いから、ヒノカミとは何なのかなと前から思っていたのだ」

「え?」

「しかし、自分の姿なんてじっくり見たのはかなり前だが……そうか、他の人達には私はこのように見えているのか」

「え?」

「これは何時頃の私を描いた絵なんだろうか……雲海から覗いている感じの絵だよね、なら、どこかで私を目撃したのだろうか」

「……え?」

「地上にちゃんと降りるのは2,300年ぐらい久しぶりだけど、こういうふうに絵が飾られる時代になったんだね……何だか感慨深いモノを感じるよ」

 

 

 率直に答えたのだが、何故か杏寿郎の反応は弱弱しかった。というか、妙に声に力が無かった。

 

 気になって振り返れば、杏寿郎だけではない。槇寿郎もそうだが、先ほどまで夫をキッチリ叱っていた瑠火も、同様にポカンと呆けた様子であった。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………あっ、これはヤッチャイマシタね。油断していたというか、完全にうっかりなやつだ。

 

 

 

 大陸の時にちらほら遭遇した、『おお神よ我らに導きを(恍惚・失禁・殉教のトリプルコンボ)』の流れかな? 

 

 それとも、『神を名乗る痴れ者に天罰を! (発狂・失禁・生贄のトリプルコンボ)』という、異教徒ぶっ殺しモードのアレかな? 

 

 あるいは、『ああ……(生暖かい目)』かな。

 

 

 精神的に一番辛いのはコレだけど、何だろうか……どうも、煉獄家の反応がその三つとも違う気がする。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………いや、まあ、下手に騒がられるのが嫌だから擬態しているだけで、別にそこまで本気に隠しているわけではないし……え、いや、待って、その視線は止めてほしい。

 

 

「……っ!!!!」

 

 

 キラキラ、キラキラ、と。

 

 いや、もはやそれは、炎のよう。『わたくし、気付いてしまいました』と力強く訴えている子供の視線を前に……彼女は、思わず内心にて唸った。

 

 

(──いかん、完全に期待しているぞ)

 

 

 このまま否定するのは簡単だが、ここまで満ち溢れてしまった子供の期待を否定するのは……何というか、非常に心苦しい。

 

 普通に考えれば、この人自分を神様だと思っているのね(笑)みたいな扱いをするところなのに……よほど純粋か、まっすぐな性根なのだろう。

 

 その証拠に、見ろ……槇寿郎と瑠火は、困った様子で息子と私を交互に見やっている。

 

 ある意味、そういうのが一番辛いのだ。いっそのこと、笑い飛ばしてくれた方が幾らでも呵責無く誤魔化せるというのに…………ええい、仕方がない。

 

 

(元々、この子の洋菓子を落とした御詫びなわけだし……薬を渡して終わりにするか)

 

 

 そう、結論を出した彼女は……既に精製しおえたカプセル(30日分)の入った紙袋を、杏寿郎に手渡すと。

 

 

「ここに、君の母の病を治す薬が入っている。朝・昼・晩、各一つずつの一日3回。時間はそこまで気にしなくていいから、きっちり一つずつ、30日間掛けて飲み続けるように」

「え、あ、あの……」

「うっかり自白した私がマヌケなわけだけど、そういうことなのだ──では、おさらば!」

 

 

 一方的にそれだけを告げ──瞬時にバスターマシン7号へと戻った彼女は──有無を言わさず外へ飛び出し、青空の向こうへと飛び立ったのであった。

 

 

 

 

 

 




 戦力が整いつつある剣士たち

 フラグ8「最終的にほぼ不動の順位で固定される上弦の鬼たちの半数が、鬼にされる事無く天寿を全うor死亡により、上弦に値する鬼が三までになる」

 フラグ9「本来であれば妻を失った事で心が折れたとある剣士が、ヒノカミの慈悲により妻が助かったことで、息子たちとの交流が続く。隊士たちへの指導も行われ、全体的な戦力UP」


 もはや考える事を諦めつつある自称災害の化身

 フラグ9「時々遭遇してはコマ切れにしてくるお労しやロボに心労が溜まっていたところ、隠れ家にまで押し掛けたうえに居付いてしまって老化が更に加速する(能力値ダウン)」

 フラグ10「お労しやロボのせいで隠れ家から出る隙が無く、部下の鬼を通じて鬼を増やしている。しかし、年々戦力を整えつつある鬼殺隊によって、頭打ちになりつつある(総数制限)」

 フラグ11「彼女に隠れ家が見つかっているので、もはや隠れ家の意味が無くなっている。上から狙い撃ちされた時、鬼の親玉は……」


 今回は本当にうっかり自白しちゃったマシン7号

 フラグ2「お労しやロボがあまりにも有能だったので、量産型お労しやロボを作るべきかと考えている。ちなみに、その性能はとある岩柱(痣発現)の1.7倍である」

 フラグ3「後々、様々な悲しみの始まりである血の臭いが発生する前に叩いてたりするので、死んでいるはずの者が生きていたりする場合がある」




まだだ……まだ、無惨には逆転の目があるかもしれない(?)

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