デンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン……   作:葛城

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忘れたころに復活します

ついに、無惨討伐への準備に入ります


第八話: デバフは大事

 

 うららかな昼下がり。

 

 

 その日もまた、晴天に恵まれて気持ちの良い日差しが大地を照らしている。それは、鬼殺隊に御厄介(半ば懇願され)している彼女とて例外ではなかった。

 

 というより、彼女自身の気質としては、夜間よりも昼間の方が好きだし、日なたの下をのんびり散策するのが大好きなのである。

 

 基本的に雲海の中を漂っている事の多い(100年単位で)彼女だが、別に好き好んで引き籠っているわけではない。

 

 単純に、無駄に目立つことが嫌いなだけである。より正確に言い直すのであれば、不必要に己へ注目が集まるのが苦手なだけだ。

 

 今更人間扱いされない事に腹を立てるつもりも悲しくなるわけでもないが、だからといって、神様扱いされるのは真っ平御免である。

 

 というか、どうして神様扱いされるのか……彼女としては、それが不思議であった。

 

 そりゃあ長生きしているから色々な事に手を出した覚えはある。

 

 しかし、自分から片っ端から藪に手を突っ込むような事はしていないし、せいぜい『いくら何でもそりゃあアカンよ』みたいな案件ぐらいしか手を出してはいない。

 

 加えて、基本的には地上にほとんど姿を見せないようにしていた。姿を見せる時でも、用が済んだらさっさと雲海の中に引っ込み、そのままほとぼりが冷めるまで待つを繰り返した。

 

 なので、彼女の感覚としては、お前ら何時までも昔の事を覚え過ぎじゃないかな……という呆れの感覚が強かった。

 

 おかげで、せっかく地上に降りてきた彼女は相変わらず雲海の中に居た時のように、自主的な引きこもり……良く言えば、穏やかな日常を送っていた。

 

 

 ……いちおう、彼女にとってソレは悪い意味ではない。

 

 

 いや、引き籠る必要が有るという点だけを見れば悪いが、もうそれは慣れているので問題ではない。というか、引き籠ってはいるけど、あくまでも、基本的には、だ。

 

 別に、雲海のように全く姿を隠しているわけではない。人目に付くような時間を避けているだけで、気が向いたら夜間に出歩いているわけである。

 

 彼女にとって重要なのは、兎にも角にも無駄な騒動へと発展しない事……つまりは、いちいち周囲が反応する事が嫌だというわけなのだ。

 

 

 実際、彼女の立場になって考えても見てほしい。

 

 別に、彼女は己が偉くなったつもりはない。

 

 

 やっている事は大層な事だと理解しているが、己が誰かに頭を下げられるような存在だとは欠片も考えてはいないのだ。

 

 ていうか、ぶっちゃけそういうのは止めてほしいのが彼女の正直な本音である。

 

 お礼として、頭を下げられること自体は良い。けれども、いちいちお礼を言われたいとも、されたいとも、思っていない。

 

 何なら、遠くからこっそり眺めながら、『いや、そこまで喜ばれると逆に申しわけが……』と、謎にテンションを下げるような性格……それが彼女なのである。

 

 

 

 

 

 

 ──さて、話は変わるが、青天の霹靂(へきれき)というのは、何も人間に限った話ではない。

 

 

 言ってしまえば、ある程度の知性がある生き物ならば、予想すら出来ない突発的なナニカに見舞われれば驚いて思考が止まるわけである。

 

 もちろん、どんな状況であろうとも冷静さを失わない、怪物的な思考をするやつも居るだろう。

 

 あるいは、予想はしていなかったが、心の何処かで何かを感じ取っている本能的なタイプなら、驚きこそしても冷静さを失わないのかもしれない。

 

 

 ……で、彼女はその中でもどんなタイプかと言うと、だ。

 

 

「──え、攻め込む?」

「はい、今こそ絶好の機会かと愚考した次第でありまして……」

 

 

 おそらくは一番割合が多いと思われる、普通に驚いて言葉を失くす……であった。

 

 

 ……いや、まあ、彼女がそうなるのも無理は無い。

 

 

 何せ、何時ものように今日はどうやって暇を潰そうかなと、庭先の花を眺めていたら、何やらお館様である耀哉に呼び出されたのは、つい数時間前の事。

 

 何やら非常に恐縮している使いの者の背にて揺さぶられた後、目隠しが外されて対面した直後に深々と頭を下げられ、状況が分からず困惑して。

 

 本来であればこちらが赴くのが道理なところを、無礼にも呼び出す形になって……という、彼女からすれば『お前ら本当に気にし過ぎ!』と思うような前口上を、終えた後。

 

 

「不遜であるとは存じております。ですが、鬼舞辻無惨の討伐に、御協力をお願いしたく……」

 

 

 と、続いたわけである。

 

 で、そこから二言、三言、と続いた結果、思わずこういう意味かと率直に聞き返し、真正面から答えたのが……先述の会話というわけである。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………うん、まあ、アレだ。

 

 

 

 驚きはしたが、彼女は冷静に考える。耀哉の考えというか思惑を、彼女は薄らと察した。

 

 

 これまでの耀哉(というか、鬼殺隊)の話から推測する限り、鬼舞辻無惨という、鬼たちの大本というかボスは、非常に狡猾かつ用心深い性格だと思われる。

 

 彼女にとっては縁壱の件でもあるし、『鬼』とかいう百害有って一利無しな者をどんどん生み出すようなやつなんぞ、問答無用のバスターミサイルでフィニッシュである。

 

 なので、偶発的にも接触した彼女は、そのままに攻撃したわけだが……考えてみれば、あそこで出会ったこと自体、物凄い事なのだろう。

 

 

 実際、長きに渡って鬼舞辻無惨の討伐を悲願として戦い続けている鬼殺隊ですら、鬼舞辻無惨と遭遇した者はいないらしい。

 

 

 どのような姿をしているのか、どのような技を使うのか、どこに隠れ潜んでいるのか。

 

 全てが未知であり、未知であるが故に、鬼殺隊は常に受けに徹する他なかった。

 

 はっきり言えば、被害者が出てからでしか動けなかった。

 

 未然に防ぐのではなく、常に、これ以上の犠牲者は出さないというのが限界であり、鬼殺隊はいつも犠牲を途中で食い止める事しか出来なかった。

 

 

 だが、今回は違う。何故なら、耀哉曰く『ヒノカミ様が居る』からだ。

 

 

 彼女の存在によって、鬼殺隊は初めて鬼舞辻無惨……そう、怨敵である無惨の居場所を知る事が出来た。

 

 加えて、今ならば用心深い怨敵も、ヒノカミの御業によって逃げる事も出来ない。つまり、今ならば……無惨を真正面から討てるわけだ。

 

 

「……まあ、私に出来る事であれば力を貸すけど……でも、貴方たちが勝手に向かうのは構わないけど、私から君たちをあそこへ招待するつもりはないよ」

「委細、承知しております。あくまでも、討伐は私たち鬼殺隊が行います」

「そうした方が良い。危険は伴うし命を落とす可能性は高くとも、そうしなければ、貴方たち鬼殺隊は前へ進めない。私がやるのではなく、貴方たちの手で決着を付けた方が良いと思う」

「……っ! そうですか、そうですよね、そうでなければ、子供たちも……っ!」

「ああ、もう、頭を下げなくていいから」

 

 

 彼女としては、だ。

 

 周りの糧にもならず、何も生み出さないだけなら、まだ良い。生きる事に理由など必要ではないし、生きたいのであれば生きろというのが彼女の考えだからだ。

 

 

 しかし、無惨(というか、『鬼』全般)に対しては違う。

 

 

 何時頃からなのかは彼女もはっきりとは覚えていないが、今は『鬼は滅さなければならない』と強く考えていた。

 

 何故なら、鬼は特別な条件が揃わない限りは死なないからだ。

 

 只々周りの生命を食らい、そこで満足せず、更に多くの生命を食らう為に強くなる。仮に殺しても、その身体は灰になって散り散りになり、何も残らない。

 

 

 つまり、命が循環しないのだ。

 

 

 どんな生き物であろうとも、どれほど強大で凶暴な生き物であろうとも、数多の命を食らい続けた怪物であろうとも、死ねばそこまで。

 

 血は流れ、肉は食われ、蝿が集り、腐った肉は(うじ)に食われ、その蛆は他の生き物に……と、最後は必ず大地へと還ってゆく。

 

 それが、この世界の(ことわり)。地上の掟であり、大地の掟であると……彼女は思っている。

 

 

 だが、鬼にはそれがない。

 

 

 死ねば灰になり、数多の命は循環しない。只々、一夜の悪夢が如く、全てが消え去って……それで終わり。

 

 それは、明らかな異物だ。理から外れた、存在してはならない生き物だ。

 

 己も人の事は言えないが、それでも、アレは駄目なのだと……彼女はハッキリと考えていた。

 

 だから──ワープは使えないけど、それ以外の方法なら手を貸すよ……と、言外に告げた。

 

 

 ……そりゃあ、まあ、だって……ねえ。

 

 

(宇宙怪獣来ちゃったら、無惨とか相手にしている余裕無くなるし……無惨が宇宙怪獣の肉を食ったらどうなるんだろうか?)

 

 

 太陽そのものを苗床にして繁殖する生物に比べたら、言っちゃあなんだけど、無惨なんて彼女にとってはダンゴ虫(しかも、死にかけ)レベルの脅威でしかなかった。

 

 ていうか、食った時点で日本全土を焦土に変えてでも仕留めるほか無くなるような相手と比べる時点で間違いなのだが……と。

 

 

「……ところで、日の神様は、どう思われますか?」

「ん?」

「攻め込むというのは、あくまで手段。どんな方法であろうとも、無惨を滅すれば良い……と、私は考えております」

「そうだね、攻め込んでも仕留められなければ意味はないね」

「しかし、私は思うのです……仮に子供たち……最高戦力である柱が接敵し、その首を落としたとして……果たして、無惨はそれで死ぬのか……と」

「……言われてみれば、そうかもね」

 

 

 思ってもみなかった耀哉からの問い掛けに、彼女は頷いた。

 

 思い返してみれば、あの縁壱ですら仕留めきれなかった相手だ。そう、あの人間なのか何なのかよく分からん種族『縁壱』ですら、殺せなかったのだ。

 

 加えて、殺せなかったのは縁壱だけではない。

 

 これまで数多の鬼を瞬殺してきた彼女のバスターミサイルですら、ダメージを負わせる事は出来ても、仕留めるには至らなかった。

 

 よほどの再生能力を持っているのか、あるいは首を落としただけでは死なないのか……理由は分からないが、首を落としただけでは死なない可能性は非常に高いだろう。

 

 それは、耀哉にとっても、彼女にとっても、絶対に解決させておかなければならない疑念である。

 

 何故なら、いくら鬼殺隊が常人より強かろうが、人間である事に変わりない(ただし、縁壱は除く)。そして、鬼を殺せる武器は限られている。

 

 と、なれば、現状では総力を結集しても、正攻法では無惨を殺せないのが確定してしまう。どうにか殺せたとしても、犠牲は一気に膨れ上がるだろう。

 

 いくら犠牲を覚悟しているとはいえ、目的が達成出来ないばかりか、次にも繋がらない無駄な犠牲なんぞ、間違ってもするべきではない……というのが、耀哉の考えであった。

 

 

「故に、私は協力者の力を借りようと思います」

「協力者?」

「はい、実は既にこの場に呼んでおります……ですが、その前に御一つだけ、先にお伝えしなければならない事があるのです」

「……それって、左の部屋にいる2人? それとも、右の部屋に居る2人? まさか、襖の開け閉めをやるために待機している子供2人じゃないよね?」

 

 

 何気なく尋ねた瞬間、耀哉は僅かばかりに背筋を伸ばし……襖の奥、両隣の部屋にて息を飲む音がしたのを、彼女は感知していた。

 

 

 ……驚かせるつもりはない。ただ、彼女はバスターマシン7号。たかが襖一枚程度を隔てた場所を透視&盗聴するなんぞ、ワケは無いのだ。

 

 

 そもそも、どちらも隠れていないので嫌でも分かる。

 

 まあ、彼女のスキャンから逃れるのは至難の業だ。それこそ、地球の裏側にいたとしてもすぐに見付けられるので、これに関しては……と、話が逸れた。

 

 パッとスキャンで確認した限り、右の部屋に居る2人は……柱だ。名は、富岡義勇と……胡蝶しのぶ、だったか? 

 

 正直あんまり気に留めていなかったのでうろ覚えだが、『柱』とか言う凄い役職に就いている人物……だったような気がする。

 

 二人とも、彼女より指摘された瞬間、僅かばかり身体を固く……あ、いや、固くしたのはしのぶの方で、義勇の方はほとんど反応していなかった。

 

 

 

 ──やっぱりコイツ、縁壱の血が流れているんじゃないかな? 

 

 

 

 そんな事を思いつつも、襖越しに二人を見やれば……両隣の襖が、静かに開かれた。

 

 改めて柱の二人を見やれば、しのぶの方は緊張でカチコチ。義勇の方は……何だろう、何考えているのかよく分からん、無表情過ぎてさっぱり分からん。

 

 とりあえず、柱の2人に対しては軽く頭を下げたのでヨシとして……気になるのは、柱とは対面側になる襖の向こうより姿を見せた……男女だ。

 

 

 男の方は……これといった特徴の無い青年だ。服装は鬼殺隊の隊服ではない。顔色は病的なまでに青白く、貧血……というよりは、体質なのだろう。

 

 女の方は、完全に女性だ。歳は不明だが、20代後半だろうか。男の方と同じく、地味ではあるが柄のある和服を着ていて、男と同じく病的なまでに青白い肌をしている。

 

 

 しかし、少しだけ違う部分がある。それは、女の方が、ハッと二度見してしまうぐらいの美貌であること。色んな人間を見て来た彼女の目から見ても、美人だなと思ったほどだ。

 

 

 ……親子、のようには見えない。

 

 

 かといって、夫婦のようにも見えない。家族……のようにも見えるが、どうにも違うような気がする。

 

 上司と、その助手……だろうか。見た感じ、女の方が上司で、男が助手……かな? 

 

 この時代の常識で考えれば、男の方が上なのだろうが、何と言えばいいのか……2人から感じ取れる雰囲気から、彼女はそのように判断した。

 

 ちなみに、若作りという言葉があるけれども、女の方の美貌は、小手先でどうこうしているレベルを超えている。まだ、姉弟と言われた方がしっくりくるぐらいであった。

 

 

「……こんなことを言うのは失礼に当たるとは思うのだけれども」

 

 

 とはいえ、そんな事よりも、だ。

 

 

「そこの御二人は、ずいぶんと顔色が悪いように見える。見た所大病などは患ってはいないようだが、食が細そうだ……日を改めても構わないけれども、大丈夫か?」

 

 

 彼女としては、そちらの方がよほど気になる事であった。

 

 だって、本当に顔色が青白いのだ。それこそ、貧血になっているのかと心配してしまうぐらいに青白い。

 

 スキャンで確認した限りでは、異常は見当たらない。

 

 なので、体質的にそうなのだと判断したが……だからといって、心配が解けたかと問われれば、そんなわけもなく。

 

 

「私の事は気にしなくてよい。辛いのであれば、横になったまま話も聞こう……貴方も、それでいいだろう?」

 

 

 身体を動かす必要があるならいざ知らず、話を聞くぐらいなら横になったままでも十分だと訴えた……のだが。

 

 

「……え、なに? どうしたの?」

 

 

 何故か……そう、何故か、誰もがポカンとした顔で己を見つめている事に、彼女は気付いた。

 

 正直、状況が分からなかった。

 

 また、己の不用意な発言で誤解が生じたのかと一瞬ばかり身構えたが、どうにもそんな感じではない。

 

 

 

 ──私、また何かやっちゃいました? 

 

 

 

 そんな思いで、おもむろに耀哉へと視線を向ければ、我に返った耀哉は……フッと、肩の力を抜いた……ように、彼女には見えた。

 

 

「日の神様……そこの二人は、私の古い知り合いです。珠代(たまよ)愈史郎(ゆしろう)と言いまして、医学を始めとして様々な専門分野に精通しております」

「へえ、そうなんだ。二人は姉弟なのかな? お若いのに、ずいぶんと博識……って、そうじゃない」

 

 

 流されそうになったが、寸でのところで彼女は話を戻し……次いで、深々とため息を零した。

 

 

「まったく、貴方も大概だが、学者というやつはどうしてこう己を苛めるのか……若さに任せて無理をするのは勝手だが、後になって後悔しても私は助けたりはしないよ」

「……無理、ですか?」

 

 

 曖昧な笑みを浮かべて首を傾げる耀哉に、「人間、好きな事をしている時は特に無茶をしがちだけど……」彼女は……あえて、軽く睨みつけた。

 

 

「男女に関係なく、ツケは後で必ず支払う時が来る。5年無茶を重ねれば、治るのにも最低5年は掛かるモノ……いいですね、分かっているのですか、御二人とも」

 

 

 ズビシッ、と。

 

 失礼な事であるとは分かっていたが、あえて彼女は顔色の悪い二人を指差した。

 

 突然の事にビクッと肩を震わせる二人に対して、「いいですか、御二人とも!」彼女はそのまま……はっきりと、告げた。

 

 

「人間、上手く長生きすれば100年ぐらいは生きられるのです。しかし、学問に励むのは素晴らしいことですが、同時に、人間の身体はそこまで丈夫には出来ておりません」

 

 

 そう、そうなのである。それが、一言申さねばと彼女が思った事だ。

 

 

「誰も、学問から手を引け等とは言いません。ただ、もう少し身体を労わりなさい。貴女も御存じでしょうが、人間は『鬼』のように無理を続けられない生き物なのですから」

 

 

 これで、言わなければならない事は全部言った。

 

 そう言わんばかりに、彼女はフンスと鼻息荒く腕を組み、2人からどのような反応が来るかを──え、いや、あれ、ちょっと待って。

 

 

 ──ぽろり、と。

 

 

 どんな返事が来るのかと身構えた彼女を他所に、忠告された女……珠代が見せたのは……大粒の涙であった。

 

 これには……正直、驚き過ぎて彼女は言葉を失くした。ぶっちゃけ、こっちの方がよっぽど青天の霹靂であった。

 

 あまりに想定外の事態にどうしたら良いのか分からず困惑する彼女を他所に、珠代は……そのまま二つ、三つ、四つと続けて涙を零すと。

 

 

「私を、人間と呼んで、くださるのですね、日の神様……!」

 

 

 噛み締めるような呟きと嗚咽と共に、両手で顔を隠して……蹲るように、俯いてしまった。

 

 それを見て、オロオロと動揺を露わにする男……愈史郎と呼ばれたその男が、傍目にも困り切った顔で彼女と珠代と呼ばれた女性を交互に見ていた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………あ~、うん、これは、アレだ。

 

 

 どうやら……知らぬうちに、珠代が抱えたナニカ、その琴線へとダイレクトアタックをしていたようだ。

 

 

 ……何だろうか、己はもしかして空気が読めないのだろうか……そう思いながらも、彼女にはもうどうにも出来なくて。

 

 

(だから、そういう大事な情報は先に話してほしいとあれほど……)

 

 

 何やら、薄らと涙を滲ませているしのぶの姿を横目にしつつ……彼女は、非常に気まずい空気の中で耐える他なかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、小一時間後。

 

 

 どうにか涙が止まり、青白い肌を気恥ずかしそうに赤らめている珠代より、改めて始まった話……それを大まかにまとめると、だ。

 

 

「……弱体化、と?」

「はい、『鬼舞辻無惨の弱体化』、それ以外に、無惨を殺しきる手段はないと、私どもは考えております」

 

 

 と、いう感じであった。

 

 この、弱体化……詳細を語るのであれば、正確には鬼舞辻無惨が持つ再生能力を弱らせるというものだ。

 

 というのも、どうして弱体化させるのかと言えば、唯一『鬼』にダメージを与えられる武器では、無惨を殺しきれない可能性が浮上しているからである。

 

 というより、あの無惨の事だから確実に弱点をそのままにはしてないだろう……というのが、珠代の意見である。

 

 

 つまり、鬼の共通の弱点である『(くび)』だ。

 

 

 非常に強固になっているか、あるいは、切り落とされるよりも前に再生するか、それとも、切り落とされてもしばらくは耐えられるのか……それは、当人以外には分からない。

 

 だが、確実なのは、何かしらの対策が施されている……それだけは断言出来る……というのが、珠代のみならず、耀哉の懸念でもあった。

 

 

 ……で、そこで浮上したのが『弱体化』なのだが……普通の毒では、意味が無いらしい。

 

 

 何故なら、鬼が持つ異常な再生能力によって、あらゆる毒をすぐさま解毒してしまい、足止めにすらならないから……らしい。

 

 実際、並みの隊士でも殺せる雑魚の鬼ですら、ほとんど効き目がないのは実証済み。これが上位の鬼であれば、毒を撃ち込む行為そのものが無意味である可能性が非常に高い。

 

 

「現在、鬼に対して有効が確認されているのは、藤の花より抽出して濃縮した薬液のみ……しかし、それも、言うなれば下級の鬼に対してで……おそらく、無惨相手には効果はないでしょう」

「ふむ……それで?」

「なので、私どもは無惨を殺す毒ではなく、無惨の行動を読んだうえで、弱らせる事だけに特化した毒を製作しているところなのですが……現在、非常に由々しき問題に直面しております」

「と、言いますと?」

「結論から言えば、被検体が足りません。無惨の血をより濃く分け与えられた鬼の体液を手に入れる事が出来れば、研究は飛躍的に進み……無惨の命に、手が届きます」

 

 

 ぎりぎりぎり、ばきっ、と。

 

 無惨に対して、思う所が(当たり前だが)あるのだろう。

 

 食いしばった歯が砕ける音と共に、ハッと我に返った珠代は……大きく深呼吸をした後、改めて彼女へと居住まいを正した。

 

 

「──日の神様、これを」

 

 

 それを見て、頃合いと見た耀哉が話に入ってきた。

 

 見やれば、耀哉の手には一枚のチラシが有って……サッと彼女の前に広げられたソコには、『万世極楽教』と大きく記されていた。

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 …………なにこれ? 

 

 

 小首を傾げる彼女を尻目に、耀哉は「ごく一部の地域に根付いている宗教団体です」と、説明を始めた。

 

 

 ……その中身を簡潔にまとめると、だ。

 

 

 この『万世極楽教』というのは、とある地域のごく狭い範囲にのみ根付いている宗教団体であり、始まりそのものは古いらしい。

 

 教義は、“穏やかな気持ちで楽しく生きることこそ神の御心にかない、辛いことや苦しいことはしなくてよい”というもの。

 

 何じゃそりゃあ……といった感想を彼女は抱いたが、周辺の貧しく辛い境遇の人たちが逃げ込む場所としてその地に住まう者たちの間では有名らしい。

 

 

 ……で、その宗教団体がどうしたのかと言えば……どうも、その教祖と思われる存在が『鬼』である可能性が非常に高い。

 

 

 それも、ただの鬼ではない。調べた限りでは、教祖は常人とは異なる見た目をしているだけでなく、歳を取らないという噂がある。

 

 それが事実なら、間違いなく教祖は人ではない。

 

 少なくとも、50年、100年は時を経た鬼であるならば、その実力は相当なモノ……無惨の血をより多く分け与えられた個体である可能性が、非常に高い……とのことだ。

 

 

「……話は分かったけど、そこで私に助力を求めるということは、つまりは私にその鬼を退治するついでに体液を取って来てくれ……というわけか?」

 

 

 一通り話を聞いた彼女は、率直に尋ねた。直接的に言われたわけではないが、話の流れから考えて、そうだろうと思ったからだ。

 

 

「いえ、そうではありません。日の神様の御力は鬼に対して絶大無比……失礼ながら、強大過ぎるあまりに体液の採取は難しいと私どもは愚考しております」

「あ~……言われてみれば、そうかも。出会い頭に終わらせてしまいそうな気がする」

「それに、おそらく教祖以外に鬼はおりません。信者と思われる人たちは鬼である事を隠すための擬態であり囮であり、食料だと思われます。信者たちは、何も知らないままに利用されていると私どもは……」

「まあ、そうだろうね」

 

 

 スルリとフォローに入る珠代の言葉に、彼女は納得して頷いた。

 

 実際、バスターマシン7号の性能というか機能は、破壊に特化していると言っても過言ではない。

 

 何せ、元は対宇宙怪獣の決戦兵器。人間サイズの敵など初めから想定しておらず、明らかなオーバーキルだ。

 

 

 ……では、いったい何をさせると? 

 

 

 考えても分からなかったので素直に尋ねてみれば、珠代は居住まいを正し……同時に、申し訳なさそうな顔で視線を軽くさ迷わせた後……フッと、やにわに顔を上げると。

 

 

「無礼であるとは存じますが、日の神様には御旗として陽動に動いて貰えないかと……」

「陽動?」

「はい、鬼を滅する為とはいえ、人を切り捨てては本末転倒。日の神様には、鬼殺隊の皆様方が鬼を捕らえて体液を採取し、仕留めるまでの間……信者たちの気を逸らしていただきたいのです」

 

 

 そう、言葉を続けたのであった。

 

 

 

 




はたして、無惨は生き残れるのか……デュエルスタンバイ!
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