不健康極まりない生活ですね。
「……はあ」
エルフは盛大にため息を吐く。
「…まさかとは思うけど、
「えひどくね?」
「…チッ、面倒臭ぇな…よっしゃあ人間! お前の知ってる限りのエルフについての情報全部吐き出せ!」
「…そのエルフって、仮面ライダーの事か? それとも種族の事か?」
「お前ぜってー女子にモテないタイプだろ! どっちもだよ!」
「…まあ関係ねぇや。おいビオラ! こいつの話を聞くな! 今すぐ帰れ!」
拘束されたまま京太郎は叫ぶ。
「るせえ! 俺はテメェの命を握ってんだぞ!」
「…」
ビネガーアクサーは蠍擬きの尾を京太郎の首に充てがう。その様子に、エルフは俯き加減で過去の幸せだった記憶を想起する。
ー過去、エルフの里
「おーねーえーちゃーん!」
私は全力疾走してお姉ちゃん ーメリア・ヒアラルクに勢いよく抱きつく。
胸あたりまであるウェーブのかかった金髪が少しだけ揺れた。お姉ちゃんの巨乳は包容力抜群だ。
「…もう、そうやっていっつも私とかお母さんに抱きついてー……ビオラだってライラのお姉ちゃんでしょ? 甘えてばっかりだと立つ瀬が無くなるよー?」
「だってだって、お姉ちゃんの匂いって安心するんだもん……」
「…あーあ……」
お姉ちゃんはやれやれといった表情で両腕を私の腰に回す。この時の私は、頬を膨らませながら赤い顔で覗き見をしている妹の存在に気付く事が出来なかった。
「ビオラお姉ちゃんずるいよ! ライラもメリアお姉ちゃんとかママとかに抱っこしてもらいたいのに!」
「ご、ごめんって…」
案の定ライラは癇癪を起こした。可愛らしい顔を天狗みたいに真っ赤にして私を糾弾する。
ライラはまだ118歳だから、私の腰くらいまでしかない。その上ショートボブをしてるから、もう見た目がお子様感満載だ。
「もうお姉ちゃんなんか嫌い! どこにでも行っちゃえばいいんだ!」
「あ、ライラ! 待って……」
責任を感じていた私は、走り去って行くライラを追いかける事が出来なかった。
そして、これが私の知る限りのライラが自由に動いている最期の姿になる事を、この時の私は知る由も無かった。
あの時、エルフの里の殆どが人間の手によって穢された。私の家族も、穢された。
ぐしゃっ。妹の頭が潰された時の音。形容するのなら、まさしくこんな音だった。潰れた頭蓋骨からはみ出した脳。負荷に耐えられず、眼窩から飛び出した眼球。それを妹『だった』モノだと知覚するのが怖かった。目の前のぐちゃぐちゃになったモノが、妹だと信じたくなかった。
一日が始まると、今日もあの『忘れられない最悪な日』になるんじゃないかって、毎日をあの日と重ねてしまう。もう二度とあんな想いをしたくないという決意と、また自分は何か大切な物を失うんじゃないかという恐怖が、そうさせるのだ。
ー現在、夜の洞穴付近
「…じゃ、私と
「…なんだぁ? えらく素直だなあ? ……何か企んでんな?」
「…別に。アンタに負ける理由が無いってだけ」
「…ああそうかよ。やってやろうじゃねぇか…! おいボーン、ソイツ守っとけよ」
「ウゥ…!」
ボーンアクサーは唸りつつも防衛体勢を整え、洞穴の入り口に結界を展開する。
「……さあ、来なさい。人智の先を見せてあげる」
「おうおう見せてみろやコラァ!」
その刹那、エルフは人間の眼の限界を超える速度で動き出す。様々な方向から攻撃を仕掛ける。しかし、ビネガーアクサーはその場から一歩も動かなかった。代わりに、殿部のあたりから酢酸を強く噴射した。あまりの速度にエルフは対応することが出来ず、酢酸に吹き飛ばされて地面に倒れこむ。
「っく…!」
装甲が僅かに溶けたのを目視で確認したエルフは、ウンディーネオーブを取り出し起動する。
【ウンディーネ!】
【セットアップ!】
エルフは立ち上がりながら変身の準備を済ませる。
【サモン!】
【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】
変身を終えた瞬間、液体に変化してビネガーアクサーの懐に潜り込んで右アッパーをかます。
少しノックバックしてから、ビネガーアクサーはその細っこい尻尾をエルフに向けて伸ばしてくる。エルフは自身を液状化して対処し、そのまま6体に分身した。正六角形の頂角の位置に立ってビネガーアクサーをとり囲む。水の刃を作り出し、一斉に斬りかかる。
ビネガーアクサーは、そのうちの4本を両腕で受け止め、1本は頭、最後の1本は背中で受けた。勢い良く起き上がり、その全てを吹き飛ばす。
「はっはぁ! 6人もいてその程度かぁ? コラァ!」
ビネガーアクサーは全身から酢酸を飛沫させ、分身を消し飛ばす。
本体も勢い良く吹っ飛ばされ、変身を解除させられる。勢いがあまりにも強かったのか、ビオラは懐に収めていたオーブを周囲にばら撒いてしまった。
「おぉ〜、助かるぜぇ、態々漁ったりする手間が省けたな」
ビネガーアクサーはゆっくりと近づいて行き、オーブを回収する。
「ぐ…あ…!」
地に這いつくばったまま、ビオラは必死に手を伸ばす。しかし、その手が届くことは無かった。
そしてビオラに背を向け、ビネガーアクサーは洞穴に歩いていった。
オーブを宙に軽く放り投げ、片手で受け止めまた軽く放る。洞穴に入りつつ、ビネガー、ボーンアクサー両名は京太郎を『施設』に連れる準備を始める……が、これはビオラの作戦であった。
静かに時をまっていた精霊たちが動き出す。
「…よう、懐がガラ空きだ、ぜっ!」
赤きサラマンダー、サララはオーブから元の蜥蜴の姿に変化し、尻尾をビネガーアクサーの顔目がけて叩きつける。
「…ガラ空きなのはお前らの方じゃねぇか?」
…が、それを予見していたビネガーアクサーは右腕で軽く防いだ。肘を伸ばし、サララを壁に向かって跳ね飛ばす。
「ちっ…!」
サララは小さく舌打ちをしたが、その表情には僅かに笑みが見られた。こうしてサララが時間を稼いでいる間にも、元の姿に戻ったフィルとネディンが京太郎を解放しに向かっていたからだ。勿論それを許さないビネガーアクサーは、酢酸を噴き出して動きを止めた。
「はがあっ!」
「あうっ!」
この場にはウィルは居ない。とどのつまり、作戦は完全に失敗したのだ。
「はははははッ! 残念だったなぁ? 全部お見通しだったぜぇ? 可哀想なエルフちゃんと、その愉快な仲間共ォ!」
「もしこの状況を見ても『全部お見通しだった』などとほざくのなら、お主はとんだ老眼じゃな」
「誰だッ!?」
ビネガーアクサーは怒号と共に声のした方に振り向く。
そこには、既に拘束を外された京太郎と、深緑のナイトキャップ、数珠の様な白いネックレス、紺色の着物に赤い袴と、随分最悪なファッションセンスをした老婆が立っていた。京太郎の足の付け根ほどの高さにある細い眼が、力強くビネガーアクサーを捉えていた。
「…よいか京太郎とやら、お主は絶対に逃げられる。じゃから、儂を投げろ」
「おい話聞いてんのか!? 誰だっつってんだろ!」
「…え…えっ? 投げる!?」
動揺した京太郎の耳にはビネガーアクサーの叫びが全くと言っていい程入って来なかった。
「そうじゃ。はようせい」
「俺の話を聞けェーー!」
困惑する京太郎を尻目に、その老婆は黄色い球体に姿を変える。
「…よくわかんねえけど、投げればいいんだな!?」
京太郎は、テレビで放映されているプロ野球の投球フォームを真似て黄色い球体 ─ノームオーブを力の限りぶん投げる。
それを通すまいと、ボーンアクサーが結界を張り直す。洞穴の入り口の真ん中から、同心円状に結界が展開されていく。
残り数メートル。ビネガーアクサーが手を伸ばすが、オーブを掴むことは出来ない。
残り数十センチ。洞穴の入り口の6割が結界によって遮断された。
残り数センチ。結界は入り口の壁際まで迫っており、もうオーブ一つ通るかどうか程の隙間しか無い。
コンマ数秒後。結界によって、洞穴の入り口は完全に遮断された。ノームオーブは………
地に伏したまま上空に伸ばされたビオラの左手に握られていた。ノームオーブを力強く握りしめ、徐に立ち上がる。
「……だから言ったでしょ。アンタに負ける理由が無いって」
「…まあ、今回はメロノに助けられただけなんだけどね…」
【ノーム!】
【セットアップ!】
ビオラはノームオーブの天頂のボタンを押し、エルフドライバーにセットする。
「…変身」
ベルト左側の細いレバーをゆっくりと倒す。
【サモン!】
オーブからメロノと呼ばれた老婆が出現し、浮遊する。同時に、螺旋状の光が包み込みビオラに黒い素体を与えた。
「いくよメロノ…力を貸して」
「うむ、無理はせんようにな」
そう言ってメロノはエルフにとり憑く。
【地底の技王、英明なる神の腕の下に参集されたし! 天地不可逆の理を覆せ!】
【ガイアーーーー…ノーームッ!!】
体の一部が石化したかの様な黄色い戦士、仮面ライダーエルフ ノームスレイヴが姿を現した。
「はんっ! こっちにはボーンのバリアと人質があんだよ! 今更何が出来る?」
「…そういうのを『フラグ』って言うらしいんだけど、知らない?」
そう言うや否や、エルフは右足を強く踏み込ませる。すると、ボーンアクサーが立っていた位置の地面がせり上がり、天井と挟んで押し潰した。
「ギャアッ!」
潰された影響により、入り口の結界は解除された。
「…! 今だ京太郎! 俺に乗れ!」
サララは京太郎の元へ飛んで行き、自らの背中を差し出す。
「…了解!」
京太郎はサララに飛び乗った。オーブに姿を変えたフィルとネディンも回収し、洞穴を抜ける。
「おいコラ! テメェ…!」
「させない」
洞穴の壁でビネガーアクサーを跳ね飛ばす。
「ジジ……!」
なんとしても京太郎を逃がすまいと、ボーンアクサーは翅を羽ばたかせる。京太郎を捕らえようと、その人間よりも長い右腕を伸ばす。その右腕が掴んだのは、いや、掴まれたのは、エルフの左手であった。掴まれたボーンアクサーの右腕が、次第に石化していく。
「ギィィーィ…」
呻き声が聞こえたところでエルフは手を離し、石化した腕をハイキックで砕く。
「ィィ…」
【ノーム!】
砕かれた右腕を押さえ蹲るボーンアクサーをよそに、エルフは天頂のボタンを押して決め技の体勢を整える。
【カモン! グランド! スピリチュアル!】
「はあっ!」
右腕を地面に向かって振り下ろし、土の塊と共にボーンアクサーを宙に打ち上げる。土の塊はボーンアクサーに貼り付いていき、やがて巨大な土の塊に変容した。エルフは右腕の肘を伸ばし、どこからともなく現れた土を纏わせて巨大な腕を作り出し、塊目がけて拳を振るった。
「───!」
ボーンアクサーは断末魔をあげることすら許されず爆散した。
「チッ…面白くねぇな…」
土の塊の雨を受け、ビネガーアクサーは不満げな声を漏らして闇に消えていった。
「いやぁー…素晴らしい。
「私の実験台になっていただきたい……!」
エルフとボーンアクサー達の戦闘を覗き見ていた男の狂言を、月夜に漂う人魂は黙って見ていることしか出来なかった。
やっと終わったーーーっ!やったよーーーっ!
次9話かあ。ちゃんと長く書けるかねえ。
絶対短くなるよこれ(予言)