仮面ライダーエルフ   作:青ずきん

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失踪なんてしてませんよ! 失踪…なんて……

大変申し訳ございませんでした。


第15話 Dragonー眠りの妨げ

「……はあ」

 星が瞬く夜の港で、ビオラは一人ため息をついていた。その理由は、自らが抱えている不安要素たちにある。

 第一に、自身が人間に対して甘くなっているのでは、ということ。次に、もしかすると京太郎がスパイで、情報を集めるために自身に近づいているのでは、ということ。そして最後。アクサーを倒すこと―――自分の復讐は、結果的に人間を助けていることになるのでは? ……ということ。

 ビオラは、これらの不安が拭えないままでいた。このままでは、いつか人間の恐ろしさが自分の中で風化して、またあの悲劇が繰り返されてしまう。そうならないように、自分は仮面ライダーとして戦っているのだ。しかし最近は、そんな決意でさえ揺らぎ始めている。

 

「…もしかしてだけど、人間に肩入れし始めてたりする?」

「…っ! ウィル……」

 気がつくと、すぐ隣にウィルが漂っていた。その神出鬼没ぶりは相変わらずだが、今だけは言い様の無い安心感があった。

「……別に、肩入れなんか……」

「いいや、してるね。まず、覇気がないんだ。昔みたいな、人間は見つけ次第殺してやるーって感じが」

「……」

「それとも、心のどこかで迷ってる? 人間を“殺す”ってことに。まだ何も罪を犯していない、善良な人間までも巻き込むことに」

 

「……私は」

「うん?」

「私は……分からない。私が、今何をしたいのかってことすら」

「何をしたいか……ねぇ」

「たとえ私がアクサーを全滅させたとして、それでお父さんやお母さん、お姉ちゃんにライラ、それに……里のみんなが戻ってくるわけじゃない」

「……そもそも、みんなが復讐を望んでいるのかも分からない。そう考えるとさ、私がしている“復讐”っていうのも、その名前を借りただけの自己満足に過ぎないんじゃないかって……ほんとは、『みんなの為に』とかじゃなくて、ただ自分が人間にやり返したいだけなんじゃないかって……」

 

 ビオラはその場にしゃがみこんで頭を抱える。困り果てたような顔で吐露した想いが、自分の首を絞めているかのように絡みついて離れない。

 ゆったりとした歩調で歩み寄ってきた男は、そんなビオラの苦悩など知らぬ存ぜぬといった風に語りかけてくる。

「こんばんは、ビオラさん。人間ならとっくにおねんねしてる時間ですよ?」

「…犬童託斗……!」

 見上げた先に立っていた男の正体は、仮面ライダーヒューマ/犬童託斗その人だった。両手をポケットに突っ込んだまま、いつもの嘲笑が交じったような笑みを零している。

「ビオラさんも、エルフとはいえ女の子なんですから、やはり美容に気を遣った方が良いですよ? まあ、その美貌が夜景に映えるので僕は強いたりしませんけどね」

 

「……そういう気持ち悪いことばっかり言ってるから、『アクサー』とかいう気持ち悪い連中に加担できたんでしょうね」

【サラマンダー!】

【セットアップ!】

「えぇー……()る気満々じゃないですかヤダー……」

【Transform】

「変身」 「変身」

【サモン!】 【Authentication.】

 一瞬にして変身を完了させ、二人は互いに取っ組み合う。数秒経った後、エルフは右脚を上げてヒューマを蹴り飛ばした。ガラ空きになったヒューマの心臓部を狙い、拳打を放つ。負けじとヒューマは拳を左手で掴み取り、エルフの体を引き寄せて膝蹴りを喰らわせる。

「くっ……」

「まだ終わりませんよっ!」

 透かさず距離を詰め、エルフに反撃の暇を与えないように攻撃を続ける。エルフも熱波を放って抵抗してみせるが、ヒューマはそれを物ともせずにハイキックでエルフごと吹き飛ばす。

 

「…ならッ……!」

 エルフは懐からノームオーブを取り出し、サラマンダーオーブと入れ替える。

「隙ありですっ!」

【Option】

【Thunder】

【Authentication.】

 今がチャンスとばかりに、ヒューマは左手でドライバーのタッチパネル操作しつつエルフに駆け寄る。右の拳に雷を纏い、下から掬い上げるように殴りかかろうとしたその時。

【ガイアーーーー…ノーームッ!!】

 複数の石柱を周囲に隆起させ、エルフ ノームスレイヴはヒューマの攻撃をすんでのところで防いでみせた。

「あっぶな……」

「…よく防ぎましたね。流石です」

「アンタに褒められても嬉しくないけどねッ!」

 ヒューマを吹き飛ばし、体勢を整えつつ殴りかかる。暫くの間続いた攻防が、周囲を喧騒で包む。

 不意打ちのつもりで放った掌底が避けられると、エルフは再び体勢を整えるため少しだけ後ろに飛び退いた。すると、途端にヒューマが構えを解いて口を開いた。

 

「うーん…相変わらずお強い……」

「…何? まさか逃げる気?」

「まあそういうことになりますね、僕もやることいっぱいあるんで」

「……じゃあ此処に来た理由は? 私に喧嘩売るためだけに来たっていうの?」

「いえ……少し、『自分』というものを再確認してみようかなと、そう思ってきただけですよ」

「自分の……再確認?」

「ええ、そうです。しかし、ビオラさんが気にすることではありませんよ。僕自身の問題ですので」

【Option】

【Abduction】

【Authentication.】

「ちょっ、ちょっと!」

 その言葉だけを残し、ヒューマは闇夜へと消えていった。閑静な港に取り残されたエルフに、一陣の風が吹いた。

 

 

 

「……何だ、コレ……?」

 エルフの里。人間の襲撃によって見るも無残な光景と化したその地は、未だに瓦礫や肉塊が散乱している。

 生き残りの内のひとりであり、また唯一の男でもあるアゼル・ムノーンは、環境の整備に従事していた。女性陣に力仕事をさせるわけにはいかないと、責任感を背負いながら作業を行っていた途中で、彼は一枚の紙を見つけ手を止めた。

 

「アクサーの……製造方法……?」

 その紙に書かれていたのは、人間と共に里を侵略した怪物『アクサー』についての研究資料だった。製造を行う際に何が必要なのか、どんな行動を可能とするのか、どのような方法で制御するのか。酸化の影響で黄ばんだ紙には、それらが事細かく書かれていた。書かれている文字はお世辞にも綺麗とは言えず、殴り書きと呼ぶに相応しい字形であった。アゼルは紙を裏返したり、光に透かしたりしてから暫く逡巡した。

 

 何故このような紙がエルフの里に存在するのか?それとも人間が襲撃の際に持っていて、偶々落としていった? いやいや、そんなことはありえない。既に完成しているものの設計図を、どうして戦場に持ってこようか。襲撃で得られた結果やそれまでの設計図を基にして、現行のアクサーを改良したりもするはず。であれば、人間側が持ち込んできた可能性は限りなく低い。

 

 だとすると、消去法でこの紙を持ち込んできたのはエルフであるということになる。人間である可能性を捨てた訳ではないが、あまりにもメリットが無さすぎる。だが、エルフ説も正直可能性が低い。エルフの里を飛び出して人間の組織に所属しただなんて話は聞いたことが無いし、そんなことをしようとする変わり者は居ない。

 

 

 ……だが、もしもだ。もしもの話だが、生き残ったエルフの中に人間側に寝返った裏切り者がいたとしたら? エルフの知能を勝手に人間に横流しし、その代わりに自分の身の安全を選んだ奴がいたとしたら?

 

 エルフはかなり昔から人間と情報交換のようなものを行ってきた。人間が考え得る工夫を学ぶ代わりに、エルフたちが持つ高度な知恵を与えた。だが、何でもかんでも教えてきた訳ではない。身の丈に合わない力に手を伸ばした人間に反抗されるのを、陰で恐れていたからだ。

 しかし、同様に人間たちも恐れていた筈だ。自分たちよりも高度な知能を持つ存在に。いつか自分たちの知らない不可思議な力を使い、種を滅ぼされることを、エルフと同じように危惧していた筈だ。そんな不安を拭うために生まれたのが、おそらくあの怪物(アクサー)なのだろう。その情報をどこからともなく仕入れ、開発に協力する代わりに自分の身の安全を選んだ奴がいる可能性は十分にある。

「…よし」

 一息ついてから、アゼルは歩き出した。あの悲劇の真相を知るために必要な情報を新たに一つ手に入れた彼の瞳は、輝いているようにも、曇っている様にも見えた。

 

 

「早く逃げろ!」

「あ、ありがとうございます!」

 数分前までいつもと何も変わらなかった昼下がりの繁華街。その空間に人々の悲鳴を誘ったのは、漆黒の甲殻を身に纏った新たなアクサーであった。

 その名は『ミリセンチアクサー』。随所に燃え上がるような真紅のアクセントがあり、また体の前面には無数の足の存在が確認できる。

 

「悪りぃけど、ビオラがここに来るまではお前の邪魔をさせてもらうぜ!」

 そう言い放ち、京太郎はミリセンチアクサーに中断蹴りを見舞う。しかし所詮はただの人間の蹴り。怪物(アクサー)相手に効くはずもなく、返されたのは手痛い反撃だった。

「がっは……」

 両手で腹を抱えて蹲る。体中を巡る激痛が、京太郎を襲う。が、それでも京太郎は倒れなかった。骨を軋ませながらも立ち上がり、ミリセンチアクサーの行く手を阻む。この先へは行かせまいという確固たる意志が、京太郎を奮い立たせる。

 だが、根性論でなんとかなる相手ではないというのは京太郎が一番理解していた。最後の一撃にするつもりで、握りしめた右の拳をミリセンチアクサーに叩き付ける。すると、そのすぐ横からもう一つの右手が現れ、アクサーを吹き飛ばした。

 

「…!」

「…アンタってさ、無理するってことだけは得意よね」

 その拳の主は、仮面ライダーエルフ/ビオラ・ヒアラルクであった。呆れたような顔つきでサラマンダ―オーブを起動させ、ベルトに装填する。

【セットアップ!】

「変身」

【フレイアーーーー…サァラマンダーー!!】

京太郎(コイツ)をぶっとばしていい気になってたんでしょうけど、私はコイツ程ちょろくはないから…心してかかることね」

 言い終えると、エルフはゆっくりとした足取りでアクサーへと歩み寄る。右手を発火させ、力いっぱい叩き付ける。が、ミリセンチアクサーは全く動かなかった。

「なっ!?」

 驚きのあまり隙を見せたエルフの鳩尾に強烈な一撃が放たれる。負けじとエルフも蹴りを見舞うが、それが効いている様子はなかった。

「このっ……!」

 衝動に身を任せ、我武者羅に殴る。数発食らったところでミリセンチアクサーがエルフの腕を掴み、数回振り回して投げ飛ばす。

「あっ…が…」

 衝撃で、変身が解除される。ビオラは何とか立ち上がろうとするが、疲労がそれを邪魔する。

 そんなビオラを嘲笑するかのような仕草をした後、ミリセンチアクサーはゆっくりとその場を去った。

 

「おい、大丈夫かよ!?」

 物陰に身を潜めていた京太郎が慌てて飛び出す。起き上がろうとするビオラの背中を支えるが、ビオラはその手を弱々しく払いのけた。呼吸を荒くさせながらも、ビオラはおもむろに立ち上がる。

「…心配しかないけど……()()()の…力を、借りるしか…ないの、かも…」

「……()()()?」

「アンタには、関係のない……話…」

「おい、待てって! アイツって何のことだ!? おい、待てって、おいビオラ!」

 ビオラは一瞬だけ京太郎の方を振り向いてから、静かに姿を消した。




これまでかなり長い間お待たせしてしまい、本当に申し訳ございませんでした!(今も待って下さっている方がいらっしゃるかは分かりませんが)

言い訳をさせていただくと、夏休みの課題に追われていたり、部活が忙しかったりでなかなか手をつけられず、ここまで更新期間が空いてしまいました。本当にごめんなさい。

2か月も待たせておいてこんなすっくない文字数の最新話になってしまったことも含め、反省しております。また今回のように更新に時間が掛かってしまうかもしれませんが、ゆっくりお待ちいただければ幸いです。

では、何か月後になるか分からない次の最新話でお会いしましょう。
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