「あ、おかえり。また随分とやんちゃしてきたねぇ?」
「…うるさい」
エルフの里の入り口。疲弊したビオラを出迎えたのは、相棒のような存在でもあるウィルであった。飄々とした口調で話しかけてはいるが、内心では全身に傷を作り、少し服を焦がしてもいるのが心配でならなかった。
「…ねぇウィル」
「…なに?」
「……私、
「アイツって、まさかあのアイツのこと?」
「うん、多分ウィルが想像してる奴で合ってると思う」
「…でも、ちゃんと制御出来るの? 前に力を使った時は…」
「……わからない。正直な所、出来ない可能性の方が高いと思う。でも…」
「そんなことを言ってられない状況、ってことだね?」
「……新しく現れたアクサーには、私の攻撃が全くと言っていいほど効いてなかった。そういう能力なのかは知らないけど、あの防御を突破出来るのは、多分アイツだけ」
「…メロノでも駄目そうな感じ、か」
ウィルは、必死に思考を巡らせていた。可能な限り避けたいことが、今目の前に迫っている。だが、あまりビオラに傷ついて欲しくもない。
結局ウィルが選んだのは、『件の存在を呼ぶこと』だった。何よりも、ビオラが傷つくのを避けたかったからだ。しかし、これが正解なんだとは言えないような選択であった。つまり、賭けだ。覚悟を決め、その力を守るアゼルの元へ向かった。
「お前本ッ当にバカか!? アホなのか!? 頭のネジちゃんと付いてるか!?」
「分かった、俺が悪かったから、そんなに叫ばないでくれ」
京太郎たちが通う大学からおよそ徒歩15分ほどの場所に建つ、町の中ではそこそこ大きな病院。大事には至らなかったが、念のため京太郎はそこの病室の中で静養していた。
「まあ、もう大分良くなったし、すぐに退院できると思う」
「はあ~……ほんっとにお前、マジで心臓に悪りぃからやめろよこういうこと…」
「いや〜あのさ、自分でも不思議なんだけど、ホントになんでか体が動くんだよ。誰かが辛そうにしてるのを見ると」
「…アホみたいに強え正義感だな。いつかマジで死ぬぞ」
「死なねぇようにやれってことだろ? 分かってるよ」
「こんな状態になってるくせして、お前が死なねぇようにやれると思うか?」
「違いねぇ」
「ははっ……んじゃまあとりあえずやることやったし、俺帰るわ」
「おう、また明日な」
「へいへい」
ポケットに手を突っ込んだまま帰っていく凱を見送ってから、京太郎は軽い眠りについた。
「…おい、正気か? アレを使おうだなんて…」
「…正気。アレじゃないと、厳しいかもしれない」
陽が傾いてきたエルフの里で、ビオラはアゼルと話をしていた。内容は勿論、「例のアレ」。アゼルが守っているため、使用するには彼の許可が必要なのだ。
「……マジかよ」
「マジ。私も危険だとは思ってるけど……使わせて欲しい」
「…」
一瞬だけ逡巡してから、アゼルは口を開く。
「…俺とお前は血が繋がっているわけじゃない。だが、俺はお前を……里のみんなを、家族だと思っている。それぐらい大切だ。だから…」
アゼルが言い切るよりも早く、ビオラはアゼルの手を握る。
「分かってる」
「…でも、
「……だ、そうだよ? アゼル。僕からも、お願いできないかな?」
ビオラの隣に漂っていたウィルが口を開く。表情も何も無いが、その言葉はアゼルに確かな気概を感じさせた。
「…はあ。どうせもう何言っても止まらねぇんだろ。これ以上なんか言うことはしねぇよ」
呆れたような顔つきのまま懐に手を突っ込み、アゼルは金色に輝くオーブを取り出した。これまでビオラが使用してきたどんなオーブよりも強い輝きを放っており、触れることを躊躇してしまいそうになる程の美しさであった。
他のオーブとの違いを挙げるとするならば、竜の鱗のようなものが張り付いている事だろうか。その鱗でさえも金一色に染まっており、ビオラの身体を左右反対に写していた。
「…ありがと」
アゼルから金色のオーブを受け取ると、すぐに背を向けてビオラは踵を返した。
「あ、ちょっと待て」
「ん?」
既に歩き始めていたビオラを、アゼルは思い出したかのように呼び止める。再び眉間に皺を寄せていたアゼルの表情に、真剣に耳を欹てる。
「…これを見てくれ」
「…それって…!」
アゼルが突き出したのは、数時間前に発見したアクサーの研究資料であった。驚くべきものに、ビオラは大きく瞳孔を開いている。
「…コイツが、里の外れで見つかった。色々考えたが、もしかすると……」
「…この里に、裏切り者が居るかもしれない」
「…確かに、人間が態々ここに持ち込んで来るとは考えにくいけど……それじゃあ里を襲った理由が…」
「そう、そこだ。仮にエルフが手を貸していたとしても、その協力者の居住地を何の理由もなく襲撃する筈は無い。エルフの持ち物だと思いたくはないが……それ以上に、人間が持ち込んで来たという可能性の方が低い」
「ふうん……でも、これであの悲劇の真実に一歩近づけるようになったってことでしょ? もう少し詳しく突き詰めれば、謎を完全に解明できるかもしれないよ?」
「…ウィルの意見にも一理ある……今は、そう考えた方が良さそうだ。悪かったな、呼び止めちまって」
「…ううん、それは気にしないで。アゼルも、無理しないでね」
「分かってるよ。……でも、裏切り者が居ないと決まったわけじゃない。もう死んでるかもしれないし、まだ生きてるかもしれない。落としていったのが人間という可能性だって消えてない。一応の警戒だけはしとけよ」
「…分かった」
こくりと頷いてから、ビオラとウィルは空を飛んで里を抜けていった。
…アゼルの心に募っていく、心配を尻目にして。
「キャァァーーッ!」
居待ち月が照らす夜、再びミリセンチアクサーが暴れ出した。あまり理性というものが感じられず、目に留まった物を破壊して回るだけの傀儡のようにも見えてしまう。
公園の土手に響く悲鳴を掻き分け、強力な力を手に入れた自信と一縷の不安を抱えたビオラはミリセンチアクサーの前に立ち塞がる。
「…一応、ノームスレイヴとかも試してみたら?」
「どちらにせよあんまり気は乗らないけど……そうした方が良いかも」
ウィルから助言とノームオーブを受け取り、出現させたエルフドライバーに装填する。
【ノーム!】
【セットアップ!】
「変身」
【サモン!】
【ガイアーーーー…ノーームッ!!】
「さあ……覚悟なさい。人智の先を見せてあげる」
前口上を済ませたエルフは、その場で地面を強く踏み込んで隆起させた。その一撃は確かにミリセンチアクサーを捉えた筈だが、少し退け反らせた程度であった。
姿勢を低くした状態で距離を詰め、石化させた拳を鳩尾に放つ。しかしこれも手応えを感じられず、ワンツーパンチの反撃を食らった。
「くうっ……やっぱ駄目そう……」
「おー、なんだか辛そうじゃねえか。俺も混ぜてくれよ」
「アンタ……!」
声の主はビネガーアクサーだった。挨拶代わりなのか、息も絶え絶えなエルフに蹴りを一発見舞う。小さく呻き声をあげて吹き飛ぶエルフに、ビネガーアクサーはゆったりとした足取りで近づいていく。疲弊しきってまともに立てずにいるエルフを、舐め回すような目つきで見つめる。
「…諦めんな!」
「…?」
全員が声のした方向に振り向く。そこに立っていたのは、走ってここまで来たのか息を荒げている京太郎であった。
「お前……言ってたよな!? 俺が
「…うるさい」
京太郎の言葉を遮り、エルフは必死に立ち上がる。京太郎と同じように息を荒くしながらも、なんとか言葉を紡ぐ。
「事あるごとにギャーギャー騒いで……アンタに見せてる私が全部じゃないの。今の状況を諦めないぐらいの覚悟は……もう出来てる」
遂にエルフは、アゼルから渡された黄金のオーブを取り出した。眩い程の輝きが、月明かりを反射している。
エルフとウィルを除く全ての人物がそのオーブの存在に目を見開いた。エルフは天頂のボタンを押し、閑静な公園に電子音声を響かせる。
【ファヴニール!】
【セットアップ!】
「……変身ッ!」
勢いよくレバーを倒し、装填されたオーブから封印された幻獣を呼び覚ます。
【財宝の守護者、今こそその権威を振るい給え! 老獪な守銭奴共を処罰せよ!】
【トレジャーーーー…ファヴニーールッ!!】
金色に輝くワイバーンのような生物が、エルフを翼で包み込む。暫くし、その翼を振りほどくようにして黄金のエルフ───『仮面ライダーエルフ ファヴニールスレイヴ』が姿を現した。
全身をそのオーブのように金一色に染め上げ、節々に竜の鱗のようなものを散見させる。背中の巨大な翼と赤く光る複眼が、周囲に威圧を与えている。
「クッ……」
瞬間、エルフは俯き加減で自身を抱いた。それからすぐに海老反りになって叫ぶ。
「ハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!」
「シャバだァ……
明らかにビオラのものではない、若い男の声が谺する。挙動もビオラのそれとは異なっており、ほぼ失いかけていた目の光も取り戻して爛々と輝かせていた。
「テメェ……あのエルフのガキじゃねぇな? 一体何モンだ…?」
「ヘェ…この“ヴァニラ”様に向かって随分な口の利き方するじゃねェか……面白ェ。まずはテメェからだァッッ!!」
自身をヴァニラだと自称した仮面ライダーエルフ(?)は翼を広げ、真正面からビネガーアクサーへと突っ込んでいった。
一方で、京太郎は全く状況を理解できていなかった。エルフの新しい姿、ビオラではない何者かの声。ただただ頭に?を浮かべる事しか出来ていないようだった。
「…なんじゃありゃあ……」
「…やっぱり、駄目だったみたいだね」
「うぉっ、ウィル!? 説明してくれよ! 何なんだよアレ! ビオラだけど…ビオラじゃねぇんだよ!」
「分かった分かった、ちゃんと説明するから」
ウィルは京太郎のすぐ近くにまで移動し、穏やかな口調で話を始めた。
「結構前……ウィップアクサーがこの町の近くまで来てた時のことだけどさ、一瞬だけビオラじゃない感じがしてた時……無かった?」
「ウィップアクサー? う〜ん……」
「…あ、なんかあの、目がちょっとだけ赤くなってたやつか!?」
「そうそう、それそれ。あれね、実はサララがビオラの体を動かしてたんだよ」
「はあ!? どういうことだよそれ! なんでサララがビオラの体を動かせるんだよ!?」
「サララだけじゃないよ。ネディンも、フィルも……今あそこで暴れてる、『ヴァニラ』もね」
「バニラ……? 随分美味そうな名前だな、アイツって食い物なのか?」
「こういうとこで食い意地張れるの才能だと思うよ、僕は」
「まあ、そのバニラバーだかなんだかはどうでもいいんだよ。結局のところ、アレどうなってんだ?」
「…見て貰ったら分かる通り、ヴァニラはすごく粗暴な性格をしてるんだ。おまけに目立ちたがり。その上、ビオラの意思に関係なくビオラの体に干渉できるだけの力もあるんだ。それらが合わさると……」
「……ああなるわけか」
「オラよッ!」
「オラさっさと起きやがれ! 勝負はまだ終わっちゃいねェぞ!」
翼を使った低空飛行で一気に距離を縮める。ビネガーアクサーの胸ぐらを掴み上げ、もう片方の手で何度も殴りつける。
「オイオイこんなモンかァ? まだまだやれるだろうがコラァ!」
ビネガーアクサーの腹部に強く蹴りを入れた後、エルフは両肩を掴んで頭突きを喰らわせる。
「クッソ…ぜってぇ仕返ししてやるかんな!」
そう吐き捨て、ビネガーアクサーは闇夜へと姿を消した。
「オイ、待ちやがれ! 逃げる気かァ!?」
誰も居ない虚空へ憤りを叫ぶ。だが、当然ながらその返答は返ってこない。
一方のミリセンチアクサーはこの隙を逃していなかった。エルフ目掛けて、全力で体当たりをかます。
「テメェ焼き蠍にしてや…うおっ!? ……っ
叫ぶと同時に、エルフは右の掌から刀身に返しがついた金色の剣を突き出してミリセンチアクサーを吹っ飛ばす。空いている左手でベルトを操作し、必殺技を発動させる。
【カモン! ゴールデン! スピリチュアル!】
翼を広げ、左手にも同様の剣を出現させる。高速で空を飛び回り、両手の剣でミリセンチアクサーを斬りつける。それまでのエルフのフォームが傷付けることさえ叶わなかった装甲をいとも容易く切り裂き、一瞬のうちに爆発させてみせた。
「……だァァクソが! あの蠍野郎ガチで逃げやがった! あんのクソがァ!」
エルフは、八つ当たりのように四方八方を手当たり次第に破壊し始めた。周囲に出来た幾つもの穴が、その怒りを物語っている。
「なあウィル……アレ、まずいんじゃねぇか…?」
「…うん、大分まずいね。京太郎、ちょっとだけアレの気を引いて貰える?」
「…一応言っとくが、1秒しか保たねぇからな」
「了解。……いくよ」
「任せろ! おい! こっちだバニラバー!」
「…ああ? 誰がバニラバーだコラ!」
京太郎の目論見通り、安い挑発に乗ったエルフは大きな隙を晒した。京太郎を狙って駆け出した……が、それよりも早くウィルがベルトに装填されているオーブを回収した。
「…! オイ! クッソてめぇ……ッ!」
「…っ! ぐ…」
「ビオラっ!」
ヴァニラが言葉を言い終える前に変身が解け、エルフはビオラの姿へと戻った。無理に体を動かされていたからか、全身に軽度の痙攣が見られた。
「ウィル…アイツは……?」
「赤と黒のアクサーならヴァニラが倒していったよ。…尤も、ビネガーには逃げられたけどね」
「…そう」
「おい待てよビオラ! さっきは諦めんなとか言っちまったけど、あんま無理しすぎるのもアレだかんな? ちゃんと適度な休養は取って……な?」
「はいはい、分かった分かった」
それだけ答えると、ビオラは立ち上がってゆったりとした足取りで里の方へと歩を進めていった。
そのビオラの背中を、京太郎は遣る瀬無いといった表情で見つめていた。
はい、16話でした。やっと中間フォーム登場ですよ奥さん!かなりクセが強い上にビネガーくんとキャラがなんとなく被ってますが、これからもヴァニラくんをよろしくお願いします。