『…今ご覧いただいた映像の通り、「仮面ライダー」は非常に危険な存在です。いずれ人々に危害を加ええる可能性もあります。我々も引き続き捜査を…』
「……何なんだよ、これ」
京太郎が視聴していたテレビには、昨日の戦闘の様子が映し出されていた。
監視カメラにでも映っていたのだろうか。だが、問題はそこではない。重要視すべきは、
現状ビオラは仮面ライダーとしての力をアクサーにしか振るっていないが、本人の気分次第で人間にも振るうかもしれない。一応、ビオラは仮面ライダーとして何人かの人間を救ってきてはいるが、その人間たちが彼女の味方をするとは考えにくい。自分の意思を持たず、多数派になんとなくで味方するサイレントマジョリティが殆どだ。
「…!」
などと考えていると、近辺から悲鳴が聞こえてきた。京太郎はすぐにテレビの電源を落とし、鍵が掛かっていることを確認してから家を飛び出した。
京太郎が現場にたどり着くと、そこには緑色をしたかなり奇妙な
京太郎としては今すぐ殴りかかっても良かったが、数日前のビオラの呆れたような表情を思い出し、逃げ遅れた人の救助にまわった。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あっちの方にまだ子供が!」
「こ、子供!?」
30代半ばほどの女性が指さした方向には、瓦礫の海の中心で泣いている5、6歳ほどの女の子が立っていた。
「…あの子か…!」
安全な場所に移してから、京太郎は駆け出す。女の子の手を引き、母親のもとへ連れていくが、アクサーがそれを良しとするはずは無かった。
「グガァァァァ!」
突如として怪物───リーガルアクサーが襲い掛かって来た。黄色と黒で彩られた気色悪い腕を女の子目掛けて振り下ろす。
「危ねぇっ!」
女の子に覆いかぶさるようにして、京太郎はアクサーの一撃から女の子を守った。また凱やビオラに呆れられるだろうが、やはり体が自然と動いてしまっていた。数週間の入院も覚悟の上であった。しかし……
「……あれ? 俺今…殴られた……よな…?」
その一撃は、全くと言って良い程痛みの無いものであった。それからも数回殴られたが、やはり痛みがない。
「これ…もしかして…」
「…俺でも倒せる……?」
その考えが頭に思い浮かんだ瞬間、京太郎は水を得た魚のような目をしてリーガルアクサ―へと突撃していった。
結果、リーガルアクサーにはパンチ2発とキック1発で勝利した。軽い蹴りで吹き飛んだアクサーが爆発するのを見た京太郎は、自分が初めてビオラと並べたような気がして少し嬉しかった。
だが、これで終わりではない。敵組織も、こんな一般人に易々と負けるようなアクサーを作るはずは無い。絶対、何か裏がある。
その時煙が晴れ、地面に倒れ伏しているリーガルアクサーの姿が見えた。やはり完全に倒し切れてはいなかった。リーガルは軽い痙攣を起こしており、色素も薄れている。京太郎が次の瞬きを終えると、リーガルの痙攣は完全に止まっていた。倒せたのか、と京太郎が思ったのも束の間、今は地に伏しているはずのリーガルが後ろから掌底を食らわせてきた。
「がはっ……!?」
京太郎は、状況を全く理解することが出来ずにいた。色素が薄れたものではあるが、リーガルは確かに目の前に倒れているはず。なのに、どこからともなく2体目が現れたのだ。
コイツの能力は何だ? そんな考えが京太郎の頭の中を巡る。分身の生成? 違う。そんなことが出来るのなら、最初からしていただろう。
けれども、今はこの2体目のリーガルをどうにかすることの方が大事だ。一旦距離を取り、逡巡する。だが、解決策は見つからない。当然だ。そもそもとして、京太郎はただの人間に過ぎない。人間離れした戦闘力があるわけでも、アクサーたちを知り尽くしているわけでもない。そんな人間が、勝てる相手ではないのだ。
勘案して分かったことは、自分ではこの怪物に勝てないということだけだった。
ならば、可能な限り早く逃げてビオラに事態を収束させてもらおう。そう考え、京太郎はリーガルに背を向けて走り出す。
瞬間、京太郎のすぐ横を、風の刃が通り過ぎていった。刃はリーガルに向かって飛んでおり、命中したリーガルを退け反らせた。
「…もう何か言う気も起きない」
「…! ビオラ! 来てくれて助かる!」
「はいはい」
その刃を放ったのは、仮面ライダーエルフ シルフィードスレイヴだった。既に変身した状態でいるのは、何処かでアクサーの情報を聞きつけたからだろうか。エルフは再び手にエネルギーを収束させ、風の刃を放とうとする。
エネルギーを溜めきり、今まさに放とうとしたその瞬間。エルフより少しだけ背の低い少年の声が、エルフの攻撃の手を止めさせた。
「…お前、『仮面ライダー』だろ? あっちいけ! 仮面ライダーは、俺たちの敵だ!」
「…はあ?」
エルフは心底困惑したような声をあげた。確かに彼女は人間を敵視しており、仮面ライダーとして人間を助けているのもアクサー退治のおまけでしかない。それでも、これまで人間から仮面ライダーとしての活動を批難されたことは一度として無かった。それが、特に何の関わり合いもない人間の子供から『敵』と呼ばれたのだ。理解できるはずもない。
「戦いなら他所でやれ!」
「俺達を巻き込むな!」
「偽善の押し付けはやめろ!」
「…なに、ホントに何なの……?」
「ビオラ! こんなの気にするな! そのアクサーを頼む!」
「……」
少年に便乗するように、周りの人間が次々と声をあげる。その全てが、仮面ライダーエルフに対する批難であった。無視するよう京太郎が叫ぶが、もうエルフにその声は届いていなかった。
エルフは一言も発さず、リーガルの首を掴んで何処かへ飛び去っていった。
「…おい、皆待ってくれ!
「…君も、あの『仮面ライダー』とかいうのの仲間なのか?」
「…そうだ。あの、なんだかんだで人間を守ってくれるヒーローの仲間だ」
一人の男が京太郎に問う。それに対し、京太郎は敢然として答えた。注目を集めたのもあってか、京太郎は周囲に冷ややかな目線を向けられた。テレビで暴君かのように放映されていたものの味方とあっては、自分たちに何をしてくるか分かったものではない。そんな自己防衛本能が、京太郎というマイノリティを異端視していた。
「…ほう、いつの間にか『仮面ライダー』の株は下がっていたのだな。暫く人間を観察していなかったから、全く知らなかったよ」
「…っ!? 誰だお前!」
京太郎が振り向いた先には、リーガルとはまた違った怪物が鎮座していた。全身が黄土色に包まれており、腫れているような背中には2対の腕らしき物が見えている。その悍ましい見てくれに怯臆したのか、エルフを批難していた人々は一目散に逃げていった。
「ふむ、お前は逃げないのだな。中々勇敢な男だな」
「そんなことはどうでもいい。お前……ビネガーとかと知り合いか?」
「ビネガー……ああ、あの戦闘狂のことか。確かに知り合いだな。で? それを知って何になる?」
「お前……ビネガーみたいな『幹部』の一員か?」
「こちらが質問しているのだが……まあいい。その答えは……便宜上は『NO』だ。私は宿主を探し求めている」
「お前……本当に何者だ……?」
「…特別に答えてやろう。私の名は 。これから、お前の体の主となる者だ」
言い終えるよりも早く、その怪物は京太郎の腹を貫いた。
「これでっ!」
比較的町の近くに位置する森の入り口。仮面ライダーエルフは、そこでリーガルとの決着をつけようとしていた。力を脚に込め、リーガルを全力で蹴り飛ばす。
少し地面を転がってから、リーガルは完全に動きを止めた。かと思うと、先程のようにリーガルは体の色素を軽く失い、倒れたままの体を残してむくりと起き上がった。
「嘘……なにコイツ、不死身なの…?」
再び構え、エルフは体色に茶色が混ざってきたリーガルと対峙する。真正面から突撃し、リーガルは右ストレートをエルフにかます。エルフはそれをすんでのところで回避し、リーガルの背中にハイキックを喰らわせる。
「グガアァァァ…!」
なんとか一撃は返そうと、リーガルは我武者羅に拳を振るう。それを全て避け、エルフは鳩尾に強烈な正拳突きを放った。
「ガアッ……ア…」
「はあ…はあ、今度こそ……やったでしょ……」
その攻撃を受け、リーガルはぱたりと地面に倒れこんだ。数秒してから、またもやリーガルは色の薄くなった体を残して起き上がって戦闘態勢をとった。
「そんな……」
「…どうです? 結構凄いアクサーでしょう?」
「…! またアンタの仕業ね……犬童託斗!」
2度目の復活を目の当たりにしたエルフの前に現れたのは、いつものように白衣に身を包んだ姿の犬童託斗だった。腰には既にヒューマドライバーが巻かれており、左手には変身アイテム『フォースコネクター』が握られている。
【Transform】
「こいつは割と成功した方のアクサーなんで、時間かせ……ちょっとだけ僕と遊んで行きません?」
【Authentication.】
「変身」
微妙に口角を上げ、託斗は仮面ライダーヒューマへの変身を遂げる。
【Humanity will continue to evolve from now on.】
「さあ、人類の才智を披露して差し上げましょう」
【Option】
【Speed】
【Authentication.】
「なるほど、スピード勝負ってわけねッッ!」
次の瞬間、両者は残像も殆ど見えない速さで空を翔け、すれ違う度に攻撃を繰り出す。7、8回ほど火花が散った後、エルフが地面に叩きつけられた。勢いよく地面に着地してから、ヒューマはエルフに歩み寄る。手で膝を押しながらなんとか立ってみせたエルフも、少しずつヒューマとの距離を縮めていく。
互いがトドメの一撃のために走り出した直後、空から大地を震えさせる程の勢いで何かが降ってきた。その衝撃に、木々が葉を揺らした。
「なっ……何!?」
「一体何者です……?」
エルフとヒューマを隔てるように現れたその何かは、仮面ライダーを思わせるベルトのような物を腰に巻いていた。
全身を包んでいる漆黒の装甲には黄土色の蜘蛛の足のような物がいくつか纏わりついており、周囲に薄い毒気を放っていた。生気のない煤けた灰色の複眼がヒューマを捉えると、一言も発さずにその距離を詰めてきた。
「狙いは僕ですか……それなら……!」
ドライバーに触れ、ヒューマは自身の一時的な強化を図る。だが、ヒューマが操作するよりも早く黒い何かは距離を詰めきり、重い一撃をヒューマに放つ。
「かはっ……!?」
ノックバックしたヒューマにミドルキックで追撃し、黒い何かはヒューマの変身を強制的に解除させた。
「く……ラテラリスっ!」
「あっ、ちょっと…待ちなさい!」
近くの低木から十数体のラテラリスアクサーを呼び寄せ、託斗は背を向けて撤退した。ラテラリスアクサー達は一斉に『黒い何か』に飛びかかるが、黒い何かは軽く腕を横に振るっただけでラテラリス達を吹き飛ばし、一体を除いて全員を爆死させた。
残った一体ももう一度黒い何かに突撃する。それに対し黒い何かは、その場から動くことを一切しなかった。代わりに体に纏わりついている蜘蛛の足のような物を開き、突っ込んで来るラテラリスを貫く。両膝を地面に着かせ、ラテラリスは爆発音を轟かせた。
「…」
リーガルアクサーが既に逃げ終えていたのを確認すると、黒い何かは足早にその場を去っていった。
一人取り残されたエルフは変身を解き、憑き物が離れたかのように地面にへたり込んだ。
「…あんなの……」
「……ただの化け物でしかないじゃない……!」
はい、17話でした。短かったですね。大丈夫、僕もそう思っています。
さてさて、なんかよく分からんのが登場しましたね。何だよ『黒い何か』って。…詳しくは次回で。第18話でお会いしましょう。では。