風邪とコロナにはお気をつけください。
「おい託斗! せっかくのラテラリス達に何してくれてんだよ!」
「何って……見れば分かるでしょう? ただ全員吹っ飛ばしただけですよ」
「違ぇよ! 何でお前がそんなことをするのかって聞いてんだよ!」
「理由は一つしかありません。『組織』に尽くす義理が無くなったからですよ」
怒れるビネガーアクサーの言葉に、ヒューマは淡々と返す。返答を終えると、ヒューマはドライバーのタッチパネルを操作しながらエルフとクリーチャの元へ歩み寄り、呟くように話しかける。
「さて、此処じゃゆっくり話せませんし、一旦安全な場所に移動するとしましょう」
「おい待ちやがれ! 俺の話は───」
「では、また今度」
【Abduction】
【Authentication.】
ビネガーの話を遮り、エルフとクリーチャを連れてヒューマは姿を消した。取り残されたビネガーは近くの壁に八つ当たりするが、ウィップに宥められ共に本拠地へと帰っていった。
静けさの甦った街には、ただ荒廃した風景があるばかりである。
「……さて、と」
小さく犬童が零す。
転移してきた場所は、先ほどまでの住宅街からは少し離れている寂れた公園。錆びついたブランコ、砂まみれになったタイヤ。使い古された遊具は、未だ幼いままの歴史を感じさせる。
周囲を確認してから、ヒューマは変身を解除した。それに倣い、クリーチャも変身を解除する。しかしエルフだけは解除しようとせず、変身したまま会話に混ざろうとしていた。そのため、犬童はエルフドライバーに触れて「僕はビオラさんと話がしたいので」と喋りながらファヴニールオーブを引き抜いた。
その瞬間エルフの装甲がヴァニラの叫びと一緒にオーブに吸い込まれていき、変身者であるビオラの意識が覚醒した。はっとしてからビオラは周囲を見回し、近くにいた京太郎に現状の説明を受ける。
「……っつーわけだ。ま、あとはコイツに聞いてくれ」
そう言い、京太郎は犬童を指差した。笑顔で軽く手を振ってくる犬童に対しビオラは、
「……本当に何でここに居るの?」
と、本音を露骨に態度に出す。すると犬童は顎に手を当て、
「そんなこと言って良いんですか? 僕が『1年前の事件』の真実について話してあげようというのに」
とかました。案の定ビオラは食いつき、血相を変える。腕を組むのもやめ、神妙な面持ちで『事件』の真実について尋ねた。
「! ……それ、本当?」
「ええ、勿論ですとも。尤も、僕の知る範囲に限られはしますが」
「……どういう風の吹き回しか知らないけど、私達はアンタらの作戦に殺されたりしない。変な作戦は今すぐやめるべきだと思うけど」
「作戦なんかありませんよ。なにせ僕は、『NAHMU』から足を洗ったんですからね」
「足を洗った……? それって、その『NAHMU』とかいう組織を辞めたってこと?」
「そういうことになりますね。いきなり『事件』のことを話すのもあれですし、話は僕が『NAHMU』を辞めたとこから始めましょうか」
犬童は数時間前のことを想起しつつ、現在までの経緯を話し始めた。
話は、犬童とNAHMUを統べる首魁との会話から始まった。
「逃がして……しまいまして……」
「……」
「……そっか、じゃあもう良いよ」
「……あのアクサーを諦めるのですか?」
「んー、そうだね。ま、正確には『君と』そのアクサーを諦めるってことだけどね」
「なっ……!?」
「だって君さ、アクサー造るぐらいしかしてくれないじゃん? 正直一般化できるぐらい研究は進んだし、実質君の役目ないんだよね。僕の『目的』達成にはもういらないかな〜って」
「お待ちください! 僕はまだ……!」
「いや、まだとか言われても困るんだけど。決定事項だし」
「…………」
「そんなわけで、今までありがとね。何れ僕は『仮面ライダー』に勝利し、この世界に『真の平和』を齎してみせる。だから、君たちはそれをゆっくりと眺めてれば良いさ」
言い終えると同時に指を鳴らし、ラテラリスを呼び寄せる。変身している状態では雑魚と呼んでも差し支えないほどの強さしかない量産型アクサーだが、変身していないとなると話が違ってくる。
ドライバーを取り出すよりも早くラテラリスが襲ってきた為、犬童は変身する間もなく走り出した。NAHMUでの思い出と首魁に背を向け、遮二無二ひた走る。
そうして抜けた場所が、ウィップ達が襲っていた住宅街であった。
「そこで変身して戦いに乱入して……あとは彼が説明した通りですね。話してると、『辞めた』というより『リストラされた』と表現した方が良かったかもですね」
「……ふうん。要するに捨てられたってこと?」
「……僕みたいな人間でも傷ついたりするんですよ?」
「自覚あるんなら直しなさいよ」
「それはまた別の話ですよ。それより、ここまでの経緯を話し終わったので、いよいよ『事件』の話を始めようと思います」
「待って、その前に質問良い?」
「どうぞ」
「……どうして急にそんな話をしようってことになったの? NAHMUだかに捨てられたから?」
その質問に、犬童は少し頭を悩ませた。理由について回答出来ないというわけではない。どう説明すれば良いのか、それが分からないのだ。
うまく纏まらないが、あまりビオラたちを待たせることも出来ない。悩んだ末、犬童は頭に浮かんでいるものをそのまま説明口調のように繋げることにした。
「んー……やっぱり情報を知ってる以上、あまりビオラさんに隠してたくないっていうのと……協力してほしいことがあるから、あとは……ビオラさんが好きだか…………あ」
最後の一文字を残すところまで口走ってから、犬童は自分が隠していたかったことまで喋った事実に気が付いた。慌てて言い直そうとするが、聞き逃さなかった京太郎には既に嘲笑されていた。
今にも堪忍袋の緒が切れそうな表情で笑いを必死に堪える京太郎に殺意と恥辱を抱いた犬童はヒューマドライバーを取り出そうとしたが、何が起こっているのか全く分からないといった表情をしたビオラが視界に入り、理性を取り戻した。
「……ゴホン。それでは、『事件』について話をするとしましょう。と言っても、僕の知ってる範囲に限られはしますがね」
まだ笑いを堪えている京太郎を無視し、犬童は無理矢理話を始めた。
「聞いた話によれば、事の発端はエルフ側にあるそうです」
「は?」
「まあまあ、落ち着いて。話は最後まで聞くのが筋ってモノですよ」
「……」
「話を戻しましょう。NAHMUがエルフの里に手を出した理由ですが……一言で言えば、『口封じ』が目的だそうです」
「口封じ? 何のだ?」
「ぶっちゃけた話、何の口封じなのかは知りません。ただ、アクサーに関するとても大事なモノをあるエルフに盗まれたことがきっかけだった、という話は聞きました」
「アクサーに関する……それってまさか、アゼルが見つけたやつ……!?」
「……それはよく分かりませんが、残っていたとしてもあまり意味はないでしょうね。ともかく、アクサーのことを知られればエルフたちは人間がエルフを殺しにやってくるのだと思い、自分達が襲われる前に人間を襲いに来る。そう判断したNAHMUは、慌てて盗まれたモノを取り返しにエルフの里まで赴きました。しかし、盗まれたモノの話は既に里中に広まっていました。こうなってしまっては、エルフと人間の関係に亀裂が入ることは免れない。だから、NAHMUは考えたんです。『エルフの里ごと口封じを行う』ということを。その結果……」
「……『ヒューマレジスタンス』が起きたって? ……馬鹿を言うのも休み休みにして。それの何処にエルフが事の発端になる理由があるって言うの? アクサーを造ってたのはアンタらの方でしょ!?」
「責任というか何というか……ここは一つ、例え話をした方が良いかもしれません。時にビオラさん、突如エルフの里に宇宙人が現れたとします。その時貴女は、その宇宙人たちを信頼することは出来ますか?」
「信頼って……突然現れた奴らに信頼も何も無いでしょ。第一、目的とかも分からないわけだし」
「それですよ、それ」
「はあ?」
「我々人間も、『エルフ』という突如現れた亜人種族にビクビクしていたんです。私たち人間よりも頭の良い連中で、おまけに魔法を使えたりもする。人間よりも遥かに『上』の存在なんですよ。仮にそんな種族が人間を襲ったとすれば、一日も経たず人間社会はエルフに支配されることでしょう」
「ふざけないで! エルフはそんなことしな───」
「あくまでも仮の話です。でも実際、ヒューマレジスタンスが起きる前の人口全員で人間社会に乗り込めば支配することは簡単だったはずです。そうでしょう?」
「…………」
「そうやって、人間の世界を支配されることに怯えていたんです。だから、いつエルフが人間の世界に攻め込んで来てもいいようにと、アクサーが開発されたわけです」
暫しの間、沈黙が続いた。というのも、話に一番聞き入っていたビオラが黙りこくったためである。
ビオラはずっと、人間がエルフの里を支配することだけが目的でヒューマレジスタンスを起こしていたのだとばかり考えていた。だが、実際はそうでは無いらしい。話の全てが本当のことだと信じたわけでは無いが、アゼルが見つけた研究資料と繋がるかもしれないところもあって完全には否めなかった。
「……で、これがその紙だって?」
「アイツの話を信じるなら、そうだと思う」
エルフの里。託斗達と別れて帰ってきたビオラは、託斗から聞いた話をアゼルに伝えていた。前に見つけた研究資料を右手に持ったまま左手を顎にやり、訝しげに眺めている。
暫くビオラがその黄ばんだ紙を見つめていると、唐突にアゼルが口を開いた。
「……俺のも聞いた……っていうか、ガキの頃の話だからあんま憶えてないだけなんだがな。昔っから、人間とエルフは色々と取引をしてきたろ? 建築だとか、銃だとか」
「……何だっけ、『ひなわじゅう』? とかいうやつ?」
「そう、それだ。……後で調べて分かった事なんだが、その火縄銃とかってのは、軽く200年以上は前からあったんだとよ」
「200年……!? その時からずっと隠してたってこと……!?」
思い出せないほど昔から、人間とエルフは度々情報の交換を行っていた。エルフ側は魔法の知識などを、人間側は建築技術であったり、銃などの情報を提供していた。だが、それはお世辞にもフェアな情報交換とは言えないものであった。
託斗の発言通り、人間達はエルフという存在を予てから危惧していた。あまり情報を渡しすぎると、いつか人間の発明を上回る物を作り出して人間界を支配しにやってくるのでは、と。それを考慮した結果、人間が渡したのは『“火縄銃までの”銃の知識』だった。
とは言え、最初にその情報を渡したのは今からおよそ100年近く前の事だ。その頃には既に火縄銃など使われなくなっていたが、人間は「これが最新式のものだ」と欺瞞し、それ以上の銃に関わる情報は一切与えなかった。
そして迎えたヒューマレジスタンスでは、アサルトライフルやサブマシンガン、ショットガンなど、エルフ達に情報を譲与しなかった銃を使って圧勝することが出来た。
「でも、調べたりなんかしなくともみんな銃については色々考えてたんだ。建築技術の方はどんどん進歩していくのに、銃だけが何も進化していない。だからある日、人間の世界にある研究所に乗り込んでその秘密を暴こうとしたやつが里を出ていったんだ。……俺の、昔っからのダチが」
「……!」
『ただ、アクサーに関するとても大事なモノをあるエルフに盗まれたことがきっかけだった、という話は聞きました』
『「口封じ」が目的だそうです』
突然、託斗から聞いた話がビオラの頭を過った。アクサーに関する、とても大事なモノ。それは、今アゼルが手にしているこの研究資料のことなのではないか?
アゼルと託斗の話を纏めると、おそらく事の顛末はこうだ。
まず、いつまで経っても銃が進化を遂げないことを怪しんだアゼルの友人がNAHMUに乗り込み、研究資料を奪って里に持ち帰る。それに気付いたNAHMUは急いで里へ資料を回収しに来るが、時既に遅し。知られてしまった以上仕方がないと、『ヒューマレジスタンス』が勃発した───。
里に研究資料が残っていたのは、運良く戦火から逃れたからであろう。
それらを理解した瞬間、ビオラは自身の心の内で燃え滾っていた憤懣と厭悪の焔が突風で掻き消されていくかの様な感覚を憶えた。
託斗の例え話通り宇宙人が現れでもしたら、自分達エルフは警戒して魔法などの話を控えるかもしれない。それをエルフと人間の関係に置き換えれば、アクサーを造ったり銃の情報を隠したりということが理解できなくもない。
それに、もし今の自分がアクサーという怪物を率いて人間が襲ってくるかもしれない、という情報をヒューマレジスタンスの前に手に入れていたのなら、人間よりも早く動こうとした筈だ。
ただ、人間の方が早かっただけのこと。相手を滅ぼさなければ、自分達が滅びてしまう。それは、人間とエルフのどちらともが同じことだったのだ。
「凄い話の最中にあれだけどさ、ビネガーが街を襲ってるよ?」
「っ! ウィル!? い、いつから居たの……?」
「う〜んと、『で、これがその紙だって?』ぐらいからじゃないかな……」
「いや最初からじゃん! ……まあもういいや。私の中で答えは出た。アゼル、行ってくる」
音もなく現れたウィルに動揺しつつも、ビオラは決心を固めてビネガーの元へ向かっていった。……だが、それを見送るアゼルの表情はあまり穏やかなものではなかった。
「……心配なんだね? ビオラが、友達みたいに帰って来なくなるのが」
「……そうならねぇように、ビオラに着いて行ってやれ」
「ほいほーい」
軽い返事をしてから、ウィルもまたビオラと同じ方へ飛ぶ。アゼルの表情は、曇ったままだ。
「クッソ、野郎……!」
「悪かったなあ、ビオラじゃなくて俺みたいな野郎でよ。でも、女っ気を求めすぎると嫌われるぞ?」
「ヘッ、ンなモン最初っからお求めじゃ無ぇんだよ!」
少し開けた大通りで、ビネガーとクリーチャはどつき合いを始めていた。街を歩いていた人間は既に避難を完了させているため、この場にいるのはビネガーとクリーチャの二人だけだ。
「これでも喰らいやがれ!」
言い終えると同時に、ビネガーは尻尾から酢酸を噴射する。尻餅をつきながらも体を横にずらして9割を避けることに成功したが、残りの1割でクリーチャのスーツは少しだけ溶けてしまった。
もう一発とばかりにビネガーが尻尾の先をクリーチャに向けた時、右足を突き出したビオラが空から現れた。見事にそのキックをビネガーに命中させ、軽く吹き飛ばしてから着地する。
「大丈夫? これ間に合ってる?」
「ナイスタイミングだな。助かった」
ビオラが伸ばした手を掴み、クリーチャはゆっくりと立ち上がる。
「さ、行くよ。ウィル」
「あ、着いてきてたの気付いてたんだ」
ビオラの近くで待機していたウィルはウンディーネオーブを出しながらビオラに近づいていく。しかしここで、想定外の事態が起きた。
「痛っ……今何かに……っ! オーブが盗られて……!」
「……ゲゴッ」
注意して見てみると、ビネガーの近くにはウンディーネオーブを咥えた小さな蛙のような怪物がいた。その名も───リバースアクサー。正式には、『変態』を済ませたリバースアクサーである。自身の3倍程の大きさはあるオーブを落とさないようにしっかりと咥え直し、リバースは何処かへ飛び去ろうとした。
……のだが、それを許すまいとする人物が一人。犬童託斗こと、仮面ライダーヒューマである。
「もう僕は忙しく無くなっちゃいましたけど、これが無いとビオラさんが困りますし、返して貰いますね」
そう言い、ヒューマはリバースの口から無理矢理オーブを奪い取り、ビオラに投げ返した。仕事を邪魔されたことに憤慨したリバースはヒューマに飛びかかったが……
「歳を重ねる度に小さくなるだなんて……まるで、圧倒的な力を手に入れた人間の心のようですね」
【Finish attack】
【Authentication.】
「ゲガァッ!」
片足で軽く蹴り飛ばされ、リバースは宙で爆散する。それを自身の眼で確認したビネガーは、不機嫌そうにその姿を消した。
軽く手についた埃を払い、ヒューマは変身を解除しながらビオラ達の元に歩み寄る。その表情は、いやに清々しい笑顔だった。
「さて、これからはこんな感じで、僕もビオラさん達の戦闘に参加させていただきます。あ、断られても僕勝手に乱入するんで、そこのところはよろしくお願いしまーす」
「お願いしまーすじゃねぇんだよ! 勝手に決めやがって!」
「安心してください! 僕はビオラさんのことなら何でも知ってますよ!」
「……は?」
「例えば〜……そうですね、今日のパンツはレースの付いた薄ピンクですし」
「はあっ!? ちょっと、何で知ってるの!?」
「昨日は無地の青、一昨日は緑を基調とした赤い薔薇模様のパンツで、一昨々日は……」
「もうやめて!! それ以上言ったらほんとに殺すッ!!!」
「じょ、冗談ですってば! あの、ほんとに、すいませんでした許してくださいぃ〜!!」
「ねぇ京太郎」
「……何だ?」
「ホントにさ、何でビオラのパンツのこと知ってると思う?」
「いや知らねぇよ! つか俺に聞くな!」
「殺す! 殺すッ! 殺すッ!!」
「ホントに許してください! もう言いませんからっ!!!」
こうして、常軌を逸した変態が新たに仲間として加わるのであった。
投稿期間空いちゃってごめんなさい! テストとかで忙しかったんです許してください!
それはそうと、もう12月ですね。一年の最後の一月、ゆっくりお過ごしください。では!