仮面ライダーエルフ   作:青ずきん

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15日までに投稿出来てたらいいなあ(願望)


第21話 Doubleー暴虐の手

「……」

 

 やっと正午を過ぎたくらいの昼下がり。人でごった返している街で、ビオラはいつものようにラフな格好で闊歩していた。

 ……のだが、一つだけ気になる点がある。自身に向けられる人々の目が、若干冷たく感じることだ。大多数が黒髪の日本では、金色の髪というのは本当によく目立つ。それ故、視線を感じるのは珍しいことでは無いが……最近、その視線に軽蔑が混じってきたような気がする。

 

 この前───ヴァニラを目覚めさせた時、ヴァニラが好き放題に暴れていた様子がメディアで大々的に放映されたことが原因であるというのは想像に難くない。しかし、このままでは仮面ライダーとしての活動に支障をきたす可能性がある。これだけは何としても避けなくてはならない。

 とは言え、人間たちは『仮面ライダー』という存在そのものに嫌悪感がある。身近で戦闘が始まれば、ヤジを飛ばして追い出すはずだ。そうなれば、弁明も何もあったものではない。

 まずは、『仮面ライダー』に対する認識を改めてもらう所からだ。一度脳裏に焼き付いた第一印象を覆すのはかなり厳しいが、何もしない訳にもいかない。かといって、自分ひとりで解決できるような問題でもない。何より、「エルフ」と「人間」という、種族上の違いもある。その軋轢をどうにかするためには、人間である京太郎の協力が必要不可欠だ。

 

「……よし」

 

 そう決心し、ビオラは爪先を京太郎の住むアパートへと向けていつもより少しだけ大きい歩幅で歩き出した。

 

 

 

「……何あれ」

 京太郎の住むアパートまで残り20メートル。そこでビオラが目にした光景は、想像を絶するものだった。

 どういうわけか、周辺住民が京太郎の部屋の前に集まっているのだ。ある人はドアを叩き、またある人は大声を出して、家内に居ると推測される京太郎を呼んでいる。

 その状況を見て居ても立ってもいられず、ビオラは京太郎の部屋の前まで全力を出して走り始めた。

 

「ちょっと! 何してんの!?」

「おん……?」

 声に反応し、周辺住民達はビオラの方に顔を向ける。眉の吊り上がった、感じの悪い表情だ。

 1、2秒の僅かな沈黙の後、50代ほどと思われる真っ黒なダウンジャケットと迷彩柄のカーゴパンツを着込んだ男性が、髪からはみ出したビオラの尖った耳を指差して口を開く。

「その金髪に尖った耳……君、もしかして『仮面ライダーなんとか』っていう女の子かな……?」

「仮面ライダーエルフ。そのぐらい覚えときなさい」

 

「……その言葉遣いも気になるが、それよりもだ。君、ここに住んでる人と知り合いかい?」

「……だったら何?」

「もしそうなら……今すぐにこの街から去ってくれないか? はっきり言って、いい迷惑なんだよ。喧嘩はここじゃなく、他所でやってくれ」

「……仮に私がこの街に来なくなったとして、怪物がこの街を襲わないなんて保証は何処にも無いんだけど?」

「でも、何もしないよりはマシだろう? 僕ら何十人が動くよりも、君達二人がどっかに行く方が良いのは火を見るよりも明らかだ。それでもこの街に居続けるというのなら……力づくでも出ていってもらう」

 

「……ふうん。変身も出来ない人間が、私に勝てるって? 冗談言わないでくれる?」

「……そういう態度だ。そういう、人間を見下したような言葉遣いがムカつくんだよォ!」

 声を荒げ、男性はビオラ目掛けて拳を振り下ろす。しかしビオラはその腕を軽々と掴み、軽く締めた。しっかりと握り締め、ビオラは話を続ける。

「ぐぅっ……」

「私達が何処に行こうが、多分アクサー(アイツら)はこの街を襲いに来る。その時、私や京太郎が居なかったら誰がこの街を守るの?」

「それでも……仮面ライダー(お前ら)には頼らない……! こっちの迷惑も碌に考えないような奴らには……!」

 

「いい加減その手を離しなさい! この……クズエルフっ!」

 男性のすぐ後ろに居た小太り気味の中年女性が駆け寄り、ビオラの腕を引き剥がそうと力強く掴んできた。その瞬間にビオラの力が完全に抜け、二人は引き離された。ビオラを強く睥睨し、中年女性は叫ぶ。

 

「アンタみたいなクズ種族に守られるのなんて……こっちから願い下げよ!」

 その言葉に何も言い返さず、ビオラはただ俯く。耐えきれなくなったのか魔法を使ってその場からビオラが姿を消すと、周辺住民は京太郎の呼び出しを諦めて解散していった。

 

 

 

「……『クズ種族』……」

 エルフの里の近くの森に瞬間移動してきたビオラは、自身に放たれた言葉を想起していた。

 クズ種族。

 その言われ様に、微々たる悲哀と憤怒を感じた。

 自分達エルフがクズだと? 馬鹿も休み休みにしてほしい。自分ひとりを見ただけの奴が、自分達エルフの何を知っているというのだろうか。一を聞いて十を知ったとでも言うつもりか? 勘違いも甚だしい。よく知りもせず、軽々しく放っていい罵倒ではない。

 

 そんな言葉に出来なかった怒りが、次から次へと湧いてくる。しかし、ビオラはここである一つの事に気が付いた。

 先程の女性が言い放った『クズ種族』という言葉。彼女の知るエルフは、実際に出会ったエルフは、恐らく自分だけであるはずだ。そうだと仮定すれば、彼女は自分ひとりの印象をエルフという『種族』に重ねていることになる。それは、これまでの自分と同じなのではないか?

 

 一年前に『ヒューマレジスタンス』を受けたことで、自分の中の「人間」という種族への認識は最悪なモノへと変貌した。人間とは皆の心が薄汚く、常に自分が生き残るために他を蹴落として生きてきたクズ種族だと。

 人間に殺意を含めた視線を向け、ずっと日々を過ごしてきた。だが、その日々の中で自分が知っている人間は、世界人口の一割にも満たない数だ。そんな自分こそ、『勘違いも甚だしい』のではないか?

 

 これまでの自身の暗愚な謬見(びゅうけん)を客観視し、ビオラは自分がどれほど愚かだったのかをまざまざと見せつけられたかの様な感覚を憶えた。両膝を突き、両腕で自身を抱きしめ、過去の過ちに震える。

「私、私……は……!」

 思い返せば、これまで出会った人間達はそれほど悪人という感じはしなかった。自分の言葉に生えた棘に刺されても、穏やかな微笑みを返した人間達が何人も居た。エルフを敵視する人間も居たが、結局は自分と一緒だ。一部を見ただけなのにも関わらず、まるで全てを知ったかのような態度で侮蔑する。

 まさに、これまでの自分そのものだ。

 

「……あれ、もしかしてお取り込み中?」

 涙まで流し始めたビオラの顔を覗き込みながら、ウィルが宙を揺蕩う。その声に涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、言いたいことのまとまっていない言葉を投げかける。

「……! ウィル! ウィル、私、今までずっと人間は皆が悪いやつだって思ってて、でも違って、私が、私の今までが、」

「うん、一旦落ち着いて。何が言いたいのか全然分かんない」

「……えっと、今日、京太郎の家の前で人間に会って、色々あって、エルフのことを『クズ種族』って言われたの。それでここに逃げてきて、知ったような口きくなーって思ってたら、それがまさに今までの私で……」

「なるなる、視野が狭かったってことだね?」

「……うん」

 

「……じゃあさ。『今まで』が駄目だったんなら、『これから』を変えようよ。時間はかかるかもしれないけど、きっと分かって向こうもエルフのことを理解してくれるようになると思うよ。ビオラみたいにね」

「…………うん」

 

「ま、それはこれからやっていくとして……実は、今やんなきゃいけないことが出来たんだ」

「今やらなきゃ……いけないこと……?」

「そう、今やらなきゃ駄目なこと。それはね…………京太郎を止めることだよ」

「……京太郎を? そもそも何処に居るの? ていうか、止めるって何?」

「……何でかは知らないけど、京太郎が変身したまま一切喋らなくなっちゃったんだ。なんとか説得出来ないかなあとか思ってたけど……どうやら、新しいアクサーの能力っぽいんだよね」

「新しいアクサー? 犬童って、もうNAHMUだか何だかを辞めたって言ってなかった?」

「言ってたね。それが真実かどうかは知らないけれど……クリーチャ(京太郎)は、もうすぐ街の方まで行くと思うよ。話とか一切聞かずに暴れてるから、止めるのは厳しいと思うけど……」

「……大丈夫。私が、止めてみせる」

「そっか。じゃあ、行こうか?」

「……うん!」

 力強く頷いたビオラの瞳は、普段よりも一層輝いて見えた。

 

 

 

 陽は既に落ち、月明かりが街の大通りを小さく照らしていた。

 そこに、薄暗い影が二つ。蠍の様な尻尾を持つものと、蜘蛛にも似た触肢を備えるもの。恐らくだが、ビネガーとキャメルであろう。

 キャメルよりも少しだけ背の高いビネガーが、じりじりとにじり寄ってくる。

「よォエルフちゃん……悪りィが、こっから先は通してやれねェ。俺たちの計画を邪魔されるわけにはいかねェんだ」

「計画? 何の?」

「ウチから脱走したアクサーが憑いてるとはいえ、京太郎(アイツ)は人間だ。家のそばでガチ喧嘩するだけだった奴が、急に自分達を襲ってきたらどうする? もちろん人間共は───」

「喋りすぎだ。言葉を慎め」

 キャメルの戒めを受け、ビネガーは渋々口を閉じた。一歩前に進み出て、キャメルが口を開く。

 

「聞けビオラ・ヒアラルク。貴様も知っているだろうが、託斗様がNAHMUを抜けられた。私は当然追うつもりでいたが……どうやら、託斗様の視界にはもう貴様以外の女は映っていないらしい。その『映っていない女』の中には、私も含まれている。……こんな事は有り得ない。貴様もそう思わないか?」

 

「……いや、そんなの知らないけど……」

 

「そうか。そう思わないと言うのは勝手だ。だが───」

 

「私は、託斗様を誑かした売女を許すつもりは決して無い」

 

 言い終えると同時に走り出し、脊髄から伸びる黄土色の触肢をビオラに刺す。ビオラはそれをすんでの所で躱し、急いで変身する。

「ウィルっ!」

「分かってるよ」

 ビオラが青い炎から出現させたベルトに、ウィルがシルフィードオーブを嵌め込む。レバーを倒し、フィルーシュを呼んだ。同時に、ウィルが場から少し離れる。

【サモン!】

【ブラスターーーー…シルフィーードッ!!】

「いくよフィル! まずはあの蜘蛛っぽい方から仕留める!」

〔おっけー! サポートは任せて!〕

 キャメル目掛けて、右足を突き出しながら高速で突進する。攻撃を見切れずノックバックしたキャメルに、宙を飛び回りながら跳び蹴りを喰らわせる。

 その状況を良しとしないビネガーは、尻尾から酢酸を噴出させた。しかしシルフィードスレイヴとなったエルフにはさほど意味は無く、高速移動で軽やかに避けられて回し蹴りの反撃を喰らう。月光が反射し、エルフを優美に照らす。

 

「クッソ……おいキャメル! 何とかしやがれ!」

「言われなくとも」

 そう言うと、キャメルは静かに眼を閉じてその場に立ち尽くす。辺りに、静寂が生まれた。

「今なら……!」

〔ビオラっ! 今あいつの近くに行っちゃダメ!〕

 フィルーシュの言葉が聞こえなかったのか、エルフはフェイントをかけながら距離を詰め、背後まで移動してから胴回し回転蹴りを喰らわせようとした。が、キャメルはエルフの脚を目視することなく左手で掴んだ。一回転し、その勢いのまま壁の方へと投げ捨てる。

 

「あぐっ……!」

 壁に叩きつけられながらも、エルフは身体に鞭を打って立ち上がる。

〔あいつ、多分だけどビオラが近づいたのを耳で聴いてから反撃したんだと思う……〕

「……なら、近づかずに攻撃すれば良いってこと?」

〔うん……でも、さそりの方がそれを邪魔してくるかも〕

「なるほどね。そっちにも気を───」

「よそ見は禁物だぜッ!」

「噂をすれば何とやらねッ!」

 気付くと、目と鼻の先までビネガーが迫って来ていた。攻撃を受け流そうと腕を伸ばした時、ビネガーでも、キャメルのものでもない腕がビネガーの攻撃を遮った。その腕の主は───

 

 

「いやあ危ない危ない。ギリギリセーフですね」

「犬童!? 何で此処に!?」

 

 仮面ライダーヒューマ/犬童託斗であった。眼を見開き、キャメルが口を開く。

「託斗様! 何故その女を庇うのですか? 何故私共の元を離れて行かれたのですか!?」

「うーん、質問が多い……とりあえずビオラさん、こちらの方は僕に任せてください。わけは知りませんが、お急ぎなんでしょう?」

 後ろを振り向き、穏やかな口調でそう告げる。ハッとして、ビオラは力強く答える。

「うん、任せた……!」

 一度だけヒューマの方を振り返ってから、エルフはビネガーとキャメルの間を縫うようにすり抜け、京太郎、もとい仮面ライダークリーチャの元へと急いだ。

 ビネガーは追跡を試みたが、ヒューマにプログラムアクターで撃ち抜かれて阻止されてしまった。激昂したビネガーの突撃から、NAHMUのアクサーと元NAHMUのライダーによる戦闘が始まる。

 

 

 

「……! 居た!」

 ヒューマ達の戦闘の開始とほぼ同時刻。エルフは、街を抜けて森へ進撃しようとするクリーチャを───正確には、クリーチャとクリーチャを操っているであろう謎のアクサーの2体を捕捉することに成功した。

 ウィルから聞いた通り、こちらに気付いたにも関わらずクリーチャは一言も発さない。

 いつもとは少し異なった暗澹な雰囲気を纏うクリーチャに思わず後退りしてしまったが、そのまま逃げ帰るわけにもいかない。そう覚悟を決めて、エルフは近くまでついて来ていたウィルを隠れられる場所まで指差して誘導した。

 

 

 エルフの決意に満ちた眼とクリーチャの生気のない眼が、互いを捉えた。




短いっ! 戦闘してないっ! 何がしたいのかよく分からんっ!
そんな21話でしたが、如何だったでしょうか。22話では、多分もうちょっとだけマシな展開になると思うので……
また投稿期間空いたりするかもしれませんが、どうかこれからも仮面ライダーエルフと青ずきんをよろしくお願いします。
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