仮面ライダーエルフ   作:青ずきん

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多分ですが、今回が2020年最後の更新になるかと思います。
というわけでご挨拶。良いお年を!


第22話 Re:Doubleー最愛の手

【Option】

【Thunder】

【Authentication.】

「はあっ!」

 

 犬童託斗───仮面ライダーヒューマは、NAHMUの幹部格である怪人『ビネガーアクサー』、及び『キャメルアクサー』と交戦している。2対1の状況だが、ヒューマドライバーの能力を駆使することで何とか凌いでいる。

 ついさっきも、左右から飛びかかって来た二体の前に雷で造られた壁を隔てて攻撃を防いでみせた。しかし、常に二体の位置を把握し続けることは不可能だ。何れはこちらが押し負けてしまう。そうなる前に、何かしらの手を打たなければならない。

 

「……仕方ないですね。そろそろ、本気出してみましょうか」

 

【Option】

 

「お待ちくださいッ!」

 ヒューマがドライバーに手をかけたその瞬間、キャメルの声が閑静な街に響く。ビネガーも予想外だったようで、一瞬だけ身体をビクつかせていた。

「まだ……私の質問に、お答えいただいてません。何故、あの女を庇ったのですか? 何故、私共の元を離れて行かれたのですか?」

 

【Copy】

 

「……じゃあ、後者から返答しましょう。理由は二つ……いえ、実質一つですね。NAHMUの長たるお方……『(くろがね) 雪人(ゆきと)』様に、お暇を出されたんですよ。丁度辞め時かなとも思ってましたし、タイミング完璧でしたね」

「なっ……!?」

 犬童の返答に、キャメルは酷く狼狽した。口元に手を当て、信じられないとでも言うかのような様相を醸し出す。

「おいおい……一体何やらかしたんだ……?」

 

【four】

 

「まあ、決め手となったのは『バナナペストアクサー』ですね。彼を逃してしまったのが痛かった」

「……あの野郎か。ホントに何処行きやがったんだ……?」

 

【Authentication.】

 

「僕を倒してビオラさんに追いつけば、その答えを得られるかもしれません。尤も、倒される気は微塵もありませんがね」

 瞬間、キャメルとビネガーの斜め後ろから分身として生成された仮面ライダーヒューマが二体ずつ現れ、それぞれ一体は頭部、もう一体は臀部を狙って蹴りを放つ。それに対し、キャメルは触肢による防御、ビネガーは回避しつつの反撃という対応を見せた。

 分身は続け様に猛攻を仕掛けるが、二体のアクサーはそれらを完璧に凌いで見せる。しかし、背後まで迫っていた()()にまでは意識が及んでいなかったようだ。ビネガーは咄嗟に右腕を振り上げたものの、ヒューマのハイキックをモロに喰らってしまう。

 

「チッ、面倒くせぇ……!」

 

 5対2を嫌ったか、ビネガーは尻尾から酢酸を噴射した。力の限り振り回し、ヒューマの分身を次々と消していく。

 残る本体に尻尾の先が向けられると、ヒューマは高く跳び上がってそれを回避しようとした。だが、その位置には既に攻撃の準備を整えたキャメルの触肢があり、薙ぎ払いによって地面に叩きつけられてしまう。

「……こ〜れはまずい……」

 倒される気はないとは言ったものの、正直体にはかなり疲労が溜まってきている。おまけに、相手は仮面ライダーヒューマ(自分)の能力の殆どを知っている幹部アクサー達だ。このまま長期戦に突入すれば、敗走するのは時間の問題だろう。

 

 ふと、街を照らす青白い街灯が目についた。何かを思いついたように、ヒューマは自身のベルトを弄くる。あまり気乗りするような案では無いのか、先程までよりも手の動きがぎこちないのが伝わってきていた。

 

【Option】

 

【Daylight】

 

【Authentication.】

 

「許してくださいね、こうでもしないと……僕、負けちゃうんで」

 申し訳なさそうな声を上げ、ヒューマは左手を天に掲げる。瞬間、夜闇の中から陽の光が差してきた。

 その光景に、ビネガーとキャメルは宇宙人でも見たかのように目を見張る。それもそうだ。何を隠そうこの『Daylight』は、ビネガーやキャメルに知られないように犬童がこっそり付け足した能力なのだ。どんな時間でも、どんな天気でも、その場に日光を呼び寄せる能力。

 この能力をドライバーに組み込んでいた頃から、犬童の心の内には『NAHMUを抜けようか』という考えが既にあった。しかし、同時に気がかりな事も一つあった。

 

 キャメルの事だ。キャメルアクサーは、犬童が初めて造った『人間(オリジナル)の改造でない純粋なアクサー』だ。特別そういう風に造ったわけではないが、意識を持ったキャメルは犬童に心酔するようになった。敬虔な信者の様に自分に尽くしてくれるのが犬童としても少し嬉しかったらしく、長らくNAHMU脱退の為の決意を阻害していた。

 

 もし自分が本当にNAHMUを抜ける事になれば、それはキャメルと敵対するようになるという事でもある。その時にキャメルと戦う自信が、犬童には無かった。だからこそ、『Daylight』を───キャメルが苦手とする『日光』を操る力を、ヒューマドライバーに組み込んだ。能力を行使することでキャメルの敬愛を霧散させ、お互い心置きなく戦えるように。

 

「くうっ……!?」

 日光に当てられたキャメルが呻いた。両腕で必死に頭部を守りながら、弱々しく声を上げている。

 既に夜の闇に順応したビネガーの眼もやられており、声こそ上げないものの手で眼を覆い隠していた。これを奇貨として、ヒューマは飛び上がりながらドライバーに装填されたアイテムを操作する。

 

【Finish attack】

【Authentication.】

 

「……さようなら」

 静かに告げ、ヒューマは右脚を突き出した。

「クソッ……帰るぞッ!」

 ヒューマのキックが炸裂するよりも早く、ビネガーはキャメルの手を引いて何処かへとその姿を消した。

 若干体勢を崩しつつも地面に着地したヒューマは徐に立ち上がり、夜空に瞬く星と何処からともなく差している陽の光に目を向ける。

 ───ビオラさんは、うまくやっているでしょうか。

 そんなことを考えながら、暫くその場に呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

「京太郎っ! 聞こえる!? 私だよ、ビオラ!」

 ビオラこと仮面ライダーエルフは、漸く見つけた京太郎こと仮面ライダークリーチャに強く呼び掛けた。風に仰られた木々が、ゆっくりとその身体を揺らす。

 

 反応は、ない。

 

「……」

 一旦クリーチャから目を離し、エルフはクリーチャのすぐ側に居た謎のアクサーの方に注目した。

 見ればそのアクサーは青緑色の金属光沢を放っており、黒い複眼と赤い大腿部というアクセントも相まってかなり派手な感じがする。臀部には蜂の針にも似た棘があり、エルフの不安感を煽った。

 視線の先に気づいたのか、クリーチャは青緑色のアクサー───ベリルアクサーを庇うように前へと進み出る。自身の、そして京太郎の日常を壊した筈のアクサーを守ろうとするその様に、一瞬だけ吐き気のような感覚を憶えた。

 

 この状況が長く続いては、自分の精神が保たない。そう判断したエルフは素早くクリーチャの背後に回り込み、そこで守られていたベリルアクサーに回し蹴りを放った。しかし、攻撃は視界の上の方から降りてきた黄土色の触肢によって防がれてしまった。この触肢の持ち主は、もちろん仮面ライダークリーチャ。京太郎が本当にアクサーを守ったという事実に動揺し、その後クリーチャが放った横蹴りをモロに喰らってしまう。

「うぐっ……!」

 痛む脇腹を左手で押さえ、なんとか立ち上がる。『容赦』という言葉を忘れたクリーチャの一撃は、骨にすら届く程の激痛がした。

「京太郎、お願いだからそんな奴に負けないでよ! 京太郎が私に…………ッ!?」

 エルフの話には耳を貸さず、クリーチャは静かにエルフの鳩尾を殴りつける。更に、腹を抱えたまま両膝を突いたエルフを、またしても鳩尾を狙って蹴り飛ばした。

「あがっ……」

 数メートル程飛ばされ、エルフは変身を解除させられた。苦しげに吐かれたビオラの唾が、何色かもよく分からない地面に滴る。

 

 苦しい。今すぐここで吐きたい程に苦しい。今すぐここで泣き喚きたい程に苦しい。

 

苦しい、苦しい、苦しい。

 

 でも、自分が『苦しい』と感じる度に、クリーチャの顔色がより一層暗くなっていくような気がした。

 今、物凄く苦しい。今まで感じたことのないような激痛が、自身の腹を襲っている。でも、それは京太郎も同じはずだ。

 京太郎も、同じように苦しんでいる。身体を操られて、望んでもいないことをさせられて苦しんでいる。

 

 だから、解放してやらなければならない。自分が苦しくなくなるだけでは駄目だ。彼を、京太郎を、救ってやらなければならない。今の自分の気持ちを……抑えていた感情を、ありのまま話そう。大丈夫、きっと上手くいく。

 

 そう決意を抱き、ビオラはゆっくりと立ち上がった。まだ腹は痛むが、そんな事を気にしている場合ではない。

 意識が無ければいいな、と心のどこかで考えながら、ビオラは口を開いた。

 

「ねぇ京太郎……聞こえる? 私の声……」

 

「もう知ってると思うけど、私さ……ずっと、人間が嫌いだったんだ……私の家族を奪った、忌まわしい奴らだから……」

 

「でも……でもね? 京太郎と会って……変わったんだ、考えが。人間にも、心優しい人がいるんだって。そう思えるようになったんだ」

 

「私がどんなに京太郎をつっぱねても、いつも私のコト気にかけてくれたよね……。ずっと酷いことばっかり言ってきたけどさ……ホントは、ほんとはすっごく嬉しかったんだよ?」

 

 ビオラの右目から、一粒の涙が零れ落ちる。

 

「どんなに辛い時でもそばにいてくれて、明るい笑顔で私を何度も助けてくれた……。いつの間にか。私も知らない内に、その笑顔に縋るようになったんだ……。その笑顔が無いと、耐えられなくなったんだ……。それで、それでさ………………」

 

 

 

「京太郎のこと、好きになっちゃった。」

 

 

 

 一瞬だけ、クリーチャの体がビクついた。涙でくしゃくしゃになった笑顔を向けて、ビオラは続ける。

 

「だから……これからは、もっと京太郎とお喋りしたい。一緒に遊んだり、お買い物とかもしてみたい。それから…………」

 

「京太郎と一緒にやりたいことが、いっぱいあるんだ。だから……一緒に帰ろ?」

 瞳を潤ませたまま、ビオラは自身の右手をクリーチャに差し出した。しかし数秒経ってもとられなかったからか、諦めたような笑顔でゆっくりと手をひっこめる。その表情を変えず、またビオラは口を開いた。

 

「どうしてもっていうんなら……私がその手を引いて、連れ戻してあげる」

 懐からファヴニールオーブを取り出し、徐に起動させる。同時に、生暖かい風が吹いたような気がした。

 

【ファヴニール!】

 

【セットアップ!】

 

 古代エジプトの王朝を彷彿とさせるサウンドが辺りに響き渡る。これまでにないほど落ち着いた、そして穏やかな声で、その言葉を告げる。

 

「……変身」

【サモン!】

〔っしゃあ! 出番だぜコラァ!〕

 

 ベルト左側のレバーを倒すと、勢いよくヴァニラが飛び出して来た。数回ビオラの周囲を旋回し、ビオラの身体に憑依する。

 

【財宝の守護者、今こそその権威を振るい給え! 老獪な守銭奴共を処罰せよ!】

【トレジャーーーー…ファヴニーールッ!!】

 黄金の装甲を纏い、同じく黄金の翼、黄金の尻尾を生やして仮面ライダーエルフ ファヴニールスレイヴはクリーチャの前へと降り立った。しかしそれは、ヴァニラが動かしているとは思えない程に静かに佇んでいた。

 それもそのはず。何せビオラは……

 

〔!? オイ、どうなってやがる? 動かねぇぞ!?〕

 

 ヴァニラの支配を克服したのだ。欲望のままに動くのではない、ビオラ自身の意思で人々を救う『ファヴニールスレイヴ』へと『変身』したのだ。

 

「……さあ、人智の……ううん、叡智の先を、見せてあげるっ!」

 

 『変身』したビオラは、これまでの殺気立った戦闘からは想像もつかない程……ともすれば、別人ではないかと疑ってもしまう程にゆったりとしていた。

 隙にしか見えなかったのか、エルフの心臓を貫こうとクリーチャは触肢を伸ばす。が、エルフはその触肢を完璧なタイミングで掴んで見せた。

 

 まるで、心と心が繋がっているとでも言うかのように。

 

 触肢を掴んだまま、エルフはクリーチャの元へと歩み寄る。零距離になったところで、エルフはクリーチャを包み込むように抱きしめた。

 エルフの両腕がクリーチャの背中で繋がると、クリーチャもその腕をエルフの背中に回した。想定外の出来事だったのだろう、ずっとクリーチャの後ろに隠れていたベリルアクサーが飛び出し、慌ててエルフに針を向けて突撃する。が……

 

「……そいつはちょっと待ってもらおうか」

 

 その針は、何者かに掴まれたためにエルフに届くことはなかった。掴んだのは、仮面ライダークリーチャ。先程まで操られていた、横屋京太郎その人だ。

「京太郎……! 意識戻ったの?」

「ああ……お前の叫び、聴こえてたよ。待たせてごめんな」

「……! ううん、大丈夫。京太郎が、戻ってきてくれたから」

「……そっか。そりゃ嬉しいな。んじゃま、とりあえず……」

「うん……」

 

ベリル(この)アクサーをブッ飛ばす!」

ベリル(この)アクサーを倒すっ!!!」

 

 飛び上がって空中から攻撃を仕掛けてくるエルフと地上で凄まじい猛攻を仕掛けるクリーチャの相手をさせられたベリルは、この時点でほぼほぼ詰んだようなものだ。そもそもとして、ベリルの最大の強みは他者を操れるところにある。自分の思い通りに動く操り人形を失った人形師に、出来ることはもうない。

「おしビオラ、決めるぞ!」

「おっけー!」

 

【カモン! ゴールデン!】 【The kill time!】

 

【スピリチュアル!】 【Dead end.】

 

「「はあああああああああああっっっ!!!」」」

 

 エルフの左脚とクリーチャの右脚から繰り出されるダブルライダーキックが、ベリルに襲い来る。ラテラリスアクサーを呼び、何とか延命しようとするも……2人の絆の前では、全てが無力に等しかった。高く、高く空に飛ばされたベリルは、そのまま空中で爆ぜ散った。

 金属光沢を放っていたベリルの体の欠片が、夜空に怪しく光って舞い落ちる。

 

 その欠片がハートマークのように見えたのは、また別の話。

 

 

 

「色々と、迷惑かけちまったな。本当にごめん」

「謝らないの。京太郎の意識が戻った、アクサーも倒せた。それで良いじゃん」

「……確かにそうだな」

 夜も更けに更け、遂には朝日まで出始めた頃、ビオラと京太郎はゆったりとした足取りで帰路についていた。心なしか、2人の距離はいつもより互いに近かった。

「今回はマジでビオラに助けられただけだったな。ありがとう」

「ううん、気にしない…………あれ?」

 ふと、ビオラの頭の中に京太郎の言葉がよぎった。

『ああ……お前の叫び、聴こえてたよ。待たせてごめんな』

 

『ああ……お前の叫び、聴こえてたよ。待たせてごめんな』

 

『ああ……お前の叫び、聴こえてたよ』

 

 

『お 前 の 叫 び 、 聴 こ え て た よ』

 一瞬にして、ビオラの顔は赤く染まった。首を小刻みに震わせながら京太郎の方を向き、確認を取る。

「……ねぇ京太郎。あのアクサーに操られてた時って、意識あった?」

「ん? まあ、ちょっとな」

「私が何か言ってたの、聴こえてた?」

「ああ、そりゃもうばっちり」

「じ、じゃあ……京太郎のこと好きって言ったのも……聴こえて、た…………?」

「ああ、お陰様で目ぇ醒めた。ありがとな」

 ボンッという音を立てて、ビオラの赤く染まりきった顔から湯気が出た。

 

 ……比喩ではなく、物理的に。

 

「き、き……」

「き……?」

「京太郎のバカっ! バカバカバカバカバカっ、京太郎のっ……ばかぁ〜っ!!!」

「痛てっ、ちょっと殴るなって、痛てえって!」

 結局、ビオラが疲れて眠るまで京太郎はぽかぽかと殴られていたのだった。




第22話ッ、完!
ようやっと書けたビオラちゃんの告白回でした。ほんと嬉しい。
途中でビオラちゃんの決めゼリフが変わってましたよね。『人間の知恵』といった意味をもつ「人智の先を〜」から、『優れた知恵』という意味の「叡智の先を〜」という風に。これ、「人間の知恵」では無くなったことで、ビオラちゃんが人間を見下すのを完全にやめたという意思の表れなんです。
……ぶっちゃけ、こういうのは敢えて書かない方が良いのかもしれませんが。
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