仮面ライダーエルフ   作:青ずきん

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四ヶ月もお待たせしてしまい、本当にごめんなさい!


第23話 Avengeーもう居なくなった隣

「んー……おいしい!」

 

 時刻は正午を少し超えたあたり。出店で購入したメロンソーダを飲みながら、ビオラと京太郎は人通りの少ない街道を闊歩していた。アクサー達の影響なのか、それとも仮面ライダー(ビオラ)の影響なのか。数十分は歩き回ったのだが、人の気配を未だに感じない。

 人前でないということもあり、ビオラは京太郎の方に身を寄せながら歩いている。一方の京太郎はというと、明らかにこれまでより増えたビオラの笑顔を未だに直視出来ていない。ニヤけた表情を弄られないよう力んだ顔は、傍目から見れば怒っていると勘違いされそうな程だ。

 

「……ん?」

 

 そんな京太郎の表情に気付いたのか、ビオラは足を止めた。数歩歩いてから、京太郎も同じく足を止めた。京太郎が何を考えているのかよくわからないといった表情を、困ったような笑みに変えてビオラは口を開く。

 

「なんか……色々と、ごめんね? 今思えば、京太郎には迷惑かけてばっかりだったし……」

「……! いや、別にそういうことを考えていたわけじゃなくてな……」

「じゃあ、何考えてたの?」

「それ、は……」

「……」

 

 少しだけ京太郎の前に飛び出し、ビオラは優しく言葉を紡いだ。

 

「……言いたくないことだったら、無理に言わなくても良い。でも、背負い込みすぎるのは良くないと思う」

「いや、ホントにこう、背負いこんでるとかじゃねぇんだよ。……俺からすれば、寧ろお前の方が色々と背負い込んでる感じするけどな」

「……?」

 

 どういうこと、と。ビオラがそう問おうとした時、『京太郎』から京太郎のものとは異なる声がした。……京太郎の中に巣食うアクサー『アルテン』だ。

 少し気怠げな落ち着いた声で会話に交じる。

 

〔同感だ。ビオラ(お前)の目的はウィップやビネガーを殺すことだろう? まさか家族の仇を忘れたわけではあるまい、笑顔を見せられれば無理をしていると考えるのは自然なことだ〕

「……勿論忘れたわけじゃない。ただ……」

〔ただ……何だ?〕

「……ただ、やっと京太郎に言いたいこと言えたし、すっきりしたなって。京太郎が受け入れてくれたのもあるし、前より落ち着けるようになっただけ」

〔……そうか〕

 

 無機質な返答を最後に、アルテンは言葉を発さなくなった。

 それから三十秒も経たず、会話を遮らんとして空から怪物が飛来した。

 

「久しいな、ビオラ・ヒアラルク。探したぞ」

「……! ウィップ……!」

 

 現れたのはウィップアクサー。家族の仇である、幹部格の黒い怪人だ。

 

「……ビオラに何の用だ?」

 

「……犬童託斗が、ビネガーとキャメルを攻撃したらしいな。あれはお前の差し金か?」

 

「まさか。アイツが勝手にやってるだけ。……用件はそれだけ?」

 

「いや、もう一つある。簡単な事だ。我らの障害となる貴様を消しに来た」

 

「…………!」

 

 その言葉に反応し、ビオラは瞬時にベルトを巻いてウンディーネオーブを取り出す。少しだけ遅れて、京太郎もベルトを巻いた。

 

「……ちょうど、私もアンタを消したいって思ってたところ。完璧なタイミングね」

【ウンディーネ!】

【セットアップ!】

 

「……いくよ、京太郎」

「おうよ」

【Invade……】

 

「「変身ッ!」」

 

【サモン!】

【Jubilation!】

 

【スプラッシャーーーー…ウンディーーネッ!!】

【Celebrate! Today is Night's birthday.】

 

「いくぞッ……!」

 

 仮面ライダーへと変身した二人は同時に駆け出し、ウィップの心臓部目掛けストレートパンチを放つ。が、何れの拳打もウィップの背部から伸びる黒き細腕に阻まれてしまった。残る三対の細腕と一対の剛腕が、二ライダーを襲う。

 

「かっ……!」

「ぐっ……!」

 

 地面に受け身を取って起き上がり、何とかウィップと視線を合わせる。

 ウィップを攻略するのなら、最大の特徴である五対もの腕への対処が必須だ。あの腕の全てが稼働している限り、人数差は無いも同然。

 

 敵の『武器』を潰すため、エルフは狙いを腕に切り替えて再び飛び掛かる。

 

「はあっ!」

 

「甘いッ!」

「……そっちがね!」

「何ッ……!?」

 

 自身の攻撃がウィップに受け止められると同時に、エルフは水色の液体のようなものをウィップの背後へと飛ばす。地面に着弾すると、それはエルフの姿へと変化してガラ空きになっているウィップの背中に飛び蹴りを放った。

 

「チッ……!」

 

「今っ!」

 

 これを奇貨としてエルフは飛び上がり、鋭い針のように変化させた自身の右腕をウィップもろとも地面に突き刺す。奥で待機していたクリーチャに目配せをしつつ、大声で叫んだ。

 

「京太郎! 今のうちにとどめ刺してッ!」

「あいよっ!」

 

【The kill time!】

【Dead end.】

 

「はあああああっっ!」

 

 クリーチャの身体からドス黒いオーラが現れ、獣の頭部のような形状に変化してウィップに襲いかかる。エルフの方もまた分身を生成し、共にウィップを突き刺す。もう少しでクリーチャの攻撃が届くというところで、エルフの本体は分身にウィップを任せて飛び退いた。悲鳴すら聞こえるような一撃が、ウィップをエルフの分身ごと喰らう。

 

「チッ……!」

 

 四対の細腕でクリーチャの一撃を裂き、ウィップは辛くも危機を脱することに成功した。しかし、その隙を見逃さなかったエルフの飛び蹴りを受けてウィップは片膝を着いてしまう。

 

「……腕を上げたな、ビオラ・ヒアラルク」

 

「そりゃあね。アンタみたいなクソ野郎に勝つために、私は力を手に入れたんだから」

 

「そうか。だが……我に勝つためには、まだもう少し力が必要なようだな」

 

 静かに立ち上がると、ウィップはこの世のものとは思えないほど歪なオーラを放った。その気迫に気圧され、エルフは後ろに下がったものの一瞬でウィップに追いつかれてしまい、鳩尾に強烈な正拳突きを貰ってしまう。

 

「かはっ…………!?」

 

「ビオラッ!」

 

 地面に着いた途端にエルフの変身は解除され、破れた服の一部から素肌が覗ける状態でビオラが転がる。慌ててビオラの元へ向かうクリーチャだが、ウィップがそれを許すはずはなかった。

 

「おいビオラっ! しっかりしろっ!」

 

「よそ見などしている場合か?」

 

「んなっ……!?」

 

 すぐそこまで迫って来ていたウィップに気付かなかったのか、無防備な心臓部に攻撃を喰らってビオラ同様大きく吹き飛ばされてしまう。変身も解け、ビオラ共々追い詰められてしまった。しかし、ビオラは諦めていなかった。こんな状況でも絶望の色を見せず、代わりに威圧的な視線を向けるビオラの瞳が、余計にウィップを憤慨させる。

 

 ……が、ビオラを仕留めるには体力を消耗しすぎた。自身の身体から力が抜けていくのを感じながら、ウィップは片膝を突く。

 

「……! チッ、もう少しの所で……!」

 

「ははっ……そりゃあ、あんな馬鹿みたいな力使っといて何もないはずはないよね。でも……これで……」

 

「チェックメイト」

 

 どこか冷え切ったような笑顔を浮かべ、ビオラはウィップの前に立った。ほんの少しだけ扇情的になった衣装が風に揺れ、更なる情欲を掻き立てる。

 

 サラマンダーオーブを取り出して最速で変身したビオラは、右腕にありったけの力を込めた。自身すら燃やし尽くすような熱量に達してから、その拳を力の限り振り下ろす。

 

 それを、ウィップはすんでの所で躱してみせた。ウィップではなく地面に叩きつけられたエルフの拳が、地面を深く抉る。

 

「……悪いが、そう簡単には当たってやれない。……次こそ、貴様の息の根を止めてやる」

 

 エルフを指差して宣言し、ウィップは天高くへと飛び去っていった。とどめを刺せなかった事に舌打ちするエルフではあったが、かなり消耗していたのも事実。一旦変身を解除してから、ビオラは京太郎をエルフの里へ連れて帰っていった。

 

 

 

 

「……ま、こんなもんかな。一応治癒魔法をかけておいたとはいえ、あんまり無理をされるとアレだから、さっきみたいなのは程々にね? いざとなったら、私見捨てて逃げていいから」

 

「……こうして迷惑かけちまうのは悪いとは思ってるけど、俺にはお前を見捨てるだなんて真似できねぇよ」

 

「……そっか」

 

 以前にも使用したことがある、古びた廃墟。家具の大半が無残に破壊されている上、窓を覆うカーテンも穴だらけで役目をまるで果たしていない。ボロボロに崩れ去った天井からは、まだ高い太陽の光が射している。

 ビオラの治癒魔法によって、二人は戦闘前とほぼ変わらない所まで回復を終えていた。が、二人の間には穏やかとは少し言いづらい微妙な空気が流れている。

 

 先程まで怪我を負っていた部分を見つめながら、京太郎はビオラの家族について勘案していた。

 何度来ても慣れることのできない、廃れた里。もう復興が見込めないほど数を減らした住人達。惨憺たる光景は相変わらずだが、これに慣れろというのは無理がある。それは、残されたエルフ達も同じはずだ。

 

 幾度となく見てきた、ビオラのアクサー達に対する憤怒と厭悪。一日も経たず家族を失った悲哀の残滓が、まだ心に残っているのだろう。時折見せる少女らしい表情が、それを物語っている。

 人間に裏切られなければ、恐らくビオラはもっと天真爛漫な少女になっていたはずだ。家族の暖かさに包まれて、他のエルフ達と交流したりもして。そして、平穏な日々を慎ましやかに送るはずだったのだろう。

 

「……どうかしたの?」

 

「いんや。ちょっと、ビオラの家族について考えてただけだ」

 

「私の……家族……」

 

「そういえばあんまり聞いてなかったなーって思ってさ。……気を悪くしたのなら、ごめんな?」

 

「……ううん、大丈夫。……話しておく、べきかな」

 

 諦めたような表情で正座し、ビオラはかつての団欒に想いを馳せながら話を始めた。

 

 

「どこかでポロッと話したりしてたかもだけど、私の家は五人家族だったんだ。お父さんとお母さん、私……それから、お姉ちゃんと、妹のライラ」

 

「……どんな子だったんだ?」

 

「お姉ちゃんは、すっごく優しかった。私がしきりに抱きついても怒ったりしなかったし、なんていうか……すごく、のんびりしてた。ライラは元気いっぱいな子で、しょっちゅう里を走り回って遊んでた。私もよく引きずられてたよ」

 

「お父さんは……遠くから家族みんなを見守っててくれてるような感じだったかな。あんまり勇気が無かったから『一緒に遊んで』ってずっと言えなかったけど……やっぱり勇気を出してたら良かったなあって、後悔してる。お母さんは料理がうまくって、色んなのを作ってくれてたけど……時々、何が入ってるんだろうこれっていうような変なのを作ったりもしてた。ま、私達エルフはそんなにお腹が空いたりするような種族じゃないんだけどね」

 

 懐かしい思い出の想起に、ビオラは饒舌にならずにはいられなかった。暖かい幸福感が、全身を駆け巡る。その感覚に、自然と表情も(ほころ)んだ。

 

「……(あった)けぇ家族じゃねぇか」

 

「……うん」

 

「そんだけ暖けぇ家族だったんなら、きっと『ビオラにはまだ()()()には来てほしくない』って思ってるはずだ」

 

「……えっ?」

 

「早く死んでほしくねぇって意味な。で、それは俺も同じだ。俺は、お前に死んでほしくない」

 

「京太郎……」

 

「だから、『私を見捨てて』だなんて二度と言うな。分かったな?」

 

 ビオラは一瞬驚いたような表情を見せたが、それはすぐに安堵の色へと変わった。家族との思い出とは別の幸福感、あるいは安心感とも言える感情が、また全身を駆け巡る。まるで、荒廃した里を明るく照らす太陽のような幸福感だった。

 身体を暖め続ける感情を噛み締めながら、ビオラは静かに京太郎の手を握った。そして、安心させるような声音で語り掛ける。

 

「……うん、もう絶対言わない。でも、多少の無茶くらいはさせてね? 私だって京太郎には死んでほしくないし」

 

「駄目だ。ンなことさせられるか」

 

〔……一応聞いておくが、私の存在を忘れたわけではあるまいな? 京太郎(お前)が死ねば、依代を失った私も実質的な死を迎えるのだからな?〕

 

「おっと……そういやアルテン(お前)のこと忘れてたわ。スマソ」

 

〔貴様……。まあいい。積もる話も済んだことだろう、そろそろ()への対策を始めよう〕

 

「奴? っていうと……」

 

「ウィップのことでしょ? それなら、手がないこともないよ」

 

 落ち着いた様子でビオラが答える。先程までの安堵の色が少し残った表情で、静かに京太郎を見据えた。

 

「……マジ? いつの間にそんなのを……」

 

「でも、成功するか分からない。というより、失敗する確率の方が高いと思う。でも、やってみる価値はあると思う」

 

〔して、その手というのは?〕

 

「…………この里が出来た時から、ずっと里を守り続けてきた神獣……」

 

 

 

「『バハムート』に力を貸してもらえないか、頼んでみる」




皆さん褒めてください!() 四ヶ月も更新してなかったくせに、今回五千字とちょっとしかありません!(泣)

……改めて、大変申し訳ありませんでした。更新が遅れた理由は主に二つでございます。

一つ目の理由は、仮面ライダーエルフとは別の新しい小説の投稿を始めたからです。そっちを書くのが楽しくて、長らくエルフを放置してしまいました……。

そしてもう一つは……『Apex Legends』というFPSにどハマりしたからです。最近(ほぼ一ヶ月前)Nintendo Switch版がリリースされて、それをずっとやってました。ちなランクはゴールドIII、大体オクタンかクリプトで遊んでます。

またすごく期間が空きそうな予感がしますが、完結させる気ではいるのでどうか最後までお付き合い頂ければなと思っております。

では、また(いつ更新されるか分からない)次回。

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