仮面ライダーエルフ   作:青ずきん

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投稿が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした(泣)
言い訳はあとがきでします。


第24話 Re:vengeーその腕に告ぐ

「バハムート……」

 

「そう、バハムート」

 

「……なんかお菓子みてぇな名前してんな」

 

「そんなお菓子感ある?」

 

 バハムート。根底の部分から世界を支えている巨大魚の名だ。バハムートの上には牛がおり、背中にルビーの山を持つという。その上に住まう天使が宇宙を支え、そしてこの地球があると云われている。

 かのイエス=キリストもバハムートの姿を見たことがあるというが、あまりの巨大さに昏倒してしまったらしい。

 

「正直僕もお菓子感ある名前だと思うよ」

 

「おぉ、ウィルじゃねえか。いつの間に」

 

「……あれ、珍しい。驚いたりとかしないんだね」

 

 気付くと、すぐそばで白い火の玉が宙を揺蕩(たゆた)っていた。ゆらゆらと揺れながらビオラと京太郎の周囲を旋回しつつ、話を進める。

 

「……ま、慣れたってことなんだろうね。それよりも……バハムートの手を借りる事態にまで発展するとはね。始めはサララ達の力だけで十分かなって思ってたけど、向こうだってただ手をこまねいてた訳じゃないってことだ」

 

「ああ……アクサーのストックがあとどんだけあるかは知らねえが、そろそろ幹部の一人や二人は潰さねぇとマズい。だが……そのバハムートとやらは、実際どれくらいの実力があるんだ?」

 

「バハムートは、この世界を文字通り支えている巨大な生物。その力を乱暴に使えば…………きっと、この辺りのものは跡形もなくなると思う」

 

 寒気のようなものが、京太郎の全身を這う。最悪の未来図が思わず頭を過った。何もかも────ビオラすらも、その力に溺れて消え去る未来図だ。あの荒れ果てたエルフの里を連想させるような、この世の地獄。

 アルテンではない、もう一人の自分の声が警告する。ビオラにその力を使わせてはならない。後悔したくなければ、それ以上足を踏み入れるな、と。何度も何度も、頭の中で警告が反芻する。

 

 ふとビオラが京太郎の顔を覗くと、幾つもの感情を孕んだような表情があった。どこか青ざめたような、形容し難い怒りに囚われているような……おどろおどろしい顔だ。

 自身の言葉で、京太郎を不安にさせてしまっただろうか。眼前の京太郎の辛そうな表情に耐えられなかったビオラは、慌てて言葉を紡いだ。

 

「……でも、それは乱暴に使った時の話。ちゃんと使えば、多分大丈夫だから。ほら、あの……人間の、アレ……なんだっけ。人間たちが使ってる、あの……アレみたいな感じで……」

 

「……なんだよ、アレって。見た目は俺より若いのに、まさかもうボケたのか?」

 

「ボケてない! 思い出せないだけ! っていうか、名前が分かんない!」

 

「はは、じゃあどのみち駄目じゃねぇか」

 

 既に200歳を超えているビオラだが、エルフとしてはまだまだ子供もいいところだ。からかわれた悔しさはあるが、京太郎に笑顔が戻ったことに一先ず安堵した。

 しかし、バハムートの力の危険性が薄らいだ訳ではない。それに、そもそもとしてそのバハムートの力を手にすることができるのかどうかさえ怪しい。なにしろ、相手は世界の全てを支える存在だ。一介のエルフに協力してくれるとも、その力を使いこなせるとも、とてもではないが想像し辛い。

 

「……でも、やっぱり不安なんだ」

 

「不安って、何がだ?」

 

「バハムートは、最後の頼みの綱ではあるけど……私達に力を貸してくれるかどうかは全く分からない。最悪───」

 

「……お前って、そんな弱気な奴だったか?」

 

「……えっ?」

 

 蹴っ飛ばすような京太郎の言葉が、下がっていったビオラの顔を一気に上げる。呆れるような顔と声で軽く威圧しながら、続けざまに言葉を並べる。

 

「最初にお前と出会った時、胸ぐら掴みながら「消えろ」とか言ってきたのは誰だ? 家族の、里の奴らの為に何度でも立ち上がってアクサーに向かっていったのは誰だ? 誰よりも家族を愛していて、周りの奴らに優しくて、「いざとなったら自分を見捨てろ」とか言い出す馬鹿は誰だ? 全部お前だろ? いつでも真っ直ぐ生きてて、誰かの為になるならどこまでも頑張れる、それがお前だろ? 「本当はそんなんじゃない」なんて言われちゃおしまいだが、少なくとも俺の目に映るお前はそうなんだよ」

 

「……京太郎」

 

「なのになんだ? 「力を貸してもらえるか分からないから不安」? 馬鹿も休み休み言えよ。アクサーどもは人間の世界にだって手を出してるんだ。お前がやらなきゃ誰がやる? 俺か? それともあの犬童託斗(マッドサイエンティスト)か? …………お前しかいねぇだろ。家族との因縁に決着つけられんのは、お前しかいねぇんだよ」

 

「……ふふっ。またお説教されちゃった。……そうだよね。こんなとこでへこたれちゃ、ダメだよね。ありがと、京太郎。元気出た」

 

「……そうかい。そりゃ良かった」

 

 京太郎の言葉が、次々と刺さってくる感覚がした。同時に、心の中の淀みが澄んだような感覚も憶えた。それらの感覚が、ビオラを再起させた。活力を取り戻して笑顔で『バハムート』の元へと向かおうとするその姿は、どこか前のビオラに似ている。

 だが、一つだけ前と異なる点がある。

 

 あの時のような怒りと復讐心に身を委ねた行動ではなく、過去の自分に対しケジメをつけるための行動をしている。ほんの数ヶ月しかビオラと過ごしていない京太郎だったが、ビオラの背中を見守る姿は完全に両親のそれだった。軽快なステップを踏むビオラに、ただ一言。

 

 変わったな、と。どこか達観したような目で、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

「……ごめん京太郎、なんか駄目っぽい……」

「えぇ……」

 

 エルフの里、その最深部。鬱蒼とした木々はほぼ完全に日光を遮っているため、いつでも薄暗い場所だ。

 元より精霊を始めとした超常的な存在と交流を行ってきたエルフだが、バハムートのような大物と交信を行った回数は数少ない。聡明な種族ではあるが、やはりこの世界の住人であるということだ。

 

「……つーかさ、ちゃんと話してんの? 俺何も聞こえねぇんだけど」

「話……というか、交信? かな。何というか……テレパシーって言った方がいいのかな。こう、直接脳に語りかけてくるような感じで、『駄目だ』って……」

 

 バハムートは、その巨大さ故か言葉を発しない。或いは、特定の言語を持たないのかもしれない。よって、他者との意思疎通はテレパシーのようなもので行う。そしてその結果、ビオラが受信したのは『拒絶』の意思だった。

 心の内で説得を試みるものの、返答はない。

 

「……やっぱり、覚悟決めてやるしかないかな」

「だな。そうと決まったら、さっさと作戦立てよーぜ」

 

 両手を後頭部に回し、僅かな退屈さが感じられる声音で京太郎が声を掛けると、ビオラは慌てるように小走りでその背を追いかけた。

 巨大魚の瞳は、僅かに泳いでいた。

 

 

 

 暫くして、ビオラ達はウィップアクサーが街でがむしゃらに暴れているのを発見した。逃げ惑う人の海を泳ぎ切り、ビオラと京太郎、そしてウィップアクサーが対峙する。

 辺りに散逸している瓦礫と火の海が、ウィップの怒りを表しているようにも見えた。

 

「……待っていたぞ、ビオラ・ヒアラルク。今日こそ決着を付けようではないか」

 

「……望むところ」

 

 余裕そうに仁王立ちしているウィップであったが、先の戦闘で自身を追い詰めたビオラ達に対する厭悪が隠しきれておらず、その声は強い怒気を孕んでいた。

 ビオラはエルフドライバーを呼び出し、腹部に装着した。ビオラと並んで京太郎も変身の構えを取るが、ビオラがそれを制した。自分の因縁は自分で決着をつける。そう言いたげな視線を送って、優しくはにかんだ。

 ビオラは覚悟を決めたようにサラマンダーオーブを徐に取り出し、エルフドライバーの装填口の上でそっと手を離す。

 

【サラマンダー!】

 

【セットアップ!】

 

 神秘的な待機音と共に蜥蜴の姿をした精霊『サララ』がオーブから現れ、ビオラの周囲を一周してからすぐ横についた。自慢の尻尾をビオラの首に巻き付けながら、攻撃的な目つきでウィップを睥睨している。

 

「「……変身」」

 

【サモン!】

 

【燃え盛る炎、その勢いは特急の如く! その炎、万物を溶かし尽くす!】

【フレイアーーーー……サァラマンダーー!!】

 

 少し高めの声が静謐な空間に消えていく。現れたのは、蜥蜴の姿を模した真っ赤な戦士。情熱的な愛と燃え盛るような怨嗟の炎が身体に纏わりつき、長い尾を引きながら空に吸われる。

 戦闘の準備が済んだと見做したウィップアクサーがゆっくりと脚を前に出す。一呼吸置いて仮面ライダーエルフもそれに続く。

 

「さあ……叡智の先を見せてあげる」

 

「……期待しないでおこう」

 

 ほんの数秒言葉を交わしてから、それぞれの拳がぶつかり合う音を響かせた。計五対の腕がエルフの元に迫るが、エルフはそれを両手で難なく捌きながら蹴りを入れる。ウィップはこれに対抗すべくエルフを包み込むように腕を伸ばしたが、エルフはこれも巨大化させた尻尾を振るうことで払い除けた。

 

「……予想以上だな。我の想像よりも目覚ましい成長だ……」

 

「勝手に言ってなさい。今にそんな軽口叩けないように────」

 

「だがまだ甘い」

 

 ウィップの背中から生える剛腕が、エルフの腹部を強く捉えた。何枚も壁をぶち抜きながら近くの建物まで吹き飛ばし、両膝をつかせる。一方のウィップは瓦礫の山を左右に寄せつつ悠々と歩き、腹部を押さえながら蹲るエルフの元へと赴く。

 

「ビオラッ!」

 

 京太郎の叫びにも反応出来ないほど強い衝撃が、エルフの全身を駆け巡る。仇敵たるウィップアクサーが目前まで迫っても痛みが引くことはなく、更なる追撃を許した。

 

「あっ…………くぅ……」

 

「エルフと言えど所詮は女。脆く、儚く、そして……弱い」

 

 エルフの頭部を煩雑に掴み上げ、その顔面に膝蹴りをかます。既に声を上げる気力すら失ったエルフは静かに装甲を霧散させ、その場に崩れ落ちた。

 虫の息となったビオラに反撃の意思は一切感じられず、ただウィップの容赦ない暴行を享受していた。何とか止めようと京太郎が変身しながら近付くものの、ウィップは腕一本で跳ね飛ばす。

 

 瓦礫と炎が辺りを包む市街地。そこに居たのは、一対の剛腕と四対の細腕からなるウデムシの怪物、自身の力不足を嘆く怪物にも似た戦士、そして夥しい量の血を流しながら必死に息をつなぐ少女だけだ。

 頭、腕、足。あらゆる部位に傷が見られ、血が流れていた。怪物は少女から反撃の───ともすれば戦闘の意思すら感じなくなり、どこか冷めたような感情の中少女を捨てるように放った。

 

「さあ、次は貴様の番だ。幽冥(かくりよ)でこの女と───」

 

 そこまで言いかけて、ウィップは言葉を紡ぐのをやめた。理由は一つ。変身した京太郎へと進む歩みを妨げる者がいたからだ。蚊の鳴くような声で、少女は呟く。

 

「……京太郎、には…………手出し、させない……」

 

「……まだ生きていたか。その腕を離せ。さもなくば貴様を殺す」

 

「もう…………誰も……殺させない……京太郎は…………みんなは、私が守るッ!」

 

 全身の骨が軋むような感覚を黙らせながら立ち上がり、ビオラはその拳をウィップの顏目掛けて繰り出した。流していた血を付着させると共に、ウィップの驚嘆を誘う。

 生身の攻撃であるにも関わらず、その一撃は確かにウィップの核の部分にまで届いていた。額から流れる血が顔の殆どを濡らしていたからか、恐怖すらも感じさせるような様相も醸し出している。

 

 その時だった。突如として、ビオラの目の前にラベンダー色に輝く宝玉が現れた。それに込められた意思が、ビオラの脳裏に直接語りかけてくる。

 

「……これって……」

 

『………………』

 

「私に……力を?」

 

『………………』

 

「……ありがとうございます」

 

 左手で顏の血を拭い、宝玉を突き出す。

 大地が震える。木々が揺れる。鳥が羽ばたく。この地球が、宇宙そのものが共鳴している。

 

【バハムート!】

 

【セットアップ!】

 

「変身!」

 

【カモン!】

 

【震撼せよ! 偉大なる世界の守護者をその身に宿し、悪を打ち砕け!】

 

【ヒーローーーー……バハムーートッ!】

 

 少し透けている巨大な魚のような生物がビオラに覆い被さり、その姿をより美しく変えた。

 

 仮面ライダーエルフ バハムートスレイヴ。

 

 薄紫色に輝く、儚げで神秘的な守護者(ヒーロー)が舞い降りた。右眼、耳元、腰回りなどは魚のヒレのような意匠で、鱗に似た模様の全身の装甲が日の光を浴びて輝いている。

 鳥の羽根のように吹雪く鱗が心地よい音を立てながら転がり、再び戦いの火蓋を切って落とした。

 

「……さ、もう一回。叡智の先を見せてあげるッ!」

 

「……戯れ言をッ!」

 

 勢いと感情に任せてウィップアクサーが突撃する。対するエルフの方はというと、全く動く気配を見せない。

 あと数十センチでウィップの拳が届くというところで、漸くエルフが動いた。しかし、それは僅かばかりのこと。まるで蚊を払うような、攻撃にしては軽すぎる挙動。だが、エルフにとってはそれで十分だった。

 

「ぬぅっ!?」

 

 突風か何かに吹き飛ばされたような感覚だった。或いは、()()()()()()()()()()のかもしれない。何れにせよ、エルフの攻撃はウィップに多大な恐怖を与えた。

 

「……」

 

「……貴様ァッ!」

 

 強がりか否か、ウィップは激昂したまま再び腕を無造作に振るう。しかしそのどれもがエルフには届かず、空を切るばかりだった。

 

 やがて腕を掴まれると、強く地面に叩きつけられた。自身がこれまで見下してきた、ただのエルフの少女に。更なる憤怒の炎を燃やすが、もはや手遅れだった。全身の痛みがウィップの命令を阻害し、地べたを這わせる。

 

「……どう? 少しは甚振られる苦しみと恐怖が理解できた?」

 

「……抜かせェッ!」

 

「……これで終わり」

 

【バハムート!】

 

【カモン! ワールド! スピリチュアル!】

 

「さようなら…………私の、忌々しい記憶」

 

 エルフの掌がウィップアクサーを、世界を、宇宙を包み込む。何もかもを呑み込む魔性の輝きが、万物を包み殺す。

 

 誰も神秘に抗えない。

 

「ぬおおおおおおッッッ!!?」

 

 眼を灼き潰すような光が辺りを包んだ。光が消えた後の世界には、先程までの惨憺たる光景が嘘だったかのような明るい街並みと、完全に戦闘を続ける力を失った哀れなウデムシが残っていた。

 

「……大分前に、散々私を虚仮にしてくれたの、憶えてる? あれ、そっくりそのまま返してあげる。……アンタは強かった。でも、それだけだったのが問題だった」

 

「……アンタの敗因は二つ。一つは、自分の『()』を過信しすぎたこと。もう一つは……」

 

 

「……『守りたい』って思える誰かが、傍に居なかったこと」

 

巫山戯(ふざけ)るなァッ! 我が貴様のような小娘に敗れるなどあってはならない! 図に乗るなァッ……!」

 

「……」

 

「認めぬッ! 認めぬぞォッ! 認めてッ……たまるかあああああああァァァァァッッッッ!!!」

 

 攻撃的な咆哮の途中で、遂にウィップアクサーは爆ぜ散った。酷く醜い怨恨の残響は、まだ街に響いたままだ。

 

 

「は……はは…………お父さん……お母さん……お姉ちゃん……ライラ……みんな……ちゃんと見てくれた? 私……みんなの仇、とったよ……!」

 

 憑き物が落ちたように変身が解けると、ビオラはそのまま真正面に倒れ込んだ。強く衝突するかと思われたが、地面に触れる寸前で京太郎がその身を抱きかかえる。ひどく安堵したビオラの顏に一縷の心配を憶えつつも、京太郎は戦いの終焉が連れてきた一時の平和に甘んじることにした。

 

 その周囲には、ビオラを労るような顔つきをしている父と母と姉、そして妹の姿がうっすらと映っていた。




改めまして、およそ四ヶ月半もお待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
理由としましては、最近リアルの方が忙しくなってきたのと、一ヶ月ぐらい前にリリースされた「東方ダンマクカグラ」というゲームに興じていたからです。
ゲームにかまけて投稿が異常なまでに遅くなっていること、大変申し訳なく思います。絶対また期間が空くと思いますが、これだけは言わせていただきます。

どれだけ時間が経とうとも、死なない限りは絶対にエタりません! 必ず完結させます!

どうか今後とも、仮面ライダーエルフをよろしくお願いします。



仮面ライダーエルフ 最終話まで───

────残り5話
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