「こいつが……この組織の────待って、『異種族殲滅組織』? それってどういうこと?」
無機質な金属に囲まれた部屋に、自らの中に生じた疑問を問う仮面ライダーエルフの声が響く。神妙な面持ちを崩さない犬童と、不敵な笑みを浮かべるNAHMUの長・
張り詰められた空気を崩したのは鉄だった。
「いやだなあ、人聞きの悪い。『人類全力守護組織』と言っておくれよ」
「……何そのクソダサい名前」
「失礼な子だなあ、全く」
「……表向きは、人々の生活を豊かにする事を謳う工場です。しかしその実態は、人間に害を及ぼす生命種全てを排斥しようとし、そのための手段を選ばない組織です。……少し前までは、僕もそれが人類のためになるのだと信じていました」
「……エルフ達の侵略を恐れて開発された『アクサー』ですが、能力次第ではエルフの脅威を感じなくなった後でも研究が続けられる予定でした。エルフ以外の、様々な『異端』を排斥することを目的として……」
いつになく重い口調の犬童が、目の前の主だった人物を
「人類が存続するためには必要だよ? 声の小さな
犬童の発言に臆することもなく、鉄はひらひらと手を振りながら答えてみせた。その様子に激昂したエルフが、一歩ずつ鉄に近付きながら言葉を発する。
「……何が『人類が存続するために必要』よ。アンタらの中には、手を取り合って共に生きていくって考えは無いわけ!?」
「……それ、人間に復讐しようと奔走していた君が言えることなのかい?」
「『木を見て森を見ず』。確か、そんな感じの言葉だった。ほんの一部分に囚われて、全体を見ていないっていう意味。昔の私は、まさにそれだった。アンタらだけを見て、『人間は最低な奴らだ』って、皆がそうなんだって思って疑わなかった」
「……でも、それは違った。人間の中にもいい人たちがたくさん居て、私に優しく手を差し伸べてくれた。……確かに、人間の中にはアンタらみたいな外道もいる。でも、みんながみんなアンタらみたいなのじゃない。私は、京太郎のお陰でそれを知ることが出来た。だから、人間とも手を取り合っていこうって思えるようになってきた」
「外道って……これでも結構配慮してるんだよ? アクサーの元になった人間には犯罪者しかいないし」
「……は?」
あっけらかんとした様子で言う鉄に、拍子抜けしたような声でエルフが返す。言葉の意味を理解していなさそうなことを悟ったのか、鉄は静かに説明を始めた。
「君は知らないかもしれないけれど、この世で一番人間を殺している生き物は『蚊』なんだ。では二番目は何か? 答えは『人間』だ。といっても、蚊はウイルスを媒介するから結果的に人間が死ぬのであって、殺す気はないと思うんだよね。『殺意をもって人間を殺している生き物』という名目なら、多分人間が一番人間を殺してる」
「何故人を殺してはいけないのか? 法律で罰せられるから? それとも悲しむ家族がいるから? 僕は、どちらも不正解だと思っている。『法律で縛られないのなら殺しても良いのか?』とか、『悲しむ家族がいなければ殺しても良いのか?』という質問を投げ掛ければ、殆どの人はNOと答えるだろう。『倫理』という言葉を持ち出してね」
「法律があろうとなかろうと、悲しむ家族が居ようと居まいと、殺人はしてはいけないこととされる。なら、その二つはあってもなくても変わらないから、殺人をしてはいけない理由たり得ないと思うんだよね」
「……全然話が見えてこない。結局アンタは何が言いたいの?」
「僕の中での殺人が禁止されている理由は『人間という種の繁殖を妨害する行為だから』なんだ。僕ら『NAHMU』の目的は人類に平和を齎すこと。そのためには、人間の生活を脅かす異分子に消えてもらうことが必要だとは思わないかい? なあ、
鉄は追い詰めるような口調と表情でエルフを見やる。どこか憐憫も含有したような声が消える頃、再びドライバーを腰に巻いた犬童が一歩進み出て言葉を発した。
「……そろそろ其処を退いてください。僕らは、貴方の後ろにある装置を破壊しにきたんだ」
「うんうん。で、僕が素直に明け渡すとでも?」
「思っていませんよ。だから、力づくです」
【Transform】
【Authentication.】
「……変身」
ヒューマドライバーに備えられたタッチパネルを操作し、犬童はその姿を変えた。幾つもの文字が現れてはアーマーを形成し、その身を形作っていく。
そうして、犬童託斗の最高傑作『ヒューマドライバー』により、再び仮面ライダーヒューマが顕現した。
変わらない無機質な色合いは制御室と絶妙にマッチしており、表現し難い雰囲気に包まれている。
青くなった双眸で鉄を捉えたその時、鉄は突然腹を抱えて笑い出した。エルフとヒューマが困惑する中、鉄だけがこの状況を楽しんでいた。
「……何がおかしいんです?」
「はははっ……いやね、漸く試せる時が来て楽しくなったんだよ」
「試せる? 何の話よ」
「この部屋にある制御装置は、単にアクサーを生み出すだけの装置じゃないんだよ。この装置は、
「人間としての……意識を……?」
「ああ、そうさ。……例えば、こんな風にね」
制御装置の裏側に付けられた扉から鉄が内部へと入り、やがて耳を
「何、あれ……!」
全長28mにも及ぶその巨体はぶつかる度に壁や天井を破壊し、遂にその暗がりの部屋にも日の光が差し込んだ。しかし外はかなり日が暮れているため、その色は橙に染まってしまっている。
「ああ……美しい。あの装置はもう使えなくなってしまったが、そんなのはもうどうでもいい。漸く、人類に平和が
眼前の巨蝶───メガアクサーから発せられる声はどこか気持ち悪く濁っており、その声を聞かせたものに悪寒を走らせている。
そんなエルフ達を尻目に、メガアクサーは飛翔してどこかへと飛び去っていく。
「ちょっと、待ちなさい!」
慌てて風の精霊・フィルーシュを呼び出してシルフィードスレイヴへと姿を変え、エルフはメガアクサーを猛追する。空を切るような風の斬撃を飛ばすも、メガアクサーは意に介していなかった。
次いでヒューマが地上を同じく猛スピードで駆け、建物を足場にしつつメガアクサーとの距離を詰めるが、高度を上げられたために足止めが厳しくなった。だが、メガアクサーの進行方向には
恐らく、人間に被害を出さず仮面ライダーだけ攻撃するために選んだ場所だろう。エルフとヒューマは感覚でそれを理解すると、それ以上の攻撃をやめて追跡に専念した。
「おいおい、何だよアレ!」
〔仔細は分からんが、恐らく組織の頭領だろう。何やらそんな話を進めていたような気がする〕
仮面ライダークリーチャの変身者・横屋京太郎とその中に巣食う怪物・アルテンがふと見上げた空には、ゆったりと移動するメガアクサーの姿が映っていた。その巨大な影は夜を思わせるほど街を暗転させたが、数秒もするとまた日の光が差し込んで来る。
空の色は橙で、戦い始めた時からかなりの時間が経過していることを知らせている。
「マジかよ……ビオラ達は……」
〔あれではないか?〕
クリーチャが目を向けた先には、メガアクサーの後を追って飛び出していった仮面ライダーエルフと思われる姿があった。
「ビオラっ! マジか、俺も参戦してぇけど、コイツらが……」
それを追いかけようとするも、依然としてクリーチャの前には大量のアクサーが立ちはだかっていた。長時間の戦闘により、その体力はとっくに限界を迎えている。油断すればすぐにでも膝を着きそうな状態だ。
その時、アルテンは思い出したかのように声を上げて、京太郎にある提案を持ち掛けた。
〔……横屋京太郎よ。三秒だ。三秒だけ、お前の身体を私に寄越せ〕
「は? お前何言ってんの?」
〔私がお前の身体を動かし、このアクサーどもを掃討する。そして、急ぎでエルフの娘の加勢に行く〕
「加勢って……じゃあコイツらはどうすんだよ! 今いるコイツら倒しても、まだ湧いてくるかもしんねぇだろ!?」
「そこはご心配なく、アクサーを沸かせていた制御装置は壊れたからもう増援はないよ」
「! 誰だ……?」
京太郎とアルテンの話に割り込んで来たのは、仮面ライダーウィスプへと変身したウィルであった。
「僕だよ、僕。ウィルだ」
「えっ、マジ? えっ、ウィル? 生きててよかったけど……なんか違ぇ……」
「ま、僕のことはどうでもいいんだ。それより、さっきでっかいちょうちょが空を飛んで行くのは見たよね? ビオラが追いかけてたり、あの規模だったり、少なくとも組織の中では文字通り大物のアクサーだと思うんだよね」
「……追いかけるのか?」
「うん。でも、その前に京太郎を助けてからにしようかなって」
〔要らぬ心配だ。私が何とかするから、貴様はさっさと追いついて助けてやれ〕
「まじで? 大丈夫?」
〔問題ない。私が全て片付ける〕
「ちょっ、お前勝手に……」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
呑み込みづらそうに返事をすると、ウィスプはふわりと浮き上がってメガアクサーを追い始めた。
その様子に呆れたように息を吐く京太郎は、痛みに呻く身体を無理矢理起こし、決意を固める。
「……わーった。お前に身体貸してやるよ。けど、無茶すぎる動きすんなよ? 俺マジで死ぬから」
〔合点承知だ〕
京太郎が合意を示す言葉を発して少ししてから、アルテンはその身体の主導権を完全に得た。
クリーチャを取り囲んでいたアクサー達も気配が変わったことを無意識に理解したのか、警戒するように後退りする。しかし、その瞬間既にその場にいたアクサーの三分の一はクリーチャによって砕かれていた。他のアクサーがそのことを理解するよりも速く、クリーチャは残りをあっという間に始末して見せる。
その後すぐに京太郎へと身体の主導権は返されたが、それは同時に強烈な痛みも伴っていた。
「〜ッづあああってめぇ! 無茶な動きすんなっつったよなぁ! バチクソ痛ぇんだけど!!」
〔む、少々やり過ぎたか〕
「少々じゃねぇよ馬鹿! マジでヤベェんだけどこれ!」
〔人間には少しキツいか……まあだが、騒いでいる時間はない。我々も早く応援に向かうぞ〕
「張本人のセリフじゃねぇぇぇ!!」
全身に走る痛みに耐えながらも、クリーチャは足早にメガアクサーらが向かった方へと歩を進めて行く。その道中には、激痛に叫ぶ声がよく響き渡っていた。
「はあっ……なんなのコイツ……硬すぎ……」
山に囲まれている開けた草原で、ビオラこと仮面ライダーエルフとメガアクサーは戦闘を繰り広げていた。
全体的に技の威力が低いため不利と判断したフィルーシュは、水の精霊であるネディンへと交代した。それに伴い、エルフもウンディーネスレイヴへと姿を変えている。
「いいことを教えようか? 『勇気』と『無謀』は違う。努力は身の丈に合うだけするべきだ。因みに、君の
「煩いッ!」
自身の力を否定されたと感じたのか、エルフの攻撃はより一層鋭さを増した。その身体を鋭利な棘へと変化させ、メガアクサーの身体を貫かんとする。しかし、儚げで華奢そうなメガアクサーの身体は意外にも硬く、エルフの攻撃を全くと言っていいほど通していない。
「こんな大事な時に……何で反応しないの……?」
エルフが目をやった懐には、以前手に入れたバハムートオーブがあった。あの最強の力をもってすれば眼前の巨蝶とも楽に戦えるはずなのだが、なぜか天頂のボタンを押しても反応がない。
眠っているのか、或いは力が使われるべき時ではないのか。いずれにせよ、エルフはかなりの苦戦を強いられている。
「余所見をしている場合じゃないと思うなあ」
エルフに一瞬生まれた隙を突き、メガアクサーはその翅振るって大量の鱗粉を撒き散らした。鱗粉は着弾すると同時に爆発し、軽く地面を抉っている。
エルフの元にも幾つか降り注ぐが一人の人物が着弾を防ぐ。
「ビオラさん、大丈夫ですか!?」
「……今回ばかりは助かったわ、犬童」
仮面ライダーヒューマだ。
次いでそこに、仮面ライダーウィスプと仮面ライダークリーチャも駆け付ける。
「セーフか? これ」
〔おおよそそうだろう〕
「ただいま、ビオラ」
「ウィル! 生きててよかった……!」
「ま、僕ぐらいになると死亡フラグ? とやらも何とかなるってことだね」
「うーん……てことは、ビネガーは負けたってことだね。まあいいや」
改めて、四人はメガアクサーへと視線を移す。
エルフは火の精霊・サララを呼び出し、サラマンダースレイヴへと姿を変えた。燃えるような闘志が、エルフの中で再燃する。
最終決戦の準備は、整ったようだ。
「さて、それじゃあ人類の未来を賭けた最後の戦いを始めようか。
───これはその、挨拶代わりだよ」
その言葉が消えるよりも早く、メガアクサーは自身の身体から音速をも超えるような速さで光弾を打ち出した。そして、その光弾は…………仮面ライダーエルフの身体を半分ほど消しとばした。
「ビオラッッ!!」
左半身だけになったエルフは、呆然とその場に立ち尽くしていた。
仮面ライダーエルフ、第27話! 遂にここまできましたね。ラスト2話。
ただ、次回が実質的な最終回となります。次次回は、仮面ライダーWの最終回のような、後日談的な内容となっております。
漸くここまで漕ぎ着けたので、来年の三月までには絶対完走してみせます。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
よいお年を(来年以降読む方のほうが多い筈)
仮面ライダーエルフ 最終話まで───
────残り2話