じゃあ何でこんな名前してるかって?(誰も聞いてない)
この子のモチーフになったクジャクハゴロモという生き物の尻尾みたいな所がワックスって名前らしいんですよね。それが理由です。
こんな感じでマイナーな生き物たちにも興味を持っていただきたい、そんな6話です。
「ナ…!」
ワックスアクサーは予想外の乱入者に困惑した。
同時に、先程までの強者の余裕とでも言うべき傲慢さが消えた。
「ウリュッゼフ…」
自身の不利を悟ったワックスアクサーは、シエラを抱えたまま触手で身を包み、そのまま段々細くなっていって消えた。
「ちょっと! 待ちなさ…!」
倒れ伏したままビオラが叫ぶ。
「待ってビオラっ!」
今度はワックスアクサーの攻撃を防いだ女の子が叫ぶ。淡い黄色のワンピース。限りなく薄い黄緑色をしたショートボブ。紺碧の瞳が、ビオラを優しく見つめている。
「……ごめんね、大声出しちゃって…」
女の子はビオラに近づき、俯きながら呟く。それに続き、俺とティエラちゃんもビオラに駆け寄る。
ビオラは震えながらも立ち上がり、
「大丈夫……それよりも、シエラが…」
と、シエラの心配をするのだった。
「クラ……」
「おかえりでーす」
託斗は、気絶したシエラを抱き抱えたまま戻ってきたワックスアクサーを迎え入れた。
しかし、相変わらずのパソコンとのにらめっこ状態での歓迎のため、あまり愛想がある様には見えない。
「なんだぁお前? 幼女の人質とかロリコンか?」
ビネガーアクサーが顔を近づけて言う。
「…どっちかっていうとエルフ質じゃないですかね?」
「ンなもんどうでもいいんだよ」
軽く一蹴してからビネガーアクサーは床に着く。
その時、託斗達の居る部屋の近くからドアの開く音が響いた。金属の重低音が谺している。
「……悪い子ちゃんが出たみたいだね…」
「あー……脱走した奴かぁ? 終わったな、ご愁傷様だ」
託斗は不敵な笑みを浮かべながら椅子を立つ。それに対し、ビネガーアクサーは棒読みで弔いの言葉を述べる。
施設の廊下。数十メートルほどもある天井にはあまり電灯が取り付けておられず、薄暗い雰囲気が恐怖感を煽る。裸足のまま死に物狂いで逃げてきた為か、コンクリートの床がとても冷たく感じる。だが、そんなことを考えている暇は無い。少しでも足を止めれば、また培養液の中に閉じ込められる。あそこの中に居続けたら、きっと私は
「やあやあ、そんなに焦って何処に行くんです?」
「ひっ!?」
後ろから男の人の声がした。私はビクビクしながら後ろを振り返る。
そこには、私のことを培養液に閉じ込めた男の人と、鋏角類の鋏角の様なものが顔になっているベージュの化け物が居た。背中から、蜘蛛の足?が5対飛び出している。アレが、男の人が言っていた
「う…あ…」
恐怖で後退りすることしか出来ない。逃げなきゃ。するべきことは分かっている。でも、足が動かない。言うことを、聞いてくれない。
遂に私は尻もちをついてしまった。腕を使って必死に距離を取る。
「はあ……手が掛かりますねえ。ま、一人くらい
「…承知致しました、託斗様」
それだけ言って、男の人は去っていった。
化け物が、近づいてくる。
「やだ…やだ…!」
「ごめんなさい! 私、お父さんとお母さんに捨てられて、それで、仕方なくて……!」
「…お前の遺言は聞いていない。ましてや、殺人の動機も」
「…今からお前を殺す。これは……託斗様の命令だ」
結果として、私の命乞いは聞き入れられなかった。
「やだ、やだっ……!」
私は立ち上がって真っ直ぐ走る。その途中で、何か吸盤の様なものが両肩にくっつく。そのまま私は化け物の元へ引き寄せられる。
「うあっ!」
化け物の目の前で吊り上げられ、そして………
「あがっ……あ…………」
化け物──キャメルアクサーの頭部にある鋏角によって、心臓が引き千切られる。キャメルアクサーは、その返り血を全身に浴びた。被験体の女子高生から、鮮血が滝の様に滴っている。
辛うじてまだ動いている心臓と共に、虫の息になっている女子高生を地面に放る。
「ぁ………ぇぁ……」
女子高生の周囲に、じわじわと血の海が形成されていく。
「…そうだった」
「……まだ、声帯が残ってた。」
その一言だけ口にして、キャメルアクサーは触肢で首ごと声帯を
「これで良し…と」
ワンピースが黄色い方の女の子は、手慣れた手つきで手当てを済ませる。
「…良しじゃないけどね」
ビオラが冷たく言い放つ。
「おねえちゃん…おねえちゃん…!」
ティエラが目に涙を浮かべながら呟いている。アクサーが消えてからずっとこれだが、仕方のない事ではあると思う。俺より背低いってのにビオラの奴206歳とか言ってたからな…多分ティエラも俺より長生きしてるんだろう。でも、その分精神の成長が遅いとか、そういうのがある筈だ。
「…それでさ、君は一体…誰なの…?」
黄色いワンピースの子の方を向いて問う。それに対して、女の子は優しい笑顔のまま答える。
「私はフィルーシュ。一応、風の精霊だよ。」
「風の精霊……ってことは、ネディンとかの仲間か」
「うん、そう。これからよろしくね、京太郎」
フィルーシュは満面の笑みでそう言った。
「えっ、名前? 俺いつ名乗ったっけ…」
「ああ、えっとね、京太郎のことは、ちょっと前からビオラに聞いてるんだ。『危険な奴だ』ーって聞いてたからどんな子かなーって思ってたんだけど……凄く良い人そうで良かった。」
穏やかな声でフィルーシュは答える。
「あ、フィルーシュだと長いだろうし、フィルって呼んで良いよ。それよりも、シエラちゃんなんとかしないと…私が遅れちゃったから…!」
「違う、フィルの所為じゃない。私が弱かったから……!」
「いや、そもそも俺がアクサーを連れてきたりしたから…」
「おねえちゃんにあまえてばっかりだったのがいけなかったのかな……」
それぞれが自己嫌悪に陥る重苦しい空間がそこにはあった。全員が自分に責任を感じ、自分を責めるだけの空間が。
「まあまあ、落ち着き給えよ紳士淑女の諸君。自責の念に駆られるのは結構だけど、それで得られるものは無いだろう?」
「……ホントお前何処にでも湧いてくんだな…」
いつの間にかウィルが宙に浮いていた。そのままゆっくり降りてくる。
「ゴキブリみたいな例え方するのやめてくれないかな? これでもこの状況を何とかしに来たんだけど…」
「この状況を…何とか…?」
俺が尋ねると、ウィルは自信満々に答えた。
「要はさ、シエラを取り戻せれば良いんだよね。それなら……まさしくフィルーシュの出番だよ」
「わ、私の!?」
フィルは自身を指差し、動揺した表情を見せた。
「そうだよ。まあ…賭けでもあるけどね」
「…それよりも。一番に解決しなきゃいけないのは、京太郎の服じゃないかな?」
「…え?」
時間が経っていたのとゴタゴタしていたこともあり、俺は自分の服がずぶ濡れなのをすっかり忘れていた。
「やったあ……やりましたよぉ! 遂に完成したっ! あぁ〜…このフォルム! カラーリング! パフォーマンス! 全て完璧だぁ…!」
薄暗い部屋の中、
「はあぁ……早く使いたい、早く使いたい…! くぅ〜……抑えらんないですねぇ、早く使いたいですねぇ…!」
自分達の敵が新たに一人増えたことにビオラ達が気付くのは、まだ先のことであった。
一方その頃、市街の方ではワックスアクサーが暴走を始めていた。…ご丁寧にシエラを連れたまま。理由は勿論、エルフと再び対峙した際に盾として利用する為だ。
得体の知れない怪人に騒ぐ民間人のうなじに口吻を突き刺し、エネルギーを吸い取っていく。
4、5人程から吸い上げ、次の標的を探し始めたその時。
「…ね? 一緒だったでしょ?」
ビオラに語りかけるウィルの姿がワックスアクサーの目に入った。『計画』の要となる、フィルの姿も。
ビオラは腹部に発生させた青白い炎からエルフドライバーを顕現させ、ワックスアクサーと対峙する。
「さあ、僕らにボコボコにされてもらうよ。ま、主にするのはビオラなんだけどね。」
などとウィルが軽口を叩いている間に、既にビオラは変身の準備を終えていた。
「…変身」
ベルト左側のレバーを倒す。
【サモン! フレイアーーーー…サァラマンダー!】
「…今回は作戦があるからね。敢えてまだ言わない」
いつもの決め台詞を決めないまま、エルフはワックスアクサーに突撃して行く。
炎を右腕に纏わせ、ワックスアクサーの胸部目がけて殴りかかる。
自分にはいつでも盾にできる存在が手中にあるという慢心から、ワックスアクサーは攻撃をもろに受けてしまった。
「ジィラ…!」
「うぐうっ!」
ワックスアクサーはすぐさまシエラを捕らえていた触手を手繰り寄せ、エルフの前に引き出した。
が、エルフは逆にこれを待っていたかの様に叫んだ。
「引っ掛かってくれてどうもありがとね!!」
そう叫ぶエルフの左手には、フィルーシュが姿を変えたオーブが握られている。
【シルフィード!】
【セットアップ!】
「変身!」
【サモン!】
オーブから飛び出してきたフィルはエルフの周囲を一周し、エルフの左側に鎮座した。
「いくよ、フィル」
「呼んだ?」
「あんたじゃない…」
右からウィルがしゃしゃり出てきた。確かに名前似てるけど…
「フィル、力を貸して」
「うん、頑張ろうね」
今度はちゃんとフィルが反応した。そのままフィルがとり憑く。直後、巨大な風がエルフの周囲に吹き荒れる。
【刹那の突風、淡き恋心と共に漸増していく! この嵐、いざ赤口に轟かせ!】
【ブラスターーーー…シルフィーードッ!!】
風が止んだと同時に、仮面ライダーエルフ シルフィードスレイヴは姿を現した。
全身を纏う風の様な装甲が特徴的だ。
と思いきや、エルフの周囲に突風が発生した。ほんの一瞬エルフの周囲を周って、エルフと共に消えた。
「消えた…?」
京太郎が呆気にとられていると、エルフはワックスアクサーの目の前で姿を現し、シエラを捕らえていた触手を風の刃で断ち切った。
「わわっ!」
落下しそうになるシエラをお姫様抱っこの体勢で受け止め、物凄い勢いでバックして来た。
「ほら、早く逃げて」
エルフはシエラを逃してから再びワックスアクサーに向き直り、目にも止まらぬ速さで前方を駆け抜け、すれ違いざまにワックスアクサーを斬りつける。
「ギュ…!」
首だけ後ろを振り返ると、すぐに消えた。
いや、眼に見えない程の速さで移動しているのだ。エルフは何度もすれ違いざまにワックスアクサーを斬りつける。8回ぐらい斬りつけてから、背を向けたままワックスアクサーの目の前で動きを止めた。
ベルト右側の太いレバーが下ろされる。
【カモン! ブリーズ! スピリチュアル!】
「これでトドメ!」
エルフはそう叫んでからジャンプし、後ろに振り返りながら回し蹴りを喰らわせる。
「ンギャラァッ!」
エルフが着地してから、少し後でワックスアクサーは爆発した。
これで、町を脅やかす存在がまた一体消え去った。
「があああああああああっっ!!!!」
薄暗い施設の一室、完全な防音が施されたその実験室では、一人の女性の絶叫が反響している。巨大な試験管の様にも見える容器を満たす培養液の中に囚われている女性は、おおよそ正常な判断が不可能な状態にまで追い詰められていた。
「順調そうですね」
後ろ手を組んだまま、託斗が女性を見上げて声を発する。
「大丈夫。何も心配する必要はありませんよ。寧ろ喜んで欲しいですね。貴女は第二の新たな人生を手に入れられたんですよ?」
「……ボーンアクサーとしての、ね。」
怪しく嗤う託斗の右手には、まだ生きているカサホネツノゼミが素手で握られていた。
6話ですよ。
次のエピソードで四大精霊の最後の一体、土の精霊が登場しますが、個人的に精霊の中ではフィルが一番好きです。
今回のエピソードを執筆するにあたり、新たなタグとして「Rー15」と「残酷な描写」を付け加えました。折角付けたので、これからもっとヤバめな描写していこうと思います。