ゴブリンスレイヤーRTA忍殺√   作:噛み猫

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ゲージが赤くなっているのに漏らしそうになったので初投稿です。たまげたなあ

ルルブ読んだら小癒で骨折が治ったり、障壁じゃなくて聖壁だったりと、ガバさ加減に落ち込むこともあるけれど、私はノンケです。(突然の告白)

ルルブはいいゾ~これ。(MUR)




取り繕おうにも大体もう駄目になっている話(裏)

【受付嬢side】

 

 やっと新規登録の冒険者志望を捌き切って、一人紅茶を嗜んでいた麗らかな春の午後。

 急にギルドの扉から入ってきたのは血生臭さと埃臭さ。

 慣れたくもないその臭いは、まさに生死を賭けた戦闘によるもの。

 つまり誰かが怪我ないし、亡くなった時の臭いです。

 

 思わず身を固くして臭いの元を辿ると、今朝方見送った白磁の一党(5人パーティー)とゴブリンスレイヤーさんでした。

 一目見るに、MIA(ロスト)KIA(死亡)した人はいない様です。思わずほっと胸を撫で下ろします。

 

 といっても白磁の方々はほぼ半壊といった感じで、青年剣士さんは狼人さんに背負われていましたが。

 命に別状ないものの、胸の骨が幾つも折れている状態は流石に軽傷とは言えず、未だ意識が戻っていません。

 

 地母神殿に奇跡の行使を願える程の蓄財があるわけもなく、青年剣士さんはそのままギルド二階の宿屋へ運び込み、酷く憔悴している女武道家さんは頑なに付き添おうとします。

 こういう時はしたい様にさせるのが一番です。

 


 

 残りは血と埃に塗れた体と装備をぼろきれで拭って簡単ながら身だしなみを整えたら、依頼結果の報告(アフタープレイ)です。

 といっても今回はゴブリンスレイヤーさんの結果報告(インタビュー)との齟齬が無いかの確認だけですが。

 

 皆意気消沈としているかと思いきや、監督官さんお気に入りの、変なしゃべり方をする狼人さんだけはえらくハキハキと冒険の結果(リザルト)を報告するのに、少し違和感を感じます。

 

 普通最初の冒険(クエスト)の時の報告など、上位悪魔(グレーターデーモン)の様な下位悪魔(レッサーデーモン)がいてそれを自分たちがどうやって倒したかというものか、あるいはドラゴンもかくやと言った大蛇(パイソン)のせいで逃げざるを得なかったという、話半分どころか7割引きにしなければならないか、そもそも戻ってくる事も出来ないかの何れかです。

 しかし偶には事実を的確に伝えられる冒険者もおり、大概はそういう冒険者は大成する事が多いとも聞きます。

 

 それでも銀等級であるゴブリンスレイヤーさんと、初めて冒険したばかりの白磁の報告に全く誤差が無いのは聊か不気味ささえ感じます。

 なぜ【看破(センス・ライ)】の使い手である彼女が不信感を持たないのでしょう? 

 人の薄暗い側面を見る事が多いあの人が、何故好印象を持つのかが分かりませんでした。

 

 ゴブリンスレイヤーさんから荒紐を括り付けた水薬(ポーション)の瓶を貸りて、上に下にして目を凝らしてその細工を眺め、落としそうになって慌てている様は若人らしく微笑ましいはずなのですが。

 


 

 多少は気にかかりつつも、報酬の銀貨20枚──1人たったの4枚──をカウンターに載せながら心を鬼にします。

 お説教が好きな人はいないでしょうが、聞けることの有難さを噛み締めて貰わないと、次に生きて帰れる保証はありませんから。

 

 ふむ? 女神官さんは……もう大丈夫そうですね。

 生来が臆病なのは冒険者として大きな長所(メリット)ですから、後は誰か良い方(上位等級)と組めば、伸びていくでしょう。

 女魔術師さんはと、まだ理解できるほど心が落ち着いていないみたいですね。

 気の強そうな方でしたからその自尊心(プライド)に罅が入っているのでしょう。

 何か心の拠り所でもあれば良いのですが……。

 狼人さん改め疾走忍者さんは、ん──? 頭を下げ、耳を寝かせてシュンとした恰好をしてはいますが、尻尾はパタパタと大きく振っています。これは確実に反省なんかしていませんね。

 次の冒険(クエスト)の事でも考えているのでしょうか? ちょっと延長しましょう。

 

 旅馴れた様子やそれなりに教養のありそうな佇まいにも関わらず、孤児という出自な事から、恐らく理不尽な死というものに直面した事も幾度かはあるでしょう。

 その様な人は臆病と言って良いほど慎重になるか、危険なほど大胆になるかの二択です。

 ですので、どちらにしてもこの様な事があった後は、自身の思いが揺らぎ、変に暴力的に反発することも考えられます。

 それすらなく、先の事しか考えない彼は明らかにおかしいです。

 

 ただそれに気づいたのは、お花摘みから戻ってきた時に目に留まった、冒険受注表(クエストオーダーボード)に同僚の字で書かれた受注記録。

 詳しく聞けば、まだ欝屈としていた女魔術師さんを連れて下水路に潜ったそうです。

 

 あまりの事に眩暈がするようでした。

 

 

【女魔術師side】

 

 この辺境にすら名を知られている都の賢者の学院、その中でも指折りの成績で卒業した私は、まさにその行く末を宿望される存在のはず。

 本当なら都のギルドでも下にも置かれぬ、宮廷魔術師への道さえ可能性があった私と弟の未来が陰ったのは、何もかにもあの(父親)のせい。

 

 良いところの郷紳(ジェントリ)の娘だった母を捨て、年若いて端女(メイド)と逃げたのは私が10歳(とお)の頃。

 それ以降母は心を病んでしまい、間も無く夭折。残った遺産は私と弟の入学金と授業料で費えた。

 

 偶々魔法の素養があった母が、在りし日に私と弟に教えてくれた【点火(インフラマエ)】だけが私の心の拠り所だった。

 其れを護るために必死になって勉強した。

 

 同世代でも頭ひとつ抜けていた私に、面と向かって腐して来るような愚者は学院には居なかったが、何かと直情的な弟は影からの指差しに非道く苦労したと思う。

 下手な劣等感(コンプレックス)を拗らせた弟から避けられる様になるのには然程時間は掛からなかった。

 

 卒業後は一旦弟と距離を置こうと、地方に出て高級官史になるか、どこかの貴族の子弟の家庭教師(ガヴァネス)でもやるかと思案をしていたところ、西の辺境へ仕事をしないかという話が来た。

 

 内容はとても簡単な荷物の運搬。精々1フィート半(肘から先)位しかない大きさの、やけに軽い小包を指定の場所へ届けるというもの。

 道中何かに襲われることもなく、無事に西の辺境の街に到着しそれを受取人に渡した。

 

 黒い外套(フード)で顔を隠し、ぶっきらぼうな男だったことと、妙に金払いが良かったことが印象的だった。

 

 その後最も近くの大都市、水の街への乗合馬車を待って、ギルドで暇を持て余していたところに彼らから声をかけられたのだった。

 


 

 あの冒険(クエスト)……いやあれは冒険(クエスト)ということすら烏滸がましいただの無鉄砲(向こう見ず)

 全員が命を繋いだのは本当に奇跡としか言いようがない。

 

 何せ、私はただの一度も呪文を行使する事さえ出来なかったのだから。

 

 ゴブリンの群れに襲われ、青年剣士と女武道家が野良(ボブ)に吹き飛ばされたあと、後衛2人と彼の3人で逃げる際に肩を貫いた激しい痛み。

 それはまるで焼き鏝を当てられたかの様なひどい熱さで、そんな痛みに慣れていない新人(白磁)が転んでしまったのもむべなるかな。

 

 大した防具も用意せず、癒しの水薬(ヒールポーション)すら賄わなかった私たちを謗るかの様に、粗末な矢1つで意図も容易く足手まといとなってしまう。

 つい先程まで侮辱していたはずの女神官に肩を貸されて助けられる始末。

 

 その後彼……疾走忍者さんが身を呈して盾になってくれなければ、洞窟のシミの一つになり果てていたかもしれない。

 

 その姿はあの日に助けてくれた行商人の獣人と見紛う姿。

 女神官の切羽詰まった声に気づくまで思わず見惚れてしまっていた。

 

 洞窟を出たところで張りつめていた何かが切れたか、急に疼き出した肩から矢が抜かれる衝撃と、口の中に入ってきて思わず噛み締めてしまった無骨な毛深い指、そして癒しの水薬(ヒールポーション)の味。

 

 そこで私は意識を消失し、気がついたときには囚われていた娘達、意識の戻らない青年剣士、それを幽鬼の様な顔で看病する女武道家と共に荷車の荷台に座らされでいた。

 

 そう。銀等級のくせに妙に小汚ない冒険者と彼らの3人がゴブリンを皆殺しにして帰ってくるまで、私たち3人は何も出来なかったのだ。

 


 

 もう治ったと言うのに、未だにあの時の痛みとそれに伴う臆病風が私の動きを止める。

 

 でもこんな場末のギルドの片隅で震えているのは間違っている。

 私は名を上げて、あの男に滅茶苦茶にされた人生に栄光の名を刻み込むハズなのだと。……そう思うのに、人の出入りの賑やかなギルドの待ち合い室の長椅子から一歩も動けないでいる。

 

 私は……有望な魔術師でもなく、新進気鋭の冒険者でもなく、実にか弱い小娘でしかなかったのだ。

 そう思うと惨めでしかなく、此のまま代筆でもして生計を立てていこうかと脆弱な気持ちになりかけていると、頭の上から声が掛かってきた。

 

「地下道ノ探索。手ヲ借リタイ」

 

 そう、その綺麗な琥珀色の瞳に強い意志を宿した疾走忍者さんだった。

 命を助けられた彼に頼られている。

 人に話せば笑われるような些細な事だが、私にとってはまたとない福音に聞こえた。

 そしてそのまま下水路に着いていくことになった。

 


 

 下水路の中は、ヘドロと汚物、残飯、それに何だか分からない大きな骨が流れる悪臭漂う汚水の溜まり場だった。

 正直一秒だって居たくない場所の、更に悍ましい部分に疾走忍者さんは瞬巡もせずじゃぶじゃぶと足を進めていく。

 

 一際深くなっている部分を見つけると、いつのまにやら見つけていた、錆びて先が欠けている円匙(スコップ)で泥を掬っては通路に積み上げる作業を繰り返している。

 

 みるみる内に通路に山積みになる堆積物。

 それらの中から手探りで銅貨やガラス瓶、捨てられたにしては不思議な位に綺麗な小剣(ショートソード)等を分別している。

 

 これらは基本的には冒険者の取り分。

 大概が冒険(クエスト)に失敗し、故郷に帰る宛もなく、かといって苦界に身を落とす程には借金の無かった者が、その日の糧を賄う行為。

 私にはとても真似は出来そうに無かったが。

 

 私はと言うと、彼の近くで松明を持ち、近づいてくる大黒蟲(ジャイアントローチ)巨大鼠(ジャイアントラット)を牽制するだけ。

 薄暗い下水路はあの時の恐怖を思い起こさせるものの、なんとか叫び出す様な真似はしなかった。

 ドブ浚りの合間に彼が良く声をかけてくれたからだろう。

 

 内容は本当に他愛もない話。

 家族構成や出自、趣味の事など。彼は意外と家庭的な性分らしく、料理の腕もそれなりだとの事だった。

 その事に胸を張る彼が少し身近に感じられた。

 今度、その自慢のお菓子を食べてみたいと言ったら、一瞬目を大きく見開いたあと、人好きそうな笑顔で快諾してくれた。

 一人では耐えきれないことでも二人、しかも命を懸けて守ってくれた人との会話は私を奮い起たせるのに充分だった。

 


 

 小一時間位経っただろうか? 

 彼が何かを見つけたらしい。その手の中にあるのは小さな銀色の塊。銀貨にしては小ぶりで揚げ菓子(ドーナッツ)みたいな形状は紛れもなく指輪だった。

 

 輝石は薄汚れていて何か分からないが、黄色い透明な石で、土台は銀でしっかりとした造りをしていた。

 

「恐ラク呪法ヲ増ヤス(レーザークリスタル)ノ指輪。黄玉(トパーズ)ナノデ一回分。ゴウランガ!」

 

 話に聞いたことはあるが、地下迷宮(ダンジョン)の、奥深くにでも行かないと見つからない、かなりのお宝だろう。

 

 何故その様な事を知っているのか聞くと、彼の両親は共に魔法の武器・装備を街から街へと鬻ぐ仕事をしていたからだそう。

 両親は8つの時に相次いで亡くなり、その後は遥か東方の島国で変身(メタモルフォーゼ)を操る獅子人の親戚に師事していたとのこと。

 と言うことは東方文字も読めるのかと聞いたところ、恥ずかしそうに、そちらの素養は皆無だと教えてくれた。

 やっぱり彼があの時の獣人の子供なのだ! 

 そんな彼が、私と同じ様に依る辺の無いもの同士だと言うことに、何故だかとても嬉しく思うのだった。

 


 

 彼は下水から上がると体を震わせ水気を切り、指輪を飲み水で洗って手拭いで磨き上げたのち、暫しウロウロした後に私に手渡してきた。

 

 私はあまりの事に何も言えなかった。

 

 それこそ熟練者(ベテラン)以上なら幾つか所持していてもおかしくはないが、私たち白磁の冒険者にはとてもではないが手が出せる物ではない。

 思わず返そうとしたが彼はこう言うのであった。

 

「拙者ワザノ類ハ実際不得手。女魔術師ノ方ガ良ナ」

 

 あぁ、彼はあんなにも無様な姿を見せつけた私を信頼してくれるのか。

 

『この人に付いていけば大丈夫』

 

 そんな安心感を与えてくれる様な暖かい気持ちになった。

 

 ドブ浚いを切り上げ、水場で体を清めたら(毒や評判にも関わるので大事なことだと彼に教わった!)、後は結果報告(アフターセッション)

 疾走忍者さんは受付嬢さんにこっぴどく叱られていたが、私が取り成すとしぶしぶといった感じで許してくれた。

 

「女の子は大切に扱わないとダメですよ」

 

 そんな受付嬢さんの締めの小言を最後に私たちは解放された。

 


 

 夜は興奮して寝ることができなかった。左手の薬指にぴったりと嵌ったピカピカの指輪をずっと眺めていた。

 

 あの後意外と(と言ったら気分を悪くするかな?)手先が器用な彼が、細かい汚れを落としてきれいに磨いてくれたのだ。

 

 黄色というよりも琥珀色に近い彼の目そっくりな深く透明な色合いに心奪われていた。

 こんなものを貰ってしまったのだし、明日からもっと彼の為に頑張らないと。

 数時間前には冒険での失敗(ミス)による命の危機に震えてるだけだったのに、今では嬉々と次の冒険(デート)の事を考えている。

 我ながら、なんと現金なものだ。

 

 

【監督官side】

 

 昨今の冒険者達の話題はある二組の一党(パーティー)で持ちきり。

 

 片方は銀等級とは思えない格好で、一人ひたすらゴブリンを殺すだけの不審人物(変なの)に、年若い白磁の女神官が仲間になった事。

 口性無い連中は体の良い肉盾だの、薄い胸でたらしこんだだの言うが、わたしから言わせてみればちゃんちゃら可笑しい。

 あれは共に支え合う……とまでは行かないが、お互いに信頼しあっている。

 と、言っても受付嬢位しか信じてくれないが。

 

 もう片方は、白磁に成り立てにも拘らず、黒曜等級を越える程の功績点を稼ぎ出す狼人と女魔術師。

 

 ドブ浚いに下水路での討伐(害獣・虫駆除)など、人が嫌がる仕事を率先してやってくれるが、如何に彼らが凄いかを熱弁しても、多重受注を理由に上司は首を縦に振らない。

 終いには良からぬ関係では無いかと邪推してくる始末。

 

 お前の下衆な思考なんて丸見えなんだよ! 

 ゴホンゴホン……。

 

 受付嬢は彼ら……と言うか疾走忍者をこんなにも評価するのは変だと何度も言ってくるけど、彼はそこら辺の聖人ですら足下にも及ばない程の純真さを持つ。

 

 ドブ浚いも、害虫駆除も、獣退治も見栄や打算でなく赤心からと分かる。

 

 かつて一目だけ見た事のある剣の乙女ですら心の何処かに漆黒を抱え持っていた、そんな嘘偽りに溢れた四方世界では、彼の表裏の無さは類希なる魅力(チャームポイント)

 

 しかも実家で飼っていたポチに似てるし。

 


 

 其から幾日かしてやっと上司も折れたのか、ある依頼(ミッション)を条件に昇級審査を許可してくれた。

 

 それは(ギルド)の言うことに従えるかどうかというもの。

 

 ギルドからすれば、言うことを聞いて下手に詮索しない手駒は幾つあっても足りはしない。

 

 別に暗殺・破壊行為(ダーティージョブ)をさせる訳ではなく、政治的行為(足の引っ張り合い)などの灰色(グレイ)な仕事こそ、忠誠心と沈黙──余計な情報を得なければ、他所に流さない──が大切。

 純粋な彼ならばその様な任にぴったりかも知れない。

 

 彼みたいな人にその様な事を任せたくはないが、命令を断れないのが宮勤めの辛いところ。

 依頼内容はごくごく簡単なもので、白紙の便箋を封筒に入れて、封蝋したものを預かって貰うだけ。

 手紙を渡して直ぐに昇級審査の話をして、次の鋼鉄等級への昇級審査の際に確認するという念の入り様。

 老練と云うよりも卑劣に思えてくる。

 

 で。当の疾走忍者はと言うと、別の事でも考えてるのか、何の気もせずに受け取るとそのまま懐へ。

 ほらやっぱり。

 

 

【小鬼殺しside】

 

「ドーモ、ゴブリンスレイヤー=サン」

「何の用だ?」

 

 ゴブリンの依頼(クエスト)を受けようと依頼掲示板(クエストボード)が空いた時を見計らっていると、少しばかり前に助けた白磁(アマチュア)の中の2人が立っていた。

 女は確か魔術師。【火矢(ファイアボルト)】が2回だったか。

 男は斥候。等級の割には気配を隠すのが上手かった。

 

「一緒ニ依頼(クエスト)シテ欲シイ」

「ゴブリンか?」

「是非モナク」

「規模は?」

「不明、然レド多イ。村人頻繁ニ見テル」

上位種(役持ち)は?」

「トーテム無イ、居テモ田舎者(ボブ)

「距離は?」

「歩イテ2刻」

「良し、すぐ出るぞ」

 

 お題目や経緯(バックグラウンド)何ぞどうでも良い。

 この様に要件だけ答える様は白磁(アマチュア)にしては良い反応だ。こういう奴は生き残る。

 後ろで相方(パートナー)が微妙な顔をしているが構うものか。

 

「あ、あの!」

「何だ?」

「ゴブリンスレイヤーさん、彼らの名前知ってますか?」

「知らん」

「え、……呼び合う時に困りますよね?」

「そうなのか?」

「そうですよ」

 

 何故だか記憶の奥にある姉の様に、少し困った様な笑顔をしながら、女神官は彼らを紹介していく。

 途中、女魔術師が、使える呪文は【火矢(ファイアボルト)】と【混乱(コンフューズ)】と言っていた。

 なるほど、人は学ぶ。ゴブリンもだが。

 使える手札の確認は大切だと師が言っていたではないか。

 

 ゴブリンの巣は無駄に広く数も47と多かったが、野良(ボブ)もおらず洞窟の壁も厚いので、聖壁(プロテクション)で入り口を固めれば前衛を抜ける訳もない。

 

 速やか(スビトー)  哀れ(トリスティス)  愚者(ストゥルティ)

 

 混乱による同士討ちで3割は戦闘不能に出来た。

 悪くない。

 呪文を封じる巻き物(スクロール)は滅多に手に入らないが、ゴブリンに対しては効果的と思える。検討してみるか。

 

 ゴブリンからの抵抗が弱まる。後備えが尽きたか。

 【聖壁(プロテクション)】から前に出る。

 疾走忍者もなにも言わずとも俺の位置に滑り込み、壁役(タンク)を交代する。

 

 フム。もう素人(ヌーブ)の動きではないな。

 戦気逸って前に出る事でゴブリンに抜かれる事を考えれば今のが最良。

 背中を気にしないのも、良いものだ。

 

 相手が完全に沈黙する。

 死んだ振りをしている奴も居るので、1体づつ喉笛を潰していく。

 疾走忍者もそれを見て同じように飛刀(スローイングダガー)で首を掻き切っていく。

 脂で手が滑るのだろう、何度も外套に掌を擦り付けている。

 此処ら辺はまだまだだ。

 

 ギルドに戻ると、結果報告(インタビュー)もそこそこに受付嬢と監督官から応接間に呼ばれる。

 疾走忍者と女魔術師の昇級面接だそうだ。

 共に充分な働きをした事を伝える。

 疾走忍者は血糊への対応、女魔術師は行軍への追従──つまりは体力──が課題であることを伝える。

 受付嬢が驚いた様な顔をしていたが、何かおかしな事でもあったろうか? 

 

 

【女神官side】

 

 ゴブリンスレイヤーさんとの2人組(ペア)で幾つかの依頼(クエスト)(全てゴブリンです)をこなし、やっとゴブリンスレイヤーさんの考えている事が少しは分かる様になってきたかな? と、思っていたら今度は最初の冒険(クエスト)で一緒だった疾走忍者さんと女魔術師さんの2人組(コンビ)の昇級審査のお手伝いに駆り出されました。

 

 疾走忍者さんはゴブリンスレイヤーさんと幾つか問答したかと思うと直ぐに攻略を始めようとします。

 流石に歴代でも指折りの速さの昇級審査対象者です。

 ゴブリンスレイヤーさんの質問に淀みなく答えています。

 わたしもまだまだ頑張らないといけません。

 

 洞窟に向かう途中、女魔術師さんが声を掛けてきました。

 

「えっと、……その。この前はごめんなさい。臆病者なんて言ってしまって……」

「いえいえ。私が臆病なのは本当ですから。それより肩の方はもう大丈夫なんですか?

「ええ、もうすっかり元通り。傷痕もないわ」

「それならよかったです」

「助けてくれてありがとね。ところでゴブリンスレイヤーさんってどんな人なの?」

「えーと、なんと言いますか……」

 

 お互いにこうしてお喋りできる事の喜びを噛み締めます。

 

 女魔術師さんはわたしでも知っている位有名な賢者の学院を優秀な成績で卒業されたそうです。

 【火矢(ファイアボルト)】や【混乱(コンフューズ)】といったわたしはまだ使えない攻撃呪文も扱えるすごい人です。

 それでも、机上の勉学だけでは何も出来なかったと自嘲していますが。それはわたしも一緒です。

 

「あれ?」

「どうしました?」

「いや、さっきあそこに小さな圃人(レーア)の様なものが見えたんだけど……気のせいよね」

「?」

「忘れて。そんなことより……」

 

 洞窟に向かう2刻ばかりの間にとても仲良くなれました。

 冒険者になっての初めてのお友達ができました。

 


 

 洞窟の入り口は嘗ての初めての冒険(クエスト)を思い起こすのでまだまだ慣れませんが、今日は一党(パーティー)が4人も居るので安心です。

 

 そんな風に考えていると、ゴブリンスレイヤーさんに気を抜くなと叱られました。

 

 いけない、いけない。集中力を切らせていました。

 

 奥の大広間の前に着くと、手筈通りわたしが【聖壁(プロテクション)】を張って女魔術師さんが【混乱(コンフューズ)】で同士討ちを誘います。

 ゴブリンスレイヤーさんは壁役(タンク)として広間への入り口に陣取りました。

 疾走忍者さんはゴブリンスレイヤーさんの隙間を縫って器用に投石しています。

 

 なるほど。こうやって投石出来れば、遊兵にならないで済むんですね。

 わたしには疾走忍者さんの様には膂力が無いですから、何か方法を考えないといけません。

 

 ある程度討伐したら後はゴブリンスレイヤーさんが殲滅を開始します。

 壁役(タンク)交代(スイッチング)した疾走忍者さんは暫くして、動くゴブリンが居なくなったところを見計らって殲滅に参加します。

 泣いて命乞いをしたり、隅で震えている幼体だったりを容赦なく殺すことにはどうしても慣れません。

 疾走忍者さんは躊躇いも無いみたいですが、大丈夫なんでしょうか? 

 

 同じ白磁なのに、何故にこうも違うのかが、あの深い琥珀色した瞳にあるような気がして思わず身を震わせます。

 決して悪い人では無いのは分かっているんですが。

 


 

 今日は昇級審査のお手伝いだけですので、これでおしまいです。

 お二人は此れから昇級の面接を受けるそうで、ゴブリンスレイヤーさんも立会人として参加します。

 わたしは手持ち無沙汰に1人ぽつねんと長椅子に腰掛けていました。

 

「なあ」

「あっ、えっと、なんでしょう……?」

 

 声を掛けて来たのはわたしと同時期に冒険者になった新人剣士さんと見習い聖女さんでした。

 

「よかったら、僕らと一緒に冒険(クエスト)しないか?」

「いえ、もうわたしは他の方と……」

「知ってるわよ。あの銀等級のくせにゴブリン退治ばっかりしてる奴でしょ?」

「新人を囮にしているって噂になっているんだ」

 

 失礼ですね! みんなそんな風に思っているんですか!? 

 ゴブリンスレイヤーさんはそんなことしないのに! 

 1人で憤慨していると、

 

「ほ ら そんな風に 強引 なの はダメ よ」

 

 銀等級の魔女さんが彼らを追っ払ってくれました。

 

 あんな人になれたらな、と憧れます。

 わたしとの戦闘力(胸囲)の差にめげそうになりますが。

 

「大変よ ね? 彼と"ごいっしょ" するの」

「そう……ですけど……」

「"ごいっしょ"する なら 自分で決めなさい ね?」

 

 そう言葉を残して去って行きました。

 


 

 程無く3人が戻ってきました。

 お二人は黒曜の認識票(プレート)に変わっています。

 僅かな嫉妬は無いとは言えませんが、喜びの方が勝ります。

 

「おめでとうございます!」

 

 ささやかながら、食堂でお祝いをします。

 女魔術師さんと話したら、ゴブリンスレイヤーさんも疾走忍者さんもそんなことを考えもしていなかったみたいです。

 といってもお酒を沢山飲む様な人も居ないですし、ゴブリンスレイヤーさんは直ぐに牧場に帰ってしまいますので早々とお開きになりましたが。

 

 元々は同じ一党(パーティー)で冒険した仲間なので、別れるのは淋しいです。

 女魔術師さんも同様だった様で、この後も一緒に冒険しましょうと提案してくれました。

 疾走忍者さんも頷いてくれましたし、明日の朝ゴブリンスレイヤーさんを説得しないと。

 

 彼のことだから、「そうか」のひとつで片付きそうですが。

 

 

【??? side】

 

 冒険者にとっては何気ない日常。

 気に留まらなくても誹られる様なものでもない。

 

 ただ確実に物語(ストーリー)に混乱を巻き起こす。

 彼のものたちの末に幸よあれ。




今回は監督官さんと女神官ちゃんの書き分けに苦労しました。
どれもこれも監督官さんが殆ど出番ないのが原因なんや、俺は悪くぬぇ!(親善大使並感)。

夜も寝ず、昼間テレワークと言いながら昼寝して作ったのでストックは(もう)ないです。(ネタも)ないです。

次の裏オプで読みたいシチュは?

  • 森人弓手の夢落ちエッチ(本命)
  • 女魔術師の眠剤逆レ(難しそう)
  • 監督官の寝取りエッチ(無理ぽ)
  • 疾走忍者くん×蜥蜴僧侶(TS)
  • そんなことよりおうどん食べたい

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