ゴブリンスレイヤーRTA忍殺√   作:噛み猫

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赤い蜥蜴武道家兄貴が感想くれたので初投稿です。
勝手に出してすまんこ。許してクレメンス。
たった一行だけの参戦ですが、蜥蜴武道家兄貴のやさしさを出せたらと思います。

W盾騎士兄貴は今回、逸般通過魔法剣士兄貴も今後勝手に出させて頂きます。センセンシャル!

とうとうネタが尽きて他人のキャラを勝手に出演させてる物書きのクズ。
難関の裏話が始まります。(ねこです)どうぞよろしくお願いします。

追記:忘れてた!裏オプ読んで感想をくれた全裸セスタスマン兄貴ありがとナス!
追記2:蜥蜴武道家兄貴でした。許してください!なんでんかんでん食いますから!
追記3:貴族罠師兄貴が走り始めたみたいです。追い越されないかヒヤヒヤ。


高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にな話(裏)

【女神官side】

 

 目を覚ますと日がもう昇っていました。いつもよりも随分遅いです。未だ拘束してこようとする寝床(ベッド)に後ろ髪を引かれながらも、えいや! とばかりに身を起こします。

 

 鎖帷子(チェーンメイル)は錆びないように、眠い目を擦りながら油だけは差しましたが、法衣(カソック)は……洗わないとダメですね。手に取った服は薄汚れて草臥れていました。

「こんなに頑張ってくれてたんだ……」

 端の方は解れが目立ち始め、綺麗な白だった色も土埃や血糊等が染み付いてくすんだ色になっています。

 今まで身を守ってくれたお礼に先ずはお洗濯、次は修繕ですね。

 

 麻で出来た普段着に着替えて簡単に朝のお祈りを済ませたら法衣(カソック)を持って階下に降りていくと、もう既に皆さんが揃っていました。

 ゴブリンスレイヤーさんは依頼掲示板(クエストボード)の前で何か仕切りに考え込んでいます。

 他の皆さんは酒場の食卓に居ます。

 

「おはよー。昨日はお疲れ様」

「おう、娘っ子。大丈夫じゃったか?」

「おはよう。超過祈祷(オーバーキャスト)した割りには元気そうね」

「おはようございます! ごめんなさい遅くなってしまって」

「なんのなんの。巫女殿が元気そうで重畳」

「元気イイ。良イコト」

「さあ、結果報告(アフターセッション)に行きましょ!」

「はい!」

「ほらほらオルクボルグも! 掲示板(クエストボード)幾ら見たってゴブリンの依頼なんて無いんだから」

「……分かった」

 

 ゴブリンの依頼が無いことは良いことだと思うのですけど、ゴブリンスレイヤーさんは何を気にしているのでしょうか? 

 

 今朝早くに森人(エルフ)の伝令が来られたそうで、結果報告(アフターセッション)も形式的なものでした。

 精々が倒したゴブリンの数を訂正する位。あれだけの死闘を繰り広げたにしては呆気ないものでした。

 だからでしょうか。ゴブリンスレイヤーさんが受付嬢さんに尋ねた内容も手中の砂の様に溢れ落ちてしまったのでした。

 

「ゴブリンの依頼はこれで全部か?」

 


 

 最初に参加した一党(パーティー)は四散し、青年剣士さんは女武道家さんと二人(ペア)に、女魔術師さんと疾走忍者さんもそうなったみたいです。

 斯く言うわたしは銀等級なのにそんな感じの全然しない冒険者さん──ゴブリンスレイヤーさんに師事しながらゴブリンを退治するのを生業としています。

 銀等級と一緒に冒険(クエスト)を行う。それだけでも彼らに比べれば、危険度は段違いに低いでしょう。

 今回の冒険者(クエスト)も銀等級の冒険者さんが4人もいる上に、わたしなんかよりも沢山の冒険(クエスト)をこなし、早々に黒曜に昇格したお二人にも頼りっぱなしでした。

 ですから、報告を終えて各々散ろうとしていた際に受付嬢さんに掛けられた言葉に理解が及びませんでした。

 

「このあとギルドの査問室に来て下さいね」

「はい? 分かりました……けど」

「あら。早かったわね」

「ほう、そうかそうか」

「うむうむ。巫女殿ならば遅かれ早かれそうなっておりましたがな」

「白キ雛 凰ヘト登ル 第一歩 ポエット!」

「疾走忍者さん。私はどうですか? 役に立ちましたか?」

「相変わらずね。飽きもせず良くやるわ。年中発情期なのかしら?」

「いやいや男女の仲はままなりませんからの。変わっているかどうかは拙僧にはとんと分かりませぬ」

「馬に蹴られてなんとやら。耳長のはもうちっと機敏ちゅうものを理解せねばなるまいて」

「なによぉ、私ばっかり悪者にして! あんたの何十倍も生きているのよ!」

「そうじゃった。ババアじゃババアじゃ」

「ムキーッ! ずんぐりむっくりの癖に!」

 

 喉まで出かかった声は皆さんの声に押し戻され、疑問は晴れませんでした。

 


 

 コンコンコン

 

「入って、どうぞ」

「……失礼します」

 

 監督官さんの声に合わせて査問室の扉を開ける。

 中には監督官さん、受付嬢さん、そして重戦士さん所属の女騎士さん──確か銀等級だったと思います──の3人がいました。

 

 彼女らの前には重厚そうな机があり、その前には椅子が1つポツンとあるだけ。伝え聞いた至高神様の裁判所みたいです。

 受付嬢さんは普段の笑顔(スマイル)のまま空いている席を指し示します。

 

「座ってください」

「あっ! ごめんなさい!」

 

 座り心地が良いとは言えない椅子に居心地悪げに腰掛け、3人の方を見ます。

 受付嬢さんは何時もの笑顔を浮かべたまま、それでもその顔に堅さがあります。女騎士さんは全身を鎧に包み渋い顔を崩していません。監督官さんは手を口の前で組んでいます、メガネの反射と相まってその様相は伺い知れません。わたし何かいけない事でもしてしまったんでしょうか? 

 

「あの……何で呼ばれたんですか?」

「必要だから呼んだまでだ」

「何でわたしを」

「他の人間には無理だからな"パコンッ! "アイタッ!? なにするの!」

「遊んでるんじゃありません! 女神官さんが戸惑っているでしょう!」

「ぶーぶー。つまんないのだ」

 

 受付嬢さんと監督官さんの寸劇(コント)に呆気に取られていると女騎士さんが相好を崩します。

 

「はっはっは。最初なのだから少し気負いを紛らわしてやろうとしたまで。気にするな」

「もう貴女まで……昇級審査なんですよ? 真面目にやって貰わないと困ります」

 

 やっと理解が追い付きます。

 どうやらわたしの緊張を解そうとしてくれたみたいです。ただ、それよりも受付嬢さんの言葉が気にかかりました。

 

「昇級審査って、誰のですか?」

「「「え?」」」

 

 顔を見合わせた3人の笑い声が治まるまで更に幾ばくか掛かりました。

 


 

「はい。これで貴女は黒曜等級に昇級しました。認識票(ネームタグ)は後で受付(カウンター)まで取りに来て下さい」

「はっ、はい! 分かりました! ありがとうございます!」

 

 昇級審査は思ったよりも簡単に終った。

 銀等級が4人も推薦してくれる白磁何て初めてだと監督官さんが笑っています。

 査問室を出て、やっと実感の湧いた昇級の喜び。

 先ずはとゴブリンスレイヤーさんに報告しようと勇んで酒場に戻ってみたら、ゴブリン退治に行ってしまったそうでした。

 喜びがみるみると萎んでいきます。わたしが落ち込む様を見た森人弓手さんが残りの仲間(メンバー)に声かけしてくれて、昇級を祝ってくれました。

 

 祝って貰ってとても嬉しいのですが、何か心にぽっかりと穴が空いた様でした。

 

 

【受付嬢side】

 

 女神官さんが退席して直ぐに空気が弛緩します。

 手を上に伸ばし、僅かに緊張していた肩の凝りを解します。

 

「なんで審査前より緊張しておったのだ」

「しかたないよ。何も知らずに来たんだもの」

「それにしても大した怯え様だったな。まるで狩られる前の野ウサギかの様だったぞ」

「そりゃあ、怒られるかもしれないとなればそうなるだろうさ」

「偶さか聖壁(プロテクション)の使い方で懲罰かとは恐れ入った」

 

 監督官と女騎士のお喋りが姦しい事この上ないです。

 

「純粋な方じゃないですか! そう論うことではないですよ!」

「一番気にしていたのは貴公だったと言うに」

「そうそう。お気に入りの彼に悪い虫が付いたんではないかと気を揉んでいたのは誰だったかな?」

「うむ。彼女が来るまでウロウロしている様は中々に見物だったな」

「愛しの彼が悪い女に騙されてるんじゃないかと心配する純情を汲み取ってあげなきゃ」

「はっはっはっ。乙女だな」

「あーもう! 真面目にやってください!」

 

 この2人を組ませてはならない。シクシクと痛む胃に手をやりながらそう心に誓うのでした。

 

 

【女魔術師side】

 

 あんな攻撃を受けて死にかけた、応急措置こそしたものの誰の目にも重傷。それでも彼は私を求めてくれた。

 生存本能か、はたまた生の実感を感じるためか。帰還後の彼は激しかった。凍てついた心を体温で融かすかの様に熱を感じる事に夢中だった。

 

 一晩中シて起きたらまた抱かれ、折角着替えた服はヨレヨレで染みだらけ。また洗濯しなきゃ。

 あれだけシタにも関わらず、彼は仰向けに寝転ぶ私の胸を弄くり回している。鈍い快感がジワジワと全身に拡がる。

 

「やん! ちょっ、ダメでしょ。もう起きなきゃ!」

「ワン! ワン! (迫真)」

「や! ダ、ダメよ! 結果報告に遅れるでしょ!」

 

 冷静になっても彼が私を求めてくれる! その歓びに打ち震えるが、それをすると何時までたっても寝床(ベッド)から起きられない。

 仕方ないので【点火(インフラマエ)】を顔の前に近づけてその隙に服を着替える。

 

「キャン!!」

「ゴメンなさい。何時までもこういう訳にはいかないでしょう?」

「クゥーン……」

 

 ああ、そんな顔しないで。

 

 結果報告して女神官が査問室へ向かい、私達は装備品・消耗品を賄う為にギルド併設の工房へ向かう。

 

 うーん。今の外套(ローブ)も随分擦り切れてきたし、新しいのを買わなきゃダメかしら? でもお金も無駄遣い出来ないし……でもでも魔女さんの様な格好しないと芋臭いと飽きられないかしら? だからと言ってあんな格好は……無いわよねぇ。

 ビキニ鎧を目の端で追いながら懐事情と相談をする。彼は店員と何やら激しくやり合っているから邪魔したら悪いわよね? 

 暫くしてホクホク顔の彼と合流。ビキニ鎧を指差しながら、尋ねてみる。

 

「ああいうのはどう思う?」

「? オ腹寒イ。オ腹覆ウヤツガ良イヨ?」

 

 どうやら興味が無いみたい。良かったわ、あんなの買わなくて。

 

 黒曜に昇級して戻ってきた女神官をささやかながらも祝い、その後は彼と一緒に遅い昼食。

 敢えて横に座って彼の事をあれこれ世話を焼きながら食事をとる。料理の時は繊細なのに食べるときはかなり大雑把なのか、ポロポロと食事を溢す。

 口の回りに付いてしまっている蝦醤(オイスターソース)をナプキンで拭いてあげながら、意外に子供っぽい仕草に母性本能を擽られていると、急に卓の向かいから声が掛かる。

 

「なあ、ちょっといいか?」

「……」

「何用カ?」

 

 彼との一時を邪魔された恨みを視線に乗せて、声を掛けてきた二人組を睨む。声を掛けた青年剣士は断りもなく卓に着くと、いきなり話始める。失せろ。潰すぞ。

 もし目の力だけで人を殺せるとしたらこの男は今頃粉微塵になっているだろう。後ろで私に対して目を細めて強い視線を向けてくる女武道家とのにらみ合いに発展する。彼方も引かない。此方だって引くもんか! 

 食卓に座っている青年剣士は今ごろ気付いたのか顔を引き吊らせているが、疾走忍者さんは動じもしない! 

 優越感を視線に込めて薄笑いしてやる。女武道家のコメカミに井桁が浮かぶ。フフッ! 良い様。

 

 気付いたら二人組と一緒に冒険(クエスト)することになっていたが、疾走忍者さんと一緒なら私何でも良いです。

 

 

【青年剣士】

 

 盤外での女の闘いを余所に話は進む。良くあんなのに動揺せずに対応出きるなぁ。

 情けない話だが此方は声が震えない様にするので精一杯だ。黒曜ともなるとこれくらい出来ないといけないのかなぁ? 

 

 疾走忍者は俺の様子から何かを察したのか、一緒に冒険(クエスト)に同行してくれる事を提案してくれた。こう言う相手を気遣うところも見習わないとな。

 


 

 3人で受けた依頼(クエスト)はゴブリン退治。最初に受けてボロボロにされた因縁の相手。

 3人だ。疾走忍者は昨日人喰鬼(オーガ)と戦った際の怪我が原因で依頼(クエスト)の受注をギルドに禁止されているのだそう。

 それで大丈夫なのかと尋ねたら、自分の身を守る位なら問題ないと。

 

 開拓村に着いたところでゴブリンを探そうと躍起となっていたら、疾走忍者に襟首を掴まれる。片手で体が浮かび上がる。凄い力だ! 確かにこれなら大丈夫だろう。

 先ずは情報収集そして分析だ、と指導を受けた。

 村人に話を聞くと毎晩鶏が盗まれるとのこと。渡りだろうと当たりをつけると、どうやら違う様子。毎晩来ると言うことは巣がある証拠だろうと。やっぱり黒曜になるには頭の回転も必要なのだろうか? 

 


 

 たった数匹とは言え目の前にいるゴブリンの恐怖に思わず尻込みしてしまう。疾走忍者が背中を押してくれなければ転んでいた少年は振りかぶった棍棒で叩き殺されていただろう。

 ドスンッ! と背中を押される。慌てて抜いていた剣がゴブリンに当たって血飛沫を浴びつつ縺れるようにして倒れる。気がついたらゴブリンは死んでいた。

 俺だってやればできるんだ! やっと萎れていた自信を少しだけ取り戻すことができた。

 先ずは……みんなにバレない様にパンツ着替えないと。

 

 ゴブリンは疾走忍者が予想した通り3匹だった。巣穴も作りかけのものを発見し、埋め戻しておいた。

 ここら辺のアフターケアも必要なんだな。

 ゴブリンに襲われてた少年が頻りに俺の冒険(クエスト)の話を聞きたがる。まるで幼い頃の自分を見ているようだ。今の少年にはどんなに冒険者が危険か言っても、その意味を理解しないだろう。本当なら疾走忍者に対応をお願いしたいところだが、知らんぷりされた。

 少年に話している内にまるで自分が大冒険を果たしたかの様に錯覚してくる。いけないと思っていても止まらなかった。

 


 

 ギルドに戻り結果報告(アフタープレイ)を終えてやっと一息を着く。

 疾走忍者は開拓村で周りの様子を見てから帰ると言うから後で来るのかと思ったら、酒場で卵料理(オムレツ)を食べていた。

 こっちも女魔術師が急かすもんだから、かなりの速度で帰ったんだけどな。

 

 しれっと様子を聞いてくるので、ゴブリンなんて簡単だったと威勢の良い所を見せる。疾走忍者は本当の事を知っているが、黙って俺を見ている。その虚仮威しを見透かされて、哀れみの目で見られている様に感じて苛立ちを隠せなくなる。

 疾走忍者は一息つくとこう言ってきた。

 

「明日カラ、冒険(クエスト)付キ合ッテ」

「おう! 何だってやってやるさ!」

「何でもねぇ……白磁で何が出来るのよ?」

「出来るさ! 今日だって上手くやったんだ!」

「そうよ! あたしたちもやれば出来るんだから!」

 

 酒場にいる冒険者達が大声に反応して此方を見る。

 ニヤリと嗤う魔女と狼人。コイツら謀ったな! 

 一度口にしたことを反故にするのは冒険者としては致命的。この2人に身柄を確保されたようなものだが、約束は約束。

 

 ……1週間で解放してくれて本当に助かった。小汚い冒険者何て思って本当にすまなかった。ゴブリンスレイヤーは命の恩人だ! オマエの依頼なら……出来る限り応えるよ! 

 

 

【女武道家】

 

 青年剣士がバカな約束するもんだから、何をさせられるのかと戦々恐々としていたら、言い渡されたのは下水路探索。

 思わず拍子抜けしていた所に女魔術師が憐れむかの様な目で見てきた。

 なに!? あたしたちでは下水路探索もまともに出来ないと言うわけ!? やってやろうじゃない! 蟲でも鼠でも掛かってらっしゃい! 

 

 ……と気炎を吐いていたあたしを殴ってでも止めてやりたい。

 下水に塗れるのは仕方ない。黒蟲や鼠に噛まれる事も想定の範囲内。多少の連戦だって覚悟していた。

 でも、戦闘が休みなく続くっておかしくない!? 

 疾走忍者があたしたち3人で戦っている隙に、接敵してはヘイトを溜めては此方に擦り付けて来る。

 コイツ殺してやりたい……。

 目の前にいる蟲に攻撃を当て損ったフリをして疾走忍者を蹴ろうとしたら、後ろを向いているのにもかかわらずヒラリと避ける。ムカつくー! 

 

 そっと肩を叩いてきた女魔術師の顔は、悟った様な顔をしていた。あんたも苦労してたのね……。ごめんなさい。あたしがバカだったわ。

 


 

 3日目

 

 力の抜き方というか、戦いながらも瞬間的に休息を取る方法を体が覚え始める。粗方掃討したのか、敵の圧もかなり減ってきた。

 これなら何とかなるかな? と思っていたら、背中に悪寒が走った! 慌てて避けると泥団子が後方から飛んで来る! 犯人は紛れもない! アイツだ! 

 

 今まで前だけを気にしていれば良かったのに、後ろからの故意の誤射(フレンドリーファイア)まで気にしなければいけなくなった。どこまであたしたちを追い詰めれば気が済むのよ! 

 あっ! 青年剣士の後頭部に泥団子が命中した! 今度は女魔術師にも! 容赦ないわね。

 

 6日目

 

 もう蟲も鼠も殆ど見掛けない。いても極々小さな個体。目を皿のようにしなければならない程だ。

 あたしたちはと言うと、松明を使うのを禁止され、手探りに近い形で下水路を探索。

 時々飛んでくる泥団子を避けながら頭の中に下水路の地図を思い浮かべる。この先は十字路で右が突き当たり。左は溜め池の様になった広場、真っ直ぐ行くと出口への道のハズ。

 

「あっ……」

「なんだ! どうしたら!?」

「ねえ! ちょっと返事してよ!」

 

 女魔術師の声が消えると同時に何かの気配と共に女魔術師の気配も消えた。

 アイツか!? 青年剣士と背中合わせになって、防御を固める。

 動きがなければ疾走忍者の格好の的だ。ジリジリと出口の方に足を進める。

 

「っ!」

 

 石礫の投擲音に合わせて体を捻る。礫は私をかすって虚空に消える。ほっとした瞬間、背中に感じていた青年剣士の感覚が無いことに気付く。一瞬の内に恐怖が支配する。

 

「ねえ! どこ!? 返事してよ!」

 

 いらえはない。()()()()()()()()絶望とそれに付随する恐怖によりその場に崩れ落ちる。

 カッ! カッ! と火打ち石を打つ音と火花に気付き顔をあげると、ボゥッ! という音と共に松明に火が灯る。

 炎に映されるのは女魔術師を抱えその口を手で押さえた大きな狼人。青年剣士は足元に簀巻きになっていた。

 

 安堵と共に守れなかった悔しさに奥噛みしていると、手を離された女魔術師がこちらに寄って手を貸してくれる。あぁ。やっぱりあっちの方が何枚も上手なのね。小さなことで張り合っていたあたしが情けない。

 青年剣士も無事でよかった。守らなきゃいけないのに。あたしはもっと強くならないと、この黒曜の2人の様に! 

 

 7日目

 

 今日が最終日と疾走忍者が呟いているところをたまたま聞いた。やっとこの地獄の様な下水路探索が終わる! 

 青年剣士に喜びを伝えようとしたが、彼は心ここにあらずといった感じで真面に話を聞いてくれなかった。

 

 最終日とだけあってどんな酷い事させられるかと身構えていたが、3人だけで下水路を探索しろというもの。

 えらく簡単な指示に青年剣士と共に拍子抜けする。

 最後だし、あたしたちがこの一週間でどれだけ成長したかを推し量るためなのかしら? 

 ……と思っていた時期があたしにもありました。

 今まで見たことも無い様な大きな巨大黒蟲(キングローチ)暴食鼠(グラトニー)などあたしたちでは倒すのが精一杯な(モンスター)が襲ってくる。

 今までは疾走忍者がうまく調整して遭わない様にしていたみたい。……という事に気づいたのはその日の探索が終わってから。

 

「訓練終了ナ」

 

 の声と共にあたしは意識を喪失しかけていた。青年剣士も息も絶え絶えで惚けていて聞いていない様だが、女魔術師は息こそ切らしているもののまだ戦えそう。これが黒曜との差なのかしら? 

 


 

 翌日久しぶりの下水路の外、お日様に感謝していたらギルドの酒場が騒がしい。青年剣士と見に行くと、最初の冒険(クエスト)で助けてくれた冒険者が何か頼み事をしているらしい。

 青年剣士が喜び勇んで助力を申し出る。あたしとしては彼に無理させたくないけど、命の恩人の頼み事なんだし、仕方ないわよね。

 

 同じ頃に冒険者になった戦士と神官の2人組と、銀等級の重戦士の所の斥候と巫術師の白磁6人で集まる。今回小鬼王(ロード)戦に参加することになった白磁はこれで全部。他は時期(タイミング)が合わなかったり、他の依頼(クエスト)を受注してて居なかったり、怪我してて参加できなかったり。

 新米戦士と見習聖女はあたしたちと同じ様に疾走忍者との下水路での探索(ブートキャンプ)をやったらしい。

 そっと肩に手を当ててくれた見習聖女の達観した顔に思わず目頭が熱くなる。

 少年斥候と圃人巫術師は頭の上に疑問符をいくつも浮かべていたけれど。

 アレを知らないなんて、なんて幸せなんだろう。

 

「疑問に思ったんだけど……流石にこの戦いでも後ろから石礫投げてこないよね?」

 

 新米戦士の言葉に黙り込む4人。少年斥候と圃人巫術師は何をバカな事をと笑っている。

 

「い、一応3人1組にして3人でそれぞれ援護し合おうか」

「そ、そうね。後衛が2人だからそれぞれ分かれて剣士、斥候、聖女の組と戦士、あたし、巫術師の組に分かれましょうか」

「これで、両方の(チーム)がお互いの後ろもカバー出来ればいいんじゃないかしら?」

「それだ! それがいいよ!」

 

 よし! これで後顧の憂いが大分軽減されたわね。

 少年斥候と圃人巫術師の戸惑いを他所に同じ地獄を味わった4人の結束はかなり高まった。

 


 

 正直ゴブリンの事なんてどうでもよかった。ふと後ろを振り向くとそこにいる疾走忍者に意識が持っていかれる。石礫を投げてこないにしても、いるだけで何倍もの緊張感が生まれる。分かったから早く何処かにいってよ! 

 3人でゴブリンを1匹づつ相手にしながら心のなかで叫ぶ。他の3人も明らかに疾走忍者を気にしている。

 妙な緊張感からか残り2人も動きがギクシャクしだす。こんな動きではゴブリンにも勝てはしない! 

 

「みんな! 前に集中するわよ!」

 

 気が付いたら何処かに去っていた。安堵のため息をつき、額に湧いた冷や汗を袖で拭う。

 同じ想いを共有する仲間がいること、そして目の前には倒すべき敵がいることの歓びを噛み締めていた。

 

 

【森人弓手】

 

「悪趣味ね……」

 

 目の前に広がるのは板に人を打ち付けたものを盾替わりにするゴブリンの横隊。

 丘の上にある木の天辺からならよく見える。

 私の腕なら持ち手だけを射抜く事は雑作もないが、それでは元々の計画に支障がある。

 逸る気持ちを抑えつつイチイの弓を張って狙いを定める。

 鉱人道士や他の呪文使い達が【酩酊(ドランク)】や【惰眠(スリープ)】、【無手(クラムジー)】等でゴブリンの卑劣な盾を手放させる。

 後は壁役(タンク)が【矢避(ディフレクト・ミサイル)】、【隠蔽(インビジブル)】で遠距離攻撃を避けながら女達を救助する。息があるものは家の中にいる神官・僧侶が治療してくれるでしょう。

 盾を2枚、両手に持った騎士が矢を弾きながら接敵しては盾を使ってゴブリンを跳じき飛ばす! やるじゃない! 盾にああいう使い方もあるのね! なんか鉱人が好みそうな戦い方ね。

 

 ゴブリンどもの盾を回収し終えて、これからが私の活躍する場面。

 ギリギリと引き絞った弓を放つ! 続けての3連射。

 狙いを誤らず、各々の矢は杖を持ったゴブリン達──呪術士(シャーマン)呪文使い(マジシャン)に当たり、バタバタと倒れる。

 女魔術師はこの前見せた曲射を参考にしたのか、木の陰に隠れている呪文使い(マジシャン)を【火矢(ファイアボルト)】を曲げる事で上手いこと当てている。まだまだひよっこだと思っていたけど、此方も頑張らないと! 

 

 小鬼弓兵(アーチャー)がバラバラと打ち返して来るが、木の下に位置取る魔女の【矢避(ディフレクト・ミサイル)】の呪文に遮られる。あら便利ね! 魔法の装飾品の1つでも探してみようかしら? 

 


 

 前以て矢筒に大漁に入れてきた矢も心許なくなって来る。木の天辺から降りていては間に合わない。こう言う時の為にとオルクボルグが言っていた、自分の横の枝にぶら下げてた紐を引き上げる。紐の先には矢がたっぷり詰まった矢筒が結ばれていた。

 空の矢筒を括り付けて下ろすと、圃人の女斥候が矢を充填してくれる。

 足を引き摺る様にして頼りない歩き方だけど、足でも怪我しているのかしら? 

 

 オルクボルグの言う通り、呪文を使うゴブリンを優先的に狙う事で被害を相当抑えられているわね。ちょっと癪だけど。

 手傷を負う位のは居るけれど、致命傷となりそうな攻撃は極力潰せているし、新人達は団子になって無理をしている様子はないわね。ベテランは若手達の間に入って突出しない様に上手く押さえてるわ。

 オルクボルグが言うにはそろそろ小鬼騎兵(ライダー)が来るハズだけど……。

 

「……来た!」

 

 鏑矢を番え、真上に放つ。大きな怪鳥音を響かせ、一瞬だけその場の全員の動きが止まる。その隙に2射目を構えると、小鬼騎兵(ライダー)が来る方向へ向けて放つ! 此方は矢に糸がついていて、しばらく進むと枝に括られた糸が引っ張られ、先に付いた鑢が炸薬を擦って着火する。こんな奇妙な仕掛けで火を起こす何てやっぱり只人ってば面白いわね。

 矢はそのまま狙いを誤らず燃える水(ペトロレウム)を注いだ塹壕に着弾する。

 瞬く間に燃え広がる炎に狼犬達が退路を絶たれて戸惑いの鳴き声を上げる。上に乗るゴブリン達も動揺しているようだ。

 うー! やっぱり火の精霊が活発に動き回って落ち着かない! 森人(エルフ)には向かない戦法よね! 

 破れかぶれに突っ込んできた小鬼騎兵(ライダー)は丸太を組み合わせた槍衾に突き刺さっていた。

 嫌ねぇ。ああいう死に方はしたくないわ。

 

 そうこうする内に森の際までゴブリンを押し込む事に成功した。血気盛んなのか1匹金貨1枚に目が眩んだのか、幾人かの冒険者が森に入っていく。

 

「もう! 幾ら何でも木を避けては援護出来ないわよ!」

 

 前線を上げようとしていた所に、森に入ったはずの冒険者が頭だけ帰ってくる! 

 来たわね! オルクボルグが言っていたゴブリンにとっての銀等級──小鬼英雄(チャンピオン)よ! 

 

 新人達、若手を下げてベテラン勢が前に出る。槍使いに付き合う魔女の【矢避(ディフレクト・ミサイル)】から外れ、矢が飛んでくる様になったので、慌てて木から飛び降りる。

 

 重戦士と女騎士が見事な連携で小鬼英雄(チャンピオン)の攻撃を受けきり、渾身の一撃(クリティカル)を決めて上半身を撥ね飛ばす! 

 一方槍使いは踊る様に小鬼英雄(チャンピオン)の周りを回って隙を作り、がら空きとなった頚に槍を突き立てる。

 鉱人道士と蜥蜴僧侶は丁寧に相手の攻撃を往なして手傷を負わせていく。

 斧槍(ハルバード)を持った女戦士が小鬼英雄(チャンピオン)と1対1になる。流石に分が悪い。援護しないと! 

 止まっての打ち合いなので狙いはつけやすい。女戦士も援護の気配を察したか、上手く立ち回っている。

 今よ! 

 敵の動きを予測して、人喰鬼(オーガ)の時の様に両目を射抜くのに成功したわ! フフン! どんなもんよ! 

 後は女戦士に任せれば良いでしょ。

 


 

 後は隠れている残党狩りなのでベテラン勢は小休止。金貨を稼ぐのに躍起になっているのはいるけど。

 発案者のオルクボルグが居ない事に女騎士が文句を言っているが、彼がゴブリン退治以外で何かしに行く分けないじゃない! 

 

 

【ゴブリンスレイヤーside】

 

「ユルシテ……クダサイ。モウニドト、ヒトヲオソイマセン」

「ハイクヲ詠メ 介錯シテヤル!」

 

 片言の只人の言葉で命乞いをする小鬼王(ロード)。疾走忍者はかなりの傷を負っているみたいだが、大丈夫そうだな。

 女神官は小鬼王(ロード)の哀願に手を緩めそうだ。

 攻撃を受けて吹っ飛んだ際に手放していた剣を拾い、【聖壁(プロテクション)】に挟まれている小鬼王(ロード)に剣先を付ける。

 【聖壁(プロテクション)】が一瞬揺らぐが、制止の声を上げると安定する。

 

「お前は何人の冒険者にその言葉を言われた?」

「……」

「で、お前は何人の冒険者を許してやったのだ?」

「……」

「つまりはそういう事だ。例外は認めない」

 

 剣を深く突き刺す。ビクン! ビクン! と痙攣していた体が止まる。腕がダラリと垂れ下がる。

 死んだ振りかもしれないので、より深く剣先を奥に進める。反応なし。これで1つ。

 

「ゴブリンスレイヤーさん……。良いゴブリンって居ないんでしょうか?」

「もしかしたら居るのかもしれない。だが俺はあった事が無い」

「……」

「助かった」

「え?」

「良いタイミングだった」

「……はい!」

「帰るか」

「はい!」

「疾走忍者の働きも悪くはなかった」

「あれ? 居ないですよ? 何処に行ったんでしょう?」

「知らん」

 

 

【森人弓手side改善】

 

 暫くするとオルクボルグは女神官ちゃんを連れて帰ってきた。

 女神官ちゃんは疲れたのか舟を漕いでいる。

 

「どうだった?」

「ゴブリンがいた」

「んなこと分かってるわよ。小鬼王(ロード)は倒せたの?」

「ああ、もちろん。ゴブリンは皆殺しだ」

「あきれた。……そ、それよりも! ちゃんと約束守ってよね!?」

「……何だ?」

「冒険よ! 冒険! あの変な狼人も連れて行くからね!」

「ああ、分かった善処する」

 

 そう言えば、疾走忍者はどこかしら? ちょっと前まで戦場をあっちこっちと駆けずり回っていたけれど? 

 

「オルクボルグは知らない? 疾走忍者」

小鬼王(ロード)戦に居た。その後は知らん」

「まったく。一応一党(パーティー)なんだから、仲間(メンバー)の様子に気を配らなきゃダメよ!」

「そうか……そうだな」

 

 牧場の端の方で声が上がる。よく見ると只人の女頭目が数匹のゴブリンに追いかけられているじぁない! 

 矢の届く距離までは少し遠いわね。足の速いベテラン達が急行しているけど、間に合うかしら。

 と走りながら心配していると、何処に隠れていたのか疾走忍者が猛然とそれに近づいていく。

 女頭目とすれ違い様にゴブリンの頭を片手で掴むとその後ろのゴブリンに投げつける! ゴブリンどもは骨牌(ドミノ)倒しに倒れていく。その分の時間が取れれば、あとは槍使いが一薙ぎ。最後は華麗に決めたわね! 

 


 

 冒険者全員での小鬼王(ロード)討伐の祝勝会が始まる。酒飲みどもは次から次へと酒樽を空けるものだから、重戦士と疾走忍者が酒樽を運ぶのを手伝っているわ。

 槍使いは受付嬢に言い寄っては、魔女に窘められている。

 女騎士は……鉱人道士と酒の飲み比べしているわね。鉱人に負けない酒飲みって初めて見たわ! 

 蜥蜴僧侶は牛飼娘とその伯父とチーズ片手に話している。多分作り方とかそういうのを聞いているのでしょうね。

 女頭目と足を引き摺っていた圃人斥候は軽食を纏めるとそそくさと立ち去っていく。何処かに別の仲間でもいるのかしら? オルクボルグのおごりなんだから呼んでくればいいのに。

 新人たちは早々に潰れ、意外に面倒見の良い女戦士が毛布を掛けている。

 女魔術師は……監督官に何か聞かれているみたいね。顔を真っ赤に染めちゃって。お酒のせいだけではないわよね? 

 

 肝心のオルクボルグはというと、定位置──ギルドの端の長椅子──に座っている。あんた今回の主役なのよ! 真ん中に居なきゃいけないじゃない! 

 文句を言おうと近づいてみると、女神官がオルクボルグの兜に手を掛けて上へ持ち上げる! え!? あれって外れるの!? 

 出てきたのは意外に端整な顔。色は冒険者にしては少し白いわね。うん! 悪くないわね! 

 受付嬢が興奮し、みんながトトカルチョの結果に一喜一憂する中、私は酔いの回ってきた頭の中でこう思う。

 うん! これこそ冒険の醍醐味よ!




女神官ちゃんはひどい目に遭っているのがカワイイ!(ゲイのサディスト並感)
ゴア表現は苦手なので、投げたおもちゃを取ってきた犬が褒めてと喜び勇んでご主人様の所に帰ってくるものの、ご主人様が居なかった感じを表現しました(ねこです)

次からはプロット練り直してからなので時間が掛かります。ただでさえ遅い投稿速度が出社禁止が解かれたせいで更に遅くなります。
鈍行忍者と呼ぶがいい!(ゴメンナサイ...シテ...ユルシテ)

次の裏オプで読みたいシチュは?

  • 森人弓手の夢落ちエッチ(本命)
  • 女魔術師の眠剤逆レ(難しそう)
  • 監督官の寝取りエッチ(無理ぽ)
  • 疾走忍者くん×蜥蜴僧侶(TS)
  • そんなことよりおうどん食べたい

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