「あんたが司令官か。……フッ、せいぜい頑張ることだな」
対深海棲艦専門組織、略して深戦組(しんせんぐみ)の庁舎の入口で待ち構えていた男は、私を見るなり、いきなり上から目線でそう言い放ってくれた。
つーか、誰だお前は?
「あんたの秘書艦を務める艦息(かんむす)、叢雲だ。私の名を知らんとは」
「いや、知らんて」
「なるほど、さてはモグリだな」
「いや、違うて!」
いきなり人をモグリ呼ばわりする男を前に、私は内心で自称神様へ罵詈雑言を吐きまくっていた。
おい神よ。なんだこのむっさい叢雲は。身長は180センチ以上あるし肩幅むっちゃ広いし二の腕なんか丸太みたいだし、なのに髪型と制服だけはゲームと同じワンピースのミニってなんなの!? おかげですごい逞しい太ももと立派なスネ毛がむき出しなんですけど!?
え、なにこれ艦娘?
私、艦これの世界に来たはずだよね。なのに、艦息ってどういうこと? 私はお肌つるつるな艦娘とイチャイチャしたかったんだよ!? スネ毛ボーボームキムキマッチョの艦息を注文した覚えはないんだよ!?
状況がつかめずに凍り付く私の横で、ここまで車を運転してくれたドライバーが黄色い歓声を上げた。
「きゃああああ、叢雲さぁぁん、私、あなたの大ファンなんです! 握手してもらっても良いですか!」
あ、ドライバーさん女性だったのね。
まるでアイドルにでも会ったみたいに目をキラッキラに輝かせながら叢雲に向かって手を差し出している。
が、叢雲はそんな彼女を一瞥するなり、カッと鋭い目つきで彼女を睨みつけた。
「この愚か者がっ! 軍人が容易く右手を差し出すものでない! 海上武人たるもの、武器を握る手は常に空けておくものと心得よ!」
「は、はいっ、申し訳ございませんでした!」
ドライバーさんが慌てて手を引っ込め、直立不動で敬礼した。
えー、ちょっと、握手求められたぐらいで、そんな頭ごなしに否定するのはどうなの? ドライバーさんも可哀想に。
と思ったら、叢雲も直立不動で敬礼を返し、そして右手を差し出した。
「良い敬礼だ。挙手の敬礼とは相手に敬意を表しつつ、同時に手刀の構えをもって己が戦闘態勢にあることを示すものである。その心構えを忘れるな」
「は、はいっ、ありがとうございます!」
差し出された右手を、ドライバーさんはおずおずと握り返した。
うーむ、よくわからん。取り敢えずドライバーさんは嬉しそうなので、まあいいのか? でも、この手は洗いませんとか言ってるけど、公衆衛生上は洗ったほうがいいと思うよ。この叢雲、手汗とか凄そうだし。
なんか感激したドライバーさんが車に乗ってそそくさと去って行ってしまい、私は庁舎前で、このマッチョメン叢雲と二人きりで取り残されてしまった。
「えーと」
「こっちだ。ついて来い」
叢雲はそう言うや否や、車から降ろされていた私の荷物――トランクケース数個――を両腕で軽々と抱えて、庁舎内へと入って行った。
「あ、ちょっと待ってよ」
なんだろ、見た目はむさ苦しいマッチョでスネ毛丸出しの変態だけど、意外と気遣いできるタイプのようだ。
私はちょっとだけ彼を見直しながら、その後を追って庁舎に足を踏み入れた。
叢雲はトランクケースを抱えたまま階段を上っていく。追いかけて階段を上り始めた私の視界に、彼のミニワンピの下から除く、黒スパッツに包まれたやたらガタイのいいケツと、その間にある逞しい膨らみが見えてしまい、私は咄嗟に目を伏せた。
「どうした、遅いぞ。早く来い」
「行ける訳ないでしょ!? というかその恰好は何なの!? あなた恥ずかしくないの!?」
「戦場では効率性が最も重要なのだ。美醜など無意味」
「男のミニワンピのどこが効率的だっていうのよ!?」
「ズボンでは裾が濡れるではないか」
「じゃあなに、艦息って、みんなスカートなの?」
「短パン派も居る」
そうか、スネ毛むき出しなのは皆一緒なのか。私はいろんな意味で絶望的な気分になりながら、叢雲の後を追って執務室へ向かった。
「で、一応聞くけどさ」
私は執務室の自分のデスクに座ると、隣の秘書艦席に着いた叢雲に聞いた。
「艦娘って、女の子は居るの?」
「艦息に女が居る訳無いだろう」
私の淡い希望は一言で打ち砕かれた。畜生、神め。呪ってやる。
「それよりも提督、まずは艦隊の皆に着任の挨拶だ。訓練場へ三十分後に集合するように指示してある。舐められないように気合の入った挨拶を頼む」
「私なんでここに配属されたんだろう」
「そんなことは知らん。だが私たちはどんな提督でも受け入れる。だからあんたも私たちを受け入れろ」
そんなこと言われてもなあ。
思っていた世界とは百八十度逆転した世界に放り込まれてしまって、まだ心の整理が追いつかない。
どうしよう、生前の世界が懐かしくなってきた。幽霊でもいいから今からでも化けて戻れないかな。
「辛気臭い顔をしているな」
「どーも」
ついつい、ふてくされた声を出してしまう。
よく考えてみれば初対面の異性と二人っきりというシチュエーションだが、あいにく私はガチムチマッチョには興味はないのだ。対象範囲はもっと中性よりの爽やかイケメン、それよりも可愛いおにゃにゃのこが大好きなのだ。
なので、
「少しは笑ったらどうだ。せっかく可愛い顔をしているのに」
「………」
そんなこと言われても全然心に響きませんからね。
響かないったら、響いてないんだからね。
「……笑えと言ったのに、顔を真っ赤にして怒ることは無いだろう」
やれやれと肩をすくめた叢雲に、私はぶんぶんと首を横に振ってそれを否定した。違うのよ、怒ってるわけじゃないからね。
でも別に可愛いと言われてニヤツキそうな口元を必死で押さえてるわけでもないからね!
でも意地でも笑ってやらないけどね!
「そ、それはそうと!」
私は表情をなんとか真顔に戻すべく、話題を変えた。
「この部隊、深専組って何人ぐらい艦息が居るの?」
「全国では200名以上いるな」
「あ、それじゃあゲームで実装されてる子たちとほぼ同数なんだ」
「げーむ?」
「あ、いやなんでもない。……でも、ここにそんなに居るような気配はしないけれど?」
深專組の庁舎は呉鎮守府の敷地の一角にあり、そこまで大きな建物では無い。200名も勤務できるような広さではないし、そもそも人気が無い。
「200名といっても、全国各地の支部を合わせての数字だからな。この本部では司令官直属の部隊員が私を含めて20名が居るだけだ」
「あ、そうなの?」
それでも、この建物にそれだけ居ればもっと人の気配があってもよさそうなものだけど。
私がそう聞くと、叢雲は「訓練中だ」と答えた。
「皆、体育館に居る。なんなら見学しに行くか?」
うーむ、ちょっと迷う。でも怖いもの見たさの好奇心もあって、私は首を縦に振った。
というわけで叢雲に案内され、庁舎から少し離れたところにある体育館へと移動した。
派遣メンバー五名は誰がいい?
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戦艦ばかり五名
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空母ばかり五名
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潜水艦ばかり五名
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知らねえ好きに決めろ
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フフ怖さん一択だろJK