厨二病MAX
体育館自体は特に変わり映えのしない普通の建物だった。
ただ、一歩中に足を踏み入れた途端、
(あ、これやばい場所だ)
と察してしまった。
だってね、体育館の中央にリングがあるんだもの。しかもボクシングとかプロレスとかで見るようなリングじゃなくて、古代ローマのコロシアムみたいな円形闘技場が。
私はいったん入口から後ずさって、もう一度体育館の外見を眺めてみた。
うん、普通だ。とてもグラップラーが血みどろの戦いを繰り広げてそうな地下闘技場を有しているとは思えない。
だけど中身はそうなのだ。というか実際にむせ返りそうな程、すごい汗と熱気で充満している。げほげほ。ついでに耳を塞ぎたくなるほどの大歓声。
「ぶっ殺せオラァァ!」
「そこだ、刺せ、刺しちまええ!」
「ちくしょう、負けんじゃねえ。手前ぇに幾ら賭けたと思ってやがんだ! 立ち上がれ畜生め!」
「よっしゃいいぞ反撃だ! 殴れ殴れ殴れ!」
「決まったぁぁぁ、超絶ラッシュからのアッパーカット!! 渾身の一撃で大逆転だぁぁぁぁ!!!!」
「うぉおおおおおおおおおおお!!!!」
男たちが取り囲み熱狂しているなか、闘技場では二人の男たちが血まみれになってぶっ倒れていた。
なにこれ? 訓練? 訓練って何だっけ?
倒れていた男たちはそれでも自ら立ち上がり、闘技場から退場した。ぱっと見、救急車を呼びたくなるレベルの怪我しているようだけど、彼らはまるで、いい汗をかいたと言わんばかりにタオルで血まみれの顔をごしごしと拭っていた。
空いた闘技場に、また新たな男が進み出し、周囲が再び盛り上がった。
「さあ本日一番の注目マッチ! 疾風の貴公子、駆逐艦・島風が入場だぁぁぁ!!」
誰かが実況でもしてるのか、やたら説明的な歓声を受けながら長髪の青年が闘技場に立つ。
うん、あれは島風だ。生前コスプレ会場でも男性の島風コスは時折目にしたけど、あれ以上に容赦ないマッチョメン島風だ。
コス島風はお巡りさんの目を気にして色々と気を遣っていたけれど、こっちは(一応)本人だからか、露出にまったく遠慮も減ったくれも何もない。すがすがしいほどの男尻祭りである。吐きそう。
「対する相手は、こちらも実力者。殺人貴族こと駆逐艦・初春が華麗に参上だぁぁ!」
殺人貴族って、酷い二つ名だ。でも現れた初春は本当に人でも殺してそうなヤバい目をしていた。無駄に整った美形な顔を扇子でこれ見よがしに半分だけ隠して目元を強調してるもんだから、その殺意に溢れた眼光が余計にヤバい。
島風がその殺意を真正面から受け止めているにも関わらず、ニヤリと笑った。
「ふっ、遅いな。入場すら遅いお前に、勝ち目はない」
あ、やっぱり遅いが口癖なんだこの人。
「ほっほっほ、足の速さだけが取り柄の獣が、人の言葉を喋りよるわ」
おじゃるだ! この初春はおじゃる様だ! しかもむっちゃ辛辣なセリフで煽りまくってる。島風の顔つきも一瞬で変わった。煽り耐性無いな島風!
「ならば獣の速さを見せてやろう! その身でとくと味わうがいい!」
島風が大地を蹴った瞬間、その身がいくつも分裂した。
は、なんだこれ。分身の術!?
「これぞ速さを極めし島風の神髄、多重幻影襲撃破!」
闘技場の中心にいる初春を、何人もの島風の残像が取り囲んでいる。アニメとかでよくある高速移動の分身だけど、実際に生でお目にかかれるとは思わなかった。
っていうかずっと疑問だったんだけど、この手の技って、わざわざ残像で分身生み出すより、このスピードで相手に体当たりしたらそれだけで勝てそうじゃない。なんでそれしないの?
と、隣に居た叢雲に聞いてみた。
「そんな単純な攻撃で負ける奴など艦息には居ない」
「そなの?」
「当然だ。まあ見てろ」
言われて闘技場に目を戻すと、ちょうど島風たちが四方八方から一斉に襲い掛かったところだった。それぞれの残像がほぼ同時に中央の初春目掛け突撃する。
そのスピードもめちゃくちゃ速かった。なにしろ残像が残像を引いているのだ。私自身、自分で何言ってるのかよく分からないけど、とにかく早いということだけはわかった。
なのに、初春はわずかに身体を傾けただけで、その攻撃をすべてかわしたのだろう、まったく無傷で同じ場所に立ち続けていた。
「ほっほっほ、分身で視界を欺こうとも、獣の匂いまでは欺けぬわ。攻撃を仕掛ける瞬間、お主の殺気が麻呂の鼻を突いておじゃる」
このおじゃる様、某一族の陰謀に出てくる烏〇中将みたいな強キャラ感出してるわ。でも初春型のスペックってそんなに高くないよ。どうやって反撃するんだろう。
と、あてにならないゲーム知識を思い返しながら闘技場を眺める。
「ふん、避けるのに精いっぱいで手も出せない分際でよく吠える。この生瓢箪め」
「獣に触れとうないだけでおじゃる」
「殺す!」
怒りMAXで島風が突撃する。キレるのも早いとか、ほんと、煽り耐性無いな島風。
「島風流奥義! 千手爆裂菩薩掌!」
ドォワォ! と変な効果音付きで島風の拳が大量に出現し、初春に襲い掛かった。それに対し、初春が扇子を開いて、まるで舞うように円を描き始めた。
「公家拳法初春流、御覧おじゃれ」
なんか初春が竜巻になった。なんだそれ、と思うけど、素人の私にはそうとしか見えないのだからしょうがない。
闘技場にいきなり出現した竜巻に向かって、島風が北斗百〇拳並みに拳を叩きつけていく。その衝撃のすさまじさに闘技場全体がビリビリと震えていた。
「あのさ、叢雲」
「なんだ」
「これ、もう訓練じゃないよね」
「たしかに、違うな」
目の前の人外乱闘の光景にフリーズしかけた私に、叢雲も同意してくれた。
彼は自分の腕時計にちらりと目をやり、そして、叫んだ。
「この愚か者どもめ! 訓練もせずにいつまで遊び惚けている気だ!!」
闘技場を包み込む熱気と声援をすべて吹き飛ばすような叢雲の大音声に、島風と初春はピタリと動きを止めた。
闘技場に居た全員の視線が、私たちに集まった。
「司令官の着任である。全員整列!」
叢雲の命令に、艦息たちはあれだけ騒いでいたのがウソのように、あっという間に私の前に整列した。
「司令官からお言葉を頂く。総員傾聴!」
「「「「「押忍!」」」」
むさい、やっぱりむさいよこの鎮守府!
私はお砂糖と素敵な何かでできている女の子たちのところに着任したつもりだったのに、何が悲しゅうて血と汗とバイオレンスにまみれた漢たちのてっぺんに祭り上げられなきゃならんのよ!
ていうかみんな目が怖いよ。試合を止められた島風と初春なんか、戦闘中そのままの顔つきで私を睨んでるし。
そういえば、あれ、訓練じゃないって叢雲言ってたけど、それって遊びって意味だったのね。遊びで殺し合ってたのね。いや訓練で殺し合われても困るけど。
「……えーっと」
どうしよう、言葉が出てこない。ていうか、めっちゃ怖い。前世は病弱オタクだった私に、こんな連中を前に何を言えと?
黙って私の言葉を待つ男たちを前に、足ががくがくと震えてきた。やだ、どうしよう。卒倒しそう。
気が遠くなりかけた、そのとき、闘技場に黒髪ロングのインテリ眼鏡な青年が駆け込んできた。
「緊急連絡、日本海に深海棲艦が多数出現! 舞鶴支部より応援要請です!」
インテリ眼鏡は手にしていた紙を一息に読み上げると、私に気が付いてパッと敬礼した。
「失礼いたしました。わたくし、通信担当の大淀です。以後、よろしくお願いします」
「あ、どうも。司令官に着任した大和浦 琴海っていいます。その、みなさんもよろしくお願いしますね」
「「「「押忍」」」」
なんかどさくさに紛れて挨拶しちゃった。適当過ぎると叱られそうな気もするけど、それよりも皆の注目は大淀がもたらした緊急連絡に向いてしまっていた。
叢雲が大淀から紙面を受け取り、素早く目を通す。
「司令官、さっそく一仕事だ。これから艦息を六名派遣する。あんたが選んでくれ」
「え、いきなり?」
「そうだ。ああ、私が旗艦で入るので、選ぶのは五人でいい」
なるほど、提督が編成を決めるあたり、その辺りはゲーム準拠らしい。まあそれならゲームと同じような感じで選んでも良さそうだ。
「出撃する海域と、敵の編成は判明しているの?」
「場所は宮津湾沖、舞鶴鎮守府の近海だ。敵の編成は戦艦ル級1隻、空母ヲ級1隻、重巡リ級1隻、それと駆逐艦イ級が21隻だ」
「駆逐艦多くない?」
「個々は大した戦力ではないが、多勢に無勢といったところだ。しかし私たちが加われば余裕で蹴散らせる。誰でも適当に好きに選べ」
なんだかチュートリアルをやってるみたい。
でも、まあそれなら、ということで、私は居並ぶ艦息たちに再び目を向けた。
いずれも皆、殺す気まんまんの目をしている。その目を見ていると、私の背中に、先ほどまでとは違う震えが走った。
気おくれじゃない、闘争心のような熱さが身体を走ったような震え。武者震いみたいなものかもしれない。
男たちの発する熱量が、病弱オタクだった私に活を入れたのかも知れなかった。
「よし、じゃあ選ぶからね!」
思い描いていたのとはちょっと――いや、だいぶ違う世界だったけど、それでも私はまた生きている。生きていけるんだ。
だったら、これ以上文句は言わずにやれるところまでやってみよう。
「派遣部隊は、あなたと、あなたと、そして、あなた!」
私は思うがままに、艦息たちを指名した。
艦隊メンバーはリクエストで決めます。
アンケート以外でも希望受け付けます(コメ欄に名前だけでも書いてください)。
派遣メンバー五名は誰がいい?
-
戦艦ばかり五名
-
空母ばかり五名
-
潜水艦ばかり五名
-
知らねえ好きに決めろ
-
フフ怖さん一択だろJK