あの日にされた告白については一先ず保留としておくことにした。
オレもハッキリ言って急なことで正気ではなかったし、親友だってきっと親にいろいろ言われていて相手の気持ちを考えていなかったからという事で一先ず保留という形に落ち着いた。
そもそも恋愛面においてはずぶの素人で、そのくせ軽い気持ちでそんな結婚だのを言い出すような人間でもない親友があんなことを言う時点でまず本気ではないってオレが気づくべきだったんだろうが……。
まぁ、結果的にお互いに悪かったという事で決着がついたのでさしたる問題ではない。
…………問題ではなくなっている、そのはずなのだが。
「なんでっすか! ボクたちは親友同士なんだからいいじゃないっすか!」
「いや、でもよ……」
今は親友がオレに縋りついて自分の要求を通そうと必死になっている。
どうしてこうなったのかは少し前に遡る――――
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あの日の事は一先ずなかったことにするときめた俺たちだったが、しかしそんな簡単に忘れてはいいつも通り、というわけにはいかなかった。
だからこそ少しばかりぎこちなくなっていたりとかしたのだが……。
それでも極力なかったことにしようという事である程度は自分達の中で意識している行動を控えようとしていた。
それだというのにこの親友は恐ろしい物事を持ってきてしまったのだ。
「なぁ……お願いがある」
「なんだよ。オレもうそのフレーズに嫌な予感しかしないんだけど……」
「そんなことはない。今日のお願いは二人とも楽しめるタイプのお願いだ」
親友はいつになく真剣な表情をしていた。だから、だろうか。自分だけの考えで物を語っていたことが少し恥ずかしくなってオレはその話を聞くことにしたんだ。
そして、すぐに後悔した。
「自分とデートしてくださいっす」
「…………………は?」
たっぷりと思考すること十数秒。それだけの時間をかけて理解して口から出ていったのはそんな音だった。
とはいえ男時代からは打って変わって高くなったオレの声では昔のような迫力のある声を出すことはできずに、ただただ呆けただけの声になっていたがまぁ、そこについては考えないことにしよう。
「ああ、違うっすよ。勘違いしないでください」
そんなことを言われてその先の説明について聞いたが、しかし何とも言えないような理由だった。
「自分友達沢山いるじゃないっすか」
「オレはこの体になってから友達なんて消え失せたけどな」
「それでですね、そいつらが言うんすよ。『お前まだ彼女出来てないのかよ』って」
「オレはこの体になってから彼女なんてできなくなってるけどな」
「だからこう言ってやったんすよ。『いや、いるから。お前たちに見せてねぇだけだから』って」
「お前に彼女なんて居たことないだろ。何言ってんだよ」
「…………あの、茶化すのやめてもらっていいですか? 言葉の一つ一つが凄く刺さるっす」
……まぁ、そこまで言われてしまったら仕方がない。一先ず自分の考えについては黙って話を聞くことに集中するとしよう。
いや、もうすでにある程度の展開は読めているのだが……。
「それで自分、証拠として写真を用意することになったんすよ」
……だから先のデートに行こうという話につながるわけか。
茶化すも何もすでに話は終わるじゃないか。それなのになんで茶化すななんて――
「なのでデートをするために近くの遊園地のペアチケットを買ってきました」
「行動速いな!?」
「ちょ、茶化さないって約束じゃないですか」
茶化してなんかねぇよ正常な反応だろうが……。なんて言葉は置いておこう。
それでそのチケットをすでに取っているから遊びに行ってついでに恋人らしい写真を撮ろう、と。なるほどなるほど……。
「いや、普通に無理だわ」
「なんでっすか! ボクたちは親友同士なんだからいいじゃないっすか!」
そういうわけで冒頭に戻る――――
「だって中身男同士で恋人らしい写真撮るって……なぁ?」
「ボクは全然ありだと思うんすよ」
「お前の意見は聞いてねぇんだよ」
……第一恥ずかしいだろうが。そんな写真なんて撮ろうとしたら一瞬で赤くなっちまう自信があるんだぞオレは。
けれどそんなことを言うわけにもいかず、オレは結局当たり障りのない理由しか言えなかった。
最終的にオレが乗り気ではないから、ということでその遊園地に行くことについては一先ず諦めることになったのだが……。
その時に親友がぼそりと呟いた一言がオレを動かした。
「友達とも遊ぶことができてないんで、せめてこういう機会にパーッと遊べたらいいかなって思ったんすけど……」
まぁ結局、なんだかんだ言ってオレの親友は友達想いってことだ。
理由付けの中でその友達に言われたことなんて二の次で、実際のところはきっとその考えがメインだったのだろう。
そんな言葉を聞いてしまって、結論としてオレは親友と遊園地に遊びに行くことに決めた。ただし恋人らしい写真についてはやめてくれと断りを入れたが、親友もそこについてはあまり本気ではなかったようであっさりと引いてくれた。
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そんなこんなで当日になったのだが……。
「…………オシャレとか、するべきなのか?」
「お任せしますよ。まぁ、そのままでも十二分に可愛いっすけど」
「……いやまぁ、オシャレって言うような服とか持ってねぇんだけどな」
そんな会話をしながら俺たちは結局普段に近い恰好で電車を乗り継いで遊園地へ遊びに行った。
そして結論から言うが……。
久しぶりの遊園地はとても楽しかった。まだまだ小さな子供だった頃に同じ遊園地に来たことがあるが、しかし何というかその時の記憶がどんどんよみがえってくるのだ。
あの時はあれが怖かった。あれに乗るのが楽しみになっていた。
そんな思い出話に花を咲かせながら遊園地を練り歩いている内にやがて俺たちは時間と自分たちの年齢、そして本来の目的である事柄について完全に忘れて遊びつくしていた。
子供の時はオレが怖くてあまり乗れなかったジェットコースターに乗ってみたり、逆に親友がとことんまで怖がっていたお化け屋敷に行ってみたり。はたまた買えなかったグッズやお菓子を買ったり。
そんなことをしてはしゃぎ倒して、オレたちは家に帰るために遊園地のゲートをくぐったところでようやく正気に戻った。
「オレたち、なにしてたんだろうな」
「遊園地恐ろしいっすね……。普通に楽しんでしまったっす」
「いやほんと恐ろしいわ。めちゃくちゃ楽しいじゃんかよ……」
「……何しに来たんでしたっけ」
当初の目的……。ああ、確かオレが楽しむってことと親友は写真が欲しいのだったか。
「あー、写真忘れてたな。どうする?」
「いやもういいっすわ。そんな元気残ってないっす」
「オレももう疲れたわ……」
子供の頃と同じように二人で並んで帰路につく。あの時と違うのは隣に両親がいないってことと、オレが女の姿になっていること。
けれど結局あの時と同じように楽しむことができている。最終的に姿がどうなんて関係なく、オレは親友と遊べるのが楽しいし、一番こいつの隣が安心できる。
そんな風に思って油断していたからか、オレは帰りの電車の中であいつの肩に頭を預けてぐっすりと眠ってしまったらしい。
親友が起こしてくれなかったらきっと乗り過ごしていたことは容易に想像できる。
「いや、悪かったな。帰りは寝ちまって」
「全然いいっすよ。それだけはしゃいだってことでしょうし」
「うぐ……。お前だってはしゃぎまくってたじゃねぇか」
「ハハハ、何のことやらわからないっすね」
そんなことを言い合いながらオレたちは家に帰って、お互いにいつの間にか普段通りに戻っていることに気付かないままに眠りについた。
電車の中で眠っていて仕方なかったが、オレは結局最後まで気づかなかった。
親友の持つ携帯電話。その写真フォルダの中に電車内で親友の肩に頭をのせて眠るオレの写真が増えていたことに。
その後の親友くん
親友くん「…………」(撮った写真を見ている)
モブA「あれ、お前その写真……」
モブB「え、なになに? まさかマジで彼女いたの……?」
親友くん「フ……」
モブA「うわなにこいつうぜぇ」
モブB「これが持つ者の余裕か……」