携帯が鳴っている。目覚ましの音だ。俺は目覚ましを止めるとベットから起きて冷蔵庫のミネラルウォーターを一口飲む流む。洗面をしてトレーニングウエアに着替えた。
今日から朝にランニングをする事にした。本当は夕方にしたかったがどうも時間が取れない日が多くなりそうだからだ。
走るのは学園のトラックで1周10キロを1周だ。あまり無理なペースにせず息が軽くあがるペースで始めて最後に一気に上げる。身体に無理のない配分だ。
部屋に戻ってシャワーを浴びてから一夏達合流する。
「「トウヤさんおはようございます」」
「おはよう、一夏、箒。というか敬語やめないか?」
何時までも敬語をやめてくれない二人に言うが二人曰わく
「トウヤさんはなんだかお兄さんだからやめるのも違和感がある」だそうだ。
無理強いは良くないので二人に任せよう、と言うことにした。
食堂に着くと見知った顔が待っていた。楯無だ。
「楯無会長、おはようございます。どうかしましたか」
「おはよう。マツナガ君。一夏君と箒ちゃんに挨拶に来たの」
楯無は笑顔だが何か含んだ笑顔だ。
「一夏、箒、こちらが生徒会会長の更織楯無さんだ」
一夏と箒は驚いた顔をした後に挨拶をしている。
「それじゃあ一緒に食事をしましょう」
俺たちは食事を受け取ると楯無の取っていた席に着いた。
食事を始めると早速楯無が一夏に話し掛けた。
「織斑君は織斑先生の弟さんなのよね?」
「そうですよ。でも入学が決まるまではここの教師だったなんて知らなかったんですけどね」
一夏が恥ずかしそうに応えた。
知らなかった?
「え?なんで知らなかったの?」
楯無も意外そうな顔をしている。
「千冬姉に育てられたんですけどISに乗るようになってからなかなか帰ってこない生活が続いていたからその延長だと思っていたんですよ。IS関係の職業なんだろうと」
そういうことか。
確かにモンドグロッソ後はドイツに行っててその後は学園で寮長などやっていれば知らせない限りは分からないな。
「ふぅーん。箒ちゃんはもう知っているよ。大変だったわね。此処にいれば安全だから安心して学園生活を楽しんでね。勉学に、恋いにね」
楯無のウインクに箒が赤くなった。分かりやすい。
「それで本題なのだけれど一夏君と箒ちゃんには2学期から私の特別講習を受けてほしいの」
楯無は扇子をバッと開くと『特訓』と書いてあった。
「特別講習ですか?」
箒は首を傾げる。
「そう。一夏君も箒ちゃんも特別な存在よね?だから狙われる可能性が高いのよ?なので体術とIS操縦を教えたいの」
楯無は真面目な顔になる。
「この学園は外部からの干渉は受けない事になってる。けどそれは表向きなの。実際には生徒の中にスパイ行為が『報告』の名目で行われているの。本人は自覚がないでしょう。そうするとあなた達の情報も外に知られてしまうのよ。するとどこかの組織が万が一にも誘拐を企てて実行する可能性があるの。その時の為の訓練よ」
一夏と箒は少し青ざめている。
「さっきは安心してなんて言ったけど万が一の為の訓練。なるべくはそうならないように努力はします」
楯無は笑顔言うと二人は頷いた。
この学園のセキュリティーは恐らく世界一だろう。しかしISで攻められたら待機でもしていない限り即応は無理だろう。
「分かりました。是非お願いします」
一夏は頭を下げた。箒も同じ様に頭を下げる。
「宜しい!じゃあそれまでも鍛錬は怠らない様にね」
話は纏まり少し押した時間を取り戻すために食事を急いで食べた。
SHRが始まった。
今日は織斑先生がでている。
「織斑。お前にはデータ取りを目的として国からISが支給されることとなった。しかし準備が遅れるため恐らくクラス代表決定戦の前辺りに搬入される事になるだろう」
千冬の発言にクラスがざわつく。
「この時期に専用機なんてすごい!私も欲しいなぁ」
などの声が聞こえる。
それもそうだ。世界で限られた数しかないのにその1機が回されるのだ。凄いことだ。みんなも羨む事だろう。もしかしたら恨む様な人間も出てくるだろう。
「これでSHRを終える」
千冬が教室を出るとオルコットが一夏の所に行くのが見える。
「良かったですわね。専用機を貰えて。訓練機だったらどんなハンデを与えようか考えていたところでしたわ!何でしたら専用機の到着が遅れるみたいですしハンデを差し上げてもよろしくってよ?」
オルコットは腰に手を当てながらお嬢様笑いをしている。
「そんなもんいるかよ!寧ろ俺の方がハンデ付けなくていいのか?」
一夏が立ち上がり反論するとクラス中の生徒が爆笑を始めた。
箒は心配そうに見ているだけだが。
「織斑君、それ本気で言っているの!?」
「女と男が戦ったら一週間保たないんだよ!?」
「今からでも遅くないからハンデ貰っておきなよ!」
言いたいほうだい言っている。
ここらで認識を改めさせておいた方が良いな。
「それは間違いだ!」
俺は立ち上がり声を張り上げた。教室内は一瞬にして静かになった。
「女性の方が強いという認識は女性のみがISを使用出来て1対1で戦ったらの話だ。けど今は一夏はISを使えるのだから話が変わってくるんじゃないか?それと戦争になったらISは負けるからな?世界でたった468機しかISは無いんだぞ?世界中の男と女が戦争をしたら、俺ならISに波状攻撃を掛けてIS操縦者を疲弊させて継戦能力を断って基地や整備場を破壊するね。いいか?戦争は単機の能力じゃ無いんだよ。世界で468機“しか”無いんだぞ?そこら辺を考えてくれ」
俺の発言を聞いたクラスの女生徒達は困惑の表情を浮かべる。
しかしオルコットだけは違った。
「そんな事有り得ませんわ!圧倒的なISの戦力の差にはかないません!」
「だったらオルコットは生身の人間が50人同時に爆発力の強いミサイルをお前に向けて構えている。その生身の人間を撃てるのか?5人乗りの爆撃機がロンドンに爆弾を落とそうとしている。の爆撃機を10機落とせるのか?」
周りの女生徒達は青ざめている。一夏もだ。
オルコットも青ざめている。
「戦争って言うのはそういう事をするのだぞ?そして主義主張の相違って言うのも火種に成りかねないんだぞ?オルコットだけではないぞ!君達全員、人を殺す覚悟があるのか?」
誰も返事をしない。
出来ないのだろう。そこまで考えていなかったから。
「みんな済まなかったな。俺が言いたいのはそれだけだ。けど今はとても危うい状況に有るということだけは覚えておいてくれな」
言い終えると俺は廊下に出たがそこには千冬が待っていた。顔はニヒルな笑みを浮かべていた。
「遂に言ったな」
「勿論さ。いつかは認識を改めないと人類の危機に陥るぞ?ところで教室にいるの気まずいので保健室で休んでて良いですか?」
「ダメに決まってるだろうが!」
割と本気で怒られてしまった。
その後の授業は何事もなく終わり放課後は一夏と箒と一緒に剣道をした。日本一と言うのは伊達でなく箒はとても強かった。素早く近づいては打ち込み一気離れる。女性特有の身軽さを使った素早い攻撃と回避。一夏の方は体力的にまだダメだな。完全に箒に振り回されて全く追いついていなかった。
次は俺が箒と向かい合う。正面に立つと威圧感が凄い。とてもじゃないが攻め込んで一本取れる気がしない。相手に合わせての意表を突くいわゆるカウンター狙いで仕掛けてみる。
箒が大きく振りかぶって一気に飛び出してきた。早い!!
「めぇーーん!」
気合いの入った声が始まったと同時に俺も相手の左前方向に一気に飛び出し箒の右小手を狙い打ち込む!
「ってぇぇーー」
しかし箒は俺の小手を右手を竹刀から外してかわされてしかも右足が着いたと同時に後ろへのステップに変えて面を打つ。引き面だ。これは避けられない。
「めぇーーん!」
もろに面が入ってしまった。
「さすが日本一だ。まさかあの面が誘いだったとは。全く気付かなかった」
防具を外して箒に話しかけるとほんのりと赤みがかった顔の箒は首を横に振った。
「あれは誘いなんかじゃありません。トウヤさんの小手が来るのを感じたからとっさに避けただけなんです」
なんて反応速度なんだよ。コンマ幾秒の話だぞ?
改めて箒のスペックの高さに驚きを覚えてしまう。
「凄い。場数に勝るものはないか」
その後も一夏と試合をしたり掛かり稽古をしたりと三人は時間目一杯使って練習をした。
寮に戻りシャワーを浴びると携帯が鳴り出した。画面には《織斑千冬》と出ている。携帯を買って千冬と番号を交換した日に千冬が《嫁》と入れていたいたずらを思い出して少しだけ笑みがでてしまった。
「トウヤです」
「私だ。二階堂さんとのアポが明日の午前に取れた。向こうがこちらに来るそうだ」
「分かりました。ありがとうございます」
「トウヤ。お前は何を差し出すつもりなのだ?」
千冬の声のトーンが少し下がる。
「俺に差し出せる物は二つしか無いじゃないですか。エステバリスと俺自身です」
本当にこれだけしかないんだ。
「そうだな。トウヤはデュノアに何を与えるつもりなのだ?エステバリスのデータか?」
「データぐらいで済めば良いですね。あちらが欲しがっているのは直ぐにでも使える技術ですよね。だとするとエステバリスの重力制御システムとかは解析とかで時間が掛かっちゃうからどうなのでしょう。ひとまず二階堂さんと話をして決めたいです」
「そうか。頼むからどこかに行ってしまわないでくれよ?」
「大丈夫だよ。どこにも行かないって」
そう言うと千冬は納得してくれたのか会話は終わった。
明日…どうなるのか。
その後は一夏達と夕食に行きクラスメイトの鷹月さんと相川さんと本音と一緒に食べた。
今日も静かに終わって良かった。